蝉が鳴く頃に

「蝉ってさ、切ないよね」

 縁側に座り足をばたつかせる。蝉たちの合唱をバックに、ゆっくりと動いていく雲を眺めておれば、キョンが西瓜を持って横に座る。

「切ないか? 俺にとっては煩いか夏の風物詩としか思えないが」
「だって切ないじゃん」

 私はキョンから一つ西瓜を貰えば、一口真ん中を口に入れ飲み込む。甘く熟れた西瓜は、喉の渇きを潤すのにちょうどよい。

「地上に出て七日間しか生きれないんだよ」

 キョンが横に座り胡座を組むと西瓜を一つ取る。それを横目で見ながら、私はもう一口くちに含めば吸いそこねた甘い汁が腕を伝い地面へと落ちていく。

「つくづく思うよ、私蝉じゃなくてよかったって」

 私は腕に伝う汁を舐め上げれば、キョンが西瓜を口にくわえたまま不思議そうにこちらを見ていた。

「なんでだ?」
「だってさ、まず七日間しか生きれない、人間と言葉が通じない、死んだらアリに食べられる」

 私は指折り数えるように言っていき、四個目を言う前にキョンを見る。

「最後に、キョンに出会えない」

 五本目の指を折り、笑えば。キョンはそっぽを向き、西瓜にかぶりつく。照れ隠しだろうか、耳まで赤いのが丸分かりだ。

「キョン、私キョンに会えて嬉しいんだよ」

 西瓜を平らげ、空を見上げれば雲は移り変わっており。蝉たちの合唱は一瞬ピタリと鳴りやんだ。静かになった空気に、息を吸う。

「蝉と言えば」

 さっきまでそっぽを向いていたキョンは、こちらを向くと私と同じように空を眺める。

「韓国で以上発生しているらしいな」
「そうなんだ」

 あ、飛行機雲。飛行機が飛ぶ後に、連なる雲が浮かぶ。蝉たちはまた元気よく羽を震わせ鳴き出し、キョンは西瓜の皮を捨てに行くのか立ち上がり。私の西瓜の皮も持っていってくれた。

「俺も」

 部屋へと脚を踏み入れた時、キョンが立ち止まり。私は振り返り見れば、キョンは照れくさそうに笑みを浮かべ。

「蝉じゃなくてよかった」

 そそくさと、中へと戻っていくキョンの後ろ姿に、私は緩む顔を両手でおさえ。また空を見上げる。どこからともなく、風鈴の音が鳴った。

(2007 08/07)
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