ハルヒはチャイムが鳴るや、すぐさま私とキョンの手を掴み。私たちは引きずられていった。
 廊下を進み、階段を登りついた場所は屋上へと出るドアの前。
 倉庫になっているのか美術部の備品がやたら多い。しかし、薄暗いな。
 そこに、ハルヒは立ち止まれば。キョンのネクタイを掴み睨み上げ一言。

「協力しなさい」
「何を協力するって?」

 ハルヒはネクタイを離すと腕を組み「あんた私の話聞いてた?」と、ため息混じりに言い。その目が私へと向けられる。

「葵、あんたはわかってるんでしょうね」
「え、あ。協力って、新しいクラブ作りの?」

 私は、ハルヒとキョンの間に挟まれ。ハルヒとキョンの顔を交互に見る。

「そうよ! わかってるじゃない」

 ハルヒは今まで見たことない凄く明るい笑顔を浮かべた。ものごっつ嬉しそうだ。

「なぜ俺たちがお前の思いつきに協力しなければならんのか、それをまず教えてくれ」

 キョンは私の前に立ち、ハルヒに尋ねるがハルヒは聞いてないのか。

「あたしと葵は部室と部員を確保するから、あんたは学校に提出する書類を揃えなさい」

 的外れな答えが返ってきた。
 そして、キョンの後ろに居る私の腕を取れば引きずり出される。

「何のクラブを作るつもりなんだ?」
「どうでもいいじゃないの、そんなの。とりあえずまず作るのよ」

 そんな計画性なしで作ったクラブ。学校許してくれるのかな。

「いい? 今日の放課後までに調べておいて。あたしたちもそれまでに部室探しておくから。いいわね」

 ハルヒはそれだけ言えば私の腕を取ったまま。身を翻して軽い足取りで、私は連れていかれた。
 キョン、私今凄く嬉しいんだけど、助けてくれ。
 その悲鳴にも微動だにしないキョンは多分、彼もまた途方にくれているのだろう。
 その後、私とハルヒは職員室に乗り込み。部活の記録が全て載っている名簿を出せと先生に脅迫まがいなことを言い。
 私はそれを止めるのに精一杯だった。
 まあ、しかし岡部に相談してみれば、案外あっさり貸してくれて。
 ハルヒが私の後ろで「最初からそうしてればいいのよ」と言っていたのがまた面白かった。
 ハルヒ伝説に入れておこう。
 そして、昼休み。ちょうどいい部室を見つけたのか。

「葵、文芸部行くわよ!」

 返事をする暇もなく、私は腕を取られまた教室の外へと連れ出された。
 視界の端でキョンが私に向かって手を合わせていたのがなんともいえない。キョンのバカヤロウ!
 そしてその頃の私はまだ、朝倉さんがこちらを見て、目の色を変えたのに気づいてなかった。

「ね、ねぇハルヒ」
「なによ」

 片手には、お弁当。もう片方はハルヒが掴み。私はそのずんずん歩いていく後ろ姿に尋ねた。

「なんで私なの?」

 他にも適任者はいたはずだ。なのになぜ私が選ばれたのか。不思議な気分だった。嬉しいんだけどさ。
 ハルヒは立ち止まり、髪をなびかせて振り返る。

「何、文句でもあるわけ?」
「いや、ないけど……」

 うつ向き、消え入りそうな声で言えばハルヒは肩にかかる髪をはらい。

「はっきりしないわね。いい、葵」

 なんですか。ハルヒさん

「あんたは、あたしに選ばれたの。これは名誉あることなのよ」

 うん、わかる。なんとなくだが、よーくわかる。

「嬉しくないわけ?」

 嬉しいです。凄く。ただ

「私は、ハルヒの望むものじゃないよ?」

 一人には異世界人だと呼ばれているけど、本当かなんてわからない。
 私は顔を上げ、ハルヒの顔を見る。ハルヒは何だか少し、きょとんとしているようにみえる。珍しいことで。

「なに言っているの葵。あんたは、あたしにとって十分変な子よ」
「それは誉められているのか?」

 もちろん、と満面の笑顔で言われた。そうか変な子か。

「あんた、あいつと話してる時、言っていたじゃない」
「え?」
「あたしと居たら、新しい何かを見つけられそうだって」

 ハルヒは前を向くと、また私の腕を引き旧館へと向かって歩きだす。

「その頃から気になっていたのよね」

 あの熱い視線はそれですか。

「可愛いし、そうね。マネージャーにしましょう。色んな服を着替えさしたいし」
「え、私部員じゃないの?」

 驚きに、思わず口に出すとハルヒは眉間に皺を寄せて振り返り。

「なによ、格下になりたいわけ?」
「い、いやそういうわけじゃ」
「マネージャーよ、マネージャー! 私の側に仕えるのよ」

 それはもう、手下じゃ。
 そうこう話していると、いつの間にか文芸部の部室の前に来ており。ハルヒはノックも無しにドアを開けた。
 すると、そこにはいつものように有希がおり。休み時間が始まってまだ間もないのに本を読んでいる。
 本当に昼はいつ食べてるんだ。

「文芸部員の一年生よね?」

 有希は顔を上げ、こちらを向くとわかりにくいが少し驚いているようだった。
 それでも、すぐ頷く。

「ゆ、有希。あの、その」

 なんだ、この仲間を売ったような気持ちは。
 ハルヒは私を見て、有希を見る。

「何、二人とも知り合い?」
「うん、友達」
「なら話が早いわ」

 ハルヒは私の手を離すと、前へと進み真ん中辺りで大きく手を広げ。

「この部室貸して!」

 何とも短刀直入に物を頼んだ。ハルヒ、それはあまりにもストレートすぎないか。
 私は呆然と、ハルヒの後ろ姿を見ていると。有希はしばらく間を置いた後、てっきり「ダメ」とでも言うと思ったら。

「どうぞ」
「いいの!? ねえ、本当にいいの!?」

 私は有希へと近寄ると、肩を掴み前後に振り。呼びかけるが、有希の意志は変わらず「いい」の一言だった。
 恐る恐るハルヒの方へと振り返れば、勝ち誇ったように腰に手をあて、仁王立ちしていた。
 ああ、また凄く幸せそうな笑顔で。
 どうやら部室は無事、確保出来たらしい。
 なんてこった、こんな楽に物事が進んでいいのか。
 私はそのまま、お弁当を食べる暇もなく有希に別れをつげ。またハルヒに連れられ教室へと戻った。
 その時の様子を後々聞くと、死に神に魂を抜かれたような姿だったと、キョンは語った。
 酷いな、自分は生きている。
 そして今猛烈に、楽しい……かもしれない。
 その日の放課後、ハルヒはチャイムが鳴るやいな。キョンの手首を取り。私の名前を呼んだ。
 もう私はハルヒの忠実な犬のように、すぐさまそれに反応し、鞄を持ち二人のもとへと向かう。
 キョンは鞄を精一杯振り落とされないよう持っており。私はその姿の横に並ぶ。

「どこ行くんだよ」
「部室っ」

 キョンは一度私を見上げ、私はそれに苦笑いを返した。
 ごめん、私には止められん。
 後は沈黙のまま、私にとっては行き慣れた、部室までの道を歩いていく。
 薄暗い廊下の半ばでハルヒは立ち止まり。私とキョンも立ち止まる。
 見慣れたドアに、文芸部のプレートが斜めに貼りついている。そういえば、有希プレート直さないのかな。

「ここ」

 ハルヒは昼休み同様、ノックもしなず、ドアを引きずんずんと部室へと入っていく。キョンも引きずられて中に入るので必然的に私が最後でドアを閉めることになる。
 私は、後ろ手でドアを閉めながら辺りを見回せば、やはりというか、当たり前のことというか、有希が定位置で本を読んでいた。
 有希さん、さっきぶり。

「これからこの部屋が我らの部室よ!」

 私が心の中で、有希に挨拶をしていれば。ハルヒは昼休みにしたように、両手を広げ嬉々と宣言した。何とも嬉しそうな笑顔で。
 私は椅子を持ち出し、有希の横に置き座れば、キョンとハルヒの様子を見届けることにした。

「ちょい待て。どこなんだよ、ここは」
「文化系部の部室棟よ。美術部や吹奏楽部なら美術室や音楽室があるでしょ。そういう特別教室を持たないクラブや同好会の部室が集まってるのがこの部室棟。通称、旧館。この部屋は文芸部」
「じゃあ、文芸部なんだろ」
「でも今年の春に三年が卒業して部員ゼロ、新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのよ。で、このコが一年生の新入部員」

 ハルヒは、有希を指すと髪を手ではらい腕を組む。

「てことは休部になってないじゃないか」
「似たようなもんよ。一人しかいないんだから」

 キョンは、こちらを向くと有希をじっくり見て一つため息。そして私に気がつくと額に手をあて首を横にふった。
 お前、なに馴染んでるんだよ。と、聞こえてきそうだ。

「で、あの娘はどうするんだよ」

 キョンはハルヒに近づき、口の横に手をやり。声をひそめて言っているのだろうが、静かな文芸部ではここまで耳に届く。

「別にいいって言ってたわよ」
「本当かそりゃ?」
「昼休みに会ったときに。部室貸してって言ったら、どうぞって。本さえ読めればいいらしいわ。変わってると言えば変わってるわね」

 キョンがこちらをまた向き、その視線をたどれば、有希へといき。見られているというのに有希は、気づいているのか、いないのか。本を変わらずの調子で読んでいた。
 しかし、しばらくすると顔を上げ、眼鏡のツルを指で押さえる。
 そしてキョンを見れば私が有希と初めて会った時みたいに、淡々とした口調で「長門有希」と名前を言い。何事もなかったかのように本に目を落とし、読書に戻った。

「長門さんやら、こいつはこの部屋を何だか解らん部の部室にしようとしてんだぞ、それでもいいのか?」
「いい」

 有希は本から視線を離さず、答える。

「いや、しかし、多分ものすごく迷惑かけると思うぞ」
「別に」
「そのうち追い出されるかもしれんぞ」
「どうぞ」

 次々と即答していく有希はさぞかしどうでもいいと思ってる様子だ。
 まぁ、本さえあれば。例え、宇宙へ行けと言われても行きそうだもんな。
 キョンと目が合えば、私は肩をすくませる。私を見ないでおくれ。

「ま、そういうことだから」

 ハルヒが会話に割り込み、その声は有希と比べると天地の差。やたら弾んでいる声だ。

「これから放課後、この部屋に集合ね。絶対来なさいよ。来ないと死刑だから」

 私は、元気よく手を上げて「はーい」と言い、キョンは不承不承ながら頷いた。有希は、ノーリアクションなので割合で。
 しかし、書類もまだ出来上がってない。名称、活動内容不明の部活はこれからどこに向かっていくんだろうか。
 ためしに、それを聞いてみればハルヒは自信満々に腰に手をあて。

「そんなもんはね、後からついてくるのよ!」

 と、何とも心強い言葉を言ってくれた。

「まずは部員よね。葵はマネージャーだから最低あと二人はいるわね」
「おい、お前は長門さんを部員の数に入れてるのか」

 とうの、有希は別に嫌じゃないのか。本当に本を読めればそれでいいのか。先ほどから全くと言っていいほど顔をあげない。
 そしてハルヒは、キョンの言葉をまた聞いてなかったのか。的外れな言葉が返ってきた。

「安心して。すぐ集めるから。適材な人間の心当たりはあるの」

 どこをどう安心したらいいのか。と言いたげにキョンはまた一つため息をついた。
 ため息そんなについたら、幸せ逃げるよ。
 次の日、キョンは国木田と谷口くんの帰りの誘いを断り。私に声をかけて一緒に部室へ行くことに。
 部長と思われるハルヒは、チャイムが鳴れば「先に行ってて!」と叫び、走って教室を飛び出し。今はすでにどこかに行ってしまった。
 きっと、部員を捕まえにいったのだとエスパーしてみる。部長は行動が早いことで。
 通学鞄を肩に引っかけて、キョンは気乗りしない足取りで文芸部に向かい。私はその様子に笑いが漏れる。

「なんか楽しいことに巻き込まれたね」

 私はキョンの横に並び、見上げれば。キョンはやれやれと、ため息をつく。

「そう思ってるのは、おまえぐらいだ」
「えー、そうかな?」

 軽い足取りの私は、キョンの前に出ると振り返り。キョンの顔の前で指を振る。

「でも、めったに無いことだよ。楽しもうよ」

 ね、っと首を傾げると、キョンは苦笑いを浮かべた。うむ、キョンよ、そのいきだ。
 昨日と同じ道を通り、部室へとつけばそこにはすでに有希が座っていた。
 これまた昨日と同じ姿勢で、場所で読書をしている有希は私たちが来てもやっぱり、ぴくりともしない。
 有希さん、今日は本違うんだね。

「なあ、文芸部ってのは本を読むクラブなのか?」

 キョンは私の耳元で囁く。息がこそばゆい。

「えー、違うでしょ。こう、文集作ったり、何か文化系のクラブする所じゃないの?」

 よく知りもしない文芸部の活動内容を推測で話せば、キョンは少し納得したのか、顔を上げ有希をみた。
 沈黙が辺りを包む。うーん、気まずい。

「……何を読んでんだ?」

 私がいつものように、椅子を有希の側に引きずっている時。
 キョンは有希へと話しかけるが。有希はその問いに、返事の代わりにハードカバーをひょいと持ち上げて背表紙を見せた。
 何やらカタカナで書かれた、今にも眠くなりそうな文字がゴシック体で踊っていた。
 中を少し見るかぎり、SFか何かの小説らしい。

「面白い?」

 有希は眼鏡のツルに指をやって、無気力な声を発した。

「ユニーク」

 キョンはこちらを向くと、肩をすくめた。
 いつもこうだから、気にすんな。
 私の様子にどう思ったかは知らないが、キョンは諦めずまた尋ねる。

「どういうとこが?」
「ぜんぶ」
「本が好きなんだな」
「わりと」
「そうか……」
「……」

 外にいる、鳥のなきごえが聞こえる。静かだな。下手したら埃の落ちる音まで聞こえるのではないか。
 私は、鞄をテーブルに置くとキョンと目があう。

「帰っていいかな、俺」
「死刑だよ?」

 キョンは、ため息をつくと私と同じようにテーブルに鞄置く。
 私は暇そうなキョンと、じゃんけんでもしようと腕を上げたとき。閉まっていたドアが、壊れるのではないかと思うほどの勢いで開いた。

「やあごめんごめん! 遅れちゃった! 捕まえるのに手間取っちゃって!」

 冬に咲いた向日葵のような笑顔を浮かべて、明るい人物がやって来た。
 片手を頭の上でかざしてハルヒは、後ろに回された手で捕まれている人間と共に入ってきた。
 無理矢理連れて来られたのであろうか、入って来た少女は身体を小刻みに震わし辺りをみている。なんというか、ご愁傷さまです。
 ハルヒは彼女も入るとドアに備えつけられている鍵を閉め。
 鍵を閉める音に、不安げに震えた小柄な少女はハルヒを見た。

「なんなんですかー?」

 出てきた声は半泣きなのか、震えている。
 そりゃそうだ、見た感じきっといきなり連れてこられたのだろうからな。

「ここどこですか、何であたし連れてこられたんですか、何で、かか鍵を閉めるんですか? いったい何を、」
「黙りなさい」

 ハルヒの押し殺した声に彼女は体を一度大きく震わせると、肉食獣に追い詰められたうさぎのように固まった。
 ハルヒはその様子に、満足したように頷けば。私たちの方を向き。

「紹介するわ。朝比奈みくるちゃんよ」

 それだけ、言うとハルヒは黙りこみ。辺りには沈黙が。
 ハルヒは、先ほどと変わらぬ表情でみくるちゃんの側に立ち、自分の役割は果たした、後は任せたみたいな顔で立っている。
 隣に座る有希は、無反応で本を読み続けており。みくるちゃんは、今にも泣きそうな顔でおどおどしている。
 ふと、キョンの方を向けば、どうやらキョンは私が何か口を開いてくれると思っていたらしく。手のひらを向けて、どうぞどうぞとしてきた。
 いやはや、キョンこそどうぞどうぞ。
 私は腕を重ね、バツをつくればキョンは諦めたようにハルヒの方へ向き直る。

「どこから拉致して来たんだ?」
「拉致じゃなくて任意同行よ」

 やっぱり無理矢理系でしたか。

「二年の教室でぼんやりしているところを捕まえたの。あたし、休み時間には校舎のすみずみまで歩くようにしてるから、何回か見かけてて覚えていたわけ」
「じゃ、この人は上級生じゃないか!」
「それがどうかしたの?」

 不思議そうな顔をして、キョンの顔を見上げる。ハルヒは全く、何とも思わず彼女を連れて来たらしい。
 しかし、二年生か。ならみくる先輩だな。小柄で可愛らしい人だ。

「まあいい……。それはそれとして、ええと、朝比奈さんか。なんでまたこの人なんだ?」
「まあ見てごらんなさいよ」

 ハルヒは、指をみくる先輩の鼻先に突きつけ彼女の小さい肩をすくませれば。

「めちゃめちゃ可愛いでしょう」

 同じ女であっても、犯罪くさいと思ってしまう、言葉をいった。

「あたしね、萌えってけっこう重要なことだと思うのよね」
「……すまん、何だって?」

 キョンは頭をかかえる。ハルヒは至って真面目だ。

「萌えよ萌え、いわゆる一つの萌え要素。基本的にね、何かおかしな事件が起こるような物語にはこういう萌えでロリっぽいキャラと、それの相方のダブルヒロイン的キャラがいるものなのよ!」

 キョンは、みくる先輩を見れば。何かしらよからぬ事を考えていたのか。数秒動きが止まった。
 ちなみにダブルヒロインの相方は私らしい。まじですか。

「それだけじゃないのよ!」

 ハルヒ自慢げに微笑みながら、みくる先輩の背後に回り。突然抱きつくように、彼女の豊かな胸に手をやった。

「わひゃああ!」

 逃げ場を失ったみくる先輩は、叫ぶが。お構いなしなハルヒは、セーラー服の上から胸をわし掴みにし、揉み始める。
 形が変わる、胸がなんともやらしい。

「どひぇええ!」
「ちっこいくせに、ほら、あたしより胸でかいのよ。ロリ顔で巨乳、これも萌えの重要要素の一つなのよ!」

 ロリ顔、巨乳、そこに私は敬語キャラときたら最高だと思う。
 これは私の意見なので気にしないでくれ。

「あー、本当におっきいなー」

 終いにハルヒは、ぼやきながらセーラー服の下から手を突っ込んでじかに揉み始めた。
 うおーい、チラチラ見える腹にキョンが目をそらしたり、あわせたり。
 男にとっては堪らないか?

「なんか腹立ってきたわ。こんな可愛らしい顔して、あたしより大きいなんて!」
「たたたす助けてえ!」

 みくる先輩は顔真っ赤にさせ、手足をバタつかせてみるものの。いかんせん、体格の差でハルヒの魔の手から逃れられそうになかった。
 お大事に、みくる先輩。私は手をあわせて拝んでいれば。調子に乗ったハルヒが、スカート捲り上げかけた。
 ハルヒ、それはやりすぎ!
 私は立ち上がれば、キョンもハルヒを止めに入り。
 私はみくる先輩を、キョンはハルヒを引きはがした。みくる先輩、大丈夫ですか?
 私は、みくる先輩の背中を擦ると、励ますように声をかける。

「あの、胸はほら、揉まれるごとに。大きくなるって言うじゃありませんか」

 我ながら、どんなフォローだ。

「ぐすっ、ありがとう」

 みくる先輩は、手の甲で涙を拭うと。私を見上げ、目を見開き驚愕した。

「あなたは……」
「へ?」

 私は、相手の驚き様に驚き。マジマジと彼女の顔をみた。
 私がどうかしましたか?

「アホかお前は」

 はっと我に返り、キョンの方を見ると。
 ハルヒはキョンの腕を振り払い。キョンと向き直る。

「でも、めちゃデカイのよ。あんたも触ってみる?」

 みくる先輩は、私から視線を外すと小さく「ひいっ」と喉から悲鳴を漏らし。私の制服の裾を掴んだ。
 何だ、この小動物系の可愛い人は。
 キョンは、ため息をつきながら首を横に振る。

「遠慮しとく」

 そうしてくれ。もし触るなら、私のを触ってくれ。胸大きくなりたい。

「すると何か、お前はこの……朝比奈さんが可愛いくて小柄で胸が大きかったからという理由なだけでここに連れてきたのか?」
「そうよ」

 さも当然とハルヒはうなずく。

「こういう、葵とはまた一味違った。マスコット的キャラも必要だと思って」
「私って立場上どこについてるんだ」

 昨日はマネージャー、今日はマスコット的キャラ。
 ハルヒは私の方を向くと「あんたは私の秘書よ!」と指差された。
 わー、いつの間に偉く、ってか秘書って書記じゃだめか? マネージャーじゃだめなのか?
 みくる先輩は、私の制服の裾から手を離すと、自分の乱れた制服を叩いて直し。私を一度見たあと、上目遣いでキョンみる。
 先輩、悪いこと言いません、そいつあてになりませんから。
 みくるちゃんに見つめられるキョンはキョンで、困ったように頭に手をやる。

「はぁ」

 私は息をつく。
 この中でハルヒぐらいだろう、突っ走って、今の状況に困っていなく。もう心は燃え上がり、自分でも自分を止められずに走り続けているのは。
 いや、はなから止めるきなんてないか。

「みくるちゃん、あなた他に何かクラブ活動してる?」
「あの……書道部に……」
「じゃあ、そこ辞めて。我が部の活動の邪魔だから」

 返事を聞くや、ハルヒはすっぱりと切り捨て。
 みくる先輩はうつむき、またキョンを見上げるが、その奥にいた有希気づけば、驚愕に目を見開いた。
 うん? 知り合いでしたか?
 少しの間、そわそわと落ち着きなく、視線さまよわせれば。
 ため息のような声で「そっかー……」と呟く。
 そして、意を決したのか。

「解りました」

 と、力強い返答が返ってきた。
 本当にいいんですか?

「書道部は辞めてこっちに入部します……」

 みくる先輩はしゅん、と身体を小さくし悲愴な声を出す。

「でも文芸部って何するところなのかよく知らなくて、」
「我が部は文芸部じゃないわよ」

 当たり前のように胸をはって言うハルヒに、目を丸くするみくる先輩。
 キョン、私とハルヒの代わりに説明どうぞ。

「ここの部室は一時的に借りてるだけです。あなたが入らされようとしてるのは、そこの涼宮がこれから作る活動内容未定で名称不明の同好会ですよ」
「……えっ……」
「ちなみにあっちで座って本を読んでるのが本当の文芸部員です」
「はあ……」

 キョンが有希を指さすと、小さな可愛らしい口をポカンと開き、みくる先輩は言葉を失った。

「だいじょうぶ!」

 無責任なまでの明るい笑顔をうかべ。ハルヒはみくるの肩をどやした。

「名前なら、たった今、考えたから」
「……言ってみろ」

 無気力な期待値ゼロに近い、キョンの声が部室に響く。
 ハルヒは待ってました、といわんばかりに声高らかに、命名された新同好会の名を叫ぶ。

「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの……」
「同好会、とはいえないよね」

 口を挟まれたハルヒは、アヒル口に唇を尖らせながらも「そうね」と腕を組む。
 同好会だなんて、名前は部員もおり。活動方針のわかるものにあてられるものだ。
 しかし、この同好会はまだ同好会のどの字にも満たない。活動内容も、部員も何も無いのだからな。

「それだったら、団でいいじゃない」

 団? ならどうなるんだ名前は。

「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。略してSOS団よ!」

 SOS団、それは知らない人が聞いたら。お助け団になるのではないか。
 うむ、しかしいい名かもしれない。ハルヒのためのハルヒの団らしくて。
 私は、キョンに素敵じゃない? と尋ねれば。キョンは「何も言うきになれん」と首を横に振り。
 みくる先輩は、反論するのも諦めたように口を閉ざし、有希は元からどうでもよいらしく、先ほどから部外者と化してる。
 三者三様の反応ですこと。

「毎日放課後ここに集合ね」

 ハルヒはそう全員に言いわたし、その日は解散となった。お疲れさまでーす。
 私とキョンは、有希とハルヒに別れを告げると、肩を並べて歩き。
 先を行く、小柄で可愛らしい上級生の後ろ姿をみた。
 肩を落として廊下をトボトボ歩くその背中には哀愁が漂っている。
 まるで、今日部長にしかられて、女子社員にも疎まれて、俺どうしよう。と新人サラリーマンの心情を映した後ろ姿のようだ。

「朝比奈さん」
「何ですか」

 キョンの声に振り返れば、純真無垢な顔をこちらに向け首を傾ける。

「べつに入んなくていいですよ、あんな変な団に。あいつのことなら気にしないで下さい。俺とこいつで後から言っときますから」
「いえ」

 立ち止まれば、みくる先輩は目を細めて柔らかい笑みをむけてくれた。
 正直たまらん可愛さ。

「いいんです。入ります、あたし」
「でも多分、ろくなことになりませんよ」
「大丈夫です。あなたと、葵ちゃんもいるんでしょう?」

 ええ、おりますとも。

「おそらく、これがこの時間平面上の必然なのでしょうね」

 遠くの方をみつめる、みくる先輩は「ほう」と、ため息をつき。
 私とキョンは、聞き慣れない言葉に「へ?」と間抜けな声を上げた。

「それに長門さんと葵ちゃんがいるのも気になるし……」
「気になる?」
「私と有希が?」

 気になることがあるのなら言ってくれたらいいのに。みくる先輩からの質問ならば、例え世界が終ろうとも答えますとも!
 キョンと私は顔を見合わせ。私は首を傾げる。

「え、や、何でもないです」

 みくる先輩は慌てたように首を横に振り。そのたびに、ふわふわの髪が揺れる。
 そして、照れ笑いをしながら深々お辞儀され。私もそれにならい腰を折る。

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 お互いに身体を起こせば、みくる先輩は天使の笑みを浮かべた。

「まあ、そう言われるんでしたら……」

 キョンは、まだ少し先ほどの言葉が気になるのか少し歯切れの悪い返事をした。

「それからあたしのことでしたら、どうぞ、みくるちゃんとお呼び下さい」

 よし、ではみくる先輩改め、みくるちゃん。これから、宜しくお願いします。
 私は手を差し出し握手を求めれば。みくるちゃんは、にっこり微笑みその手をとった。
 小柄な天使は、手まで小さく可愛いかった。

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