写真


日がたつにつれ。
転校生はクラスに馴染み、皆段々と転校生に対する関心が薄れていった。

「みーやはら」

紗香は塾の宿題の答えあわせをしようとノートを持ち、隣のクラスに走って行き、後ろの出入口から宮原をよんだ。
しかし宮原はその時クラスには居なかった。
前の席を見ると美鶴も居なく、空席が二つ出来ていた。
紗香は不思議なこともあるもんだとノートで自分の頭をポンと叩くと手を置いていたドアから手を離し、自分の教室へと戻ろうと踵をかえした。

「紗香!」

教室に入ると同時に亘が手を振り紗香を呼んだ。
紗香は駆け足で亘に近寄り「何?」と聞くと亘は目を輝かせて紗香の手をとった。

「紗香、僕と同じ考えの子がいたんだ!」


興奮気味なのか、早口でまくしたてる亘に紗香何のことだかわからないと首を傾げる。
亘はそれに気づき慌てて先ほど聞いた話を話し始めた。

「ふーん、美鶴がね。」

話を聞いた紗香は腕を組み、頷くと亘は目を丸くさせ紗香を指差した。

「紗香、芦川のこと知ってるの?」


紗香はその言葉に眉を潜め「失敬な」と口を尖らせて言い、その後フッと笑った。

「亘くーん、私この前転校生を学校案内するって言ったじゃんか」
「えっあ、あぁ!そういえば言ってた」

亘は思い出したのか繰り返し「そうだった」と言い、納得するように頷いた。

「んで、それがどうかしたの?」

紗香は首を傾げ尋ねると亘は「あぁ、そうだった」と手を叩いた。

「それで、次の休み時間宮原の所行こうと思うんだけど、」
「私無理だよ。図書室行かなきゃ」

紗香はノートでパタパタと扇ぎ、前髪が風で上がった。
亘は残念そうに肩を落とし「わかった」と言うと自分の席へと戻っていった。
悪いことしたかな、と紗香は腕を組み悩んだがチャイムが鳴り自分も席へと戻っていった。

次の休み時間、紗香は10分しかない休み時間内に本を返しに図書室へと走り出した。
途中、移動教室に行く他の学年の人に、挨拶をされ紗香は愛想よく挨拶を返し、目的の図書室につくと、扉を開け「返しにきましたー!」と本を掲げて入ると、司書の先生に静かにするようにと注意をされた。
紗香は思わず口に手をあて、小さな声で謝り、カウンターへと行くと本を置き「ありがとうございました」と言い、その場を後にした。

あと5分ある休み時間はどうしようか、と紗香は廊下をトボトボと歩き考えた。

角を曲がり、教室へと続く一直線の廊下を歩いていると見覚えのある後ろ姿を見つけた。
紗香は駆け足で相手の後ろまで行くと、勢いよく背中を叩いた。

「みっつる君!」

おどけるような口調で美鶴の名前を呼ぶと紗香は楽しそうに笑った。
美鶴は、いきなりの衝撃に少しよろめき、誰だ、と後ろを振り向いた。
押したのが紗香だとわかるとため息をついた。

「なにやってんだ」
「えー、脅かしてみたんだよ」

紗香は手を前に出すと、先ほどやったことをやってみせ、美鶴は二度目のため息をついた。

「で、何か用があって呼んだんだろ?」

美鶴の問いかけに紗香は渇いた笑いを漏らした。
美鶴はその様子に踵を返すと紗香を置いて歩きだした。
紗香は慌てて後を追いかけ、美鶴の腕を掴み、何とか引き留めようと口を開いた。

「ある、あるから!用件あるから!!」

紗香は自分の言った言葉に「えーっと」と、歯切れの悪そうに呟き。
美鶴は捕まれた腕を振りほどこうとはしなず、ただジッと紗香の顔を見ていた。
紗香は暫く空いている片方の手で顎を撫でながら悩むと、思いついたのか「あ、」と声を出し美鶴へと視線を移した。

「そうそう。美鶴心霊写真撮ったって本当?」

無邪気に聞く紗香に、美鶴は体を一瞬強張らせ今までとは違う、冷たい目で紗香を見た。
それはどこか軽蔑するような目で、紗香は驚き一歩後退った。

「本当だけど、だからどうした?」
「い、や。ただ見てみたいなって」

恐る恐るに言う紗香に美鶴は更に冷めた目で見た。
紗香は自然と流れです冷や汗に気持ち悪さと共に美鶴に対する恐怖を覚え、美鶴から視線を反らし、掴んでいた手を離した。
そして逃げるように「ごめん」と言い捨てると美鶴を横切り、自分の教室へと戻っていった。
教室に入ると紗香は自分の席に座り、体を伏せると先ほど自分が美鶴にいった言葉を思い返した。

きっと触れられたくなかったことなのだろう。

いきついた答えに紗香は一人悩んでいるとチャイムが鳴り、ゾロゾロと廊下に出ていた生徒達が戻ってきた。
先生が教壇に立ち、「きりーつ」とあげる声に紗香は習慣のようにその声に立ち上がり、全員で頭を下げ座ると授業が始まった。


その後の授業にはまったく身が入らず、紗香は何度か先生にも注意をされた。
しかし紗香は注意されてすぐは授業へと意識はいったがすぐにまた考えごとへと向いた。
休み時間には、カッちゃんや亘に心配され紗香は「なんでもない」と答え続けた。
そう言う紗香に二人はそれ以上詮索しなず、おいといたが。
二人とも授業中気になるのか、何度も何度も紗香の方を覗き見ていた。

昼休みになっても未だに悩んでいるのか黙々と給食を食べる紗香に二人は更に首を傾げ、亘がもう一度声をかけようと飲んでいた牛乳をトレイに置き、口を開くと同時に紗香は持っていたスプーンを音を立てて置くと勢いよく立ち上がった。

「私、決めた!!」

紗香は机を叩くと同時に急のことに驚き、スープを飲み込んでいたカッちゃんはスープが器官に入ったのかケホケホとむせた。
亘はカッちゃんの背中を擦り「大丈夫?」と聞きながら紗香の方を見る。
紗香は視線に気づき、亘を見つめかえすと満面の笑みを浮かべ。
「私、決めた!」ともう一度いった。
亘が「何を?」と聞き返す前に紗香は教室を出ていき、その場には呆気にとられた生徒達と目を丸くさせ頭に疑問を浮かべた亘だけが残された。

紗香は、教室をでた足取りで隣のクラスへと向かっていた。
美鶴が未だに怒っているのかは紗香は気にもとめず、只自分のもやもやした気持ちを晴らすためだけに。
紗香は教室へとたどり着くと、ごく自然にドアを開ける。
その堂々とした姿に隣のクラスの生徒は紗香が入ってきたことに気づかず食事を続けていた。
奥に座り背中を向けて食事をする美鶴と、紗香に気づき目を合わせた宮原に紗香は大股で近寄り、美鶴の肩を叩いた。
肩を叩かれた美鶴は、うっとおしそうに振り向いたが叩いた相手が紗香だとわかると目を見開き、持っていたパンを置き向き直った。

「どうしたんだ?」

美鶴の言葉にぶっきらぼうに「話がある」と、手を掴み。美鶴は場所を移動するのだとわかると、素直に立ち上がり紗香に手を引かれつつ教室を出ていった。
宮原は二人の後ろ姿に手を振り、ふと思う。

「オレ置いていかれてばっかだな」
廊下に出た二人は、お互い無言でただ見つめあっている。
先に口を開いたのは紗香だった。

「美鶴、その、さっきはごめん!!」

紗香は頭を勢いよく下げ、少し顔を上げ美鶴の様子を確かめる。
美鶴はいきなりのことに、呆気にとられ、目を瞬くと笑いを堪えるように口に手をあて笑いだした。
その様子に今度は紗香が目を瞬かせ、不思議そうに美鶴をマジマジと見た。

「ごめん。いきなり何言うかと思いきや」

美鶴は一通り笑うと、目に浮かべた涙を拭き取った。
紗香は恐る恐る「怒ってないの?」と尋ねると美鶴は口元に笑みを浮かべ頷き。
その返事に紗香は廊下を蹴ると腕を広げ美鶴に抱きつき。美鶴は一歩後ろに後退ったがしっかりと抱きとめた。

「よかったーよかったよ」

少し涙ぐむ紗香に美鶴は背中に回した手を紗香の頭に乗せ、撫でる。
紗香はそれに素直に身を任せ、しばらくした後美鶴から離れ、顔を上げ「ありがとう」と口を動かした。
それに答えるように口の端を上げ少し笑う美鶴に、紗香は目を細め笑みを深くした。

「うん、ということだから。さらば!美鶴私はご飯を食べてくるよ」

紗香は手を上げ、美鶴の肩を二、三回叩くと手を振り教室へと戻っていった。その顔は少しばかり晴れやかであった。

軽やかな足取りで帰ってきた紗香に亘とカッちゃんはホッと胸をなでおろした。
亘は紗香の横に座り、早々と残りの給食を食べる様子を見ていると。紗香が振り返り、口にご飯を入れながら亘を見る。しばらくして飲み込むと「どうかした?」と箸を置いた。

「ううん、ただ紗香がいつもの紗香に戻ってよかった。って思って」

頬杖をついて、顔を見る亘に紗香は苦笑いした。
亘も「変かな」と苦笑いして頭をかくと。紗香は首を横にふり「そんなことないよ」と言った。

「あ、そういえば。宮原と話出来た?」
「いや、出来なかった。塾の時に話そうって思って」

食べ終わった食器を片づけながら亘に話かける。食器は重なりあうたびにカシャンと金属の音がなった。
亘の返事に紗香は「そっか」と最後の食器を置き、手をはらった。
そして振り返り、亘を見つめると紗香は言いにくそうに口を濁らせた。

「そのー心霊写真。私も見せてもらえなかったや」
「紗香、芦川に頼んだの?」

亘の問いに紗香は頷くと「全然ダメだったよ」と肩をすくめた。
亘は「そっか」と肩を落とし。しょうがないよね、と小さく声をもらした。
紗香と亘が教室で話こんでいると、カッちゃんがサッカーボールを持ちドアを開け入ってきた。
二人をみつけると手を振り。二人を呼びサッカーボールを高くかがけた。

「なあ、亘に紗香。サッカーやらねー?」

紗香と亘は、お互い顔を見合わせると頷きカッちゃんの元へ走る。そして、二人は声を揃えて言った。

「やる!!」

三人は教室を後にし、運動場で待つクラスメートの元へと行った。
その日は、塾の日だった。
紗香はいつもどおり家に帰ると留守電を聞き、冷蔵庫を開ける。そして身支度を整えると部屋を飛び出し小走りで塾へと向かう。
しばらく走ると橋へ差し掛かり、橋の真ん中に見慣れた人物が居ることに気づいた紗香は手を振りながら相手の名前を呼んだ。

「美鶴!」

名前を呼ばれた美鶴は立ち止まり後ろを振り返る。紗香は美鶴の元に着くと、息を少し弾ませ、笑った。

「今日はよく会うね。どこか行くの?」
「塾に、そういうお前はどこ行くんだよ」

紗香は"塾"という単語に目を見開き、笑みを深くすると自分を指差し美鶴に詰め寄る。

「私も塾!もしかして、かすが共進ゼミじゃない?」

詰め寄られた美鶴は一歩たじろぎつつも「たぶんそこ」と、答えた。

「ならそこまで一緒に行こう!ついでに中も案内するよ」

紗香は美鶴の手を取ると足取り軽やかに歩み出る。美鶴はそれに少し遅れがちに後を追い掛けた。
塾までの道のりは、五分程度のものだった。
その間紗香は塾の友達や先生など様々なことを話し。美鶴はそれに相槌をうっていた。
塾につくと美鶴は先生のいる部屋に挨拶をしてくると言い、一旦紗香とわかれた。
紗香は別れるとき手を振り、美鶴の姿が部屋に入り見えなくなると手を下ろし教室へと足を向けた。
教室の前に立つとドアに手をかけ、勢いよく開け放った。

「やっほー宮原。宿題やってきた?」

いつもの定位置に居る宮原に紗香は手を振り、教室へ一歩足を踏み出す。宮原は紗香に手を振り返し「一応はね」と、宿題のノートを紗香に差し出した。

「ありがたや〜!実は一問解んないのあってさ」

紗香はノートを受け取り、宮原に深々頭を下げる。その様子に声を出して宮原は笑いながら「どこが解んないの?」と紗香に尋ねた。
紗香はノートを捲り、最後の問題を指差すと宮原は覗きこみ「ああ、それは」と説明しだした。
紗香はそれを聞くと何度か相槌を打ち、説明が終わると頭をかき。

「何となく解ったけど、石井先生に聞いてみるよ」
「そうした方がいいよ。オレも少し考えた問題だから」

ノートを閉じ、宮原に返すと紗香はお礼をいい。いつも座る席へとついた。
隣には亘が座っており、紗香は亘の肩を叩いた。
肩を叩かれると亘は振り向き紗香を見る。その表情はどこか怒っているようであり。紗香は首を傾げ「何かあった?」と言った。
亘は首を横に振り、否定したが紗香が心配そうにしているのを感じ「ただ不公平だと思っただけだよ」と答えた。
その答えに更に首を傾げたが、石井先生が教室に入ってきたことにより紗香は筆記用具を鞄から取り出し。前を向いた。
石井先生が教室に入ると、いつもは定刻までしゃべり続けている生徒が一斉に静まり。そして後ろから入ってくる美鶴を見ていた。
亘は美鶴を食い付くように見ており。紗香は頬杖をつき笑みを深くし、美鶴を見た。

「今日から一緒に勉強することになった芦川美鶴君です。城東第一のみんなはもう知ってるよね」

先生はみんなと挨拶を交わすと、芦川を紹介した。城東第一の子らは少し嬉しそうに「芦川だ」と囁いており。その他の学校の子らは城東第一の子たちに誰なのか聞いていた。一部の女子は頬を赤らめており、少し高い声で美鶴を噂していた。

「芦川です」

美鶴はよく通る声でそれだけを述べ頭を少し下げた。
石井先生が美鶴の背中に手をやり「好きな所に座って」と押すと美鶴は空いている席に歩み。
途中、紗香と目があうと少し口元を上げ笑い、紗香は手を小さく振った。
そして座る時、宮原と目を合わせ笑い。紗香の後ろに座る女の子たちは忍び笑いをしたり、二人を見ながら嬉しそうに何やら話していた。
紗香がノートを捲り、前の授業のノートを見ていると、後ろからつつかれ振り向くと。先ほどまで楽しそうにしゃべっていた二人が紗香をジッと見ていた。

「どうかした?」

なるべく小さな声で紗香が尋ねると、二人とも顔を近づけてきた。

「紗香ちゃん芦川くんと仲いいの?」

ひそひそと、だがどこか楽しげに聞く二人に紗香は目を瞬かせ少し考えこむ。

「んー…多分仲いいと思うよ。それがどうかした?」

紗香の答えに二人は顔を見合わせると、手を取り合い今にも踊りだしそうなほど喜んだ。

「ならさ、よかったら芦川くんのこと教えて欲しいんだけど」
「いいけど…本人に聞いたら?」

シャーペンをくるくると回しながら言うと二人の内一人が恥ずかしくて無理だよと首を横に振る。

「大丈夫だよ。美鶴優しいからさ」

胸を叩き「保証するよ」と二人に託すと二人は渋々わかったと答え、紗香はうなずくと前を向き黒板に書かれた文字を書き写しはじめた。
授業が終わり、帰る時間になると生徒たちは待ってましたと言わんばかりに美鶴と宮原の周りに集まった。
亘は少しソワソワと二人を見ていたが鞄を持つと一目散に教室を飛び出し、紗香は急いでその後を追い掛けようと慌てて鞄に物を詰め込み、鞄を持ち、教室を出ようとすると、宮原が紗香の名を呼び呼び止め。紗香は少し焦りながら振り返った。

「岡本もう帰るの?」
「うん、亘先に行っちゃったから」

足踏みしながら答えると宮原は「そっか」と少し残念そうに言い、「気をつけて帰れよ」と手を振り。紗香は手を振り返し「宮原もね」と大きな声で言うと同時に走り出した。
その姿を見ていた美鶴はずっとそのドアを見ており。それに気づいた宮原は冗談めかしに「なに?芦川気になるの」と膝でつつくと、美鶴はそっぽを向き「別に」と不機嫌そうに言い。席を立つと鞄を持ち、教室を後にした。
紗香は家へと続く道を走り続け、なんとか亘に追い付こうとするがもうすでにそこには亘の姿は無く。会社帰りのサラリーマンや若い女の人が歩いているだけだった。
次第に走るのも疲れ、歩きだしマンションへと着くとそこにはエレベーターを待っている亘がいた。紗香は少し上がった息で声をかけると、亘も胸を上下させながら振り返った。

「亘、置いていくなんて酷いよ」
「ご、めん」

いつもの様子と違う亘に紗香は何かあったのか聞くが亘はただ首を横に振るばかりで喋りはしなかった。

「あ、そういえば。幽霊ビル行くときも亘悩んでたようだったけど、それはもう大丈夫なの?」

紗香は思い出したように、話を変えて亘に話しかける。亘はまた首を横に振り「最近見なくなったけど…わかんない」と小さな声で呟いた。

「見てないって…幽霊でもみたの?」

亘は「違う」とだけ言うと苦笑いし、明日言うからと曖昧に答えた。紗香は少し眉を寄せ、亘を見ると頷き「絶対だからね」と念をおし。
来たエレベーターに二人は乗り、家へと帰った。
2006 10/23

[ 7/10 ]

[<<前] [次>>]
[表紙へ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -