ハロウィンパーティー

「キョン、トリック・オア・トリート。私はお菓子を希望します」

 片手を真上に突き上げ、しけた面をしているキョンに言えば、キョンは眉を寄せ、私の身体を上から下へとまんべんなく見ていく。
 そしてため息をついて一言。

「その前に、お前の恰好について一から十まで説明してもらおうか」

 上から縁の大きなとんがり帽子、黒いマントに星のついたちゃちなスティックを持った私は、手を広げ一本ずつ指をおる。

「一、もうすぐハロウィンです。二、なので仮装しようとハルヒさん。三、それでこの恰好。四、ちなみに部室はもっとカオスだよ。五、それでついでだから知り合いからお菓子を頂き一番多い人が勝ち。六、ちなみに一から十までってこういう意味じゃないんだよね」

 指折り言っていけば、話は六で止まり私は人差し指だけ立った手を見つめたのち、キョンへ視線を向けあいた手を突きつけた。

「と、いうことでお菓子ちょうだい!」
「あいにく、お菓子と呼べるものは何一つ持ってない」

 キョンは私を軽くあしらうかのように手を振り、無いとジェスチャーした。
 まあ、日ごろのキョンの様子を見れば予想はついていた。

「いやん、キョンは悪戯が好みなの?そうなのね、このムッツリスケベ!」

 私は己の体を抱くようにして身構えれば、キョンは呆れた顔で「アホか」と吐き捨て私の額を小突いた。
 確かにアホかもしれない。自身からの視点で見ても、今のはアホだと断言できる。

「……アメでもいいんだよー、ジュースでもいいよ」

 小突かれた額を擦ったのち、キョンの服の裾を掴み、小さな子どもがおねだりするかのように訴えれば、キョンはため息一つ。
 そして制服のポケットに手を入れ、中身を探ったのちガムを一枚取り出してきた。

「やる」
「えー、しょぼくないか?」

 私は渋々それを受け取り、マントにそなえつけられていたポケットに入れながら文句を言えば、キョンは何を思ったのか。私の帽子の縁を両手で持ち、下に勢いよく下げた。
 目の前が一瞬にして真っ暗になり、帽子を取ろうとすればその手はキョンにより遮られ、両手首掴まれ身動きが取れなくなった。

「ちょっとキョンー、なんで私が悪戯されるの」
「人があげた菓子に文句をつけるからだ」

 私は顔を上げ、キョンに文句をたれるが、暗闇は変わらずの暗闇で、ほんの小さな隙間から入る光だけが唯一感じれる光だった。
 その光はキョンが動くのに合わせ影を落とし、耳元でキョンの声がした。

「Tric or treat」
「お菓子はキョンに貰ったガムしかありませんが」

 耳にかかる息に、くすぐったさを感じつつ、私は何をされるのか身構えれば、暗闇の向こう側で笑っている気配を感じた。

「なら悪戯だな」
「そーですね」

 悪戯なら今やった分でいいではないか。
 来るであろう悪戯に身体の全神経を集中させれば、突然唇に柔らかいものが当たり私は驚きに身体を強ばらせた。
 すぐに、その感触は離れていき、手が離されたが、手には温もりが残り、それが余計に意識させる。
 いやいやいや、待ちたまえキョン。今、いったい何をした。あれか、某CMのように「奪っちゃったー」なんて可愛らしく言ってパンダのパペットを動かしているのか?
 混乱する頭の中、私は帽子を脱ぎ捨て、キョンを見ればキョンは手の甲の皮を親指と人差し指で摘まみ、その摘ままれた所にはだ円のプニプニしたものが出来ていた。

「知ってたか? 手の平のこれ、唇と同じ感触するらしいぜ」
「あ、うん、知らなかった……」

 自分の思考に、顔が熱くなる。自分はなんという恥ずかしい考えをしていたんだ。キョンに謝っても謝りきれない。

「でも、勘違いさせたキョンも悪い」

 私は、悪戯が成功し満足して立ち去ろうとするキョンの背中を、星のスティックで押し「バーカ」と吐き捨て次の人の元へと向かった。

 ちなみに、後で気づいたのだが自分でやる分では手の甲のプニプニに唇が届くのだが。他人にやる際はとてもやりにくいことが解った。
 と、言うことはだ。結局あれはなんだったのだろうか。今さら聞くにも聞けず謎は深まるばかりであった。

(2007 10/24)
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