15話ー5
「ああ! そうだった絆創膏!」
当初の目的を思い出し、私は食堂へと続く廊下を駆けだそうと二木さんの後ろに続く道へ視線を向ければ二木さんはそれ以上話すことはないと踏んだのだろう。
そのまま私とは逆の方へと歩みを進め、その背中が振り返ることは一度もなかった。
放課後、いつものように集まるリトルバスターズのメンバーの中に見知った彼女の姿があった。
「ほう、能見クドリャフカ君か」
理樹に連れてこられたクドは自分を囲む皆の顔をきょろきょろと見まわす。
「たしか、転入してきたばかりの帰国子女だったな」
恭介の言葉に、一つ身体をゆらし向き直る。
「はい、あのー私は今何をしているところなのでしょうか?」
「ごめんごめん、クド、これは勧誘だよ。よかったら僕たちと一緒に野球をやらない? メンバーがたりなくて困っているんだ」
クドは目を瞬くと首をかしげる。
「やきゅー? ってなんでしょうか?」
まるで初めて訊いた言葉だと言うようなその物言いに真人は眉をひそめた。
「野球しらねーのか?」
「しかたあるまい」
「あ?」
「能見君がこの前まで住んでいた国では野球の中継は全くなかったようだからな」
確かクドが前に居たところはテネブといっただろうか、クドの話では地図にも載っていることがまれな小さな国と聞いている。
そうなれば野球もメジャーなスポーツではないのだろう。
「野球、つまりベースボールだよ」
「おおーベースボール! それなら聞いたことがあります」
聞き覚えのある英語にだろう、手を叩き合わせるクドに恭介はこぶしを握る。
「俺たちのチーム名はリトルバスターズだ!」
「仲間になったら楽しいよー」
小毬ちゃんの言葉にクドの表情が花が開いたように明るくなっていく。
「ほんとですか!」
「まあ、毎日にぎやかになるのは請け合いだね」
「野球やってりゃ筋肉もつくしな!」
そういって自慢の筋肉を見せるようにポーズをとる真人に、クドの目が輝いた。
「あ……でも、私……ベースボール、よくわからないですし……」
「だいじょーぶ! 私も全然わかんないよー」
「私もちんぷんかんぷん」
指同士を合わせ沈んでいく顔に、小毬ちゃんと葉留佳は二人揃って自信満々にそう言い。
その姿に恭介は呆れた表情を見せ、理樹も乾いた笑いをもらした。
「この二人がいうと強烈な説得力があるね」
「それはそれで問題なんだけどね」
「とにかくちょっとやってみるか能見」
恭介の言葉にクドは顔を上げるとその顔には笑顔を浮かべ大きく一つ頷いた。
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