第14話
記憶とは不確かなものだ。
それも夢のような世界だとそれはなおさらだろう。
そして時間も、この世界の時間も不確かなものだった。
いつもの練習が終わり、寮へと戻る途中のことだ。
一人中庭を通り抜けようとすると、目の前にフリスビーが落ちてきた。
顔をあげると風紀委員と一緒にいた二匹の犬と共にクドが駆け寄ってくる。
「理緒さーん!」
腕を大きく振り名前を呼ぶクドに私も手を振り返す。
フリスビーを拾い上げると、二匹の犬は私の目の前で止まりつぶらな瞳が私を見つめた。
「えっと……どうしたら」
「よかったら投げてあげてください、そしたら二人とも喜びます!」
クドの言うように遠くへ投げると二匹は一目散にかけていき、フリスビーを空中で捕らえるとまた私のもとへと駆けより目の前にフリスビーを落とす。
そうして何度投げてかけただろう。
「わふー! 理緒さん大丈夫ですか?」
投げるだけでも結構な体力を使うようだ。
膝に手をついて息を整えているとクドが心配気にこちらを気遣ってくれた。
いやいや、自分の日ごろの運動不足がたたったってやつなので大丈夫です。
「でも、ありがとうございます! ストレルカもヴェルカも大喜びなのです」
「ストレルカとヴェルカ?」
「はいです!」
整い始めた息に、顔を上げると二匹はクドの真横にそれぞれ立ち名前に合わせてひとつ鳴いた。
「こっちがストレルカで」
そう言って撫でられる大型犬は一つ吠える。凛々しい顔つきに、シベリアンハスキーだろうか。大きなしっぽが振られる。
「こっちがヴェルカです」
クドはしゃがみ、その小さな背中を撫でる。ヴェルカと呼ばれた小型犬は、甲高い鳴き声をあげ、小さなしっぽをこれでもかというほど振っていた。
「寮が新しく犬を飼い始めたのかと思ったけどクドの犬だったんだ」
同じようにしゃがみ手をそれぞれ二匹の前に出すと、一つ匂いを嗅ぎその指をなめる。
「私の犬、というよりおじいさまの犬です。私が寂しくないようにってフィンランドから送り届けてくれたんです」
頭を撫でると二匹とも目を細める。
「こんなに小さい時から一緒にいたのですけど、今では二人の方が私よりかしこいんですよ」
そう言って二人の背を撫でると二匹ともクドのほっぺを舐める。それをくすぐったそうに笑うクドに思わずなごんでしまう。
二匹とは本当に小さい頃から一緒だったのだろう。二匹の寄せるクドへの思いと、クドが寄せる二匹の思いの間には見えない絆が感じられる。
「また見かけたら遊んであげてください」
「もちろん! でも覚えててくれるかな」
「二人は一度遊んでくれた人のことを忘れないのですよ」
それに答えるように二匹とも吠え、そして飛びかかり私はストレルカの重さに耐えれずその場に寝転がってしまう。
頬を両方ともそれぞれになめられ、くすぐったさに思わず笑ってしまう。
「きっと理緒さんのことも、一緒に遊んでくれたおねえさんとして覚えてます。どんなに時間がたっても」
どんなに時間がたっても。その言葉に思わず苦笑してしまう。
ストレルカの頭を撫でるとつぶらな瞳に自分が映る。
「やあやあ! 理緒ちゃんにクド公」
ストレルカとヴェルカと戯れていると頭上から葉留佳の声が聞こえ、頭を上げ見ると予想通り葉留佳が手を振っていた。
「葉留佳やっほー」
「えっと、さ、三枝さんこんばんはです」
名前の最後に疑問符がつきそうな言い方に、葉留佳は頬を膨らませ腰に手を当てる。
「もークド公はいいかげん名前覚えてよねー」
「まだクラスに来て二カ月だもん、しょうがないよ。それに葉留佳は別のクラスでしょ」
身体を起こしヴェルカを膝にのせながら葉留佳を見上げると、その表情はどこか悲しげで私は息をのんだ。
もしかして、葉留佳も記憶を持っている? そんな考えが脳裏をよぎる。
「そっか……そうだったね」
「あ、あの三枝さん」
「ん?」
「私、一日も早く覚えます! ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
こぶしを握り力強く言うとクドはそのまま深く頭を下げる。
葉留佳はそんなクドの姿に、一度目を瞬かせると笑みをうかべた。
「ふふーん、そんなこと言っちゃうとクド公のこと回しちゃうぞ」
「わーふー」
「ってもう回してるから!」
帽子を軸にくるくると回されるクドは綺麗に回るたびにだんだんと目を回していく。
そんな時だ。渡り廊下から声が聞こえた。
「ちょっと三枝さんー!」
「やばっ」
葉留佳はクドから手を離すと、クドはそのままふらふらとどこかに行こうとするのでその身体を支え、声のしたほうを振り返ると寮長さんが立っていた。
「寮長さんです」
クドも復活したのか、寮長さんの姿を見ると手を振った。
「あ、あー私用事がちょっと……ってことでまったね二人とも!」
手早く言葉を交わすと、葉留佳は一目散に駆けていきすぐにその姿は校舎の中へと消えていった。
「また何かしたのかな」
「わふー?」
「もう……」
気づけば寮長さんが隣に来ており、腰に手をあてると深くため息をつく。
その深さからまた何か葉留佳がしでかしたのが感じ取れる。
「寮長さんはる……三枝さんまた何かしたんですか?」
「それがね、寮のバケツを持って行ったきり返してもらってないのよ……こわーい風紀委員長に見つかる前に返してもらおうと思ったんだけど」
頬に手をあて、一つ息を吐き出す寮長さんに私は葉留佳が去った方をみる。
前にたまに返さない人がいると言っていたが、葉留佳のことだったのか。
「二人も見かけたらよかったら言っておいてね」
そう言うと仕事がまだあるからと、去って行く寮長さんにクドは大きく手を振る。
葉留佳はある意味悪戯の天才と言えよう、人によってはそれは天災となるのだろうが。
私としては彼女の遊び心を結構評価してたりする。
ただ、悪戯をする相手を選べたらの話だが。
朝、廊下に散らばるビー玉にいつぞやに見た風紀委員の三人がひっかかっており、その地獄から抜け出すと階段を下へと走って行った。
廊下に散らばるビー玉はそのままだ。
さすがにこのまま置いていると誰かが足を取られて転びかねない。
そう思い拾い集めようとしゃがみこみ一つ一つ拾っていると向かいから真人がバケツを一つ抱えて走ってきた。
「おっ! 理緒朝からせいがでるな」
「真人、バケツなんて持ってどうしたの」
「いや、謙吾のやつが朝からものぐさいるかのトラップにかかってずぶ濡れになってな。それで洗うために水でも汲んできてやろうかと思ってよ」
「ものぐさじゃなくて三枝葉留佳ね」
抱えられたバケツをよく見ると女子寮とマジックで書かれており、それがトラップに使われたものだと昨日のことを思い出し合点いった。
真人はそれだけ言うと水を求めて廊下の端にある男子トイレへと駆けていく。
「真人足元気をつけてね」
去って行く真人に私は声をかけると、一つ手を振り返すのが見えた。
それを見届けるとまたビー玉を拾い集める。しかし数が多い。この上なく多い。
一つ拾っては母のためー一つ拾っては父のためーとでもいいそうだ。
「理緒何をしてるんだ」
「謙吾」
名前を呼ばれ顔をあげると、そこには道着を脇に抱えたジャージ姿の謙吾の姿があった。
体育の時間以外見れないその姿はなんとも珍しいものだ。濡れたから着替えたのだろうがその姿に思わず目を瞬いてしまう。
呆けていた私に謙吾は手元を見てビー玉を拾ってることに気づいたのだろう、同じようにしゃがみ拾ってくれる。
「謙吾いいのに、それより真人がさっき水をくみに……」
言いかけた瞬間背後から足音が聞こえる。
「謙吾ー! 水くんで――ほぉあ!?」
そして間抜けな声に振りかえると、真人の手から離れたバケツが頭上を舞う。
「あっ」と思った瞬間には時すでに遅し、その中に汲まれた水はしゃがんでいた私達に見事にかかったのだった。
髪から滴る雫が足元に出来た水たまりに落ちる。
顔をあげ後ろにいる真人に怒ろうかと思うが、その前に前にいた謙吾の肩が大きく震えていたことに目がいった。
これは、怒ってる?
後ろを振り返ると真人の顔も青くなっており、お互いがお互いに顔を見合わせ「やべえっ」となった。
「真人」
地を這うようなどすのきいた声が聞こえる。ああ、これは本気で怒ってる声だ。思わず私まで青ざめてしまう。
「わ、悪いわざとじゃないんだ」
「け、謙吾、お、おちついて」
真人は土下座せんばかりに謙吾に謝り倒し、私も謙吾の肩に手を置き落ち着くように声をかけるがその震えは収まることがない。
「これが落ち着いてられるかー!」
濡れたことで下がった髪を振り上げ、謙吾の怒りに満ちた声が廊下に響く。
「ジャージまで濡れたら、後着るのはあれしかないだろ……!」
「あれ……」
「あれか」
あれ、それは制服だった。
ここまで謙吾が怒るのにはそれなりの理由があった。なんでも制服を着るとあっち系の人に見られるらしく、それが嫌で嫌で道着をいつも着てるとかなんとか。
正直、それは謙吾の思い違いでしかなくて、案外見慣れたらそんなことないんじゃないかなーと思わないでもないがそうもいかないのだろう。
「で、でもさ、ほら、私がジャージ着るのと比べたらほら、普通なことだよ。ねっ、謙吾落ち込まないで……!」
「一生の不覚だ……」
崩れ落ち、廊下に手をつきうなだれる謙吾に真人はその肩を叩く。
「オレの服貸してやろうか……?」
それはそれであらぬ誤解を生みそうというか、想像するとあまりの似合わなさに謙吾ではなく私が思わず首を横に振ってしまう。
真人の足元を転がるビー玉が水が濡れ、そして光にはんしゃして光り輝いた。
あれから結局謙吾は制服に、私はジャージに着替えるが天気がいいこともあってだろう、昼にはお互いの服は乾いており謙吾は嬉々として道着に着替える姿があった。
私もさすがに体育のない日に体操服姿は恥ずかしいために着替え、体操服は後ろのロッカーへと直す。
気づけば一日が終わろうとしていた。
最近やけに日直が回ってきてる気がする、それは繰り返す日常によってもたされる既視感によるものかは分からないが日誌を走らせる筆に何度も書いた文字を書き記す。
今日もリトルバスターズは野球に精を出している頃だろう。
早く書いて皆のもとに行こう、そう思い残りの空欄を埋めていく。
すると急に前のドアが開き、顔を上げるとそこには葉留佳の姿があった。
放課後に来るのは珍しい彼女に私は目を瞬く。
「やっはー理緒ちゃん」
「葉留佳、理樹達ならもうグラウンドに行ったよ」
「んーそうなんですけどね」
歯切れの悪い声に手に持ってる物を見るとそれはいつぞやに見た道具達だった。
プロ顔負けと言えるほどの道具の数々に、葉留佳は真人の机の前に立つとその様子を見るように下から覗きこんだり中を見たりしている。
「直してくれるの?」
「みんなには迷惑かけちゃってるからこれぐらいはね」
接着剤やヤスリなどを取り出し、中の勉強道具を取り出すと内側から修復にかかる。
「ありがとう葉留佳」
その姿にお礼を言うと葉留佳は照れ臭そうに笑い、そして何かを思い出したかのように鞄をあさった。
「理緒ちゃんにこれ」
「ジュース?」
手渡されたのは一つの缶ジュースだった。
「今日は不思議なくらいラッキーな日でね。ルーレットがあたって一本おまけで出てきてやっはーっと思ったらまたルーレットがあたって四本になっちゃたというわけですヨ」
そう言って見せられた鞄には残り三本ジュースが入っており、鞄の中を大々的に占領していた。
「すごいね、あそこってなかなか当たり出ないところでしょ」
「だから一生分の運使いきっちゃったかなーなんて」
頬をかく葉留佳に私は鞄に入れていた缶ジュースを思い出す。
「お昼に買ったやつで申し訳ないんだけど」
「これって、学校の外にしかないジュース……!」
お昼にこっそりと買いに行き結局飲まずじまいで残していた物で申し訳ないが、葉留佳はめったにお目にかかれないそれに目を輝かせた。
「私の運もセットにして、さっきのジュースのお礼」
私の運がどこまでのものかは分からないけど、なんて言えば葉留佳は子どものようにくしゃりと笑い大事に飲むね、とそれを鞄の中にしまった。
教室内に葉留佳の作業する音と私の書く音だけが響く。
十五分もすれば私のほうは書き終わり、葉留佳を見るとまだ作業途中のようで私の視線を感じたのか目が合うと笑顔を返される。
「私終わったけど葉留佳のほうはどう?」
「んー私のほうはもう少し時間かかりそうかな」
それじゃあ、終わるまで待ってようかなと、手伝えることがないか尋ねると葉留佳は首を横に振る。
「理緒ちゃんは先に行ってていいよ、きっとみんなも待ってるだろうし」
「それは葉留佳も同じだよ」
昨日のこともある。きっと皆葉留佳のことも待っているだろう。
葉留佳は目を瞬き、寂しげに笑う。
「そうだったら、いいな」
ポケットに入れていた携帯が震え、開くと鈴からだった。
『おそい』
簡潔に書かれたその文字に、待ってることがうかがえる。
「誰から?」
「鈴から、遅いってメールが来ちゃった」
携帯と閉じると葉留佳は私の鞄を持つとその背中を押す。
「ほらほら、鈴ちゃんが待ってますヨ」
「……それじゃあ、先に行くけど葉留佳も後で来るって言っとくからね絶対来てよ?」
振り返りそう声をかけると葉留佳は一つ頷きそして手を振る。
後ろ髪をひかれる思いでその場を立ち去り、私は職員室へと行き日誌を出すとそのまま部室へと向かう。
部室ではすでに着替えを済ませた小毬ちゃんと鈴、来ヶ谷さんの姿があり小毬ちゃんは私の姿を見つけると大きく手を振った。
「りおちゃんきたよー」
「おそいぞ」
小毬ちゃんの声に、鈴は私を見ると腰に手をあてムスッとした表情を見せる。
そんな鈴の姿に私は顔の前に手を合わせる。
「ごめんごめん、ってあれ? 理樹達は?」
もうすでにグラウンドへと向かったのだろうか、部室は女子メンバー以外姿がなくもぬけのからだった。
「恭介と真人はグラウンドに道具を運んでる。理樹は体操服を忘れたとかで取りにいった」
「ならすれ違いか……」
「それで理緒君」
今頃理樹は葉留佳と出会ってるだろうか。なんて考えていると来ヶ谷さんが私の手元を見てあごに指をあてる。
それに鈴も視線を手元へと行き、そして何かに気付いたのだろう口を開く。
「体操服はどうしたんだ?」
「あ……」
「二人揃ってか、さすが双子だな」
今日半日着ていたためだろう。まだ着ている気分でいた私は体操服をロッカーの中に置き忘れてきたのを思い出す。
「と、とりにいってきまーす! あ、そうだった来ヶ谷さん」
「ん?」
「後で葉留佳も来るからよかったら恭介達にも伝えといて」
私は足踏みをしながらそう告げれば来ヶ谷さんが頷いたのが見え、私はそのまま教室へと駆けだした。
教室へと向かう途中。理樹達とはすれ違うこともなく、教室へとついても二人の姿はなかった。見事にルートが違うようだ。
私は体操服をロッカーから取り出し、直された真人の机に触れ、綺麗にされたそれに思わず笑い教室を後にした。
グラウンドへと向かう途中、向かいから来たのは風紀委員だった。
三人の風紀委員を引き連れ、真ん中を歩く風紀委員長の二木さんに思わず委縮してしまう。
ひとまず挨拶をしてやり過ごそうと頭を下げ、急いで離れようとすると突然後ろから声をかけられた。
「あなたも」
「えっ?」
振り返れば二木さんがこちらを見ており、ほかの風紀委員は先に行ってもらったのかそこには二木さんだけが残っていた。
「あなたも双子だったのね」
理樹の事を言っているのだろう。その言葉に私はデジャブを感じていた。
「仲がいいのね……羨ましいわ」
最後は小さく、だがかすかに聞こえた言葉に私は口を閉ざす。二木さんの表情が、悲しげだったからだろうか。
何も言わない私に、二木さんは顔をあげると自傷気味に笑った。
「だけどあなた、彼に何か隠し事をしているでしょ」
突然告げられた言葉に、私の喉がなる。
それは、この世界についてだろうか、はたまたあのことだろうか。
しかしこの世界についてだと説明がつかなくなる。だって彼女は誰かが作り上げたこの世界の虚構の人物でしかないのだから。
「なんでそれ……」
私のつぶやきに、二木さんは顔をそらし空を見上げた。
「私も同じだからよ」
「……」
「せいぜいその仲良しゴッコが壊れなきゃいいわね」
そういい残し去って行く二木さんに、私はただその後ろ姿を見送った。
そしてかすかに引っ掛かりを感じた言葉を思い出していた。
あなたも……それは過去に聞き覚えがあった。
『理緒ちゃんも双子なんだ』
葉留佳と出会った時に言われたその言葉。
そろって同じことを言う二人に、まさか、と一つの可能性が私の胸をしめる。
どこか似ている顔の作り、でも確信がもてないそれに頭を悩ませた。
「理緒君」
名前を呼ばれる。
後ろからかけられた声に、振り返るとそこには来ヶ谷さんが立っており私はとっさに笑顔を取り繕った。
「あ、来ヶ谷さん」
「皆君を待っているよ」
「あはは、申し訳ない」
思えばあれから時間がだいぶたっていた。きっと鈴がまた怒ってそうだ、私は頭をひとつかき来ヶ谷さんと並びグラウンドへと向かった。
「それじゃあ、もう一度入団テストをしよう」
日も暮れ、オレンジに染まるグランドの中、葉留佳の入団テストは改めて仕切りなおされる。
皆の見守る中、葉留佳の右手に付けられたグローブに恭介はこんな質問をした。
「三枝、そのグローブをつけてどう思う」
葉留佳は一度自分のはめたグローブを見たのち、その内側に鼻を押し付け匂いをかぐ。
そして大きく息を吐くと一言。
「うーん青春の匂いだー」
「よーし! 合格!」
小毬ちゃんの時より、グレードアップされたくす玉が割れる。
一体どこから調達してきたのだろうかと尋ねたくなるほどの出来栄えだ。
「今日から三枝はリトルバスターズの仲間だ!」
私と理樹と小毬ちゃん来ヶ谷さんは拍手をし、それに葉留佳は笑顔で応える。
だんだんと基準が全くと言っていいほどにわからなくなってきた。
「まっいいけどよ。オレよりアホが入るとオレの格もぐんっとあがるからな」
「アホと呼ぶなクズが」
鈴は真人が葉留佳をクズと呼ぶのが気に食わなかったのだろう。そうつぶやく鈴に真人は詰め寄る。
「なーにー? まだ言うかそれを」
「じゃークズと呼ばずにボケと呼ぼうー!」
「あ?」
「おお……!」
名案だと言いたげに鈴の目が輝き、手を叩き合わせる。
「ボーケボーケ」
「ボーケボーケ」
葉留佳の言葉に感銘をうけた鈴は、二人そろって真人を指差し「ボケ」を連呼していく。
「だからボケってなんだよ! やめろ! それだけはいやだあああ!」
真人の叫び声がグラウンドに響き渡った。
リトルバスターズ結成まで、あと三人だ。
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