15話ー2

「それが、三枝さんが不正でジュースを盗ったって難癖つけて連れて行こうとしてさ……そりゃ三枝さんは風紀委員にとってはトラブルメーカーかもしれないけど、ただたまたまジュースが当たったってだけで不正を働いたなんておかしいよ」

 缶を握る手に力がはいる。
 今日、ということはきっと私と二木さんが出会う前のことだろう。ああ、だからあんなことを突然言ったのか。
 繋がる出来ごとに、何かがすとんっと胸におちる。

「二人には、何か因縁があるのかもね」
「え?」

 振り返る理樹に、私は無意識のうちに呟いていたことに気づきとっさに笑う。

「わかんないけど」

 それに理樹は一つ息をはき出し、恨めしげにこちらを見てきた。

「最近、理緒はそういうの多いよね」
「そういうのって?」
「こう、はぐらかす感じって言うか」
「……そうかな」
「そうだよ、なんて言うか達観してるていうか……」

 二人手の内で缶をもてあそぶ。理樹は空を見上げ考え事をしているのか眉がひそめられる。

「恭介に似てきた……?」
「ええ!? それはない!」

 全力で否定すると理樹が笑いだし、からかわれたのかと膨れると理樹は笑いながらも謝り、そして息をつくと缶へと視線を落とす。

「いつか僕たちの元から去っていきそうっていうか」
「……さみしい?」
「そりゃ寂しいよ、ここまで一緒だったし、それにたった一人の兄妹だもん」

 寂しげに言う理樹に、私は二木さんの言葉をまた思い出していた。
 隠し事。私の隠し事はなんてことない、きっと理樹に言ったところで仲良しゴッコは続きだろう。
 ゴッコじゃないのだから、そう理樹だからこそ思えた。

「あのね理樹」
「なに?」

 だからこそ口を開くが、もしもを考える。
 もしも、言ったことによってこの関係がくずれてしまったら?
 もしも、理樹に嫌われたら?
 そんなもしもに、私は押し流される。
 それならば言わない方がいい。変わることなんて、望まない方がいいこともある。

「ジュース飲む?」

 私は笑顔を作り、ジュースを理樹に差し出す。
 理樹は少し何か言いたげに私を見つめるが、すぐに同じように笑顔を浮かべ缶を受け取った。
 これでいいんだ。
 この閉鎖された世界で、何かが変わったところで現実では別れが待っている。
 ならば私たちのこの関係は変わらない方がいいんだ。
 ジュースを飲む理樹の向こう側に、レノンの瞳が一つ、光った。


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