第5話

 その日の放課後。
 授業も終わり、今日のリトルバスターズの活動はグラウンド状況を見て休みだという恭介の言葉に、皆がそれぞれ思い思いの場所で過ごしている時だった。
 自室に戻り机に向かって宿題をしていると、突然ノックもなしにドアが開く。
 誰なのかは振り返らないでもわかる。

「理緒! 助けてくれ!」
「やっぱり、鈴ドアはノックしてから……って助けてってどうしたの」

 振り返ると案の定鈴が立っており、その手には一枚の紙が握られていた。
 見覚えのあるその紙に、恭介が動き出したことを察し思わず顔がこわばる。
 鈴と理樹のため、その言葉が頭をよぎる。
 これから起きることに理樹と鈴、そして私は耐えれるのか。まだ見えない未来に、私は強く手を握り締める。
 私のすべきことは一つだけだ。二人を信じ、その背中を押すだけ。
 鈴はそんな私の表情に、眉を寄せ顔を覗き込んできた。

「どうした? お腹でも痛いのか?」
「ううん、大丈夫だよ。鈴、それでどうしたの?」

 とっさに取り繕い笑ってみせるが、鈴は眉間にシワを寄せたまま腕を組み詮索するように見つめてくる。
 こういう時の鈴は少しばかり厄介だ。自分の納得のいく答えを聞くまでずっとそれを引きずるからだ。
 私はとっさにゴミ箱に捨てたアイスのカップを思い出す。食べたのは昨日だが、今日食べたことにすればいい。

「あー多分、あれ、アイスさっき食べてさ。ちょっと冷えたかなーなんて」
「アホだな」
「何も言えません」

 鈴は一応は納得したのか、まだ眉間にはシワが寄っていたがそれ以上何も言わず、手に持っていた紙に目を通すとその文章をそのまま目で追い声にだしていく。

「男子寮の物置の衛生問題を解決しろ」
「え? 私が?」
「いや、違う。あたしと理樹がだ」

 腰に手をあて、胸をはる鈴に私は苦笑する。
 今回の課題は『男子寮の物置の衛生問題を解決しろ』ということか。
 だけどそれならばこの状況はおかしい。

「それじゃあ、私に相談するんじゃなくて理樹に相談したほうがいいんじゃない?」

 鈴自身、理樹と自分がやることだと言っているのだから、今こうして私と鈴で解決しようとしている状態はおかしい。
 しかし今までの経験上、鈴はまず私に相談を持ちかけていたからか、習慣でここに来てしまったのだろう。
 現に私の言葉に鈴は、目を丸くさせ首をかしげている。

「なんでだ」
「だってその、男子寮の物置の衛生問題だっけ。それは理樹と鈴、二人でやりとげたいことなんでしょ?」

 私の言葉に鈴は少し考えたのち、大きく頷いた。

「そうだな」
「それならまず、パートナーである理樹に相談しないと」
「そういうものなのか?」
「まあ、まずはパートナーとの話し合いもってじゃないかな。それから周囲に助けを求めたりしてさ」
「そうなのか……わかった」

 これで今度からはまず理樹に相談するようになるだろう。
 これからは私や恭介に頼らず、理樹とそして周囲の人に助けを求めるんだ。
 私は自分を奮い立たせ、鈴の背中を一つ叩く。

「まあ、今回はもう相談受けたわけだし。ひとまず衛生問題を解決したいんだよね」

 今回だけ、と銘打って考える。
 ただ単純に、答えを提示するのは誰にでも出来ることだ。
 鈴に自発的に答えに導かせるのをどのようにするかが問題だ。

「んーじゃあ、鈴。まず衛生問題を解決するには何が必要だと思う?」

 問いかけに鈴はじっくり一分考える。そして導き出された答えはこうだ。

「当番表か?」
「やけに飛んだね」

 きっと女子寮にある掃除当番表を思い出したのだろう。

「それも大事だけど、それは終わってからの話」
「それじゃあなんだ?」
「掃除だよ。まずは掃除しないとね」

 鈴は手を叩き、なるほどと納得をしたようだ。

「わかった、掃除用具を探してくる!」
「鈴、待った」

 思い立ったが吉日というやつだろう。
 鈴は今すぐにでも飛び出していく勢いでドアへと走りかけるが、私はとっさにその手を掴み引き止める。

「大丈夫、女子寮のを借りたらいいよ。ほら、寮長さん」

 まだ鈴にとって繋がりのある寮長さんなら話しやすいのでは、と名前を上げてみるが鈴の顔色が曇ったのが目に入った。
 いくら繋がりがあるとは言え、人見知りのが勝るのだろう。

「鈴、お願いしておいで」
「無理だ」
「でも、知らない人じゃないでしょ?」
「そうだけど……無理なものは無理だ!」

 嫌だと首を横に振り続ける鈴に、恭介のようにうまく誘導することも出来ず私は言葉を探す。
 鈴の興味をひくようなものは私にはない、しかし一つだけ言えることはあった。

「問題、解決したいんじゃないの?」
「うっ……」

 揺らいだのがわかる。
 あとひと押しだ。

「ねっ、鈴貸してくださいっていうだけだからさ」
「……理樹を連れてくる!」
「ここ女子寮だよ?」

 まさかの変化球に苦笑すると、鈴は「理樹なら大丈夫だ、理緒と同じ顔だしな」とよくわからない言い訳をしだした。

「いやいや」
「じゃあ、理緒が言ってきてくれ」
「それじゃあ鈴と理樹、二人で解決にならないじゃん」
「ううっ……」

 苦い顔をし、うつむく鈴の肩を叩く。

「理緒、最近いじわるだ」

 突き放したくて意地悪をしているわけではないのだが、そういう鈴の声に今度は私が揺らいでしまう。
 そしてつい最後にはこちらが折れて甘いことを言ってしまうのだ。

「私も付いて行くから、ねっ?」

 そう言って結局は一緒に行くのだった。
 私の部屋と同じ、一階にある寮長室へと向かえばちょうど寮長さんが帰ってきたところなのかドアの前で鉢合わせた。

「あらどうしたの? ふたり揃って」
「寮長さん、こんにちは」

 挨拶をすれば、寮長さんは私の後ろに鈴がいることに気付いたのかわざわざ鈴のほうを見て挨拶をしてくれる。
 鈴の人見知りを知ってのことだ。
 こうして顔を合わせるたびに少しずつ慣らせていけたらと寮長さんが考えてくれたことなのだが。猫の話になると饒舌になる鈴も今は違うらしい。
 自分の後ろに隠れている鈴の肩を掴み、前へと押し出しその背中を一つ叩く。
 それに鈴は一度私の方へ振り返るが、助けてくれないことを悟ったのかはたまた自分の問題だという責任があるのか口を開く。
 だが顔は伏せられて、そっぽを向いたままだ。

「そ、その、掃除用具を……借りたいんだ」
「掃除用具を?」

 寮長さんの言葉に、鈴はまるで振り子人形のように頷く。
 それ以上の言葉は望めそうもないため、私はよく頑張ったと鈴の頭を撫で補足で言葉を付け足す。

「掃除したい場所があるみたいで、寮のを使いたいのですが借りてもよろしいでしょうか?」
「それはいいけど、使ったあとはちゃーんと返してね」

 そういうと、寮長さんは部屋に入り一枚の紙と鉛筆を持って戻ってきた。

「たまに借りていって返しにこない子がいるのよ」
「ありがとうございます」

 いくつか書かれた署名の下に自分の名前と日付を書けば、寮長さんは「確かに確認しました」と了承のハンコを押し私の手に掃除用具入れの鍵を渡した。

「ほら、鈴もお礼」
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして、掃除頑張ってね」

 少し余裕が出てきたのか鈴は顔をほんの少しあげ、呟いた言葉に寮長さんは笑うと手を振り部屋へと戻っていく。

「あ、そうだ。棗さん、またモンペチの情報交換しましょうね」

 ドアが閉められる前に言う寮長さんの言葉に、鈴の表情に笑顔が戻り大きく頷いた。
 猫の力とは偉大だ、ということだろう。
 私たちは女子寮の掃除用具入れに行くと、いくつかのホウキとバケツそしてモップを持ち、さてどうしようかと立ち尽くす。

「理樹はもちろん、真人や恭介にも手伝わせよう。どうせ暇しているだろうからな」
「まあ、今日は活動休みだしね」

 そういうが早い、鈴は男子寮へと駆けていき、一直線に理樹の部屋を目指す。
 まるで水を得た魚のようだ。
 私はそのあとを、息を切らしながら必死に追いかけるのだった。

「鈴! 待って、ドアはノックしてから――」

 言い終える前に目の前で開かれるドアに、何かが当たった音。
 私は遅すぎた忠告に顔を覆い、ため息がもれた。

「おまえたち! グズグズするな! 男子寮の物置の衛生問題を解決するぞ!」

 モップとバケツを持ち、ドアの前に立つ鈴の顔はハツラツとしていた。

 男子寮の物置。
 そこは一言で表すとするならば、魔の巣窟だった。

「ここか、物置って……確かにひどいな」

 鈴の言葉に私は物置内を見回す。
 汚いとまではいかないにしろ、整理されておらず転がっているガラクタたち。
 そしてまるで雪のように舞いあがる埃。
 皆その凄まじい惨状に一瞬無言になる。

「これは、大変だね」

 掃除のしがいがあるとはこのことだ。
 手に持つホウキに力が入る。

「最後に掃除をしたのは、おそらく明治維新前夜だろう」

 そう推測する恭介は、興味惹かれるものがあったのか中へと足を踏み入れる。
 歩を進めるたびに舞う埃に思わずくしゃみが飛び出す。
 マスクを持ってこればよかったかもしれない。

「本当にやるんだ鈴」
「無論だ!」

 理樹は意気込む鈴に笑い、周囲を見回す。

「まあ、綺麗にするにこしたことはないけど」

 私は中へと足を踏み入れ、窓に手をかけるが立て付けが悪いのかなかなか開かない。
 がたがた言わせつつ、開けていくと風と共に砂埃が舞い目に飛び込んでくる。

「大丈夫か?」
「だいじょーふ……くしっ!」
「しっかしなんでオレまで掃除しなくちゃならねーんだ?」

 たしかに、これに関しては巻き添えといえよう。

「オレはな、はっきりいって掃除しようとするとヘソの裏がかゆくなって筋肉いぇいいぇい! を踊っちゃうという特異体質なんだ」

 そう言えば真人は筋肉いぇいいぇいのポーズなのだろう、身体を左右にゆらしつつ雄叫びをあげていた。
 独特のリズムに少し癖になりそうだ。
 理樹は苦笑しつつ、鈴にいたっては冷めた目でそれを見ていた。

「お! これはお宝発見だ!」

 先に奥の方に入って行ってた恭介はダンボールの一つを開けると、その中には漫画が入っていたらしく。
 底の方の漫画も見ようと次から次へと本を取り出していっていた。

「シリーズ全巻そろってるじゃないか! おっ、こっちにも!」
「それ、部屋に入れないでよ……」
「安心しろ、ここで読んで行くに決まってるだろ」
「うああ! こら! これから片付けようって時に撒き散らすな!」

 パラパラとページをめくっていく恭介に、鈴は慌てて止めに走るがもうすでに何冊かは周囲に置かれており、先ほどより散らかっているのが目に見てわかる。
 兄妹らしいやり取りに、理樹と二人笑っているとふと人の気配を感じ、振り返るとそこには小毬ちゃんが立っていた。

「みーつけた!」
「小毬ちゃん?」
「あ、神北さんどうしたの?」

 争っていた二人は、私たちの声にそれぞれ顔をあげ入口へと顔を向ける。
 小毬ちゃんは理樹を見ると笑みを深くした。

「私ね、決めたの! 勧誘されちゃうことにしましたー!」

 そう言って出された両手には、キッチンミトンがはめられており、一瞬目が点になる。
 猫柄のそれはとても可愛らしいものだが、どうみても野球をするためのものに見えない。
 理樹も言葉を失ったのか、かろうじで出てきた「え……?」というつぶやきに小毬ちゃんは胸をはった。

「草で野球! 直枝君のお役にたてたら、とっても嬉しいから」
「ちょっと待って。それってリトルバスターズのメンバーになるってこと?」
「はぁ!?」

 理樹の興奮したような声に、小毬ちゃんは大きく頷き真人は素っ頓狂な声をあげた。
 そして、私は今日聞いた小毬ちゃんの質問を思い出し納得する。
 あれは理樹が勧誘をしており、それに乗ってくれたことによる質問だったのか。
 私は自然とゆるむ頬に、恭介を見ると恭介はうなずき返してくれた。

「りおちゃんもメンバーなんだ!」

 小毬ちゃんは私を見つけると、その表情はさらに明るくなっていきミトンの手が私の手を握りしめる。

「小毬ちゃんが聞いてきたのってそのためだったんだね」
「うん! ……あー!」

 小毬ちゃんは私の肩ごしに向こうを見ると一つ大きな声をあげ、私の手を掴んだまま走っていく。
 目的地は鈴の元らしく、鈴は小毬ちゃんが走り寄るのにあわせ、左右を見渡し隠れる場所はないかと探すのが見えた。

「棗さんもメンバーなんだ! りおちゃんに棗さん二人も一緒だなんて嬉しい!」
「ちょっ」
「一緒に野球頑張ろー! うん!」

 私の手と一緒に握り締められる鈴の手は緊張からか冷たくなっており、その顔は赤くなったり青くなったりと忙しないのがわかる。
 まるで金魚のように口をパクパクさせ、何も言わない鈴に小毬ちゃんは首をかしげて私の顔をみる。

「ごめん、鈴は極端な人見知りなんだ」
「そうなの?」

 理樹の言葉に小毬ちゃんは鈴に聞くが鈴は答えず、突然近づく顔に驚き後退りをする。
 すると後ろの棚に当たったのだろう、ぶつかる音と共に上に積まれていたダンボールがバランスを崩し小毬ちゃんの上へと落ちようとしていた。

「危ない!」
「小毬ちゃん!」
「ふぇ?」

 小毬ちゃんは自分にかかる影に見上げ、迫りくるダンボールに目を丸くさせる。
 私はとっさに小毬ちゃんを引き寄せると、その頭を守ろうと抱え込む。

「はぁ!」
「ナイス! 鈴!」

 しかし間一髪のところで鈴はダンボール箱を掴み、皆喜ぶのも束の間。本が降ってきた。
 ダンボールは底の方はまともに止めてなかったのだろう、底から落ちてくる本にデジャブを感じる。
 モウモウと立ち上る埃に、近くにいた私たちはむせ返り咳をする。
 少し離れた場所から見ていた真人と理樹は被害がなかったのか、私たちを呼ぶ声が耳に届く。

「ふえーん」
「はっくしゅっ」
「だ、大丈夫神北さん?」

 埃が晴れると、頭に漫画を一冊乗せて小毬ちゃんは目に涙を浮かべ立っており、鈴はこの状況にダンボールを持ったまま小刻みに震えていた。

「ほら! 鈴、ちゃんとあやまって」

 理樹の言葉に鈴は口を開閉させるが声は出てこず、次第にうつむいていってしまった。
 小毬ちゃんはそんな鈴を見かねてか、心配かけまいと笑みを浮かべ頭にかぶった埃を取ろうとミトンで頭を叩く。

「大丈夫だいじょー……ぶ……」

 しかしその笑みはすぐに引きつっていき、どうしたのかと小毬ちゃんの視線をたどっていくとミトンと頭の間に綺麗なくもの巣が張っていた。
 きっと本に張られていたのを、そのまま頭にかぶってしまったのだろう。
 みるみるうちに目に涙がたまっていく小毬ちゃんは、か細い声が漏れたと思った瞬間彼女の悲鳴が倉庫内に響き渡った。

「か、神北さん……!?」
「な、直枝君! くもっ!  くもさんがぁあああ……」

 あたふたとする小毬ちゃんに、鈴は一瞬手を伸ばしかけるがすぐにそれは引っ込められ、その間に真人の後ろへと隠れに行った。

「恭介大丈夫?」
「大丈夫に見えるか……」
「まあ、見ようによっては」

 そんな騒ぎの中、私は足元で漫画に埋もれている恭介に声をかければ、地面とお見合いをしている恭介からは元気のない声が帰ってきた。

「デジャブを感じるぜ……」
「それは私も思った」

 手を差し出すと、恭介はそれに掴まり立ち上がる。
 上に乗っかった本たちは音をたて落ちていき、それにくしゃみがまた出た。
 恭介は立ち上がると制服のポケットをあさり、ポケットティッシュを取り出すと私に差し出す。

「女子力……!」
「これぐらい普通だろ」
「ありがとう」

 テッシュを受け取り、鼻を一つかむと少しすっきりした。

「しかし、神北とかいったか?」
「ふぇ?」

 理樹にくもの巣を払ってもらいながら、顔をあげる小毬ちゃんに恭介は訝しげにその両手を見る。

「なぜミトンをつけているんだ」
「だって、野球で使うでしょ?」

 小毬ちゃんは恭介にミトンを見せ、満足げに笑みをうかべ腰に手をあてて胸をはる。

「それぐらいは知ってるよ! りおちゃんにも教えてもらったし」
「すまないが、野球で使うのはそれじゃないぞ」
「えっ」
「小毬ちゃん、私が言ったのはミトンじゃなくてミットだよ」
「ええー!」
「そうとも! 本物は、これだ!」
「いや、それも違うから」

 驚きの三段活用、と言わんばかりに真人は物置から見つけた人形を両手にはめて小毬ちゃんに見せるが、小毬ちゃんは二、三度瞬きをしたのち恭介へと向き直った。
 理樹のツッコミも虚しく、スルーされたことに真人はショックをうけるが皆どこ吹く風だ。

「だけどメンバーになる前に気になることがあるのです」
「気になること?」

 小毬ちゃんは笑顔を浮かべ頷くと私に手をのばした。

「りおちゃん、ホウキ借りてもいい?」
「あ、うん」
「ありがとー」

 持っていたホウキを手渡すと、小毬ちゃんはお礼をいい奥の方へとかけていく。

「お掃除の基本は奥から外にだよー」

 そんなことを鼻歌混じりにいう小毬ちゃんに、皆あっけにとられる。

「気になることって……」
「どうやら掃除のようだな」
「こうなったらしかたねえ、筋トレもかねるか」

 しぶっていた真人だが、小毬ちゃんの姿に感化されたのだろう。
 立ち上がると腕を一つ回し、大きな荷物をまず外にだそうと動き出す。

「課題やるんでしょ?」
「う……ん……」

 途中から理樹の服を掴んで後ろに隠れていた鈴に理樹は振り返り促すが、知らない人がいることに抵抗が生じているのか、鈴からは歯切れの悪い返事が返ってくる。

「大丈夫だよ鈴、小毬ちゃんはいい子だよ」

 背中を一つ叩くと、鈴は意を決したのか理樹と私より前に足を踏み出す。

「水、くんでくる!」

 そしてバケツを掴むと脱兎のごとく水道へと駆け出していった。
 まあ、まずは一歩前進なのだろう。
 小さくなっていく背中を見送り私たちは顔を見合わせ笑い、各々掃除へと向かうのだった。

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