夕日と教室

 夕日が綺麗に輝く放課後、脇に問題集を抱え片手を上げた私は美鶴の机の前に立ち声をあげた。

「はい! 美鶴先生、勉強教えてください」

 本を読んでいた美鶴は顔をあげ私の方を呆れた顔で見てきた。

「いいけど……昨日も教えなかったか?」
「……昨日は昨日、今日は今日」

 私の言葉に美鶴はやれやれといった感じに問題集を渡すよう手を差し出してきた。
 その手に問題集を乗せ私は前の席からイスを出して座り、開かれた問題集のわからない所を指さした。

「ここわかんない」
「これ昨日も教えただろ」

 私はその言葉に美鶴から視線をそらし無言になると美鶴はため息をつき私の頭を叩いた。

「とにかくもう一度教えてやるから」
「やったーだから美鶴って好き」

 私はシャーペンを持ち問題集に視線をおとすと美鶴はわかりやすく説明してくれて忘れないようにチェックポイントも書いてくれた。

「美鶴さん凄くわかりやすかったです」

 私は問題集に目を通すと、先ほどまでわからなかった問題が今では見ただけでスラスラと答えが書けるようになっていた。
 これで塾にもついていけそうだとほっと息をつくと、美鶴はよかったなと言い、手を差し出してきた。
 なんだろう? と私はその手に手を乗せると急に手を引っ張られ唇に柔らかいものが当たり、少しした後手を離された。
 私は何が起きたのかわからずポカンとしていると美鶴は笑い「ご馳走様」と言い私の頭をポンと叩いた。
 暫くした後、先ほどの出来事が鮮明に蘇り私は美鶴に向け、バカと叫んだが時は既に遅し、美鶴は既にその場にはいなかった。
 柔らかい感触が未だに残る唇を擦り、顔が赤くなった私は美鶴の席を一度蹴ると鞄を持ち夕日に照らされた教室を後にした。
 少しだけ、ほんの少しだけ美鶴に対しての気持ちが変わったような気がした、そんなある日の放課後。

(2006 08/28)
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