カイロと重ね着

 急激にやってきた寒気に、冬服を少ししか出していない私には地獄としか言えなかった。
 北風が吹き荒れ、スカートがはためく。むき出しの足は寒く鳥肌が立つ。

「うう、寒くはないけど重ね着って太ったみたいに見えるんだよね」

 中に何枚かシャツを着てその上から上着を着た私はきっとはたから見たら太っているように見えるだろう。私は憂鬱にため息をつき、学校までの道のりを行く。
 何件かの家の前を通り過ぎ、曲がり角を曲がる瞬間、後ろから腕が伸び私のお腹に手がそえられた。

「ふぎっ!?」

 お腹に回された手は、そのまま揉まれるようにお腹に触れ、くすぐったさに、私は堪えられなく声を上げ笑った。

「なんだお前太った?」
「太って、ふひひ、ない!」

 私はお腹に回った手を払い除け、振り返り後ろの人物を見る。

「何するの、結人!」
「わりーわりー、どうも後ろ姿がプクプクしてたからさ」

 私はその言葉に軽いショックを受けつつ、結人を無視し歩き出した。

「これは重ね着してるからであって、断じて太ったわけではありません!」

 強くいいはなつが結人は怖じけつかず「だよな〜」と返してくる。それはどういう意味なのだろうか、太ってないと言ってくれてるのだろうか。

「腹は成長してるのに胸が成長しない訳ないよな」
「――っセクハラ!」

 胸のことを言われるとは思わず、急なことにカッと頭に血がのぼった私は鞄の持ち手を固く握り締め、勢いよく鞄を殴りつけた。
 奇妙な叫び声とともに、痛そうに鞄を当てた場所を押さえる結人に内心ザマーミロとほくそ笑みつつ、そこまで痛くしてないよね、と結人の痛がりように不安になった。

「あ、そうだ寒いんならこれやるよ」

 当てた所を擦ったのち、結人はポケットを探り、二つ何かを取り出すとそれを両手で持ち私の頬に当てた。
 一瞬驚き声をあげそうになったが、すぐ頬だけ温かくなりそれが何か理解した。

「カイロ?」
「そ、結人サンタから早めのプレゼント」

 結人がカイロを私の手の中に収めれば、慣れないウィンクをしてかっこつけるが、下手なウィンクなため笑みがこぼれる。

「ばーか」

 一つ結人に返せば、頭を弱めに叩かれ「お前よりましだ」と言われた。吹き付ける風は冷たいが、冬も満更悪くないと私は片手にカイロの温かさを感じながら思った。
(2006 12/10)
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