放課後、雨日和

 屋根のある下駄箱前でクルクルと回す傘、私の前で立ち尽くす貴方。
 雨はシトシトと降っている。


「名字何してるの?」
「亘待ってるの」

 私が答えると宮原は「そう」と言い下駄箱から下靴を出し、上靴を脱ぎ捨てると下靴に足を入れトントンと爪先を鳴らした。
 靴が入ると宮原はしゃがみ上靴を掴み下駄箱に置き私の方を向いてきた。

「雨、結構降ってる?」
「んー多分普通じゃないかな。何、宮原もしかして傘忘れたとか?」

 私が冗談で言った言葉に宮原は参ったなといった感じに頭をかきながら笑った。
 その様子に私は傘をパチンと閉じ宮原の側に行き手を握った。

「ならさ、暫く私に付き合ってくれない? さっきから暇でさ」

 そう言うと宮原は校舎の中にある時計をチラリとみたあと、少しならいいよと言った。
 私は返事を聞くと下駄箱前の石階段に座り隣に来るよう横を叩いた。
 宮原はそれに応えるように横に座り雨が降っている外を見た。

「しかし突然雨が降るなんてな、オレ本当運ないな」
「宮原よ。運も才能のうちだよ」

 私が頬杖をつきなが言うと隣から微かに笑い声がしその後「確かにな」と楽しげな宮原の声が聞こえた。

「そうだそうだ、頭のいい宮原になら答えわかるかな」
「ん? 何だよ言ってみろ。オレでよかったら答えれたら答えるからさ」

 横を向くと宮原がドンと胸を叩き、それは何だか頼もしく思えた。
 私は少し考えた後、宮原から雨の降る校庭に顔を向け「あのさ」と切り出した。

「雨とか雪って降ってる時何だか音がなくなる感じしない?」
「そうか?」
「そうだよ、本とかでもそういう表現あるし」

 宮原は眉をよせ考える仕草をし「確かに見かけるよな」と言った、私は「でしょ」と返し足を伸ばし水溜まりを蹴り水をはねさした。
 パシャっと音がなると跳ねた水が自分の靴に掛ったが気にしなず、足を引っ込め傘の先端を水溜まりにつけクルクルと回した。
 暫くお互い無言になり雨の音しかしなかった。
 先に口を開いたのは宮原だった。

「あれだ雨の中、一定の距離あけると声がくぐもって聞こえるだろ?」
「うん」
「それと一緒じゃないかな」

 そうかな? と疑い深く聞くと宮原は笑い、そうだよと言った。
 その笑顔があまりにも自信たっぷりで私は何となく本当にそうなのかもと思った。

「うん、ならそう思っとく」

 頷くと、宮原は私の頭を撫でてきた。突然のことに肩が強張ったがすぐに力が抜けされるがままになった。
 暫くそうしていると中から階段を降りる音が響き振り返ると亘が私に手を振ってきた。
 私も手を振り返すと隣に座っていた宮原は立ち上がりズボンを叩いた。

「ならオレ帰るね。三谷も来たようだし」
「あっうん、ありがとう」

 私も反射的に立ち上がり服を叩いていると宮原は手をあげじゃあといい雨の中に行こうとした。
 私はとっさに宮原の名前を呼ぶと宮原は振り返りどうかしたのかと私の方を見てきた。

「宮原、傘貸すよ。風邪引いたら大変だから」

 私は宮原に傘を押し付けたがなかなか宮原は受け取ってくれなかった。

「そしたら名字どうするの?」

 どうやら宮原は私の心配をしていたようで傘を無理矢理私に持たせた。
 私は宮原の気づかいに少し頬が緩み「亘がいるから大丈夫」と笑いながら言うと宮原は「そうか?」と恐る恐るだが私の傘を受け取った。

「それと付き合ってくれたお礼。だから気にしないで」

 私は宮原の肩を軽くポンと叩くと宮原はありがとうと言い傘を開いた。
 その後手を振り、別れたが宮原は雨の中大声で私の名前を呼んだ。
 それに応え、大声でどうしたと聞くと宮原は一瞬詰まったあと返事をした。
 それは少し小さな声で所々しか聞こえなかった。
 私はもう一度言ってと言おうとしたが宮原は「また明日学校で」と言い雨の中を走っていった。

「名前どうかした?」

 宮原がさっていった後を私はボーゼンと眺めていると亘が来て私の肩を叩いた。

「いや、なんか宮原が名前で呼んでとか、何か知らないけど言ってて」

 私は亘にしどろもどろに言うと亘は珍しいこともあるもんだと言いたげな表情をした。

「……亘あのさ」
「何?」

 私は聞こうとしたがそれは失礼に当たるのではと思いなかなか言えず口を開いたり閉じたりしていると、亘はもう一度何? と聞いてきた。

「……その、宮原の下の名前なんだっけ?」

 私がおどおどしながら聞くと亘は一瞬呆気にとられたように口を開け私を見てきた。
 だがすぐに吹き出し笑いだし「宮原本人に聞けよ」と言ってきた。


 その後の帰り道、何度も亘に聞いたが本人に聞けの一点張りで私はしょうがなく傘を返しにきた宮原に、申し訳ないと思いながら名前を聞くのだった。

(2006 08/28)
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