些細な違和感を感じたのはそうだ。日めくりカレンダーを捲った時だった。
 日めくりカレンダーをやぶった後に現れた数字に、私は見覚えと共に思わず机の上にある携帯電話を見た。
 久しぶりに朝から起きたため寝ぼけているのだろうか。なぜかそろそろ電話が来るのでないかと予感がし、私が破ったカレンダーを丸めてゴミ箱に入れた時だ。
 リズミカルな音楽が、携帯から鳴りだしバイブで震えあがり机を揺らす。
 私は慌てて携帯電話を取り、耳元に当てれば聞き覚えのある声が、返事をしない私に対して少し不信そうに名前を呼んだ。

「ああ、ハルヒごめんごめん! 少しぼーっとしてた」
『何よ、もう夏バテ? 夏はまだまだこれからよ』

 ハルヒは電話の向こうから、少し怒鳴り気味に言い。私は乾いた笑いを漏らした。

「それで、今日はどうしたの?」
『ああ、そうだったあんた今日も暇よね』

 まあ、暇と言われたら暇だ。だからどうした、どこかに行くのか。

『二時ジャストに駅前に全員集合だから。ちゃんと来なさいよ』

 二時ジャスト? 全員ってことはみくるちゃんや古泉くん有希にキョンSOS団全員集合ってことか。

『持参物は、水着とタオル、それと十分なお金。あとあんたは自転車で来なさい、わかったわね』

 はいはい、プールの用意にお金、自転車ね。任せてください。

『それじゃあ二時よ、遅れたら死刑だから!』

 ハルヒはそれだけ言えば、電話を切り私は携帯電話を見た後ベッドに寝そべり。天井を仰いだ。
 昨日は普通に八月のお盆あけだったよな、それにしてもこの違和感はなんだ、確か昨日は宿題を頑張って終わらせたような終わらせてないような。
 枕を抱き、顔を埋めて唸ってみるが何一つ変わらず。私はモヤモヤを追い払うため、洋服タンスを開け、中から目的の物を取り出し私はそれを自分の身体に合わせた。
 夏最後となるであろう水着は、嫌に見覚えがあり。それは部屋にあるから見覚えがあるってわけでなく、こう、デジャブに近い感覚が私を襲う。
 きっと、夏バテによる視覚の問題で私は疲れてるんだなと思うことにして、私はそれをビニールバックの中へと突っ込んでいった。


 二時、三十分前に駅前へと向かえば、既にみくるちゃん、有希、古泉くんの三人が揃っており。みくるちゃんは私を見つければ、手を振り。天使の微笑みをこちらに向ける。ああ女神さま、貴女ほど可愛らしい方は他にはおりませんよ。

「おはようございます葵ちゃん」
「おはようみくるちゃん」

 私は自転車の鍵を手の内に持ち、上品なリボン付きの帽子を被る年上の先輩が持つバスケットを見つめておれば。みくるちゃんはそれを肩の高さまで両手で持ち上げ、悪戯を仕掛けた子どものような無邪気な笑みを浮かべる。

「これ、気になります?」

 気にならないって言ったら嘘になる。なんなんですか、それ。

「後のお楽しみです」

 みくるちゃんはバスケットを下ろし、人差し指を口元に押し当てウィンクをする。うーん後が楽しみだ。

「おはよう古泉くん」

 みくるちゃんから視線をそのまま横にスライドさせれば、笑みを浮かべたまま立っている古泉くんへといきついた。

「おはようございます」
「この前はありがとうね」

 この前、前回行われた孤島の時の約束どおり遊園地へと行ったのだが。それはそれは充実した時間を過ごせた。

「いえ、こちらも葵さんと楽しい時間を過ごせてとても有意義な一時でした」

 古泉くんは笑みを深くし、私は頭をかき恥ずかしさに視線をそらした。その横を見れば、有希が高校の夏の制服を着て汗一つ流さず私を凝視している。

「有希おはよう、この夏何か楽しいことあった?」
「とくに」
「そっか」

 有希は微妙に、前に顔を傾け頷けば、また私の顔を凝視しどうしたものかと、頬をかいておれば。ハルヒがビニールバックを片手に、こちらに向かって来た。
 今日もその姿を見ているだけで元気になれそうだ。

「おっはよー! 皆揃って居るわね?」
「おっはようー! キョンがまだだよ」

 元気な挨拶と共に、私たちを見回しキョンがいないことをしれば、いつものように唇を尖らし眉を寄せるかと思えば。今日はどうやら機嫌がいいのか、「しょうがないわね」と言うだけで腰に手をあて駅前にある時計を見上げた。
 二時、十五分前。キョンが姿を現した。ハルヒはそれをいち早く見つければ、ビニールバックを振り回し。

「遅いわよ、キョン。もっとやる気を見せなさい!」

 ご機嫌な顔でキョンに人差し指を突きつけた。


「みくるちゃんも有希も葵も古泉くんも、あたしが来る前にはしっかり到着してたわよ。団長を待たせるなんて、あんた、何様のつもり? ペナルティよ、ペナルティ」

 キョンは私がハルヒの前に来たことに対して、珍しく映ったのか驚きに目を丸くさせ。私の頭を軽く手を載せ、ハルヒを無視すれば団員たちに片手を上げた。

「待たせてすみませんね」

 帽子の下で、みくるちゃんはまろやかに微笑んで、キョンに頭を下げた。

「だいじょうぶです。あたしも今来たとこ」

 どこがだみくるちゃん、私が来た時には既に居たじゃないか。まあそこは相手に気をつかわせないように、ってことなのだろうが。
 キョンはみくるちゃんの手に持つバスケットが気になるのか、見つめており何か淡い期待に思いをはせているのか楽しそうに顔が緩んでいっている。

「お久しぶりですね。あれからまた旅行にでも出かけていたのですか?」

 古泉くんは白い歯を見せつつ、キョンに向かって指をたて、みくるちゃんとの話に入ってきた古泉くんに対しキョンは嫌な顔をした。
 そして視線をその横に転進させ、有希をみれば有希は先ほどと変わらぬ無表情で、汗一つかかず立っている。その傍らで、古泉くんがキョンに対して肩を竦め苦笑いを浮かべた。

「…………」

 有希は動かない犬が歩行するオモチャを見るような目付きで、キョンを見上げゆるりと首を微かに傾けた。

「それじゃあ、全員も揃ったことだし、出発しましょ」

 ハルヒは声を張り上げる。

「どこに?」
「市民プールに決まっているじゃないの」

 市民プール、それは市民のために設けられた小さなプールだ。今のシーズン、親子連れ、特に幼稚園児、小学生のお子さんが多いことだろう。キョンは自分が持つ、スポーツバック見下ろす。

「夏は夏らしく、夏じみたことをしないといけないの。真っ冬に水浴びして喜べるのは白鳥とかペンギンくらいなのよね」

 あと白熊、アザラシも入れてあげてくれ。ところで夏と言えば、そういう寒い地域に住む動物達に暑中お見舞と称して、リンゴや魚とその動物の好物を氷に閉じ込めてあげていると聞いた。実にいい、実に羨ましい。

「失った時間は決して取り戻すことは出来ないのよ。だから今やるの。このたった一度きりの高一の夏休みに!」


 いつもの調子に言うハルヒ。
 オウ、イッツア青春。失った時間は決して取り戻すことは出来ない。それは、その言葉だけを取り出せばなんとも重たい響きだ。確かに失った時間は取り戻すことはできない。だがな、これからは作り出せるのだ。さあ行こう市民プール!

「プールまでは自転車で行くわよ」

 ちなみに古泉くんも聞けば自転車で来たらしく、残りの女子三人は徒歩で来たとのことだ。どう分けるつもりだ。

「どうやって分けるんだ」
「二人乗りでいいじゃない。古泉くん、あなたはみくるちゃんを乗せてあげなさい。有希は葵に乗せてもらいなさい。あたしはキョンの後ろに乗るから」

 有希は私へ顔を向け、私もその無表情な姿を見れば。キョンが眉を寄せハルヒを止めた。

「ハルヒ、こいつに二人乗りさせる気か」
「そうよ、それ以外誰がやるっていうのよ」

 ハルヒは腕を組めばジロリとキョンを睨み、キョンは言いにくそうに口ごもりながら頭の後ろに手をやりハルヒから視線を反らし唸る。

「言いにくいんだがな、あいつの二人乗りは最高に酷い。あれに乗るんだったら乱暴運転のバスに乗ったほうがマシだ」

 心外だ。これでも安全運転で漕いでるんだぞ。
 ハルヒは一度こちらを向けばキョンへ向き直り「本当なの?」と尋ねた。

「ああ、特に酷かったのは高校に入る前だったな。漕ぎだしたかと思えばよろけだしてな、そのまま溝に自転車のタイヤがはまった時の痛さは今でも忘れられないな」

 キョンは意地悪そうに笑えば、私の方を横目で見てきた。カチンと頭にきた、どうせ私は運転下手ですよ。

「でもね、私の自転車に乗るから乗らないかは有希が決めることですよ」

 話を振った有希に全員の視線が集まり、皆その無表情に無言でどうするのかと尋ねるが。当の本人は白けた顔で、微動だにしない。

「えーっと有希さん、私の運転する自転車でもいい?」

 そのままにしておくと、暫くの間皆でこの駅前で立っていてそうな気がし、私は有希の服の裾を少し引っ張り尋ねれば有希はゆっくりとした動作で顔をこちらにむけ二言「いい」とだけ口を動かし。また口を閉じた。

「ほ、ほら有希はいいってよ。ほら決まり、さあ行こうくずくずしてると時間限られちゃうよ!」

 私は有希の返事を聞けばハルヒの背中を急かすように押し、後から着いてくるみくるちゃん古泉
くん。その後ろを有希に何か耳打ちしているキョンがおり。


 私はそんな四人を横目で見ながら、また微かなデジャブに襲われ。首を捻るのだった。

 そんなわけで、私は細心の注意をはらい荷台に有希を座らせ自転車を漕いでいく。トロトロふらつきながらも進んで行く私に、前を行くキョンとハルヒが不安そうに時折こちらを向くのはなぜだろうか。特にハルヒなんか「大丈夫なの? いざとなったら変わるわよ?」なんて言ってくる始末だ。
 私は大丈夫だ、それにそれではせっかくハルヒがキョンと二人乗り出来たのに、邪魔することになるじゃないか。

「ねえ葵、本当に大丈夫なの?」
「だい、じょう、ぶ」

 私はキョンの自転車のステップに足をかけ、立ってキョンの肩に手を乗せるいるハルヒの後ろ姿を懸命に追いかけながらふと思った。

「ハルヒ、座ってキョンの腰に手を回したら?」
「な、なにバカなこと行ってるのよ!」

 ハルヒは顔を赤らめて、振り返れば片手をふりかざし私に抗議をするが。ハルヒ、それではこっちの思う壺だぞ。

「何、間抜けな面してるのよ」
「いやいや青春だなと思ってね」

 間抜けな面、きっと今私はニヤケてるのだろう。いやあ、人の恋模様は蜜の味ってね。いや、それは違うか。
 だいぶ運転にも慣れた時、突然今まで体重の重さも感じなかった有希が、手を伸ばし私の腰に手を回した。

「有希?」

 そして頭を私の背中につけ、密着してくる。初めての有希の行為に、私は身体を強ばらせ背筋を伸ばせば前からキョンの声がし自転車が跳ねたかと思えばバランスが崩れ、横に自転車が斜めになる。ああ、そっかキョンは段差があるって言いたかったんだ。
 私はとっさに足をベダルから離し、片足を地面につけ着地しようと試みるが後ろには有希がおり、有希が振り落とされないか心配になり振り返ろうとすれば。聞きなれた早口言葉が耳に入り、同時に斜めっていた自転車も立ち直りペダルから離れていた足も元の位置に収まり。再びデジャブが私を襲う。
 ああ、確かこの後って。

「いやあぁぁ!?」

 ベダルが目にも止まらない速さで回りだし、膝がガクガクしだし目の前なんてまるで電車の中から窓の外をみたように景色が次々に移り変わる。
 キョンの自転車の横を通り過ぎる際、キョンが有希に対して「長門やりすぎだ!」と言ったのから考えてきっとこれを仕組んだのはキョンなのだろう。あの時耳打ちしてたのはこれだろうか。とにかくだ、誰か止めてくれ。


「古泉くん、みくるちゃんー!」

 荷台に横座りして、古泉くんの腰に手を回していたみくるちゃんは涙目になって自転車を漕いでいる私に目を丸くし「葵ちゃん!」と声をかけ、返事をするまえに私は二人の横を通り過ぎた。
 通行人の皆さんご注意ください。

「有希だめ、とめ、やっ!?」

 移り変わる景色の中、目の前に一人の老人が入る。いや、待て有希、目の前にご老人がいるんだ止まれ今なら間に合う。

「だいじょうぶ」

 ぼそりと有希が呟けば、自転車のタイヤが急回転し真上に飛んだ。わーい、私いまスッゴい飛んでる!
 下にタイヤが着くと同時に、自転車は元の速度でその場を突き抜け放心状態の私はそのままの状態で市民プールへと向かい。着いた時には、もう既に息は切々だった。

「葵、あんた凄いじゃない!」

 追いついたハルヒは自転車のハンドルにもたれかかっている私の背中を叩き、輝いた眼差しが私を見つめる。

「最初の頃はフラフラしててあぶなっかしいって思ってたけどあんな凄いことが出来たのね!」

 私は乾いた笑いを漏らしハンドルから起き上がり、ハルヒに軽く手を振りお礼をいう。

「帰りは私と二人乗りしましょ、あのスピード体感しなきゃ損だわ」

 それはぜひとも遠慮したい。やめて、私のライフはもうゼロよ!
 私は冷や汗をだらだら流し、どう断ろうか悩んでおればキョンが私の肩を後ろから掴み引き寄せる。

「お前は帰りは俺の後ろに乗れ」
「あ、うん、そうする」

 いつの間にか皆自転車を直していたようで、ぞろぞろと古泉くんとみくるちゃんもやって来た。

「ひとまず、それ直してこい」

 有希も私の腰から手を離し、荷台から降りれば。私は頷きその自転車を駐輪場まで押していく。
 しかし、足が震えて今でも心臓がバクバクしている。先ほどから襲われてたデジャブも忘れるほど激しかったからな。

「それじゃあ後で、中で会いましょう」

 ハルヒは私の手をつかみ女子更衣室へと向かい、私は向こう側の更衣室へと去っていくキョンと古泉くんに手を振りハルヒに続いて更衣室へと足を踏み入れた。

「そうそう、これよ! この匂いに水浸しの床! いかにも市民プールだわ!」

 更衣室にはしゃぐハルヒは、空いているコインロッカーを見つければ私を引っ張っていき、靴を脱ぎ捨てすのこに足を乗せハルヒは大胆に服を脱ぎ捨てた。


 私は思わず顔を反らすが中にはどうやら水着を着ていたようでまだ着替えていない私たちを見れば「早く着替えなさいよ!」と急かし始めた。

「ま、待って」

 私は下に水着を着ているほど準備満タンではない。中の物を脱ぎ捨て、水着を履けば髪を上のほうで結び上に薄いパーカーを羽織り、みくるちゃんの手を引っ張って先に更衣室の出口を潜り抜けるハルヒの後を追いかけようとすれば。
 後ろから有希が手を引き、突然の有希のアプローチに驚き目を丸くさせれば。有希は私のロッカーを指さし「鍵」と一言、私がロッカーに鍵を閉め忘れていることを言い。私は慌てて有希にお礼を言いつつ、百円を入れて鍵を回す。
 このロッカーも実に懐かしい。確か帰る時、鍵をまた差せば百円戻ってくるんだよね。
 私は横で待っていてくれた有希の手を取れば、有希の表情が微かに動き、繋いだ手から視線をスライドさせ私の顔を二つの瞳がとらえる。

「有希行こっか」

 有希は微かに頷けば、私はハルヒの消えたプールへと繋がる入口へ駆けていった。

 光が射すコンクリート製のプールサイドに足を踏み入れれば、子どもたちの楽しげな声と共にプールの係員の厳しい注意が飛び交う。
 五十メートルプールが一つ、子ども用の水深十五センチくらいのプールが一つ。実にチャチであり、実に市民プールらしい。

「葵! 有希!」

 私たちはキョンやハルヒを見つけようと当たりを見回しておれば、突然声をかけられ振り返ればプールの水に浸かっているハルヒの姿を見つけ私と有希は人の波をかい潜りハルヒの元へ行き、キョン達がどこにいるのか尋ねれば。ハルヒは影のある端の方を指さし、私は有希にハルヒと居るように言い三人の元へと向かった。

「キョン、みくるちゃん、古泉くん」

 敷物をしき、鞄を置いている三人の元へと手を振り。いち早く気づいたみくるちゃんは、私に手を振り替えしてきた。

「葵ちゃん何か置く物ありますか?」
「あっなら、この上着お願いします」

 私は着ていた上着を脱ぎ、みくるちゃんに手渡せばみくるちゃんはそれを綺麗に畳み敷物の上にちょこんと置いた。

「それじゃあ、行きますか」

 先ほどからハルヒがこちらに向かって手を振っている姿が見える。その傍らでは有希がプールサイドに座っていた。

「早くしなさい!」

 ハルヒはついに痺れをきらしたようで、大声で叫び周囲にいた大人と子どもは振り返りこちらを向き。私は一瞬他人の振りをしたくなった。
 ハルヒさん、声があきらか大きいです。

「んでハルヒ、何するの?」

 まるで行水をしているかのようにプールに浸かる私たちSOS団は円になり、主導権を握る我らが団長ハルヒを見た。

「することは一つよ! 競争よ競争!」

 競争ね。いったいこの人だらけのプールでどうやって泳ぐんですか。

「頑張れば進めるわよ」
「いや、なるべく他のお客さんの迷惑にならないようにね」

 監視員が先ほどから何度かチラチラとこちらを見てくるが、ハルヒはことごとくそれに気づかず。私も監視員の視線はみくるちゃんの水着を見ているのだと思うことにした。

「それじゃあ一例に並びなさい!」

 ハルヒの号令と共に私たちは横に並び、向こう側にある競技用の飛び台が小さく見える。

「よーい、どん!」

 合図と共に横にいた有希はすぐさま潜り、続いてハルヒ、古泉くん、キョンと潜っていきみくるちゃんは皆が潜っていく中オドオドしており。私はそれを横目で見ながら、潜ることもしなずプールの中を進む。
 さすがに六人全員がこのプールで泳いだら大変なことになる。
 歩いて半分過ぎたころ、有希はとうの昔に向こう側についており。続けてハルヒが向こう側に着いた。

「葵! みくるちゃん! 後半分よ、気張んなさい!」

 水が滴る髪が顔に張り付かせたハルヒは、私とみくるちゃんに手を大きく振り。私は後ろに居るであろうみくるちゃんが気になり、後ろを向けば当の本人は息をきらしており。目の前にビーチボールが飛んでこればそれを律儀に返しており、一向な進む気配がない。

「みくるちゃん大丈夫?」

 心配になり声をかければ、みくるちゃんは顔にかかる水を拭い私を見れば、ふんわりと笑い手を横に振る。

「あたしはだいじょうぶ。葵ちゃんは先に行っててください」

 みくるちゃんはそう言えば、また潜り。私もみくるちゃんの言葉に従い、後ろを気にしながらも向こう側に着き、壁に手をついて横を見れば。水が滴る髪をかき上げ私を見下ろすキョンの姿があった。

「…………どうも」

 引き締まった体に、妬けた肌。水に濡れてどこからともなく男のフェロモンをかもしだしているキョンに私は息をのみ視線をそらす。


「おい、どうかしたのか?」
「いえいえどうもしませんよ」

 突然顔をそらした私に、キョンは不思議に思ったのか覗きこもうとしてくるが、きっと今ごろ私の顔は赤くなっているだろう。慌てて水の中に潜り目を固くつむりそれを隠そうとするが、突然柔らかい物が私の顔を覆い、息苦しさにもがけば身体に閉じ込めていた空気が口から吐き出され、水面に伸ばした手を誰かが掴み引き上げられた。

「おい! 大丈夫か!?」
「な、なんとか大丈夫」

 掴み上げたのはキョンで、むせながらも息を吐き出し吸い込めば。いつの間にかこちらに着いていたみくるちゃんが、私の背中を擦り「すみません」と一言呟いた。

「葵ちゃんに気づけなくて……」

 目尻に涙を溜め、シュンと小さくなるみくるちゃんに、私は先ほど押しあてられた柔らかいものがみくるちゃんの胸だと言うことを知った。
 いえいえみくるちゃん、あなたのその豊満な胸で死ねるのだとしたら後悔も何もありませんよ。
 なんて変態な返事を返せるわけもなく。私は首を横に振り「大丈夫です」とだけ言った。

「葵、どうかしたの?」
「ううん、なにもないよ」

 私を間に挟み、片方は私の手を掴んでおり片方はウッスラと涙を浮かべ私の背中を擦っており。端から見たら何か大事が起きた後みたいだ。
 ハルヒはザフザブと水を掻き分け進めば、私の目の前に来て顔を覗き込む。

「ハルヒ、本当大丈夫だから」

 頬につく水で濡れた髪を、私は耳にかけ苦笑すれば。ハルヒは眉を寄せ、蚊帳の外である古泉くんを呼び私の手を掴む。

「古泉くん、この子プールサイドに上げて影で休ませてあげて」
「えっ、本当大丈夫だよ」

 まさかみくるちゃんの胸に溺れそうになりましたとは言えず。ハルヒは私の手を古泉くんに渡せば、古泉くんはその手を取り私に微笑んだ。

「それでは行きましょうか」
「本当大丈夫なんだけどな」

 古泉くんは私がプールサイドに上がるのを手伝ってくれれば、自分も上がり。そのまま私の手を繋ぎ荷物の置いている場所へと歩いていく。

「どうぞ葵さん」

 古泉くんは日陰になっている位置に、座るよう促し。私は有りがたく座らせてもらうことにした。

「はあーしっかし、人が多いね」

 母親が子どもに手をひかれ、目の前を駆けていく姿を目で追いかけ、私の隣に座る古泉くんを見れば古泉くんは珍しく眉を寄せ、何かに対していぶかしそうにしていた。


「古泉くん?」
「すみません、少し気になることがありまして」

 古泉くんは名前を呼べば苦笑いを浮かべ私へと振り返り、申し訳なさそうにして、また前を向いた。もしかしたら古泉くんも私と似たデジャブに襲われているのだろうか。

「……古泉くん、あのさ。お盆あけに入って何かデジャブ感じたことない?」

 何気なく、尋ねてみれば。予想に反して古泉くんは大喪驚いた様で、目をまん丸に見開き私を見つめ、口を震わせ何か言いかけようとした時。

「ヒューヒュー姉ちゃんに兄ちゃん、熱いねー」

 頭にゴーグルをつけた小学生の男の子たちが、私たちの前を冷やかしながら通りすぎ。いきなりのことに私と古泉くんは茫然とその姿を見届けた。

「やっぱりこうやって男女二人だけだと、カップルに見えるものなのかな」
「一般的に見た場合、そのように勘違いする方は多いでしょう」

 体育座りをしてSOS団の四人の方を見つめながら呟けば、古泉くんもそちらを向き笑った。
 そういえば、キョンの姿が見えないなと視線をさまよわせれば突然頭に私の上着がかかり、驚きに見上げれば。キョンが息を吐き出し、こちらを見下ろしていた。

「お前はそれも羽織っておけ」
「キョン、あのさ……」

 上着を頭からどけてキョンを見つめたまま、デジャブを言うべきか言わざるべきか、しばらく止まっておれば。キョンは不思議そうにこちらを見下ろしており、私は顔をそらし「やっぱりいい」と上着を羽織った。

「そういえば、別に上着羽織らなくてもよくない?」

 特に誰か見てるわけでもないし、肌寒いわけでもない。そう考えると上着はいらなくないか。



「……いや、その、だな」

 キョンはどもりながら、視線をそらせば顔に手をあてて唸り。しゃがみこめば、私の頭を軽く押さえつけ「いいから着とけ」とぶっきらぼうに言った。

 その後、ハルヒと有希は五十メートルプールを五往復したのち。SOS団女子三人は、たまたま居合わせた小学生グループといつの間にか仲良くなり、一緒に水球ごっこを始めた。すっかり手持ちぶさたとなったキョンと古泉くんは、プールサイドに座り込み水と戯れるハルヒたちの様子を眺めている。
 実に目には優しい光景だ。

「楽しそうですね」

 古泉くんはハルヒたちを見つめて、一つ笑えばキョンへと向き直る。

「微笑ましい光景です。それに平和を感じます。涼宮さんも、けっこう常識的な楽しみ方を身につけてきたと思いませんか?」

 確かに、初めの頃のハルヒと比べれば幾分か丸くなり。今日の遊びなんかも、普通に青春真っ只中の私たち、高校生の夏の一ページにすぎなく見える。
 問いかけられたキョンは、古泉くんを横目で一瞬見ればまた前を向き、一旦息をつく。

「いきなり電話かけてきて一方的に用件だけ言って切っちまうような誘い方はあまり常識的とは言えないだろ」
「思い立ったが吉日という言葉もあることですし」

 キョンはそれに対して鼻で笑い、呆れた口調で言う。

「あいつが何かを思い立って、それで俺たちが凶以外のクジを引いたことなんてあったか?」

 ああ、あったとも。私にとっては今までの出来事は確かにその当時は大変なものばかりであったが、今となってはいい思い出だ。
 凶も一年過ぎれば大吉を引いたようにいいものに変わるではないか。それにな、もし凶を引いたのだとしたらそれはとてもラッキーなことなんだ。凶以外ならばそれ以上に下に落ちていくことがあるが、凶の場合それ以上下に落ちることがないんだ。
 いや、大凶があったか。
 古泉くんはにこやかな口調で、

「それでも、僕から言わせてもらえばこんなのは充分以上に平和ですよ。ああやって楽しげに笑っている涼宮さんは、この世を揺るがすようなことはしないでしょうからね」
「だといいのだが」

 キョンがわざとらしくため息をつき、古泉くんはそれに軽く鼻を鳴らすように笑い……、また奇妙な表情をした。
 キョンにとっては見慣れない表情なためか、キョンも眉を寄せ首をかしげる。


「ん?」

 古泉くんは眉を寄せるような仕草を取れば、キョンは「どうした」と尋ねるが、古泉くんは歯切れ悪く言いよどむ態度を作り、首を軽くふりまるで何かを振り払うようにした。

「たぶん僕の気のせいです。春先から色々あったせいで、ちょっと神経質になっているだけでしょう。あ、上がってこられましたよ」

 古泉くんが指した方向から、せかせかとハルヒが足元を水で濡らしながら歩いてくるのが見えた。先ほどまでプールに入っていたというのに、満面の笑みを浮かべ疲れた様子など微塵にない。
 その後から、お嬢様の側近のように付き添うような雰囲気でみくるちゃんと有希がついてくる。

「そろそろゴハンにしましょう。なんと! みくるちゃんの手作りサンドイッチよ。時価にしたら五千円くらい、オークションに出せば五十万くらいで売れるわね。それをあんたにタダで喰わせてあげるんだから、あたしに感謝なさい」
「ありがとうございます」

 キョンはみくるちゃんに向かって頭を下げ、お礼を言えば古泉くんもそれに倣い頭を下げた。

「恐縮です」
「いえ、いえ」

 みくるちゃんは照れ気味にうつむき、指先をもじもじさせる。その姿は愛らしく、後ろから抱きしめたい衝動に駈られる。

「うまくできたかどうか解らないけど……。美味しくなかったらごめんなさい」

 何を言いますかみくるちゃん。貴方の作った物に不味い物なんてありませんよ。

「みくるちゃんのサンドイッチ、楽しみだな」

 持ってきたバスケットを開け、みくるちゃんは照れ笑いをし「どうぞ」と全員にサンドイッチが見えるようバスケットを置いた。
 そして一緒に入っていた水筒と紙コップを取り出せば、それに湯気の立ち込める熱いお茶を注ぎ全員に手渡す。その熱いお茶はこの暑い空間には実に不釣り合いだがこの際、気にしない方向で。
 全員が一つサンドイッチをバスケットから取り出し、口に含めばみくるちゃんは顔を強ばらせ全員の顔色を伺う。やはり作っている方からすれば気になるのだろう。
 私は口を動かし、飲み込めばみくるちゃんに微笑み「美味しい」と一言でも言えば。みくるちゃんのバックに花が咲き、それはそれは嬉しそうにだがなんだか恥ずかしそうに微笑み。私の頬も緩む。

「ありがとう葵ちゃん、よかった。色々入れちゃったから、味心配だったの」

 みくるちゃんはホッと安堵したのか、自分の分のサンドイッチを一切れ取り頬張る。


「さすが朝比奈さん、色使いといい具の選抜といい文句なしですよ」

 キョンは一つ食べ終われば、デレデレと鼻の下を伸ばしコレでもか、と言うほど誉めちぎった。
 みくるちゃんはそれに律儀に「ありがとう」と答え、照れておれば、ハルヒはそれが面白くなかったのか小さく頬を膨らませ、

「これぐらい、あたしだって作れるわよ」

 とみくるちゃんのサンドイッチをまた一つ、口の中に入れた。
 ははーん、ハルヒさん嫉妬ですね。嫉妬ですか。

「な、なによ葵。変な顔して」
「いやいや別に、ハルヒは可愛いな本当。作る時呼んでよ、キョンの好きな具材教えるから」

 私は指についたサンドイッチのカスを舐めとれば、ハルヒは夏の暑さとは違う熱に顔を赤くし「あんたバッカじゃないの!」と叫び残りのみくるちゃんのサンドイッチを頬張り、お茶でそれを胃に流しこんだ。そして自分の分を食べ終われば立ち上がり。

「もう一泳ぎしてくるわ。みんなも食べ終わったら来るのよ」

 そう言い残し、再びプールに飛び込んだ。ご飯後の運動はあまりよろしくないと聞いたことがあるが、ハルヒを見るとそんなの出任せではないかと思えてくる。
 しかし、今更ながらからかいすぎたかな。
 私はお茶をすすり、次のサンドイッチに手を伸ばす。

「あれ、有希今日どうしたの?」

 サンドイッチを口に含み、動かしながら隣を見ればいつもならばハルヒに並みに食べるのが早い有希が、それはそれはゆっくりとサンドイッチを食べていた。
 ペース的に私が一つ食べてやっと有希が一つ目の半分を食べ終わったぐらいだ。

「長門だってゆっくり食べたい時があるんだろ」
「そうなの、有希?」

 キョンは最後のサンドイッチに手をつけ、お茶を飲む。私はその様子を横目でみながら有希に尋ねれば、有希はしばらく間を開けたのちサンドイッチを口から離し「そう」とだけ呟き、またサンドイッチに口をつけた。

「ごちそうさまでした」

 次に食べ終わったキョンは手を合わせていい、みくるちゃんに再度お礼を言えば。それに続き古泉くんもみくるちゃんに頭を下げて、お礼を言う。

「お粗末様です。ふふっ、喜んでもらえてよかった」

 みくるちゃんは口元に手をあて、嬉しそうに笑えば。二人にお茶のお代わりを注ぎ、自分もお茶を飲んだ。
 いつの間にか私と有希以外の三人は食べ終わっていたらしい。


「おい、葵。俺たちは先にハルヒの方行ってるが、二人だけで大丈夫だな?」
「大丈夫大丈夫、そんな私たち小学生じゃないんだから。有希が食べ終わったら、そっち行くよ」

 のんびりとお茶を飲み、立ち上がりこちらを見下ろすキョンたちに向かって私が大丈夫だと手を振る。

「それではお先失礼します」
「何かあったらすぐ呼べよ」

 そう言うと、三人はプールの中でいつの間にか仲良くなった女子小学生たちと水中ドッジボールをするハルヒの元へと向かい、私はその後ろ姿に手を振り続けた。
 しっかし、ハルヒは本当に小学生並みに元気だ。私はお茶のお代わりをまた注ぎ、隣で黙々と食べる有希を見た。

「有希、美味しい?」

 有希は止まれば小さく頷き、また食べはじめる。宇宙人が未来人が作ったご飯を食べている。それを想像すると実に滑稽な姿だ。いや、それを横で見ている異世界人もおかしいか。

「行って」

 一時間ほどたてば、有希はやっとサンドイッチを食べ終わりお茶を飲んだ。実に長い昼食で、だが消化にはよさそうだ。
 そう思いながら立ち上がり、有希を誘えばそう言われた。

「いやいや、有希。二人で行こうよ」

 確かにさっき食事のすぐ後の激しい運動は身体に悪いとは思ったが、私だけが行けば有希一人になるじゃないか。

「平気」
「いや、こちらが平気じゃないんだが」

 私はどうしたものかと頬をかき有希を見下ろす。有希は私を見上げれば一ヵ所を指差し「行って」そうもう一度言った。有希が指差した方向には、キョンと古泉くんが上がってきておりプールサイドに腰を落ち着かせていた。

「なら、気がむいたら来てね」

 私は有希に言い残し、二人の元へと向かった。途中キョンが私が来るのに気づき、軽く手を挙げる。

「長門はどうした」
「なんか、わかんないけど行ってって言われたから」

 私は有希へ顔を向け、答えれば。キョンは「ふーん」と鼻につく声で言い、私は古泉くんの横に座る。

「おい、なんでそこで古泉の横なんだ」
「え、空いてたから」

 古泉くんは「いいではないですか」と、にこやかに言い私は同意の意を込め「ねー」と首をかしげた。

「はあ、もう勝手にしろ」

 キョンは手を額に当てれば首を横に振り、そしてふとその動作が止まり顔を上げた。

「うん?」

 キョンは首を捻り、いぶかしげに辺りを見渡す。

「キョンどうかしたの?」

 私は古泉くんを挟み、向こう側のキョンに話しかける。するとキョンは眉を寄せ曖昧な返事を一つ寄越すのみだった。

「この三人があたしの団員よ。何でも言うこと聞くから、何でも言っちゃいなさい」

 目をプールに戻せば、女子児童の群れを引き連れて私たちの足元までやってきたハルヒ。その少し後ろではみくるちゃんが、元気過ぎる小学生たちの相手に疲れたのか、顎まで水面に付けて軽く目を閉じていた。
 お疲れさまです、みくるちゃん。

「さあ、遊ぶわよ。水中サッカーをするの。男二人はキーパーやってちょうだい。葵はみくるちゃんのチームね」

 キラキラ輝く瞳を私たちに向けるハルヒに、キョンは適当に答えながら立ち上がった。

「よーし、みくるちゃんチームの子集合ー!」

 古泉くんが微笑を振りまきながら子どもたちの輪に加わる中、私はプールに飛び込み手を叩き子どもたちに呼びかける。

「ふえぇ、まだやるんですかー」

 みくるちゃんは本当にヘトヘトなのか、もうだめと言いたげに私を見た。すみません、こればかりは私にはどうしようも出来ません。

「ねえねえ、お姉ちゃん」

 みくるちゃんを励ます私に、小学生の女の子が何人か水を掻き分け近づいてきた。みくるちゃんチームの子だろうか。

「お姉ちゃんお名前なんていうの?」
「ん? 私の名前は葵、坂下葵だよ」

 名前を言えば、すぐさま女の子たちは「葵お姉ちゃん」と呼び久しぶりに聞くお姉ちゃんという単語に思わず頬が緩んだ。妹ちゃんは「葵ちゃん」だからな。
 女の子たちは私の名前を知れば、ヒソヒソと内緒話をはじめ私へと再度向き直る。

「ねえ、ねえ。葵お姉ちゃんはどっちのカノジョ?」
「へ?」
「あたしはあのイケメンのお兄ちゃんだと思うな」
「違うよ、あの髪の短いお兄ちゃんの方だよ」

 キャイキャイと黄色い悲鳴を上げ、盛り上がっている女の子たちに私は茫然としながらその会話を聞けば。どうやら何か勘違いをしているようだ。

「いや、私は別にどっちのカノジョでもないよ」
「えー」
「つまんなーい」

 頬を膨らまし、つまんないと口々に言い始めた。最近の子は常々マセていると思ってたが、ここまでマセていたのか。

「でも絶対二人とも葵お姉ちゃんのこと好きだよね」


 いやいや、ないない。一人の女の子の発言に、周りは一斉に頷きまたある一人は「なら三角関係ってことだよね」と言えば、皆は「いやぁー」と嬉しそうに叫んだ。

「こらー葵! みくるちゃん! とっとと始めるわよ!」

 腕を大きく振り回し、私たちを呼ぶ声に私はこれぞ神の助けと拝みながら、女の子たちの背中を押しそちらへと向かわせた。

「みくるちゃん大丈夫? いけそう?」

 鼻の下まで浸かっていたみくるちゃんは、慌てて水から顔を出しうなずいてみせた。

「あ、はい大丈夫です」
「ならよかった、行こっハルヒが待ってる」

 私はみくるちゃんの手を取りビーチボールを持つハルヒの元へと向かえば、ハルヒは眉を寄せジッと私を見つめる。

「何話こんでたのよ」
「いや、その」

 まさか小学生の女の子にからかわれていたなんて言えないし。私はみくるちゃんを横目で見つめ、ハルヒに視線を戻す。

「作戦会議ってやつですよ」

 ハルヒはそれに納得したのか、してないのか意地悪く「それにしてはえらく盛り上がってたわね」と鼻で笑う。

「盛り上がる作戦会議だったんですよ」
「ま、いいわ」

 ハルヒは踵を返せばビーチボールを持ったまま、真ん中へと向かい振り返った。

「あの娘たちには言っておきなさい、葵は誰のものでもないあたしのものだって」

 なんだー聞こえてたんじゃん。私はハルヒの言葉に口元が緩み「ハルヒは可愛いなー」とからかえば、ハルヒは「うるさいわよ!」とボールを私めがけて投げてきた。
 気づけば周りには女の子たちが集まり、私とハルヒはじゃんけんをする。
 グーとパーで勝利を収めたハルヒに口を尖らせれば、ハルヒはボールをオーバーヘッドキックの要領で蹴り飛ばし。ゴールキーパーであるキョンはそれを追いかけ、試合は合図もないまま始まっていた。

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