放課後、喫茶店、古泉くんと

 終業ベルと共に、教室を飛び出すキョンとハルヒ。どうやら今日はキョンにはキョンで予定が入っており。ハルヒはハルヒで家の予定が入っているらしい。
 珍しいこともあるもんだ。なんて思いながら、他の部員、三人に今日は部活が無いことを告げに文芸室へと向かうが、ノックをしてもいつものようにみくるちゃんの返答が無く。不審に思え、扉を開ければそこには珍しいことに机に突っ伏している古泉くんの姿だけがあった。

「古泉くん、寝てるの?」

 肩を上下させ、頭を腕の上に置き寝息をたてる古泉くんに私は近づき。頬っぺたを突っ付けば、古泉くんは少し唸りゆっくり目を開け私と目が合えば、慌てて起き上がりしばらく茫然としたのち苦笑いを浮かべた。

「おはよう古泉くん、よく寝てたね」
「おはようございます名前さん。お恥ずかしい限りです」

 古泉くんは、傍にあった自分の湯飲みを引き寄せれば一口、口をつけ私を見上げる。

「所で今日はお一人ですか? 珍しいですね」
「あ、そうそう。今日部活無いんだって、ハルヒ用事あるみたいで……」

 古泉くんは、まだお茶が入っているのか急須を傾け私の湯飲みへとお茶を注いだ。

「どうぞ」
「あ、どうも」

 私も古泉くんの隣に座れば、湯飲みに口をつけホッと息をつき。いつもと違うお茶の味に違和感を感じた。そういえば有希もみくるちゃんも居ないな。

「どうでしょうか、僕が入れてみたんですが」

 古泉くんが輝いた目をこちらに向け、尋ねてくる。

「あ、そうなの? どうりでみくるちゃんのとはまた違った味で、うん美味しいよ。古泉くんらしさが出てて」

 古泉くんらしさとはどんなんだ、尋ねられても困るがそんな味がお茶からするのは確かだ。

「そうですか、それはよかった」
「そういえば古泉くん、みくるちゃんや有希は?」

 今日は部活は無いから別にまだ来てないならば紙に書き残して帰ればいいのだが、お二人が居ないのはなんだかパフェにサクランボがついてないのと同じくらい寂しい。

「朝比奈さんなら先ほど用事があるので帰るとおっしゃっていましたが」

 そうなの? 今日は皆用事だらけだな。

「長門さんは僕が来た時には既に姿はありませんでした」
「そっか、なら有希も用事かな」

 窓の外に鳥がやってきて、一鳴きすれば、空に飛ぶ仲間の元へと飛んでいった。

「どうする古泉くん、眠いなら帰る?」
「名前さんはどうなさるんですか?」

 飲み終えた湯飲みを机に置き、私は顎に手をあて考える。

「そうだな、古泉くんがいいなら少しお茶していかない? いい所があるんだ」

 私は湯飲みを片づけるため、古泉くんの湯飲みを貰い廊下にある水道へと向かった。

「それはいいですね」
「なら決まりね!」

 水道の蛇口を捻り、水を湯飲みに注げば簡易に濯ぎ蛇口を閉じた。

 さて、はたから見たら私たちはどのように見えるのだろうか。年の近い兄妹? 仲のよい同級生? まさか恋人には見えまい。だが町中を歩けば女性達のするどい視線が突き刺さる。まあ横にいるのは五人中三人は振り返るくらいの美少年だ。当たり前だな。

「名前さん? 名前さん」
「えっ、うわっ!」

 私は古泉くんに呼ばれ、立ち止まり振り返れば目の前に古泉くんの整った顔があり。私は突然のことに声を上げてしまい、後ずされば後ろには段差があったらしく後ろへ転げ落ちそうになった。

「名前さん!」

 腕を伸ばし、なにか掴めるものがないか宙をさまよわせれば古泉くんの腕が私の手を捕らえ引き寄せられた。

「びっ、吃驚した」
「大丈夫ですか? すみません僕が呼びかけなければ」

 古泉くんは私から手を離せば頭を下げ私に謝罪をするが、勝手に驚いて勝手に転けかけたのは私だ、古泉くんは別に悪いことはしていないからそんなに頭を下げないでくれ。

「いや、私も茫然としていたのが悪いから……それでどうかした?」
「ああ、そうでした。先ほどショッピングモールを通りすぎてしまいましたが、よろしかったのですか?」

 確かに私の足はショッピングモールから遠く離れようとしている。だけどそれでいいんだ、だって用があるのはこっちではなく向こう側にあるのだから。

「うん、ショッピングモールじゃなくてちょっとした隠れ家みたいなお店に用があるんだよ」

 私は人が一人通れるほどの細い道を指さし古泉くんを手招きして呼ぶ。

「古泉くん、こっちこっち」
「ここを通るんですか」
「そっ、別に遠回りしてもいいけどこっちの方が近いから」

 うねうねとうねっている路地を、私と古泉くんは私を先頭に一列になって進んでいく。すると途中で広い道に出て、私は横にある店を指さす。

「ここ」
「ここですか」

 外面、クリーム色をした壁に青色の屋根にベルのついた扉には看板も一緒にかかっている。外から店内が見えるよう大きな窓ガラスがあり、そこには大きくお店の名前がかかれている。店先には色とりどりの花が咲いておりそれは綺麗に手入れされている。

「じゃっ入ろ」

 私はドアの取っ手を掴み、押せば。ベルが鳴り中から女性の声が聞こえた。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは。今日も紅茶飲みに来ちゃいました」

 中はあまりお世辞にも広いとはいえないが、綺麗にされておりテーブルが二つ、そしてカウンターがありそこに店長である女性が立っている。

「ここの紅茶ね、凄く美味しいんだよ」

 カウンターに座り、古泉くんもその横に座れば。店長はお冷やとお絞りをそれぞれに置き、注文を聞いてくる。

「ご注文は?」
「私はアップルティーにショートケーキ」
「では僕はアールグレイにチョコシフォンケーキをお願いします」

 テーブルに置いてある、小さなメニュー表を二人で眺めそれぞれ注文をすれば。店長はふんわりと微笑み「ご注文承りました」と奥へとひっこんで行った。

「こういう雰囲気って、私好きなんだ。なんか凄く心が洗われる感じがしてさ」

 穏やかな昼下がり、窓からはやわらかな日が差し。ウトウトと瞼がゆっくり下りてきそうだ。思わず一つ欠伸が漏れた。
 お冷やに入っていた氷が溶け始め、水滴がコップの周りについており一滴流れていく。

「僕もですよ。最近何かと様々な出来事が多発していましたからね」

 奥から店長が紅茶を持ってくれば、それをティーカップに注ぎソーサーに載せアールグレイを古泉くんにカウンター越から渡し、ミルクの入った小さな瓶と可愛らしい紙を下に敷いて小さなバスケットに入った角砂糖を置いた。
 古泉くんはそれにお礼を言えば、砂糖を一つ摘まみ入れソーサーに載せられたスプーンでかき混ぜる。

「こんな穏やかな日は本当、久しぶりです」

 そう呟く古泉くんの横顔は穏やかなもので、こちらも思わず頬が緩む。
 カチャっとスプーンを置くさいに、食器とぶつかりあい音がなる。そしてまだかき混ぜたさいに出来た渦が回っている状態でミルクを入れれば、ミルクは渦を巻きクルクルと円を描く。

「うん、なんか古泉くん連れて来てよかったかも」


 アップルティーも運ばれ、私はそれを受け取ればそのまま息を吹き掛け一口すする。林檎の甘い匂いと紅茶の香りが鼻をくすぐり、私はその温かさにほうっと息をつく。

「実はここ、皆には秘密にしてた場所なんだ。キョンにも秘密なんだよ」

 ショートケーキとチョコシフォンケーキも運ばれて来れば、店長は「ごゆっくり」と微笑み奥へと引っ込んでいった。

「そのような秘密の場所を僕になんかに教えてもよろしかったのですか?」
「うん、なんだろ。古泉くん最近疲れてるような気がしたから、こんなことしか出来ないけど少しでも癒されてくれたらいいなーなんて思ったりなんかしたりして」

 フォークでケーキを切り、一口くちに入れれば、生クリームの甘い味が舌を転がる。

「また一緒に来ようね」

 古泉くんはシフォンケーキを口に運びながら、目を細めれば「はい」とうなずき微笑んだ。
 誰かお客さんが入ってきたのか、扉の方からベルの鳴る音と共に涼しい秋の風が吹き込み。私の髪が風にもて遊ばれ紅茶の甘い香りが店内に広がった。
 こういう穏やかな日には穏やかに時間を過ごすのが一番だと、私は紅茶のカップをお皿に置き店内に流れる音楽を聞きいれながらぼんやりと、そんなことを思った。

07*10*05

あとがき

櫻さんリクエストの、ハルヒ連載ヒロインで古泉くんとのほのぼのした夢。
書いた本人は楽しく書け、ほのぼの目指しましたが。気に入っていただけたら嬉しいです。

古泉くんとほのぼの、なんだか私のボキャブラリーが貧困な脳みそだと白い犬と戯れる古泉くんや海で砂の山を作っている古泉くんを受信してしまい危うく違う次元に行きかけました(*´・ω・)

リクエストありがとうございました!

071005 桜条なゆ

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