夜の遊び


夜、時刻は十一時四十五分。
マンションの一室のドアが静かに開いた。
少しキィーっと鉄製のドアのきしむ音がし開けた本人は肩を震わし後ろの暗くなった部屋を見た。

さいわい、皆寝静まっているのか物音一つしなず紗香はホッと息をつき部屋を飛び出し静かにドアを閉め鍵を回した。
カチッと鍵のかかる音を聞き一息つくと隣の部屋を見た。

窓からは明かりが漏れておりテレビの音が微かにだが聞こえた。
きっと亘は無理だろう。そう思い紗香はマンションの廊下を歩き出した。


マンションを後にし歩き始めた紗香はふと後ろから近づく足音がに気づいた。
それは走っているのかトットッとリズミカルな音だった。
紗香はその足音に最初の頃はジョギングでもしているのかと思ったが、時間が時間なだけに恐怖がこみあげてきた。
足音が近づいてくるにつれ紗香は早足になり、最後には走り出した。


早く早くカッちゃんの所に行くんだ。


紗香は泣きそうになりながらも走り続け、公園の角に差し掛かった。
公園の柵にはカッちゃんが座って懐中電灯をつけたり消したりしていた。

「カッちゃん!!」

紗香は声を張り上げ叫ぶとカッちゃんは気付いたのか紗香の方に振り返り手を振ってきたが紗香は手を振り返せるほど余裕がないのか走りながら手を広げカッちゃんの元に行くとカッちゃんに抱きついた。
突然のことにカッちゃんはただ呆然としていたが次には顔を赤くし、慌てたが少しして落ち着くと紗香の背中をゆっくりと子供をあやすかのように撫で始めた。

「どうかしたの?」
「後ろから、足音、してっ私こわくなって」

一つ一つ小さくだが言うとカッちゃんは「後ろから?」と首を傾げながら紗香の来た方向を見た。
すると息を荒くさせながら走って亘が来た。

「遅れ、て、ご、めん」
「紗香、足音亘だったぞ」
「えっ?」

紗香はまだ乱れてる息を吐き出し、後ろを振り向くとそこには膝に手をつきしんどそうに肩を揺らして息を吸っている亘がいた。
紗香は目をしばたたかせた後、眉をさげ息を吐くと脱力したのかその場に座りこんだ。

「亘なら亘だって…言ってよ。バカッ」

紗香は亘に睨みをきかせたが亘はいきなり言われたことに首を傾げ状況がわかっていないようだった。
まぁいいやと紗香は息をつき立ち上がり柵へともたれかかり、カッちゃんは柵に飛びついて、猿みたいに忙しく動き回った。

「小母さん、あんな怖い声出していたのに、よく出てこられたなぁ」「電話だろ?ゴメン」
「ベツにいいけど。おまえんとこの小母さん、ウチにはいつもああいう感じだからサ」

亘はカッちゃんの言葉に後ろめたげに肩をすぼめ、顔を曇らせた。

紗香はそんな亘の姿に、元気を出してもらおうと無言で頭を撫で始めると、亘は頭を撫でてもらう事に恥ずかしそうに顔を赤くさせ頭に乗っていた手を振り払い「なにするんだよ」と怒鳴り、紗香は不満そうにそっぽを向いた。

そんな二人の様子にカッちゃんは大きな声で笑いだし、紗香と亘は一斉にカッちゃんの口を塞ぎ、口に人差し指をあて静かにと声を出さずに言った。
カッちゃんは苦笑いしながら頭をかくと何かを思い出したかのように「あっ」と声を漏らし続けて「そういえば」と言った。

「小母さん先に寝ちゃったの?そんなわけないよなぁ。小父さんが帰ってくるまで、着替もしないで待ってんだろ?お前どうやって抜け出してきたの?」

カッちゃんの瞳が、驚きと好奇心に、街灯の光を映してキラキラ光らせ、同じようにカッちゃんの言葉に大きく頷き瞳を輝かせている紗香に亘は困惑した表情をし、何か口ごもりながら一度、家の方を振り返った。

二人も同じように、マンションの方に向き、亘へと視線を戻すと亘は二人の方を向き口を開いた。

「それが」
「それが?」

紗香は繰り返すように聞き返すと亘は肩をすくませた。

「寝てんだよ」
「風邪ひいたの?」

亘は黙って首を振った。
紗香は「変なのー」と特に興味なさげに言うと亘は小さくだが「そうだよね」と言い微かにだが冷や汗をかいていた。
「まっいいや。早く行こうよ」

カッちゃんは公園の柵の上から飛び降り、亘と紗香はうんと言い、三人は走り出した。

紗香は亘の横につき先に行くカッちゃんの背中を見ながら亘に話かけた。

「ねぇ亘。何か考えごとしてるなら私たちにも相談してよ? 亘ってばいつも一人で考えこむんだから…」

紗香は前を向き走りながら、グチグチと愚痴を吐くと、亘は一瞬眉をひそめ何か言おうと口を開いたがすぐに口をつぐみキュッと唇を結んだ。
紗香はそれを横目で見ると口には出さずにため息をついた。

「…まぁ亘が言いたくなったら言ってよ。私待ってるから」

それだけ言うと亘から離れるように走る速度をはやめると、亘は顔を上げ紗香が横を通る時口を開いた。

「いつか必ず言うから」

それはよく聞かないと聞き落としそうになるほど小さかったが、紗香には聞こえていたのか口の端を上げ嬉しそうに頷いた。

辺りには足音が響き、街灯が三人を照らした。
2006 08/24

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