アニマル日和2

※SOS団がアニマル化してます。



 例えばだ。昨日おやすみの挨拶をするまでは変わらぬ我が子が次の日起きて見てみれば大人になっていたら、世の親はどう思うだろうか。怖いと叫び気持悪いと蔑み、我が子を忌み嫌うだろうか。私の目の前に広がる光景は正にそのような感じだった。
 思わず頭に手をやり、ズクズクと頭の中から痛みだすものに溜め息がこぼれ出る。そんなことも露知らず、布団を一人占領して大の字に寝ている少女を一瞥する。その周りにはかけ布団を奪われ寒そうにしている三人に、息をしているのか思わず心配してしまう子が一人。
 彼女たちは、昨日までは確かに小さな人の子だった。ただ、只の人の子かと問われると躊躇してしまう。なんせその頭には左右についてる耳とは違う、獣の耳がついているからだ。話せば長くなるが一言でいうならば、彼女たちは元は動物だった。

「うん……、なによ……うるさいわね」

 一人布団の上で頭を抱えて唸っていると掛布団の中が動き一人の少女が目をうすらと開けた。ハルヒだ。私はハルヒをみた瞬間、またハルヒによりこんな事態に陥ったのだろうか、と一つの仮説をたてた。いや、しかしそれにしてもどうしてこうひょいひょいと次から次へと事が起きるのだろうか。まさかハプニング好きの神様に私は憑かれているとかだろうか。それなら納得出来る。しかし納得したくない。
 ハルヒは完璧に目を覚ましたのか、布団の上でしばらく座ったあといつもと違う目線に首を捻ったのだろう。そして、自分の身体を見下ろし目を丸く見開き尻尾と猫の耳もピンとたった。流石のハルヒもこれには驚くか。

「ちょっと、これどうなってるのよ!」
「こっちが聞きたいぐらいだよ」

 ハルヒは自分の身体を隅々まで触り、そして私の方に顔を向けた。その瞳は戸惑いに揺れていたが、どことなく喜んでいるように見える。まあ、当の本人がそれでいいなら私は何も言わないがハルヒとにかく服を着替えよう。
 今の彼女の姿は、世のネコミミ萌え属性の人が見たら発狂して襲いかかるほどの色気と、可愛いさを備え付けていた。まあ襲う前に返り討ちあうことも予想できるが。
 とにかくだ、こっちの方の専門家たちをたたき起こしいったいどうなってるのか詰め寄らなくては。

「古泉くーん、みくるちゃーん、有希ちゃーん、キョンくんー」

 布団の外に出されていた四人の肩を順に揺らす。さすがにマンションのワンルームにこうも集まって寝ていると、小さい頃はよかったが大きくなると暑苦しいことこの上ないな。しばらく揺らし続けると、古泉くんが目を開けて寝ぼけた眼で私を見つめてきた。おーい、古泉くん大丈夫ですかー?

「古泉くん?」

 じっと細い目で見続けられたかと思うと、突然腕が伸び私の腰に回される。そしてそのまま私にすり寄るように頭を私の膝に載せる。ああ、そういえば古泉くんは寝起きが悪かったんだ。私はどうしたものか、と彼の頭を撫でため息をついた。これじゃあ動けない。

「ハルヒー助けてー」

 私の服を身につけたハルヒは、いつもと目の高さが違うことが珍しいのかキョロキョロと辺りを見回していた。スカートの裾から見える尻尾が私に名前を呼ばれたことに立ち上がりスカートの中身が一瞬だが見えてしまった。
 ハルヒ出来ればスカートじゃなくてズボンでお願いしたい。中身が見えてこちらの胸がもたない。

「あれしっぽ潰れるから嫌よ」
「嫌って……まあ確かに潰れるけどさ」

 穴開けていいならいいわよ、と言うハルヒに私は首を横に振る。さすがにそうまでして穿かせようとはしたくない。私の行動にハルヒは不服そうに眉を寄せ口を尖らせる。なんだ、本当ははきたかったのか。私は「ハルヒ」と名前を呼び手を伸ばそうとするが、古泉くんが居たのをすっかり忘れており。身体が思うように動かせず、むしろ動いたことにより古泉くんの絡みつきが酷くなった。腰に回していた手はパジャマに入っていき。背中にひやりと冷たいものが触れる。

「ひっ」

 外気の温度に思わず鳥肌がたつ、そして私の肌を撫でまわしたのちブラジャーのフックが気にくわなかったのか外され胸に顔をうずくめる反動に背中からフローリングとご対面。頭を思いっきり打った。小さい古泉くんではこんなことなかったのに、大きくなるだけでこんなにも力の差があるのか。
 かっこいい面にうさみみがなんとも言えない。どうやったら起きるんだこの子は。

「んぅ……くしっ」

 キョンがクシャミと共に目を擦り起き上がった。畜生大きくなっても可愛いなこいつは、だけど助かった。ハルヒは先ほどから見てるだけで助けてくれないけどキョンなら、キョンならきっと助けてくれる。
 私の胸の上、気持ち良さそうに眠る古泉くんを見たキョンはまだ頭は寝ているのかしばらく瞳を瞬いたのち尻尾がピンと立ち上がり耳もピクピクとさせている。
 ああ、よかった。普通の反応だ。

「なっ、古泉、おまっ」

 言葉にならない言葉を紡ぎながらキョンは立ち上がると私に駆け寄り、古泉くんをはぎとろうと手を掛けるがふと動きが止まり私を見つめたのち自分の手足、顔に触れ古泉くんを一瞥すると何がどうなってるのかわからんと言いたげに目を細め息をついた。

「これは何か悪い夢でも見ているのか?」
「そう言いたい気持ちはわからなくない。だけど今は助けてくれ

 キョンは古泉くんの首根っこを掴むと私から引き離し古泉くんの頭を一思いにひっぱ叩いた。小さい時にはパコンとひ弱な音も、今じゃ切れのある音となり。思わず叩かれてもいないのに古泉くんの叩かれた箇所を押さえた。今のは痛い。
 やはり効果てきめんだったのだろうか。古泉くんは「うぅ……ん」と唸った後、目を開くと少しうるんだ瞳が覗いた。

「古泉くん大丈夫?」
「……あ、はい。少し頭が痛みますが、なんだかスッキリしました」

 そう言いながら頭を擦る古泉くんの髪は所々外に跳ねておりトロンと目がとろけている。イケメンが寝ぼけるとこんなにも可愛くなるのかと、小さくなったパジャマから覗く上半身に赤くなる顔を抑えようと必死だ。
 目を擦り、いつもの癖で立ち上がりそのまま洗面所へと向かうが私とキョンは揃って布団を古泉くんに向かって被せた。主に下半身に。動く度に落ちそうなパジャマにパンツ。もう、それ以上は、動いちゃだめと言うのが早いか、隠すのが早いか。

「あぁー! 古泉くんダメー!」

 そんなドタバタ騒ぎにみくるちゃんが起きてしまったのか身体を起こし何事かとこちらを見たと同時にハタと眠そうに細めれていたまなこが見開かれ口をワナワナと開くと顔を真っ赤にさせ「あ、あっ」と目に涙を浮かべる。

「いやあぁー!」

 叫び声が部屋を包む、叫ぶに叫んだみくるちゃんはそのまま気絶したのか後ろに倒れこみ、その後ろから先ほどの騒ぎに起きたと思われる有希が顔を覗かせ一言。

「ユニーク」

 ああ、確かにユニークだろう。なんせパジャマと共にパンツがズレ落ち、古泉くんの大事な場所が覗きかけの所をキョンと共に布団で隠そうと試みたのだからな。当の隠された本人は何が起きたのか判っていないのか、頭にクエスチョンマークを浮かべる勢いで困惑していた。
 ハルヒは、というと。

「何よ、面白いところだったのに」

 どこから掘り出したのか、カメラを構えながら唇を尖らせブーたれていた。いや、今の状況もなかなかのものだと思うぞ。

「でだ、これはどうなっているのか説明して欲しいんだけど……」

 ハルヒにお金を手渡し、皆に手頃なパジャマや下着と衣類を頼むと、ハルヒは二つ返事でみくるちゃんを連れて外へと飛び出して行った。
 ちなみに耳やシッポは帽子と長めのコートを着させて誤魔化した。まあ、ちょっとやそっとで解らないようにはなっただろう。もしバレてもネコミミやウサミミつけたりシッポつけてる痛い子だと思われるだけだろう。多分。
 そして今、目の前に座っているのはキョンと古泉くん、有希という面子で、なんだか少し居づらいのは男子たちが布団にくるまっているからだろう。あれを一つひっぺがすと大変な物が現れると思うと、二人をなかなか直視出来ない。しかし、見なきゃ話が進まない。

「正直なところ、このようなことになるのは想定外でして」
「つまり、古泉くんにも何がきっかけか解らないと……」

 私の言葉に古泉くんは一つうなずく、ああ早速壁にぶち当たるとは。申し訳なさそうに耳を項垂れ苦笑を浮かべる古泉くんに、私はその頭を撫でる。古泉くんのせいでもないのだから、そんなにショボくれないでくれこっちも落ち込んでしまう。
 古泉くんは目を細め気持ち良さげに耳を揺らす。ふと撫でておれば左右から視線を感じ、振り向くと有希とキョンから熱烈な眼差しを受けていた。そして今まで黙っていた有希が口を開き。

「絵本」

 そう呟いた。絵本? 確かにいつものように皆が寝入るまで絵本を読み聞かせていたけど、それがどうしたのだろうか。私は机の上に置きっぱなしにしたままの絵本を見つめ、首をかしげた。有希はそれ以上何も語らず、残された私たちはただ解らぬ問題に腕を組みさてどうしたものか、とお手上げ状態となった。

「たっだいまー!」
「ただいま帰りました」

 そんな中、ハルヒ達が帰って来た。ハルヒは元気よく扉を開け、このマンション中に声が響くのではないかと思わせるほどの声量でタッタッタと歩き出す。その後ろを扉と鍵を閉めて、みくるちゃんが遠慮がちに入ってくる。ここは君の家なのに可笑しなものだ、いやそこが可愛いんだけどさ。

「二人ともお帰り」

 ハルヒは帽子とコートを脱ぎ捨てると興奮気味に私へ話してくる。どうしたのだろうか、何か面白いものでも見つけて来たのだろうか。買い物袋を地面に置き、中を漁り一つ取り出すと私に見せる前にハルヒは後ろへそれを隠してしまった。

「見て驚かないでよ」
「うん?」
「ジャジャーン!」

 そう言って取り出したのは男物のブリーフパンツ。さすがに小さい子のパンツやらを見ていたからだろうか、免疫がつきあまり驚くものでもない。ハルヒは反応が薄かった私に、頬を膨らませ「もっと驚きなさいよ」とパンツを見せる。

「わ、わーパンツなんてどうしたのよハルヒー」

 あまりにもわざとらしい私の反応ではあったが、ハルヒはそれに大いに満足したのか「気になるでしょ?」とさらに私へと近づけてくる。よくみると、猫の柄だ。

「これ凄いのね。ちゃんと尻尾が生えてる人のことを考えてるのよ」
「へー……」

 嫌な予感がする。ハルヒはパンツの真ん中に開いた箇所を指差し、嬉々として私に自慢気に見せる。

「ほら見て、ここ穴開いてるでしょ」
「うん」
「ここに、こうして」

 ハルヒは両足を入れて行くと穴に尻尾を通してパンツを履いていく。前後反対だがまあここは目を瞑ろう。だけどやはり、ここは「それ! 違いますから!」と言うべきだろうか。ハルヒはわざわざスカートを捲り上げて「どうどう?」と私に感想を要求してくる。

「か、可愛いよ? でもハルヒ、それ――」
「みくるちゃんのもあるのよ!」

 ハルヒは私の言葉を耳に聞き入れようともせず再び買い物袋を漁り今度はウサギ柄のパンツ。みくるちゃんも心なしか嬉しそうだ。しかし、これでパンツは確保出来たわけだ。

「ねえ、ハルヒ」
「何、もしかして欲しかったりするわけ?」
「いや、いりません。そのね、それ男の子が穿く下着なんだよね」

 それ、とハルヒの穿いているパンツを指差せば。ハルヒは視線をたどっていき、自分の下を見ると勢いよく顔を上げ私の顔をまじまじ見たのち再度また自分の下を見た。その顔は次第に赤みを帯びていく。

「ふえ、そそそっそうだったんですか?」

 みくるちゃんは顔を真っ赤にさせ、口元に手を当てると目を白黒させる。そして自分が選んだと思われるウサギのパンツを慌てて袋の中へと詰めていく。
 ハルヒは先ほどからうつ向いたまま、耳まで赤いのを見るとハルヒも恥ずかしいのだろう。ここはなんてフォローすべきか、子育て経験のない私には少し難題だ。そうこう悩んでいると、前触れもなくハルヒが顔を上げ赤いまんま腕を組み得意気な顔をしてこう言った。

「そんなの知ってたわよ! 少し遊んでみただけよ、みくるちゃんが本気にしてレジに持っていくから仕方なくあたしもノッただけなんだから」

 そう来たか。オロオロとみくるちゃんがハルヒの横で狼狽える姿が全てを物語っている。

「えっあ、でも涼宮さんが――」
「うるさい!」
「ぴぃっ!」

 みくるちゃんは、ハルヒの怒鳴り声に脅えあまり背の変わらない私の後ろへと隠れてしまった。カタカタと小さく小刻みに震える姿はなんだか、可愛らしいのだが。

「あー、まあ、言わなかった私も悪かった。今まで買ったのには穴があいたやつなかったからね、解らなくても仕方ないよ。それに、買ってきてくれたことに意味があるんだから、ありがとうみくるちゃん」

 みくるちゃんの頭を撫で、落ち着かせるために背中も擦ってやれば落ち着いたのか涙を拭き取り。ヘラッと癒しの笑みを浮かべた。

「ハルヒも、ありがとうね。しっぽ、窮屈だったでしょ?」

 みくるちゃんから手を離し、ハルヒのその身体に回し抱きしめお礼を言うと。ハルヒは照れくさそうに笑い、買い物袋を提げると皆の集まる部屋へと戻っていった。
(2008 03/19)

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