スポーツ
秋のスポーツ大会、その中でも皆が注目を集める野球では親御さんはもちろんのこと。よその学校の人もちらほらとやって来ていた。
私は学校の生徒用の観客席に座り周囲から聞こえる歓声に混ざり、メガホンを口にあて思いっきり叫んだ。
「かっとばせー亘!」
亘はその声を聞くと私の方に振り返り、親指を立てて笑い。深くヘルメットを被り、持っていたバットを一度大きく振り構えた。
相手のチームのピッチャーは球を手に持てばグローブに投げ、キャッチャーの反応を見る。
そして顔を上げ帽子のツバを持ち、それを見たキャッチャーは小さく頷いた、きっとサインを送ったのだろう。
亘がいっそう強くバットを握ると同時にピッチャーは腕を上げそのまま振りかぶった。
迫る球に亘はタイミングを見計らいバットを振る。
キーンと鉄製のバットに球が当たる音が辺りに響いた。
球が当たるのがわかると、応援している人の声は一段と大きくなる。
亘はバットを投げ捨てると一塁へと腕を振りながら走る。そのあいだ、球は跳ねながら三塁を通り、外野の方へと転がっていった。
レフトが球を拾い、一塁へと投げる。
亘は滑りながら塁を触ったが一歩遅かったのか、相手のグローブのほうが先に塁に触れていた。
審判は腕を上げアウトと言い、スリーアウトとなり一回裏が終わった。
私は落ち込む亘へと手を振ると亘は少し苦笑いしながら手を振りかえした。
その後、ベンチに帰る亘をもみくちゃにして慰めるクラスメイトに私は思わず笑ってしまった。
ふと、影が落ち。顔を上げると、相手チームの一番バッターは宮原なのか、ヘルメットを脇に抱えバットを持ちながらこちらを見下ろし立っていた。
「宮原どうかしたの?」
私が尋ねると、宮原は苦笑いして頬をかく。
「いや、その、お前三谷ばかりじゃなくてオレも応援してくれないかなって思ってさ」
「同じクラスの子は応援するけど、敵チームは応援しませんよ」
そっけなく、そして嫌味ったらしく言うと宮原は「ならさ」と、自分のかぶっていた帽子を私の頭に深く被せた。
「俺を応援してよ。宮原祐太郎を」
私は帽子のツバを上げ、宮原を見ると宮原は気恥ずかしそう笑い私を見下ろしていた。
少し考えたあと、私が頷くと宮原は小さくガッツポーズをした。 そんなに嬉しいものなのだろうか。
時間が押しているのか、ベンチからクラスメイトが宮原を呼び、それに宮原が答えると私の頭を一度叩きクラスの元へと戻っていった。
私は帽子を被り直し、バッターボックスに立つ宮原を見る。
宮原はバットの先を空に向け、ホームラン宣言。私はそれを少し呆れて見たがなんとなく宮原ならやりそうな気がした。
バットを構える、ピッチャーはカッちゃんだ。
私は亘の時同様メガホンを口にあてた。
カッちゃんは球を握ると振りかぶり、宮原はグリップをグッと握った。
「祐太郎、いっけー!」
私の声と、宮原の打つ音が重なった。
球は高く空に上がり、フェンスの向こう側に消えていき、空には飛行機雲が一つ空に白い線をひいていった。
(2006 10/15)