第十六話


朝、目が覚め横を見ると。
いつもならまだ寝ている潤が今日は居なかった。

*都会へ行こう!*


「おはよう」

明里は欠伸をしながら、部屋を出て髪を整えようとまだ眠い足取りで洗面所に向かうと。
そこにはさっき顔を洗っていたのか髪が少し濡れてタオルを持っている潤がいた。

「あっおはよう。今日は早いんだね」

明里は潤の脇を通り抜け歯ブラシをとり歯磨きをしようとすると潤が後ろから抱きついてくる。そして、明里の髪に顔を埋め小さな声で囁いた。

「今日は明里とデートだから」

女の子にとっては嬉しい口説き文句も明里にとっては日常茶飯事であり。歯ブラシをくわえながら「んーそっかそっか」と軽くあしらうのだった。

「ひとまず今から歯磨いたり髪整えたりしたいから離れてください」

明里は鏡に写る潤に睨みをきかせる。いつもならそこで「えーもう少し」といい三十分ぐらい抱きついていた潤だが、今日はすんなりと離れ「なら先にリビング行ってるね」と言い洗面所から出ていった。

「…今日の潤、絶対変だ」

一人取り残された明里は歯ブラシを片手に少し呆然と潤が出ていったドアを鏡越しに見た。

そのあと明里は歯を磨き、髪をとかし一旦部屋に戻るとお気に入りの服を一着取り出し。手早く着ると潤が待っているリビングへと向かった。

少し開けたドアから中を覗くと、そこにはいつもは絶対食器の用意もしない潤が食器の用意をしている。明里はその異様な光景を暫くボーぜんと眺めていた。

「まっいいことだから…ほっとくか」

少しやっぱりいつもの潤と違うな、と思いながらも。
けして悪いことでは無いので明里はドアを開け、中へと入る。
すると直ぐ様、潤は明里が来たことに気づき手招きをした。

「明里やっときたー、ほら早くご飯食べて。遊園地に行こう」


明里は頷くと、朝ごはんを食べようと机に向かい、テーブルに置かれたトーストとハムエッグを見る。トーストは潤が焼いたのか若干焦げており、明里は口の端を上げ喉の奥でククッと笑った。
潤は笑っている明里を不思議に思い「どうかした?」とトーストを口に加え尋ねた。
明里は少し笑いつつも「別に」と首を横にふる。
真ん中に置かれた苺ジャムに明里は手を伸ばし、瓶を開けるとトーストの上に取り、塗り終えると端っこの方から食べると、ふと前の席から視線を感じた。
明里は顔を上げ潤の方を見る。すると潤はニコニコと嬉しそうに笑い、明里に穴が空くんじゃないかと思うぐらい見つめていた。
明里はトーストをお皿に置き、口の中に入ってるパンを飲み込む。

「潤どうかした?」

明里の問いかけに潤は首を少し振り「どうもしないよ」と未だ笑いながら明里を見る。

「ただ明里が美味しそうに食べてるの見て嬉しくて。だってそれ僕が作ったから」

潤は自分のトーストにイチゴジャムを乗っけるとまんべんなく塗り始め。トーストとスプーンが擦りあうたび、ザッザっと音とともにパンのいい匂いがした。
明里はトーストを持ち上げ、また一口含み美味しそうによく味わう。そして飲み込むと、潤の方を向き「美味しいよ」とトーストを持ちながら言い、潤はそれを聞くと「ありがとう」と笑みを深くし、食事に戻った。

暫くすると玄関のドアが開く音と、「ただいま」と帰宅を告げる声が聞こえランニングから帰ってきた英士が食卓に顔をだしにきた。
明里は側にあったコップに、お茶を注ぎ英士に渡すと英士は「ありがとう」とお礼を言い、余程喉が渇いていたのだろう、一気にお茶を飲み干す。
明里はそれを眺め、ふと思った。

「そうだあのさ、英士も一緒に遊園地に行かない?」


明里は何気なく英士に言うと英士は一瞬驚いた顔をし、その後後ろにいる潤を見る。



明里も同じように後ろを振り向くと、そこには潤がいつも以上の笑顔を浮かべ、こちらを見ており。いかにも機嫌が悪そうで、低い声で明里を呼んだ。

「な、なに?」

明里は一歩後退り、少しどもりつつも潤に聞くと、潤は何も言わず立ち上がり。
明里の手を掴むと、イスの近くに準備していた鞄を持ち玄関へと歩きだした。
明里は引きずられながらも同じように準備していた鞄を持ち、英士のほうをみると英士は苦笑しつつも「行ってらっしゃい」と言い手を振った。

「いってきます」

明里も手を振りかえすやいな潤はリビングのドアをバタンと閉め。外へと二人は飛び出した。
外へ出ると、明里はまだ履けていない靴の踵を二、三度叩いて履く。潤は不機嫌そうにムスッとした顔で立っており靴を履いている明里を見ていた。

「どうしたの?」

潤はそっぽを向くと小さな声で「二人っきりで行くつもりだったんだからね」と言い駅の方へ歩き出した。
明里はそんな潤の姿に吹き出し笑い、最後のひと履きをトンっと踵を鳴らして履き。後を追いかけるため走り出した。
潤に追いつき、明里は背中を叩くと「ごめんね潤」と声をかけた。
潤は背中を叩かれると振り返り、いつものように笑い「もういいよ」と明里の手を取る。明里はその手を一度見ると顔を上げ微笑み、握りかえした。

「なら、行こう。遊園地に」

二人は同時に足を踏み出し、駅へと続く道を走りだした。
あとがき

長らくおまたせしときながら短くて申し訳ないです。
ってか早く遊園地行けよって話ですね。
まだまだ遊園地編は続きそうです。

さてさて次はいよいよ遊園地でのデート!潤は言ってしまうのか!?
な感じの話だと思います。
それでは。

桜条なゆ 2006 04/21
(修正)2006 11/03

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