15話ー3

 翌朝、あの後理樹とは別れ互いに寝坊することもなく朝食をとり平和な日常の幕開けかと思われた。だがなぜか私たちは走っていた。
 耳に届くのは始業のチャイム。

「やばいな、始業のチャイムだ。もう間に合わない」

 恭介が先導する中、走る五人の背中を追いかけながら私はスタミナ不足に息をあげる。

「くっそ、誰のせいだよ!」
「お前だおまえー!」

 真人の悪態に、謙吾はすかさずに突っ込む。
 確かに真人が朝から突っかかってこなければ今頃皆ゆっくりと教室に向かえただろう。
 だけども皆時間に気付かなかったのもあるから8:2ぐらいの割合だろう。
 なんて声を出したくても荒くつく息に言葉はのみ込まれていく。

「おかげで六人とも遅刻だ!」
「もおーっ」
「おまえたち、同じクラスなんだから鈴に先に行かせて代返させればいい」

 渡り廊下を越え、中庭へとさしかかる。
 突然の恭介の提案に、皆どうやって? と走りながらも顔を見合わせる。

「鈴だけ、どうやって?」
「鈴を三階へ投げ入れるんだ。真人と謙吾が協力すれば簡単なことだ」
「まさか」

 鈴の顔がゆがむ。
 さすがにそれは無茶があるのでは。

「大丈夫だ、鈴の身体能力なら」

 強く言う恭介に謙吾と真人はブレーキをかけ、教室の真下に立ち止まる。
 決行する気なのだろう、二人は向かい合うと互いに顔を見合わせた。

「しかしなんでこいつなんかと……!」
「それはこっちの台詞だ!」
「ほら! 時間がないぞ!」

 恭介の号令と共に真人と謙吾は互いの腕に自分の手を乗せ土台を組む。

「やむをえまい……」

 二人は土台を組めば鈴が乗りやすいようにかがみ、私は膝に手をつきながらもその様子を見守り私たちの教室の窓を見上げた。
 いつも通り開いてる窓に鈴を見ると、鈴も決心したのだろうその表情は心強いほど凛々しかった。

「お前は危険だ退いてろ」

 頭にのせていた猫を理樹に手渡し、鈴は二人の腕に足をかける。

「ミッションスタート!」

 恭介の声と共に、真人と謙吾は息をあわせて鈴を乗せた腕を真上へと振り上げる。
 すると鈴の身体はまっすぐに上へとあがり、聞こえるのは真上からの断末魔。
 教室すらも越えるその距離に思わず空いた口がふさがらなかった。

「おお! ナイスふんわり感なんじゃねーか!?」
「おお!」

 真人と謙吾は互いに自分たちの力加減に喝采し腕を組みガッツポーズをする。
 本当に、ふんわりなのかは置いといてだ。
 しばらくすると近づく鈴の声と共に、なにやらあまりいい音とは思えない音が耳に届く。
 思わず目をつぶり恐る恐る目を開き横に立つ理樹を見ると、理樹の口は半開きになり呆然と鈴を見届ける姿があった。

「ミッションコンプリートだ」
「本当に?」

 恭介は親指をたてそう言うが、あの音と鈴の必死に窓枠から身体を教室へと入る姿に、あれは本当に無事といえるのだろうか。

「なっ、鈴の身体能力なら大丈夫だって言っただろ」

 笑顔で私たちを見る恭介に理樹と私は何も答えれず、ひとまず乾いた笑いをうかべる。
 そして聞こえる本鈴に私たちは鈴に後のことを任せ、一応は早めに教室につこうとまた走り出すのだった。

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