約束

 ――指切りげんまん

 小さい頃、小指と小指を絡めあい約束の歌を歌った。

 ――嘘ついたら針千本のーます
 ――指きった!

 小指を離し手を握りあい、お互い笑うともう一度決して忘れないように言う。

「約束だよ」

「はい、じゅあ各自この連休に自分の将来について考えること。今日の宿題はそれだけだから出来るよね」

 担任の先生がプリントを列ごとに配ると皆回されてくるプリントを眺めそれぞれ近くの者とどうするか話しあっていた。
 名前も例外なくプリントが回ってくると一枚とり、後ろの亘に回し自分も後ろを向いた。

「ねぇ亘。宿題どうする?」
「どうするも何も……やるしかないよ」
「そうだけどさ」

 亘はプリントに一度目を通すとそれを折りたたみ鞄にしまった。
 名前はつまらなさそうにそれを見ると次に隣のカッちゃんの方を向き机に頭を乗せ下から覗くとカッちゃんは気づいてないのかプリントを見てうんうん唸っていた。

「カッちゃん」

 名前が少し小さめに呼ぶとカッちゃんは声に反応したのか名前の方を向き、いつの間にかいた名前に驚きイスを思わず引き手を胸にやった。

「ちょ、驚かすなよな」
「いやいや、驚かすつもりはなかったんだけどね」

 名前は相変わらず机に頭を乗せたまま、驚いたカッちゃんを笑い立ち上がると机を思いっきり叩きつけカッちゃんに顔を近づけ睨みつけた。

「それでカッちゃん……君はもう将来決まっているのかね?」
「いや……まだだけど。でも多分家継ぐかな」
 名前はそれを聞くとまた机を思いっきり叩き、カッちゃんを指さすと「裏切りもの!」と罵り始めた。

「なんで裏切りものなんだ?」
「……その場のノリだよノリ」

 何もツッコンでくれないカッちゃんに名前はため息をつくと自分の席に戻りイスに座るとまたプリントを眺めた。

「はい、じゃあ今日の授業はここまで。皆立ってください」

 先生の一声に皆ガタガタとイスを鳴らし立ち上がりそれぞれ好き勝手に喋り出したが先生の「気をつけ」の声にピタリと静まり姿勢を正した。

「じゃあ、さようなら」
「さようなら!」

 先生が先に挨拶をし頭を下げると皆もそれに習い頭を下げ先生に挨拶した。
 それが終ると各自帰る者や、まだ友達と話している者とそれぞれ皆違うことをし始めた。

 名前はプリントをファイルに直し鞄にしまい、閉じるとそれを背負い亘とカッちゃんに声をかけた。

「ねぇねぇ。よかったら宿題明日皆でしない?」
「いいけど誰の家で?」

 名前の提案に二人は承諾したが誰の家でするかと問題がやってきた。
 一番初めに無理だと言ったのはカッちゃんで連休は賑わうから煩く出来ないと言い、次に無理だと言ったのは言い出しっぺの名前だった。連休は親が出かけるのと兄の友達が遊びに来るからだという。

「なら僕の家になるの?」

 必然的に絞られると最後には一人だけになり、それは亘だった。
 亘は自分を指すと二人は同時に頷き、亘は諦めたようにため息をついた。

「じゃ、よろしくね亘くん」
「ごめんな亘くん」

 二人はからかうように言うと亘の癇に触ったのか亘は皮肉をこめて「いえいえどういたしまして」と言い、鼻で笑うと踵を返して教室を後にした。
 二人は亘の皮肉がわからなかったのか、お互い首を傾げつつ亘の後をおい教室を後にした。

 次の日、名前は電話の鳴る音に起こされ寝ぼけながら受話器を持ち上げた。

「はい……こちら多分家です」
「名前ー俺だよ俺っていうか寝ぼけんのかー?」

 と言う電話の向こうに名前は一度電話を見ると「俺は扱っていません」と言い受話器を置いた。
 部屋に戻ろうと電話の置いてあるリビングを後にしようとするとまたけたたましい電話が鳴った。
 名前は面倒くさく感じたが受話器を取り耳に当てると切迫の詰まった声が聞こえた。

「名前、俺だよ。その克美!」
「おーカツは美味しいよね。」

 のんびりと間の抜けた声にカッちゃんは大きな声をあげ名前を起こそうとすると名前は煩いと言い受話器をまた置き、三度目の電話では普通にこたえた。

「もしもし亀よー」
「……亀さんよ?」
「あっカッちゃんどうかしたの?」

 カッちゃんだとわかるといつもの調子になった名前にカッちゃんは脱力したように「どうしたじゃねぇよ」と言い本題に入った。

「そうそれでな、俺今日行けそうにないんだごめん!」
「えーなんで?」
「店が思ったよりも混んでさ……」

 本当にごめんともう一度言うカッちゃんに名前は笑い「別にいいよ、気にしてないから」と言うとカッちゃんはおずおずと「その……」と言いそれを察した名前は電話ごしに頷き「うん、わかった言っとくよ」と言い、お互いじゃあねと言うと電話を置いた。

「さて、亘に言いに行くか」

 名前はそう自分に言い聞かせると部屋に戻りタンスを開け、手短に用意をすませた。
 宿題のプリントと筆箱を手提げ袋に入れると隣の家に行きチャイムを押すと暫くして亘が玄関の扉を開け顔を出した。

「よっ亘! 少し早いけど遊びに来ましたー!」
「少しじゃないよ。凄い早いよ」

 手を上げ挨拶する名前に亘は呆れ、ため息をつくと中から邦子の声がし、亘は名前を招きいれ扉をしめた。
 パタパタとスリッパを擦りながら歩く音をたてながら邦子は玄関に行き、客が名前だとわかると嬉しそうにわらった。

「お邪魔します邦子さん」
「いらっしゃい名前ちゃん」

 名前が頭を下げ靴を脱ぎ廊下へと足を乗せると亘に背中を押され、邦子と話すことなく部屋に連れていかれた。

「……どうしたの亘」
「今お母さんと名前会わせたくないんだ」
「なんで?」

 亘は眉をひそめ口をモゴモゴさせながら名前の方をチラチラと見た。
 名前はそんな亘の様子に同じように眉をひそめ、首を傾げた。
「……その、お母さんに宿題見られて。」
「うん」
「名前をお嫁に貰って働くのよねって言われて」
「へー、そっかそっか」

 名前は相づちを打ちながら立ち上がり、亘の机の上に飾られてる写真立てを手に取ると縁をなぞり柔らかい笑みを浮かべた。
 亘はその様子をみながら脚を組直した。

「本当いい迷惑だよ」
「ねぇ亘」

 名前は写真から目を離し亘を見るとどこか楽しそうに笑い。
 写真をその場に置くと席に戻りもう一度繰り返し言った。

「ねぇ亘」
「何?」
「結婚しようか」

 亘はその言葉にポカン口を開けまじまじと名前の顔を見た。
 名前は思ったとおりの反応に満足そうに頷くと口を開き一つ一つゆっくりと言った。

「ねぇ亘、大きくなったら結婚しよ」

 もう一度言うと亘はポカンと口を開けていたのを固く結び顔を真っ赤にさせた、名前はその様子に含み笑いをし、バンバンと机を叩きだした。
 亘はそんな名前を見て騙されたと気づき赤くなった顔で名前を睨んだがそれはかえって名前を喜ばせていた。

「名前冗談言わないでよ」
「いやいや〜まさかここまで亘が純粋だとは」

 笑いすぎて目尻に溜った涙を指で拭き取ると名前は一度ごめんと言い、写真を取ると亘の前に置いた。

「……その写真がどうかした?」
「ほら、この時約束したの思いだしてさ」

 亘は写真を見るとそこには幼稚園の青い服を来た亘と名前が手を握り締めあい笑ってる姿が映っていた。
 亘は一度顔を上げ名前を見て恐る恐る「約束って……」と聞くと名前は笑みを深くしスクッと立ち上がると小指を天井へと突きだしもう片方の手は腰にやり一度生きを吸い、一呼吸置くと大きな声で叫んだ。

「私が亘の婿になる約束ー!」
「はぁー!?」

 亘はすっとんきょな声を出し立ち上がると名前は真剣な顔で亘を横目で見るとニヤリと笑った。
 亘はヒヤッと冷や汗をかきつつ名前を見た。

「なんで僕お嫁なんだよ!」
「亘くんツッコムのはそこかい」

 名前は上げていた腕を下ろすと直角に腕を横にやりツッコムと亘は自分の言った言葉に気づいたのか手を振り首も横に振りながら真っ赤な顔で反論をしだした。

「ちがっ、僕が言いたいのはそうじゃなくて。……何で名前が婿なのさ」
「昔の亘と私に聞いてください、ってか嘘だし」

 やーい騙されたと亘を指さし笑う名前に亘は不機嫌そうに顔をしかめた。
 笑いが止まると名前は座り手提げ袋からプリントと筆箱を取り出しカパッと筆箱を開け、鉛筆を取り出すと指の中で鉛筆を滑らせ机にぶつけトントンと音を鳴らした。
 それが合図のように亘も座りプリントを開くと鉛筆を持ち最初の一文を書きはじめた。
 暫く鉛筆と紙が擦りあう音だけが響いた、最初に口を開いたのは名前だった。

「亘、幼稚園の頃の約束覚えてるんでしょ」

 鼻と口の間に鉛筆を乗っけながら頬杖をつき、名前が聞くと亘の紙にはしらせていた鉛筆がピタリと止まり顔を上げ名前を見た。

「そうだったらどうするの?」

 そっけなく答える亘に名前は笑い、コロンと顔から鉛筆が落ちた。

「そうだったら、今もそれは有効ですか?」

 首を傾げながら聞く名前に亘は一瞬目を見開くがすぐ目を伏せ横目でチラチラと名前の様子を伺うように見た。

「ねぇー亘?」

 痺をきらしたのか名前は少し不機嫌そうな声をもらした。
 亘はその声を聞くと顔を上げた、赤くなった頬を隠そうともしなず固く結んだ口をゆっくりとだか開きかすかな声をだした。

「目、瞑って」

 その声に名前は頷くと目を閉じ息を飲んだ、亘は机に手をのせ前のめりになりためらいがちにゆっくりと顔を近づけた、緊張からか心臓がドクドクと高鳴り顔に血がめぐり顔が熱くなるのをお互い感じつつ亘はそっと名前の唇に触れた。
 それは一瞬の出来事だったが二人にとっては長い時間だったような錯覚がした。
 唇が離れると名前は目を開けはにかみながら笑った。
 それに答えるかのように亘もはにかみ笑うがすぐ照れくさいのかそっぽを向いた。

「亘、あのさ。それって有効って事だよね」
「……それ以外に何があるの」

 ぶっきらぼうにそっぽを向き言う亘に名前は少し考えた後立ち上がった。いきなり立ち上がった名前に亘はどうしたの? と言いたげに顔を上げた。

「邦子さーん! 亘がセクハラしたー!」

 叫びながら部屋の外へとドアを開け出ていった名前に亘は一瞬呆気にとられたがすぐ我にかえり「お母さん違う!」と机につまづきながら走り名前の後を追いかけた。


 ――指切りげんまん

 小さい頃、小指と小指を絡めながら歌った約束の歌。
 歌い終りきられた指は温もりが残りお互いどこか寂しげだった。
 名前はもう一度念をおすように亘の手を取り言った。

「大きくなったら、一緒にいようね」
「うん、大きくなったら名前ちゃんを僕のおよめさんにするよ」

 応えるように手を強く握った亘に名前は嬉しそうに笑い、何度も頭を縦に振り繰り返し繰り返し「うん」と言い、お互い顔を見合わせ笑い、声を揃えて言った。

「約束だよ」

(2006 09/02)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -