秋風
それは学校の帰り道でのことだった。夏から秋へと変わる季節の変わり目、気温は上がり下がりを繰り返しており、時折冷たい風が身を襲う。
今日も朝は暑かったが、夕方へと近づくと気温も下がっていきカーディガンの隙間から吹き抜ける風に身震いをする。ふと隣を歩く亘を見ると亘も同じように身震いをしており、その後口を何度か閉口させると最後に大きく口を開き、情けない声を出して盛大にくしゃみをした。
「風邪?」
「違うと、思う」
朝の陽気からか、亘は半袖のTシャツしか着ておらず覗く腕には鳥肌がたっている。鼻の頭は寒さにか、赤く色づいており。ズルズルとすすりながら言う亘には説得力はなく、何を意地はってるのかとただ呆れてため息がこぼれた。
亘はその小さなため息を聞き逃さなかったのか、ポケットをあさりながら「何?」と尋ねてきた。それに私はそっけなく「別に」と答えると、亘は眉間に皺を寄せあくまで興味なさげに「そう」と呟きそっぽを向いた。
「そういえばもう秋なんだよね。亘は秋は何したい?」
「へっ?」
よその家に生えた木が、紅く色づいた葉っぱを落としており。それを目で追いながら尋ねると、亘は先ほどくしゃみした際に出た鼻水を、勢いよくかんで拭き取っていた。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。それより秋でしょ、そうだな……」
鼻をかんだことによりか、更に赤みをました鼻に、本当に風邪じゃないのか心配になり再度尋ねると、亘は変な意地をはりムッとしかめ面をすると腕を組空を見上げた。
私もそれ以上亘の機嫌を損ないたくないので、黙って空を見上げ亘の返事を待つがいくら待てど返事は帰ってこなず隣を盗み見ると、亘は眉間に深く皺を刻み悩んでいた。
「うーん、亘の事だからどうせゲームとかでしょ?」
ふと亘が楽しみにしていたゲームの発売日が近いことを思い出し、なんの意図もなく言えば、亘はゲームしかない男と見られたと思ったのか。勢いよく振り向き、眉をつりあげ「違うよ!」と声をあげた。怒らせるつもりじゃなかったのに突然怒鳴る亘に、なぜ怒鳴られなきゃならないのか理不尽さを感じムッとなる。
「なら、何?もちろん、ゲーム以外にあるんだよね」
「それは……」
問いつめるように聞くと、亘は言葉に詰まったのか口ごもり、私と顔を会わせないように目が游いだのち、先ほどと同じように空を仰いだ。そしてしばらくすると、観念したのか言いづらそうに頬をかきながら「言うとおり、ゲームかも…」と小さく呟いた。その答えに先ほどまでの怒りはどこかへ飛んでいき、私は吹き出すのを止められず亘の背中を叩きながら、住宅街に響くほどの声で笑った。
「それでこそ亘だよ!」
「う、うるさいな」
亘は少し膨れ、怒ったように私を見てきたが、私の笑いは止まらず亘の背中を何度も叩き、笑い疲れるまで笑い続けた。するとまた冷たい秋風が吹き、身震いをすると鼻がムズムズとむず痒くなり、ニ、三度閉口させたのち大きなくしゃみが飛び出た。私は鼻をおさえながらすすっていると、亘はまるで好機会言わんばかりにニターと意地悪そうに笑い、私の真似をしてきた。
「風邪?」
「……違うよ。鼻の妖精のせいだよ」
断じて風邪ではないと、同じように笑い返すと、亘は面食らったようにポカンとして、目を瞬かせ。次の瞬間立場が逆転し、亘は吹き出し腹を抱えて笑いだした。
「なんで、そこで鼻の妖精なんだよ」
ヒーヒー笑いながら言う亘の言葉に、確かに可笑しな返答だと自分でも可笑しくなってきた。まるでその笑い声に、つられるように私も笑いだすと住宅街には二人の笑い声が響き。
秋風は虚しく落ち葉を吹き上げるだけだった。
(2006 10/05)