第8話

 昼の食堂は朝とはまた違った賑わいをみせていた。
 自宅通いの子はお弁当を持ち寄り、学食はおばちゃんたちは忙しなく様々な料理を作っていたりと、いい匂いをさせる室内で皆それぞれのランチタイムを楽しんでいた。
 私たちもそれぞれに昼食を取るが、自然と一か所に集まっているメンツに思わず笑みがこぼれる。
 そんな穏やかな時間を過ごしている時だ。
 突然威勢のいい声と共に真人が食堂に滑り込んできた。

「てめー! 謙吾!」

 その声に皆振り返り、真人が謙吾の元にたどり着く頃には周囲からは注目の的だった。

「ちょ、どうしたのさ」
「まあいつものことだけどな」

 突然のことに慌てる理樹だが、鈴は至って普通にご飯を食べておりカップゼリーに手を伸ばしていた。
 確かに二人の喧嘩は日常となっているが、やけに落ち着いている鈴に思わず苦笑する。

「なんだ騒々しい」

 お茶を優雅に飲んでいた謙吾はそれを置くと真人へと振り返る。

「ゴッサムだよ!」
「ん?」
「ゴッサム?」
「外人?」

 初めて聞くその言葉に、皆首をかしげる。

「話せば長くなるが……」

 そう切り出した真人が言うには、こういうことらしい。
 放課後、黒板に残されていた「極寒」という文字に何て読むのかと謙吾に聞くと、謙吾が「おまえはゴッサムとでも読んでおけ」と言ったのだという。
 その話しを聞き理樹と私は苦笑し、鈴は心底どうでもいいらしくカップゼリーに夢中だった。

「だが、今調べたらそれは『ごっかん』と読むらしいじゃねーか!」

 この場合、使う前でよかったねと言うべきなのだろうか。

「オレは危うくこいつのせいで、この冬はゴッサムだねーと言ってしまうところだったんだー!」
「でも、それもなかなか通でいいかもよ?」
「慰めなんかいらねーよ!」

 それまで黙って聞いていた謙吾だったが、一つ鼻で笑う。

「そんな字も読めん奴が悪い」
「ああん? てめーだって中坊の頃美術の時間にカバンとクツを間違えて一人だけ靴を作っていたことがあっただろーが」

 想い出にふける真人に、そんなこともあったことを思い出す。

「あの時、クラスの中を笑いの渦に包んだおまえの姿が忘れられねーぜ」
「だからなんだ?」

 でも謙吾は強かった。
 その姿勢が気に入らなかったのだろう、真人は謙吾に詰め寄る。

「てめーのほうが馬鹿だってことだ!」
「馬鹿に馬鹿呼ばわりされる筋合いはない」
「……立てよ」

 ついに切れた真人。いつものように険悪化する真人と謙吾に周囲は盛り上がって行く。
 素直に立つ謙吾に、理樹は二人を見つめ今にも始まりそうな戦いに焦りの表情を見せる。
 こうなっては恭介を呼んでくる以外収拾がつくことはないだろう。
 きっとすぐに第六感でこの気配を感じとり恭介が飛んで来るに違いない。
 しかし思いもよらない人物の介入に、その事態は大きく動こうとしていた。

「見る影もねーほどにボコボコにしてや――おほぁ!」
「おほぁ?」

 自分の後ろでにらみ合う真人と謙吾だったが、突然の風圧と断末魔と共に真人の姿が消え、振り返れば彼が吹き飛ばされた姿が確認できた。
 後ろの机にぶつかり頭をうつ真人に、周囲はざわめき皆真人の居た場所を見ている。
 そこには足を振り上げ、髪を揺らして真人を見る来ヶ谷さんの姿があった。

「馬鹿どもが、時と場合を考えてじゃれあえ」
「来ヶ谷さん!」

 突然現れた彼女に私は思わぬ第三者の登場に目を瞬かせた。
 理樹は彼女の登場に、事態がいい方向に動くと思ったのだろうその顔に笑みが浮かぶ。
 真人は頭を押さえながら来ヶ谷さんを見上げた。

「なにしやがる!」
「それはこっちのセリフだ。こんなところでなにしていやがる?」
「てめぇ……女が口を挟めるようなぬるい状況じゃねーんだよ!」

 水を差されたのがよほど気に食わなかったのだろう。
 噛みつく真人に来ヶ谷さんは涼しい顔をする。

「それはなんだ? 私に喧嘩をうってるのか?」

 真人の前に屈みこみ視線をあわせる来ヶ谷さんは、その顔に不敵な笑みを浮かべた。

「脅してんだよ。てめーに売るにしちゃ喧嘩はもったいねえ!」
「はぁ……興が冷めたな。馬鹿らしくなった、ここまでだな」

 謙吾は机に立てかけていた竹刀を取ると、二人に背を向け立ち去ろうとする。

「謙吾! 逃げるのかよ!」
「真人、言っておくが来ヶ谷を舐めない方がいい」
「ああ?」
「これは忠告だ。理緒」
「はい」

 謙吾の視線に私は思わず背筋を正す。

「おまえも、知っているならこの馬鹿を止めるやつを探して来い」

 来ヶ谷さんについてだろう。
 確かに一年生の頃のことを知っていると、来ヶ谷さんが真人と対等に張りあえる実力者だと知っている。
 しかし理樹の言葉やましてや私の言葉で真人の頭が冷えるわけでもないし、きっとこのままでは喧嘩に発展するだろう。
 さすがにまずいこの状況下に、彼を悠長に待ってる場合ではない。

「私、恭介呼んでくる!」

 私は理樹に伝えると謙吾を追い越し食堂を飛び出す。
 そして彼の居そうな場所を頭にいくつか思い浮かべるが、神出鬼没な彼のことだ一筋縄ではいかないだろう。
 名前を呼べばひょっこり出てくる、なんてそんな都合のいいことが起きないだろうか。

「きょーすけやーい!」
「そんなに急いでどうしたんだ?」
「本当にでた!」

 北校舎の廊下を抜け中庭へとさしかかる時。
 適当に名前を呼べば、角からひょっこりと顔をだした恭介に私は思わず驚き後ずさりしてしまう。

「なんだ人を幽霊みたいに」
「ご、ごめんまさか呼んで出てくると思わなくて」

 ジト目でこちらを見てくる恭介に、思わず目をそらす。
 ふとその手元を見ると飲み物が握られており、角から出てきたのは自動販売機に飲み物を買いに行っていたからだと知る。

「それで、そんなに急いでどうしたんだ」
「あ、そうだよ。大変なの、真人が来ヶ谷さんと一触触発しかねない空気っていうかもう骨肉のあらそいでも始まるかのような」
「なに? そいつは穏やかじゃないな」

 自分で言っておきながら本当に穏やかじゃないと思った。というかだ、真人と来ヶ谷さんは別に肉親ではないのだから骨肉はチョイスミスだろう。
 私の必死さが伝わったのか、恭介は私に飲み物を手渡すと食堂へと続く廊下とは違う方向に走り出す。

「恭介、食堂はあっちだよ!」
「こっちのほうが近道だ」
「ええー! 待って!」

 必死に恭介の後を追いかけると、恭介の言う近道だと言う理由がよくわかった。
 走ってたどり着いたのは食堂の窓。つまりだ、窓から入るっていう魂胆だ。
 恭介は助走をつけ、一つ大きく飛べばそのまま窓から侵入に成功する。
 さながらアクション映画でいう窓割り突入だ。窓は開いてるけど。
 遅れてたどり着き窓枠を必死に登って中に入ると、理樹が来ヶ谷さんを恭介に紹介しているのが見えた。

「棗恭介、だったな」
「俺を知っているのか、話が早いな」

 来ヶ谷さんは笑うと、私たちをそれぞれ見る。

「キミ達は自分が有名人だと自覚したほうがいいな」

 確かに、日ごろ目立っていることをして来ているからだろう。
 学校中には知れ渡っている自分たちの顔に思わず苦笑する。

「ならばここからは、俺が仕切らせてもらうぜ。この勝負にルールを設ける」

 恭介の言葉に、来ヶ谷さんは腕を組みその顔には笑みをかたどっていた。

「武器は皆が投げ込んだものをひとつだけ取って戦うこと、それ以外のものを攻撃に使ってはならない」

 つまり、いつもやってる真人と謙吾の勝負だ。

「なるほど、なかなか面白い」
「能書きはいい、さっさと始めようぜ!」

 真人が恭介の肩に腕を置き催促すると、恭介は不敵に笑い周囲にコールをする。

「じゃあ、おまえたち頼むぜ!」

 その声に周囲の士気は一気に高まり、皆思い思いの物を投げ込む。

「バトルスタート!」
「よっ」

 真人の手に渡ったのは、パーティーゲームでおなじみの青ひげ危機一髪。

「それ、おまえの武器な」
「はああああああああああ!?」

 ご丁寧にナイフもついている。
 つまりだ、これで青ひげを飛び出させて攻撃しろってことだ。さすがに攻撃手段としては無理があるのでは。
 相手である来ヶ谷さんは飛び交う数ある武器の中から一つ掴みとる。

「これでいい」

 そういって持っていたものは一本の刀。

「銃刀法違反!?」
「なに模造刀だ切れはしない、ただ殴られるととても痛いだろうがな」

 鞘から取り出された刀は模造刀とはいえ怪しげな光をはなち、振れば風を切るいい音がした。

「燃えてきたぜ、上等だ!」
「私に殴られるのがそんなに嬉しいか?」
「ちげえよ!」

 真人は青ひげを小脇に抱えると、その銃身といっていいのだろうか青ひげの頭を来ヶ谷さんに向ける。

「して、キミは今の自分の姿に疑問はないのか?」
「だまれ! えい、くらいやがれ!」

 青ひげの正しい使い方通り穴という穴に、次々にナイフを指していくが一向に飛びだす様子は無く不発に終わった。

「あ……?」
「ボケだ」

 カップゼリーを食べ続けつつもそんな様子に突っ込む鈴に、私は苦笑する。
 確かに、傍から見たらコントにしか見えない。

「では、翻弄してやろう」

 来ヶ谷さんは足を踏み込むと、目にも止まらぬ速さで真人の後ろに回り込む。

「友人の忠告は聞くものだ。私を舐めると痛い目にあうぞ」

 刀が真人の頭を捕らえるように、振りあげられる。
 しかしタッチの差で真人は刀を目にとらえると振り返り、後ろに飛ぶことによりその攻撃を回避した。

「やるじゃねえか……その度胸だけはかってやる、ってうぁはっ」

 かっこつけて言い終える前に来ヶ谷さんは次の攻撃を仕掛ける。
 現実とは非情なもので、戦隊物の悪役のように待ってはくれないということだ。
 器用に避けていく真人だが、攻撃をする隙をあたえない来ヶ谷さんに押されているように見える。
 そんな名勝負に、周囲の歓声もヒートアップしてくる。
 意外なことに、真人を応援する女子の姿もあり、なんだかんだ真人もモテるということだろう。

「来ヶ谷さんの動き、普通じゃない」

 初めて見る桁外れの運動能力に、理樹は夢中になっているのかその口は開いていた。

「うちのチームに欲しい人材だ」
「確かに、来ヶ谷さんがいたら百人力だね」
「さて、理樹君」
「え?」
「こう動くと喉が渇きそうだ。何かスポーツドリンクでも買ってきてくれ」

 来ヶ谷さんはお金を指ではじき投げると、理樹はそれを受け取る。

「は、はぁ……」
「ふざけやがって! このやろー!」

 その姿に甘く見られたと思ったのだろう。真人の怒りは高まり青ひげを持つ手に力が入る。
 しかし来ヶ谷さんは発射される前に刀を振るう。

「貴様はここまでだ」

 至近距離で下される刀に避けることも不可能か、と誰しもが固唾をのむ。
 しかし真人の瞬発力も並外れており、とっさに青ひげの樽を口にくわえ両手を自由にさせればその刀を受け取った。

「おお……! 白刃取り」
「降参するなら今のうちだぜ」
「おまえこそ泣いて喚いて愛玩すれば許してやらんこともないが?」

 両者押して押されての力勝負なのだろう、震える刀と腕に見てるこちらにも力が入る。

「けっ、てめぇは今オレの最後のリミッターを外しちまったぜ」

 咥えていた青ひげは床に落ち、真人の目は見開かれた。

「今、オレの怒りが有頂天に達した!」

 威勢のいい声が食堂に響き、周囲はその言葉にシンと静まりかえった。

「ひゃっほー?」
「間違えた……」

 理樹と私の言葉に、先ほどの腕の震えとは違う意味でプルプルする真人が見える。
 すかさず恭介は苦笑しながら訂正をいれる。

「頂点な」
「頂点に達した!」
「言い直した」
「アホだ」

 来ヶ谷さんは刀を引き、一旦間合いを取り刀で真人を指す。

「キミは有頂天でひゃっほーとか言っているといい」
「何を……! くらぇぇ!」

 順に刺されていくナイフが、ついにその起爆スイッチを押す。

「青ひげの一撃をおおおお!」

 勢いよく飛び出す青ひげはそのまま弧を描き、綺麗に来ヶ谷さんのさらけ出された胸元に当たった。
 そして何のダメージもなく、それは音をたて床を転がる。

「残念だったな」
「あの人形がオレの手にある限り最後に笑うのはオレだ!」

 走り出す真人は、来ヶ谷さんの足元に転がる青ひげに手を伸ばすがそれは届くことはなかった。
 なぜなら来ヶ谷さんが刀でそれを飛ばしたからだ。丸みを帯びているフォルムのせいか床を転がり続ける青ひげ。

「あっ! なんてことしやがる! あれ一個しかねーんだぞ!」

 そしてそれを追いかける真人に、周囲の目は同情的だ。

「哀れだ……」
「もう一個青ひげがいればよかったんだけどね」

 食堂の前のほうまで取りにいく真人は、それを捕まえれたのか座り込み青ひげに息を吹きかけ埃を取る。
 その姿に後ろから静かに近寄る来ヶ谷さんに、誰しもがもうこの戦いは勝負はついていると思った。

「どうした、降参しないのか」
「誰がするかよ!」
「そうか、ならば楽しいお仕置きタイムだ」

 楽しげに口角をあげる来ヶ谷さんに、真人は威勢よく飛びかかるがすぐにその姿は地に伏せた。
 なんだか難しげな技名と共に繰り出された蹴りが真人の顔に綺麗に入る。
 目を奪われる光景だった。

「なんじゃこりゃー!」

 断末魔を残し、床に伏して目を回す真人にその場は騒然となる。
 そりゃそうだ、一人の少女が筋肉に特化した男に勝ったのだから。

「ああ、すまん、武器以外で戦っちゃいけないんだったな。つい、ヒートアップしてしまった。私の負けだよ、真人君」

 刀を鞘になおし言う来ヶ谷さんに周囲は湧き上がった。

「勝負ありか。おい、おまえの勝ちだってさ、真人」

 恭介はその場にしゃがみ床に倒れている真人に話しかける。
 真人はその言葉に地面を叩き、顔は悔しさにゆがんでいた。

「ちくしょーオレの勝ちなわけあるか!」
「だって本人も反則って認めてるし」

 確かにルール的には負けだろう。だがそれとは違う肉弾戦の勝負では真人は負けたのだ。
 それは筋肉馬鹿の彼には屈辱なことこのうえないだろう。
 真人はその身体を震わせ、立ち上がると共に叫び出した。

「特訓だー!」
「特訓?」
「山に籠る」
「今から!?」

 カップゼリーを食べ終えた鈴はそれに呆れた表情を向け、理樹は突然の山籠り発言にあんぐりと口を開けた。
 今から籠るとなると、学校の裏山だろうか。

「ああ、あとはよろしくな……」

 寂しげな表情をうかべ立ち去る真人に、周囲の人間は出口までの道をあける。
 それはさながらボクサーのリング退場によく似ている。

「ふぅ、久しぶりになかなか面白かったぞ。恭介氏のアイディアに脱帽しよう」

 来ヶ谷さんは先ほどの戦いで熱くなったのか、手で風をおくるが思わずその豊満な胸に目がいってしまう。

「なんだ少年、使いっぱしりは嫌だったか?」

 理樹の手に何も握られてないことに気付いたのだろう。
 来ヶ谷さんの視線に理樹は頬をひとつかき、笑みをうかべる。

「いや、なんか目が離せなかった」
「おっぱいからか?」
「なっ! 違うよ!」
「はははっ、まあいいさ」

 理樹から渡したお金を返してもらうと、来ヶ谷さんは笑みを浮かべ踵をかえす。

「自販機へは自分で行くとしよう」

 歩き出すのに合わせ、道をあける周囲は去るその背に「俺たちは伝説をみたんだ」やらと様々なことを言っている。

「何者なんだ……あの人」
「来ヶ谷さんは来ヶ谷さんだよ」

 立ち去る来ヶ谷さんを見送る理樹に、私は自分の手元に抱きしめたままの飲み物を思い出す。
 よく缶を見れば炭酸飲料のそれに、先ほどまでの激しい運動にこれは開けても大丈夫なのだろうかと恭介に目を向ける。
 隣に立つ恭介は、私の視線に気づいていないのだろう。来ヶ谷さんの去る方を見て何か考え事をしているその姿に、私は首をかしげるのだった。
 その数分後、真人は山籠りを終えたのかすがすがしい顔で帰ってきた。
 山で何か掴んだのかどうなのか定かではないが、本人が満足げだからいいのだろう。

 そして気づけば一日が終わろうとしていた。
 放課後になり日直の仕事をすませたのち、リトルバスターズの活動にグラウンドへと走っていた時だ。

「理緒君、だったな」
「来ヶ谷さん」

 自動販売機の横を通り抜ける時、目の前に来ヶ谷さんが立っていた。

「どうかした?」
「いや、一年の時以来だなこうして話すのは」

 思い返せば一年生の時も濃い時を過ごした。
 一年生の時は謙吾以外の皆と離れてしまいこの一年平穏に過ごせると思っていた。
 だがそれは一時の安息だった。来ヶ谷さんも居たそのクラスは春の時点で様々な問題が起きたからだ。
 数学教師と対峙したり、クラスの中でもリーダー風を吹かせ弱いものをいじめる人がいたり、その全てを来ヶ谷さんが一瞬にして治めてしまったのだ。
 今思い返すと当時は大変だったがあれはあれでいい想い出なのかもしれない。

「その節は世話になった」
「いやいや、色々と鬱憤がたまってたから逆にお礼を言わせて」

 当時の数学教師の生徒に対するやり口や、リーダー風を吹かせていた人を思い出すと今でもはらわたが煮えくりかえりそうだが、それを戒めたからか今はおとなしい両者に来ヶ谷さんには感謝がしたい。
 来ヶ谷さんは一つ笑うと腕を組み私の顔を凝視する。その視線に照れ臭くなり思わず目をそらしてしまう。

「突然変なことを聞くが、キミにとってリトルバスターズとはなんだ?」
「本当に突然だね。リトルバスターズか……」

 小学生の時、理樹が友達が出来たと紹介してくれたのがリトルバスターズの皆だった。
 当時の事を思い出すと穴があったら入りたい気分だ。
 皆の手から逃げて、一人になろうとした私に恭介たちが追いかけてきたのを今でも思い出せる。
 でもそんな関係も長くなく、一つのきっかけで近くなったお互いの距離に今では信頼できる仲間だ。
 そして安心して理樹を任せられる。私にとってリトルバスターズとはそういう人たちの集まりだ。
 だから――

「私にとってリトルバスターズは家族、かな」
「ほう?」

 その答えに、来ヶ谷さんは意外そうな顔をする。

「双子とはいえ、答えは違うこともあるんだな」
「理樹はなんて?」
「自分にとっての居場所だと」
「居場所か……」

 理樹らしい言葉に思わず口がほころぶ。
 しかし突然してきた質問に不思議に思い来ヶ谷さんを見ると、来ヶ谷さんは一つ柔らかい笑みを浮かべるとその髪を揺らし踵を返した。

「さて、それじゃあ行こうか」
「行くってどこに」
「理緒君が今から向かう所にだよ」
「それって……!」

 その言葉に期待を胸に抱き、歩き出す来ヶ谷さんの後を追いかけると予想通りグラウンドへとたどり着いた。
 グラウンドでは真人が身体にタイヤをロープでくくりつけたそれを引っ張って外周を走っている姿があり、その真ん中では小毬ちゃんが鈴に抱きしめられて座ってそれを恭介と理樹達は笑って見ている。
 そんな暖かな場所へ皆の元へ走り寄るとそれに気付き皆がこちらを向く。
 そしてその後ろに立つ来ヶ谷さんに驚きの声を上げる。

「あっ」
「来ヶ谷」
「なにー!?」

 声をあげ、立ち止まる真人にいきなり止まったことにより、引っ張られるタイヤが頭に当たり倒れる。

「気に食わん」
「えっ?」
「おまえらだけで楽しそうなことをやっているのが気に食わんといってるんだ。私にもピチピチの美少女たちとしっぽり青春の汗をかかせろ」

 言うが早い、制服を脱ぎその服を放り投げる来ヶ谷さんの下には体操服が着替えられていた。

「リトルバスターズ……暇つぶしにはちょうどいい」
「ってことは……」

 理樹の顔に笑顔が浮かぶ。

「私をメンバーに混ぜろといっているんだ」

その言葉に皆三者三様の反応を示す。歓喜だったり驚愕だったり、その声を聞きつつ歩を進める来ヶ谷さんに、理樹は自分の手に握られているバッドを差し出す。

「来ヶ谷さん……はい!」
「うむ、キミ達といると楽しくなりそうだ」
「うん」
「よーし! オレが投げる!」

 真人は昼間のことを引きずっているのだろう。
 タイヤを取り、ボールを掴むとバッターボックスに立つ来ヶ谷さんに投げる。
 ストレートを力の限り投げられるボールは、普通ならば目に捉えて打てるまで最低でも一球見送るべきだろう。
 だけども来ヶ谷さんの手にかかれば、その第一球は軽々と打たれる。

「今日から私も、仲間だ」

 空に吸い込まれるボールに来ヶ谷さんの言葉がのる。
 リトルバスターズ完全結成まで、あと四人。

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