一年の終わり

「えー、遂に残り一ヶ月をきりましたよ」
「何の」

 背中合わせに座り、お互いがお互いの背中に寄りかかる。
 私は雑誌を広げながら英士に話しかけると、英士からはそっけない返事が返ってきた。

「何のって、今十二月もうすぐ一年終るね」

 紙の捲れる音と共に「そうだね」とまたそっけない返事が返ってくる。
 かれこれ一時間くらいこの繰り返しだ。

「ねぇ英士、英士にとってこの一年どうだった?」
「サッカーやって終わった感じかな」

 何とも英士らしい答えが返ってきた。
 私は雑誌から視線をあげ、背中に体重を乗せ思いっきりよりかかるが英士はビクともしなず、さっきと変わらず本を読んでいる。

「なら、来年もサッカーの年だね」
「そうだね」
「そして英士はきっと、再来年もそのまた来年もずっとサッカーの年だね」

 いつの間にか広くなった背中に少し寂しさを感じながらも、私もきっとこれからずっと英士の後ろ姿を追いかけるのだろう。
 なんとなく、そう感じた。

「そういう明里はどうなの」
「私? 私はねーこの一年背中をずっと追っかけて終わったな」

 膝を抱えて丸くなる私は少し足先が寒くなり、足を手で擦った。
部屋はまだ暖かいのか、窓には水滴がついている。

「ねぇ英士、いつか君に追い付けるかな」
「自信ないのなら一生追いつけないよ」

 私は背中を離し振り返ると、英士もこちらを見ており、私の額に一発でこぴんをくらわした。
 少しジンジンとくる痛さに、私は涙目になりながら擦り英士を見上げると英士は悪戯に成功した子どものような無邪気な笑いを浮かべていた。

「いつか、じゃなくて絶対でしょ」
「……うん、そうだよね」

 英士の言葉に、私は少し元気づけられた。
 少しだけ肩の荷がおりたような気分だ。
 私は立ち上がり、雑誌を本だなに直し未だに本を読んでいる英士の方に振り返り。人差し指で指差した。

「来年の目標! 打倒英士! 絶対追いついてやるんだから」

 私はきっと晴れ晴れとした顔だったのだろう。
 英士は読みかけの本を閉じ「待ってる」とだけ呟いた。

(2006 12/12)
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