クリスマス

「今日こそクリスマスプレゼント渡すんだから!」

 椅子から勢いよく立ち上がり拳を固く握り締める私に、みくるとつるやんが目を大きく瞬いた。
 それはそうだろう、普通に会話をかわしていたのにいきなり立ち上がり何事かを意気込んでいるのだから。
 しかしつるやんは二、三度目を瞬いたかと思うと吹き出しそのままお腹を抱えて大声で笑いだした。

「アハハ、名前最高! なに、名前、クリスマスプレゼント渡したい奴でもいるのかい?」

 目に浮かんだ涙をふき取りながら、つるやんは興味深げに尋ねてくる。

「確か名前ちゃん、国木田くんと付き合ってるんでしたよね?」

 みくるちゃんが口元に手をあて、クスクスと笑いそのバックには花が見える。そうそう、女の子はこうでなくちゃ、って。

「違う違う! 国木田とはそんな中じゃなくて、その、私の一方的な片思いってやつで……」

 首を横に振り、全面否定するが言っててなんだか切なくなってきた。そう、所詮私と国木田は先輩と後輩で最近やっと呼び捨てで呼びあえる中になって。

「それって、結構進歩しているのかな」

 まだ後ろで盛り上がっている、みくるとつるやんを他所に私は一人悶々と悩みつつ窓の外を見上げた。暗い雲が広がる空は、雪が降ってきそうだ。
 いつからだろうか、彼が好きだと思ったのは。
 初めてあったのは、みくるとつるやんが野球大会に出ると聞いて応援に駆けつけた時だった。挨拶をしてくれた彼は私より少し大きいかくらいの背で、私なんかより可愛い顔の作りをしていて、母性本能がくすぐられた。
 二回目に会ったのは映画撮影の時だ。池に落ちた谷口くんを助けようと手を伸ばした時、一緒に落ちてしまい結局二人とも国木田に助けられた。その時いくら年下で背丈が同じくらいでも男だということを知った。
 そしてその出来事がまるできっかけのように、その日から時々休みの日に会ったり昼休みにご飯を食べたりしているのだが。やはり端から見たら付き合っているように見えるのだろうか。

「いや、確かにそうなったらいいなって思っているけど」
「何がそう思っているの?」
「え、あ、くっ国木田!?」

 気づけば昼休み、いつもの校舎の裏側でご飯をつっついていると隣で食べていた国木田が顔を覗きこんできた。

「あ、うん。そのさ、国木田私となんかよりやっぱりクラスで食べたかったりする、よね……」

 年頃の男が女とご飯を食べるなんて、やはり付き合ってますと言っているようなものだ。昼休みにこうして食べるのは私から誘ったことだし、休みの日に会うのも私からだし。もしかして年上からだから断れないから嫌嫌付き合ってたりするのだろうか。
 不安混じりに尋ねてみると、国木田は箸をおき大きくため息をついた。

「さすがの僕だって、嫌なら嫌って断るよ。名前さんと食べたいから一緒に食べてるんだし、一緒に遊びたいから休みの日にも会ってる」
「え、何。私口に出してた?」

 大きく頷く国木田に、私は恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。無意識とはなんと怖いことなんだ、思わず手から箸が滑り落ちるぐらいの驚きだ。

「それに名前さん」
「ん?」

 国木田はお弁当を横に置くと、私の横に手をつき顔を近づけてくる。その行動にいらぬ考えを想像してはあり得ないと打ち消し、私は口を動かし何か言おうとするが、心臓が高鳴り何も言えなくなる。

「僕は名前さんのこと」

 顔が近づき、瞳が重なりそらせない。下手に動いたら唇が重なるのではないか、そう思えるほどの距離。頭が真っ白になりそうだ。その時だった。

「おーい国木田!」

 まるでタイミングを見計らったかのように谷口くんが手を振りながらこっちに向かってきた。その笑顔は眩しい。
 国木田は私から顔を背けると、谷口くんに向かって少し不機嫌そうな声色で「なに?」と叫ぶ。

「いやー、サッカーやるんだけど国木田も一緒にやらないかって思ってよ」

 よく見れば、谷口くんの脇にはサッカーボールが抱えられており、国木田は少し迷っているのか私と谷口くんの間を視線を行き来している。

「いいよ、行っておいでよ」

 国木田の肩を叩き、促すと国木田は一度は躊躇ったが頷きお弁当を手早く片づければ谷口くんの方へと走っていった。やっぱり男は男どおし遊ぶのがあっている気がする。

「あ、プレゼント」

 しかしプレゼント渡してからにすればよかったかもしれない。
 その日の放課後、暗い雲からは雪がちらつき。プレゼントも寂しげに私の手元に残っていた。さて、どうしたものか。
 帰り道歩く中に国木田の姿がないか上から見下ろすが見当たらず諦めて帰ろうと下駄箱に行くと昇降口に国木田の姿があり。私は慌てて上履きなのも気にも止めず名前を呼び走り出し。そして、転んだのだ。

「名前さん!」

 国木田が慌てて駆けつけてくる。ああ、なんてカッコ悪いんだ。
 私は国木田の手を借りて起き上がる。背中が少し冷たいがクリスマスプレゼントは無事そうだ。

「名前さん、そんなにいそいでどうかしたの?」
「プレゼント、渡したくて」

 手に持っていたプレゼントをしゃがんで傘を傾けてくれる国木田に差し出す。

「これだけのために?」
「これだけって酷い言い様だな国木田」

 国木田はプレゼントを受け取ると、私の言葉に苦笑し顔を近づけてくる。

「バカだな名前さんは、僕は名前さんがいたらそれだけでいいのに」
「君、案外恥ずかしいことケロリと言うね」

 おでことおでこが当たる。恥ずかしさに視線をあさっての方向に向けるが、頬に国木田の手が添えられ傘の骨が頭に当たる。

「だって、本当のことだから」

 そういうと国木田の唇が私のに当たり、触れるだけのキスを交わした。

「名前さん、好きだよ」

 唇を離すと、耳元で囁かれ。私は恥ずかしさに唇を尖らせぶっきらぼうに呟く。

「バカ」

 クリスマスプレゼントを抱えて、国木田はおかしそうに笑いながら私の手を取り立ち上がり。私は転がった傘を拾いあげる。
 雪は止むことを知らず降り続け、私の想いが積もるように街を白く彩るだろう。

(2008 01/22)
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