オリジナル連載古泉
サンサンと日が入るカフェテラス。人通りの多い道を一望出来るその席に、一人の男が座っていた。
彼は色素の薄い髪を整えながら、辺りを見回しては時計に目をやる。誰かと待ち合わせをしているのだろうか、ソワソワと落ち着きなく指で机をリズミカルに叩く。
その彼に、通りすぎる人は時に頬を赤らめそそくさと立ち去り、時に惚けたようにまじまじと見ていく人の姿がみられた。それほど彼の容姿は整っており、十人いれば九人は振り返るほどだった。
「おい、古泉」
古泉と呼ばれた彼は、道の向こう側から声をかけた人物に振り返り、自分の待ち望んでいた人と違うとわかると肩を落とし苦笑を浮かべ「キョンくん」とやってきた男の名前を呼んだ。
「古泉、お前こんな所で何してるんだ」
「それはこちらの台詞です。こんな僻地に」
古泉はこちらに来たキョンの姿を見て、見当がついたのか「ああ」と感嘆をもらした。
「ご家族のお買い物の付き合いですか?」
両手に紙袋をいくつも下げているキョンは、それを一度持ち上げて見せればため息をつく。
「ああ、この通りな」
荷物をあいている椅子に置くと、一つ別の所から椅子を引きずってきてキョンは腰を下ろした。
「ご家族は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろ。何かあったら妹辺りが探しにくるだろ」
それより休ませてくれと言いたげに、顎を机に載せ項垂れた。よほど疲れたのだろう、腕も下に垂らし大きく息をつく。
「何か頼みますか?」
「お前の奢りならな」
キョンは悪戯気に笑えば、古泉は何度か瞬いたのち微笑を浮かべ二つ返事に頷いた。
「いいですよ。何飲みます?」
いつもなら考えられない承諾に、キョンは驚き頭をあげ目を丸くし恐る恐る口を開く。
「いいのか? この店の一番高いの頼むかも知れないぜ?」
「ええ、どうぞ。あなたが好きなのを頼んでくださってよろしいですよ」
古泉の余裕ぷりに、キョンは眉を寄せアイスコーヒーを一つ近くを通った店員に頼んだ。
「それで、お前はここで何してるんだ?」
先に運ばれてきたお冷やを口に流しこみながら、キョンは辺りを時折見回す古泉に尋ねる。当の本人は探している人が見つからないことにため息をついており、先ほどのキョンの言葉は耳に入っていなかったようだ。
「おい古泉、聞いてるのか?」
「え、あ、すみません。聞いてませんでした」
苛立ちを交えたキョンの呼びかけに、古泉は我に返ったかのようにキョンを見つめ悪びれた様子もなく微笑を浮かべる。
「だから、お前はここで何してるんだ?」
投げやりに質問を繰り返すキョンに、古泉は微笑を浮かべたまま「気になります?」とおちゃらけた風に尋ね返してみせた。
「気にならなかったら、まず質問してないだろ」
水のなくなったコップを机に置き、キョンは手持ち無沙汰になりとりあえず腕をくみ椅子の背もたれに寄りかかる。古泉は自分の頼んだ紅茶の入ったコップを見下ろしながら、頼り無さげな笑みをうかべた。
「大切な人を待っているんです」
初めて見せる表情にキョンは息を呑み、何も言えずただ古泉を見つめ返す。
「ふふ、よければ彼女が来るまで僕の昔話などどうですか?」
と、言ってもこの一年間に起きた出来事ですが、と付け足し古泉は紅茶を口に含んだ。
キョンはしばらく口を閉じた後、不適に笑い古泉を見つめかえす。
「いいぜ、たまにはお前の昔話でも聞いてやるよ」
熱にコップの中の氷が溶け、崩れる音がするとそれがまるで合図のように古泉は話を切り出した。
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連載しようとするんだが。
始まりと終わりしか思いつかないという。
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