マフラー

 日々、少しずつではあるが編み続けたあの人へのプレゼント。
 暖炉の前で、ロッキングチェアーに揺られて編むマフラー。
 ついでに、膝掛けをかけながら、隣にはホットココアがあり。椅子の下には猫がいたらなおさらいい。
 しかし理想と現実とはけして違うもの。

「あーさぶっ。もう冬か」

 ストーブの前で毛布を羽織ながらチクチクと編みこむマフラーはもう完成までは間近だ。
 私は最後の一段を編み終るとハサミで切り、一度自分の首に巻き付けた。

「うん、温かい」

 自分の出来栄えに満足しつつ、プレゼントを入れる袋に丁寧に折りたたみ。そしてラッピングにはリボンを巻いた。

「後は明日渡すのみ」

 私は一度包んだプレゼントを眺め、そしてそれを丁寧に鞄の中に入れて床についた。

「真田先輩、明日来てくれますように」

 私は布団に潜り、そっと心の中で呟いた。
 そして次の日の放課後。
 私は少し前に呼び出すために手紙を書き。それを下駄箱に入れて置いた。
 それは、ちゃんと先輩の手元に届いたのかは不安だったがきっと届いている筈だと信じ、今私は手紙に書いた待ち合わせ場所の公園のベンチに座り、今か今かと先輩を待つ。
 いったい何時間そうしていただろうか。
 すっかり日が暮れ、公園で遊んでいた子供たちは親に呼ばれて皆帰っていった。

「……先輩、やっぱり来てくれないのかな」

 少し目じりに涙が溜まり、視界がぼやけて見えた。
 でも今気づいたが、自分は放課後とは書いたが時間を指定するのを忘れていた。
 きっと今日もサッカーを遅くまでやっているのだろう。
 私は自分自身に言い聞かせ、袖で涙を拭き取り。
 鞄からプレゼントを取り出し、呆然とそれを眺めた。

「先輩、真田先輩これ受け取ってください」

 小さな声でだが、誰もいない方に袋を差し出す私はきっと異様だろう。
 そう思うと少しおかしくて笑えてきた。

「先輩の、サッカーしている姿が好きです」

 膝にプレゼントを置き、言う言葉を考えながら私は待った。そろそろ夕御飯どきだろうか。
 お腹が小さくキュルっとなり、鞄から飴玉をひとつ取り出し口の中にほうり込む。
 コロコロと口の中で転がる飴玉をもて遊んでいると後ろから「おい」と声をかけられた。

「えっ?」

 私は誰だろうと後ろを振り返ると、そこには真田先輩が立ってこちらを見ていた。

「せ、先輩!」

 勢いよく立ち上がると思いっきりベンチに足をぶつけ、真田先輩は「大丈夫か?」と少し心配してくれた。

「だ、いじょうぶです」

 ジンジンと痛む足を隠しながら言い、私は手に持っているプレゼントを真田先輩に差し出す。

「真田先輩、これ受け取ってください」

 私は赤くなる顔を隠しつつ渡すと、少し戸惑いながらも真田先輩は受け取ってくれた。

「ありがとう」

 暗闇で、少し見えにくい先輩の顔はきっと思い過ごしじゃなかったら頬を赤くして、はにかんで笑っていたと思う。
 私は、突然恥ずかしくなり頭を下げて別れを言い、その場を後にしようと走り出す。
 だけど途中、一つ言い忘れていた事に気づき私は公園の出入口付近で振り返り、ひと思いに叫んだ。

「私、先輩が好きです!」

 先輩は、私の言葉に口に手をあて下を向き。私はどうかしたのだろうかと心配になりつつ、走り去った。
 そして家につき、先ほど言った言葉を思い返し、一人穴に入りたい気分になった。
 次の日、学校に行くのが少し憂鬱になりつつ。登校する生徒の中に先輩を見つけ、一人ほくそ笑んだ。
 だってその首には、私の作ったマフラーが巻かれていたから。

(2006 11/01)
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