第十七話

 ザワザワと騒がしい駅前の大通り。
 私は人混みにモミクチャにされないよう、潤の手を掴む。
 すると潤は驚いたように私を見てきて、そしていつものように笑うのだ。
 それが日常、いつもと一緒。

*都会へ行こう!*

 改札口に切符を入れ、一番ホームに来た電車に揺られ30分ほど行くと、そこには海に面している遊園地が大きく広がっていた。
 電車の窓から遊園地を見ると真ん中には大きな観覧車ゆっくりと回っており。ジェットコースターが頂上から下るたびに、女の子の歓喜の叫び声が小さくだが聞こえる。
 それを見ているだけで、胸が高鳴り、私は今にもあの場に行きたい衝動にかられた。
 隣に座っている潤慶も窓の外を眺めどことなく顔が輝いている。

「遊園地楽しみだね!」

 話しかけられ潤の方へ振り向き大きく頷けば「そうだね」と返した。
 しばらく電車に揺られ終点に着くと、家族連れは勿論カップルたちも一斉にホームにおりた。
 そして出口を抜けると夏の日差しが容赦なく人を照らし、セミ達が力一杯鳴いている。一気に冷えた体に汗が流れ、頬を伝ってゆく。
 私たちは真っ直ぐ伸びた遊園地に続く道を歩き、遊園地に着くとそこはホームで見た人以上の人がおり。まさに人に溢れていた。


「凄い人…潤迷子にならないでね」

 私は潤慶の服の裾を掴み辺りを見回した。
 券売り場では列が長く続いており早く並ばなければ待ち時間が長くなりそうだ。

「うわあ……」

 ポカンと口を開けてしまいそうなほどの列を眺めていると、突然服の裾を掴んでいた手をとられた。
 私は何事かと顔を上げ、潤慶を見ると潤慶は繋いだ手を見せ。

「手を繋いだ方がはぐれないよ」

 潤慶は辺りを見回し、空いているベンチを見つけると手を引きその場まで連れていき、私に座るよう促した。

「ぼくチケット買ってくるから明里はここで待ってて」
「え、私も一緒に行くよ」

 立ち上がろうとすると、潤慶はそれを制すように肩に手を置き自動的に座らせられた。

「いいから明里はここで待ってて」

 少し申し訳なく思いながら、潤慶の申し出に私は頷き。
 潤慶はその答えに笑顔を浮かべ、頭を撫でた。

「それじゃ行ってくるね」

 頭から手を離すと潤慶は人の列へと向かい最後尾に並ぶ。
 私はその様子を眺めながら、少し口元に笑みを浮かべ何に乗ろうかと足をぶらつかせながら考える。
 やはりジェットコースターからだろうか、いや、でもメリーゴーランドも捨てがたい。
 暫くそんな事を考えていると、潤慶はお金を支払い終えたのか入場券を二枚持ちながら、駆け足でやって来た。

「明里お待たせ」

 潤慶の手が私の肩を叩き、私は見上げて首を横に振る。

「ううん、そんな待ってないよ」

 首を横に振り、否定すると潤慶は笑みを深くし私の手をとった。

「それじゃ、いこっか」

 二枚のチケットをヒラヒラとはためかせ。私は潤慶とチケットを交互に見ると自然と口元が緩み、大きく頷いた。

「うん! 行こう」

 握りしめられた手を握り返すと、潤慶はそれが合図かのように走り出した。
 いきなりのことに、足は絡まり、よろけて転びそうになったが持ち堪え。追いかけるように私も足を動かした。
 人混みをかいくぐり、正面ゲートにたどり着くと潤慶は正面ゲートに立っている係の人に握っていたチケットを手渡す。
 係の人はチケットをもぎ取ると、「行ってらっしゃいませ」と業務用の笑みで私たちを送り、残った半分のチケットを潤慶に返した。
 潤慶はそれを受け取ると、手を引き中へと入っていく。
 中へと入ると辺りは一面夢の国というのが正しいだろうか、洋風の作りの家々にショッピングモール。そして着ぐるみたちのお出迎え。
 私はその景色眺めつつ、入口に立てて置いてあった遊園地内の簡易地図を広げ、どこに行くか潤慶に尋ねた。

「…やっぱりここは、絶叫系から?」
「明里、お化け屋敷とかはどう?」

 パンフレットを見つつ尋ねれば、横から潤は顔を出しお化け屋敷のある、西エリアを指さした。
 私はパンフレットから一旦、目をはなし潤慶を見上げ「お化け屋敷?」と繰り返せば潤は口のはしを上げ、笑う。
 それは色んな含みが混ざっており、駄目と言えないものがあった。

「なら、お化け屋敷行って絶叫マシーンに乗る」

 パンフレットの上で指を滑らせ、お化け屋敷を指した指を近くの絶叫マシーンに向かわせる。
 潤慶はそれに「賛成」と言い頷くと、西エリアへと歩きだし、私もパンフレットを折り畳み鞄の中にしまえばその後を追い掛けた。
 暫く歩くと西エリアにたどり着き、お化け屋敷の前で立ち止まる。
 私と潤慶、二人はお化け屋敷を見上げ、その飾り付けに歓声の声を上げた、入口前には首からぶらさがり、血が所々ついていたりし、オドロオドロしさが出ていた。
BGMに女性の叫び声が流れ、いかにもな雰囲気のお化け屋敷だった。
私は少し視線を落とし、潤慶の方を向きお化け屋敷を指さした。

「入る?」

 返ってくる答えなんてわかりきっているものだったが、思わず聞いてみたくなる乙女心。
 潤慶は質問に、ニッコリと微笑むと、「もちろん」と元気よく答え、私の手をとる。

 そして半ば引きずられるように、私はお化け屋敷の中へと入っていった。
 お化け屋敷の中では案内係のお姉さんがフリフリのスカートを着て、出迎えてくれた。
 きっとメイドをコンセプトに着ているのだろうが、和風のお化け屋敷に洋風が混ざるのはいかがなものか。奇怪な格好だとしか思えません。
 ひとまずその場は私はあえて、考えないことにした。
 案内係のお姉さんはヘッドホンを私と潤慶に手渡し、簡単にお化け屋敷の説明をし始める。

「屋敷内ではヘッドホンをかぶってお進みください。途中とってはいけないことになっておりますので、けして外さないでください。もしはずしたら……」

 そこで一旦間を置いた案内係に唾を飲み込み、ヘッドホンを握る力は思わず強まる。

「その時なにが起きるかは、保障いたしませんので、お気をつけください」

 案内係はにこやかに言い、私の背中には冷たい汗が流れた。
 潤慶は私の方を向き、その目は少し、いや凄く輝かいており。
 「面白そうだね」と言う声も、どこかしら嬉しそうであった。
 私は「そうだね」とひきつった笑みで答えるしか出来ず、係の人は説明しおえると時計を一回見て、中へと続くカーテンを開けた。

「ではどうぞ、お気をつけていってらっしゃいませ」

 係の人は最後までにこやかに言い、それとは対象的に私は乾いた笑いを漏らす。
 中へと入ると、ほの暗くよく見ないと相手の顔が見えないぐらいだった。
 私はヘッドホンを被ろうと手に持つと、潤は何か思い出したのか話しかけてきた。

「明里、お化け怖かったりする?」

 その問いかけに、私はヘッドホンを被る前の姿勢で止まり、勢いよく首を横に振る。
 内心は実はビクビクです。

「いやいや、怖くないよ!お化けは!」

 あきらかに、最後のはの所を大きな声で言った気がする。
 私は少しドキドキする心臓の音に唸っていると、潤慶は口に手をあて、笑いを堪えていた。

「なら何が怖いの?」

 潤慶は震える声で尋ねる。私は少しその声に馬鹿にされた気分になりつつ、悩んだあと、小さな声で呟いた。

「ゆ、幽霊…」

 実体のある妖怪や、お化けはまだいけるのだが、どういう訳か私は幽霊がとことん駄目だった。
 よくお化け屋敷には幽霊が出ると聞いた後からお化け屋敷も駄目な部類に入りつつある。
 私は言うだけ言うとヘッドホンを被り、外の音をシャットアウトし。
 潤慶の方を一瞥すれば、潤慶は笑いつつも、自分のヘッドホンを被っていた。

 そして私の手をとり、先に進んでいく。とことん潤慶はリードする人だと思ったり。いや、そういう人結構好きだけどね。

 お化け屋敷の仕掛けは簡単なものだった。
 どこかにセンサーがついているのか、その仕掛けの前につくと、ヘッドホンから音が聞こえるという仕掛けであり。最初の頃こそは聞こえるたびに肩を震わせていたが私は慣れ、ただボーッと音楽を聞くように、流れてくる音楽を楽しんだ。
 もうすぐ出口につくころだろうか、潤慶が振り返り何か口に出していたが、ヘッドホンに遮られ何も聞こえず、私は「何だって?」と聞き返す。
 そしてもう一度潤慶は言うのだが、それでもやっぱり聞こえず私は痺を切らし、ヘッドホンを外した。

「なーに? 何言ってるか全然聞こえない」

 私は少しふくれっつらになりながら言うと、潤慶は目を丸くさせ、私の持っているヘッドホンを指さす。

「明里、ヘッドホン」
「あ……」

 私は顔を真っ青にして、恐る恐る後ろを振り返った。
 後ろにはどこで準備していたのか、ぼんやりと白い服を着た人が立っている。
 私は声にならない叫び声をあげると勢いよく走り出した。
 もう心も頭も真っ白だ。

「幽霊はいやだー幽霊はいやだー幽霊はいやー!」

 私はおまじないのようにそれを叫びつづけ走ると、隣から笑い声がし、そちらにも何か居るのではないかと向くと、潤慶が走りながら笑っていた。

「明里凄い怖がりだね」
「違う、あれは不可抗力だ」

 自分でも、何を言っているのかわからず口ばしり、涙が溜ったのか目の前が揺らいだ。
 潤慶は私の手を掴み引き止め二、三度頭を撫でる。

「明里泣かない泣かない」

 優しい声色で、私をなだめる潤慶に、私は逆に泣けてきた。

「明里が怖いのは地震雷火事幽霊だね」
「……はい?」

 潤のその言葉に私の涙はどこへらやら。
 思わずポカンと口を開けて見ると、次の瞬間私は潤慶のお腹を叩き笑った。

「それを言うなら地震雷火事親父でしょ」

 お腹を抱えて笑う私に、潤慶は安心したのか少し息をついたような気がした。
 そして、私の気持ちが落ち着いた頃に潤慶は「行こっか」と私を促し灯りが漏れてる外へと歩きだし。
 私はソッと潤慶の服の裾を掴み後ろを気にしながら歩きだす。
 時々振り返るが次の人を脅かすためにか、もうすでにそこには居なく、私はホッと息をついた。
 暫く歩くと光が溢れている出口につき、ゲートをくぐると案内の人だろうかお兄さんが近づいてきた。

「お疲れさまでした。ヘッドホン回収します」

 私たちは持っていたヘッドホンをお兄さんに渡すと、お兄さんはにこやかに笑い、少し頭を下げる。

「ありがとうございました」

 外に出るまで、お兄さんに見送られ、外に出れば外は中とは違い、熱気が一気に押し寄せ、私は目を細め、空を仰いだ。

「外、あつー」
「中はクーラーがきいていたからね」
「うん、でも私違う意味で汗かいたよ」

 私は苦笑いを浮かべながらも絶叫系のある、北エリアへと歩みを進めた。

 その後絶叫系を初めとする、メリーゴーランド、コーヒーカップ、ミラーハウスに乗り、途中、休憩をいれたりしていると気づけばあたりは夕焼けになっていた。
 時がたつのは早いものだと、私は改めて実感する。
 少しフラフラになりつつ歩くと潤慶はある一ヶ所で止まりそれを見上げる。
 私も同じようにそれを仰ぎ、潤慶へと視線を向けた。

「明里、最後にあれ乗ろっか」

 潤慶は一度それから目を離すと私の方を見て、観覧車を指す。
 私は軽い気持ちで頷くと最後尾に並びあたりを見まわした。
 辺りはカップルだらけでいちゃついているものもいる。
 あれだ、独り身にとってはとてつもなく居心地が悪い。私は顔をうつ向かせ、やり過ごそうとした。

「ねぇ明里」

 呼ばれ、私はうつ向かせていた顔を上げると潤慶がこちらを向いてる。しかし、それはいつも見ている潤慶の表情ではなく、真剣なものだった。
 私は初めてみる、従兄弟の表情に胸が高鳴り、少し体が震えた。
 まるで、知らない人のようだ。

「何?」

 私はなるべく平常心をよそおい、声を出すと潤は顔をくずし、いつものようにヘニャと笑った。
 いつも見てる従兄弟の笑顔に、私は安心し笑いかえす。

「僕達もカップルに見えるかな」

 一瞬、時が止まったような気がした。
 潤慶のその言葉に私はなぜかいつものように気軽に返せなかった。

「さぁ……? どうだろうね」

 目をあわせず、そういうと私はまた下を向き、小さくなった。
 潤慶もその後、何も言わず静かだったが、握る手が強くなった。
 きっと、深い意味は無いのだろう、今はきっと周りの空気に呑まれてしまっているだけだ、私はそう何度も思い、順番を待つ。
 暫くすると二人の番が回ってきた。
 私たちが観覧車に乗り込むと、係の人は扉をしめ、「行ってらっしゃいませ」と言葉を言い。
 観覧車は静かに上へ上へと登っていく。

 外は夕焼け、二人は夕闇に照らされ、お互い黙ったままだ。


 何か話さなきゃ、私は焦り、とっさに言葉を探すが焦る度に何も浮かんでこない。
 膝に置いていた手を握りしめ、れば着てきた服に皺がついた。

「うわー見てみて、お兄ちゃん窓の外が綺麗!」

 向かいの観覧車から、女の子の声が聞こえる。
 私はその女の子の声に吸い寄せられるように顔を上げ、窓の外を見れば、薄い赤に染まる空、海に溶けるように沈む夕日にそれが映し出された海。
 息を飲むような情景だった。

「明里」

 前に座る潤慶は、笑顔を浮かべ、私を見ている。

「何? 潤」

 自然と肩から力が抜け、声も震えることなく出た。

「今日は楽しかったね」
「うん、本当楽しかった。あっというまに帰る時間だし」

 私は先ほど握ったさいに出来た皺を伸ばし、服装を少し整え、少し痛くなった足を靴から出す。

「あのね、明里。僕、明日帰るんだ」

 さらりと言う言葉は特に心を締め付けるような言葉ではなかった。なかったはずなのに。
 私はその時驚き、思わず「えっ」と声を出してしまった。
 休みの度に繰り返している別れのはずだ、なのに今はこんなにも胸を騒がせている。

「と、突然なんだね」
「うん、そろそろ向こうの新学期始まるから。それで、言いたいことあるんだ」
 潤慶の目が少し細くなり、笑みが深くなる。胸が高鳴った、私はまだ先ほどの空気に呑まれているんだろうか。

「それは今じゃないとダメなこと?」
「うん」

 頷く潤慶の姿に、私は一度息を吸い、そして吐き出し気を引き締めた。
 そして「わかった」と言えば、潤慶は笑顔を浮かべお礼を言い、そして目を瞑り、一度呼吸を整え目を開ける。そして口を開いた。

「明里、僕は君が好きなんだ」

 顔が、熱くなるのを感じた。手の内には汗をかき、頭の中にはああ、やっぱりと思っていたふしがあるのか少しだけ落ち着いている。

「でも、潤、私」

 潤慶は私が言い終わらないうちに手を前につきだし、自分の口元には人差し指をあてる。

「いますぐ返事はいらない、気持がまとまったら言って?」

 潤慶は、つきだした手をそのまま私の頬へ持っていく。そして席から立ち上がり、床にしゃがみこみ私の顔を覗き込んだ。
 そして、両手を頬にやり、困ったように笑みを浮かべる。

「だから明里、笑って?」

 私はいつの間にか泣いていたのか、潤慶は溢れでる涙を指で拭う。何度も何度も拭い、私はただ潤慶の行為に甘えるだけだった。

 夕日は沈み、辺りは暗闇。
 私の涙は止むことをしらずただ溢れおち、潤慶は私の頭を撫で、いつもの笑顔を浮かべて寂しそうに言う。

「明里、笑って。最後は明里の笑顔がみたいから」

あとがき

ながっ、前回の期間から長らくお待たせしてしまい。
申し訳ないです。
そのくせグダグダした文章で、もう皆さんに顔見せ出来ない。

さて、今回で遊園地編終了なのですが新たな事件っていうか、潤が告白してしまい。
あまり事件とは言わない事件が次回あるかもしれません。
ってか潤お前を帰らせなければ夏が終らん!
正直な話、ね。


さて、次回は早めにを心がけたいと思います。
では、誤字、脱字がございました申し付けください。

2007 02/11

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