日常的な話

 時刻はお昼すぎ、ゆっくりと流れる時間帯に私と将くんは二人でリビングの食卓テーブルに座り、それぞれ好きなことをしていた。
 私は皿に盛り付けられたぶどうを一粒摘み、口の中へと放り込み中で実と皮をわけると皮を口の中から取り出し、近くに寄せていたゴミ箱に捨てる。

 繰り返し繰り返し私は同じ動作をし、目の前に座って真剣にサッカー雑誌を読んでいる将くんを見た。

「ねぇ将くん」

 私はぶどうを一粒掴みながら、将くんに声をかけるが、将くんはサッカー雑誌に全ての神経がいっているのかピクリとも動かなく。
 私は椅子から立ち上がると前に身をのりだし、将くんに鼻の先がくっつくんじゃないかってほど顔を近付けた。

「将くん、ねぇってば」

 私は少し大きめの声で将くんを呼ぶと将くんは「え?」と声を小さくもらし雑誌に落としていた顔を上げた。
 しばらくお互いみつめあい沈黙が続き、先に声をあげたのは将くんだった。
 将くんは近くにあった私の顔に驚いたのか「うわあ!?」と、後ろにのけぞり椅子ごと倒れた。
 倒れた瞬間大きな音がたち、私は「大丈夫?」と少し慌てながら机の上から覗くと、将くんは痛そうに声をもらしており床で打ったであろう頭を擦っていた。
 私は罪悪感に何度も手をあわせ「ごめんね」と言うと将くんはいつものように笑い「大丈夫だよ」と言い、倒れた椅子を立て直し、落ちた雑誌を拾いあげた。
 私は冷蔵庫から氷枕を取り出し将くんに渡すと、将くんは「本当に大丈夫だよ」と苦笑いしながら氷枕を受け取った。

「それで、どうかしたの?」
「え?」

 将くんは頭に氷枕を当てながら私に尋ねてきた。
 私は先ほどの出来事に一瞬何を言おうとしたか忘れてしまったが、すぐ思い出し手を叩き「そうそう」と続けて言った。

「私この前ぶどう買ったの、種無しの」
「うん」
「でもね、家帰って食べたら種が入ってたんだよ!」

 私が少し怒った口調で将くんに言うと将くんはクスクスと笑った。
「それってさ」
「うん?」
「本当は種無しの中に混ざってた種有りを買ったって話だよね」

 私は自分が続けて言おうとした言葉を将くんが言ったことに驚き目を丸くし、瞬きをした。

「な、なんで知ってるの?」

 どもりながら言うと将くんは凄く楽しそうに笑い、椅子に座り雑誌を机に置いた。

「水野くんにこの前話してたの聞いてたから」

 将くんは少し悩んだ素振りを見せながら「確か金曜日のお昼だったかな」と言うと、私の方を向き違ったかな? と尋ねてきた。
私は首を横に振り、一呼吸置き将くんをしっかりと見る。

「あってる」

 私の言葉に将くんは「よかった」と笑うと、またサッカー雑誌を読み始め私はまだ残っているぶどうを見ながらあの時将くんって居たっけ? と疑問を感じその場は多分思い出せないだけだろうということで、おさまった。

 あとから聞いたことだが、その日のクラブの時に水野から聞いただけの話だった。

(2006 10/08)
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