夕暮れ
夕暮れ時の住宅街。
ランドセルが開いているのか歩くたびにカタカタと音がなる。
赤いランドセルは更に赤く、黒いランドセルはうっすら黒と赤が混ざっている。
「亘」
前を歩く亘を私は呼び止め、一定の距離を保ちつつ近づくと亘は不思議そうにこちらを向き、ランドセルを背負いなおした。
「何?」
亘が一歩近付いて来た。
私は手を伸ばし「ストップ」と言うと亘はあからさまに不機嫌に眉をよせた。
「亘、影見てよ」
地面を指差すと、亘はそれにならい下を向いた。
地面には、大きく伸びた亘の影。私の足元にまで伸びており。
「踏んじゃった」とふざけて言うと亘は「馬鹿じゃない」と苦笑いしながら歩きだした。
私は亘の影を追いかけるように歩くと、またカタカタとランドセルが音をたてる。
「ねぇ亘、影ってさ」
歩くたびに少し横に揺れる亘の影がピタリと止まり「うん」と声が帰ってきた。
「秋になると伸びるんだってね」
「知ってるよ」
亘はさも当然のことだと言いたげに返事をした。
「つまんないの」
私が口を尖らせて言うと亘は「帰るよ」と手を伸ばしてきた。
私は駆け足で亘の元へ行き、手を取り。後ろに続く影を見た。
「亘、影踏みして帰ろう」
言葉を言い終わると同時に走りだすと亘と亘の影は前のめりになり。
私は思わず声を出して笑ってしまった。
カタカタとなるランドセルと、笑い声が響く住宅街。
夕日はだんだん沈みかけていた。
(2006 10/31)