私の真実、彼女の秘密

 私はその日の部活に行くのが少し。いや、かなーりいやだった。
 別にハルヒのはちゃめちゃな破天荒ぶりに嫌気がさしたわけでも、みくるちゃんや有希に会いたくないわけではない。
 ただ、一人だけ会いたくない人が出来た。
 名は古泉一樹。男にあまり興味ない私でも、かっこいいと素直に思う。
 しかし、しかしだ。彼の真の姿を知った私は今では恐怖を感じる存在でしかなかった。
 何をされるか、わかったもんじゃない。もしかしたら、変な研究所に連れて行かれて、私まであの赤玉にされるかもしれない。
 それはそれで面白いかもしれないが、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

「だからー、今日は休むったら休むのー!」

 私は半分引きずられる形で、キョンに手をひかれる。
 きっとハルヒのことだ、転校生を連れてくるだろう。しかし私は会いたくない。

「今までのやる気はどこに行ったんだ」
「なら、キョンの今日のやる気はどこからきてるの」
「俺は涼宮に頼まれたからお前を運んでるだけだ」

 ハルヒは、いち早く私の異変に気づき。逃げないよう、キョンに頼んだらしい。気づかなくてもいいのに。
 キョンは、なかなか動かない私にしびれを切らし。腕をたぐりよせると、私の腹に手をやり抱えあげた。

「何するんだー離せ! セクハラで訴えるぞ!」
「どうぞ、ご勝手に」

 肩に私を担ぎ、意気揚々と行くキョンのやる気の出どころはわかっている。
 今日はみくるちゃんが、学校に来ているからだ。
 一日休んだだけで復活するとは、みくるちゃんも根性がある。私もみくるちゃんが来てくれて、嬉しいんだけどね。

「それにな、葵」
「なに」
「こんなんでセクハラとして訴えられるなら。俺はとっくに訴えられてるはずだ」

 どういう意味だ。

「昔からの付き合いだ。身体の付き合いもしている」
「おう」
「だからお前の身体は小さいながらもしっかりと見てる」

「今でも、どこにホクロがあるか言える自信がある」と、なぜか自慢げに言われた。
 ちくしょう、こっちが記憶ないのをいいことに好き勝手言いやがって。
 私は、キョンの背中を叩き「バカ」と言えば。キョンは、どことなく楽しげに鼻歌を歌いだした。みくるちゃんパワーは凄い。
 そして私とキョンが部室へと着くと、みくるちゃんと有希が出迎えてくれた。
 みくるちゃん、もう大丈夫なんですか。

「あっはい、あたしはこのとおり、ご心配おかけしました。それよりあの、葵ちゃんどうかしたんですか?」
「こいつのことなら気にしないでください」
「みくるちゃんー……」

 私は、みくるちゃんにお尻をみせるような形になっており。みくるちゃんはわざわざ、キョンの後ろに回ってきて挨拶をしてくれた。
 私の天使様、助けてください。

「長門」

 キョンは私をそのまま抱え、有希の元へと行く。

「こいつが逃げないよう見張っててくれないか?」

 有希は本から顔を上げると、私とキョンを交互に見たあと微かに頷いた。そしてキョンは有希の膝の上に私を乗せ、みくるちゃんの元へと戻っていく。私は置いてきぼりかい。

「あの、有希。私邪魔でしょ? 本読めないでしょ?」

 私は、有希の膝の上にまたがり今は向き合っている。有希は両手で本を持ち上げて読んでおり。プチ監禁状態だ。なるほど、腕の檻ときたか。しかし顔が近いとはこのことだ、そういう趣味の人が見たらさぞかし喜ぶだろうな。

「わたしならかまわない」
「いやあ、そのさあー」

 私は意思が通じない有希に諦め、有希の肩に顔を乗せた。あー、駄目だ。ってか私重くないのだろうか。

「あの、葵ちゃん」
「なんですか、みくるちゃん?」

 みくるちゃんは両手でこの前着けていたウサミミを持っており。私とウサミミを交互に見る。

「この前、葵ちゃんウサミミつけてたでしょ?」
「え、あ、はい」
「それ、とっても可愛くて、よかったらまた着けて欲しいな。なんて、ダメですよね」

 慌てて、ウサミミを元の場所に戻そうとするみくるちゃんに、私は慌てて手を伸ばしひき止める。

「いいですよ、私着けます。結構ウサミミ気に入ってて」
「本当に? うわぁ嬉しい」

 花のような笑顔を浮かべ、みくるちゃんは私の頭にウサミミをつける。中途半端なバニーガールってとこだろう。


「やっぱり似合ってます! ほら、キョンくんも見てください」

 押し入れから持ってきたであろう、オセロを鞄から取り出しながらキョンはこちらを向き私の頭を見て顔を歪めた。
 しかし、オセロとはまたレトロなゲームを見つけて。私もやりたいぞ。

「お前、そういう趣味だったのか」
「バカ言わないで、ただウサミミが気に入っただけ。あれと一緒、テーマパークに来て一時のテンションでキャラの耳を買って後々後悔するタイプ」

 私はウサミミを触りながら言えば、いやに納得出来たのかキョンは「ああ」と言った。

「ところで、朝比奈さん」
「はい?」

 私のウサミミに、うっとりした眼差しを投げ掛けてくれたみくるちゃんはキョンへと振り向き。小首を傾げる。

「オセロなど、どうですか」
「わぁー懐かしい」

 みくるちゃんは、オセロをまじまじと見ると楽しそうに「やります」と頷き。キョンとみくるちゃんのオセロ勝負が始まった。さて、私は彼が来る前にどう逃げるか考えるか。 キョンとみくるちゃんのオセロが早くも第三戦目に入る時だ。

「涼宮さん、遅いね」

 盤面を見つめながらポツリともらすその表情は、すぐれないが深く沈んだ様子はなく。意外にみくるちゃんの精神はタフなのかも知れないと思った。 ちなみに、私は逃げるのを諦めた。もう好きにしてくれ。

「今日、転校生が来ましたからね。多分そいつの勧誘に行ってるんでしょう」
「転校生……?」

 首をかしげ、私とキョンに視線を投げ掛ける。

「九組に転入してきた奴がいまして。ハルヒ大喜びですよ。よっぽど転校生が好きなんでしょう」
「ふうん……?」

 キョンは石を起き、みくるちゃんの白を黒に染める。

「それより朝比奈さん、よくまた部室に来る気になりましたね」
「うん……ちょっと悩んだけど、でもやっぱり気になるから」
「何が気になるんです?」

 みくるちゃんはオセロをゆっくりした動作でひっくり返す。有希が珍しく本から顔を上げ、オセロへと注意が向く。

「有希、やりたい?」

 有希は、一瞬迷ったのか数秒間があき微かに頷く。

「やりに行く? 大丈夫、私なら有希の側にいるから」

 私は有希の膝から降りると、有希は立ち上がり。私の腕をとる。用心深いことで。

「ん……なんでもない」

 みくるちゃんは押し黙りキョンが白を黒に、オセロの石をひっくりかえす。

 私たちはテーブルの横につき二人の勝負を見れば、その勝負は今の所、五分五分というところだろうか。
 キョンは気配を感じたのか顔を上げ、ひとまず私は手を振ってみることにした。

「……」

 有希はキョンの指を目で追っており、キョンにも解るほどにやりたそうに見えた。

「……代わろうか、長門」

 キョンが声をかければ、有希は瞬きし、微妙な角度で頷いた。そして、キョンが立ち上がり有希に席を譲ると私の腕を有希の代わりに握る。ちくしょう、今日のキョンはやる気だ。
 キョンはそのまま私を引いて、みくるちゃんの横を一つあけて、座り。私にみくるちゃんとキョンの間に座るよう、うながした。しかたなく、座るけどさ。
 有希は、オセロの石を摘み上げ、見つめれば。全然見当違いのマスに持っていき、磁石が引っ付いたのに驚き指をひっこめる。

「……長門、オセロしたことある?」

 ゆっくりと有希は左右に首をふる。

「ルールは解るか?」

 また横に振り否定する。

「えーとな、お前は黒だから白を挟むように黒を置く。挟まれた白は黒になる。そうやって最後に自分の色の数が多かったら勝ち」

 キョンは私から手を離し、実際にやりながら説明すれば理解したのか有希は頷き。石を元に戻すと有希は優雅な動作で石を置き、ぎこちなく相手の白を黒に変えた。
 みくるちゃんは先ほどとは打って変わり、指が微かに震えており。顔を一度もあげず、時折上目で有希を見ては急いで視線を戻すと繰り返し、ゲームに集中してない様子だった。何か有希に対して思うことがあるのだろうか。
 有希はコツを掴んだのか、はたまた元からの才能か。盤面は黒の優勢に変化した。黒強い、次々に黒に占領される白は手が出せない。


 その後、黒の圧勝で勝負がつき。もう一戦やろうとすれば、ハルヒが私の会いたくない人を連れてやってきた。

「へい、お待ち!」

 古泉くんの袖をガッチリとキープしたハルヒは、何とも私とは正反対の様子で明るく元気にやってきた。待ってないと言ってやりたい気分だ。

「一年九組に本日やってきた即戦力の転校生、その名も、」

 言葉を句切り、転校生である古泉くんを見上げれば。顔で後は自分で言えとうながした。
 古泉くんは薄く微笑み、私と目があったのち皆の方を向く。

「古泉一樹です。……よろしく」

 古泉くんは人畜無害な笑顔のまま、頭を少しさげ挨拶をする。こうして見ると、ただの少年に見えるなあの赤玉とは到底おもえない。

「ここ、SOS団。あたしが団長の涼宮ハルヒ。そして知ってるだろうけど、ウサミミ着けてるのが私の秘書の葵。そこの三人は団員その一と二と三。ちなみにあなたは四番目。みんっな、仲良くやりましょう!」

 私を指さした後、一、ニ、三とキョンから順番にハルヒの指が滑り。古泉くんの前でとまる。

「入るのは別にいいんですが」

 落ち着いた笑みで、古泉くんは尋ねる。

「何をするクラブなんですか?」

 ハルヒは、それを待ってましたと言わんばかりに、不適な笑みを浮かべて皆を順に眺める。いったい何を言うのだろうか。緊張の一瞬だ。

「教えるわ。SOS団の活動内容、それは、」

 それは? と口を開き言えば。ハルヒは大きく息を吸い、セリフをためにため、驚くべき真相を吐いた。どちらかと言えば、ハルヒらしいのだが。

「宇宙人や未来人や超能力者、異世界人を探し出して一緒に遊ぶことよ!」

 バーンと効果音がしそうなほどの、はじけた笑顔。キョンは、やっぱりかと思ってるのかため息をつき他の三人は驚いていた。そんな、驚くことだろうか。
 みくるちゃんは硬化。目と口で丸を作りハルヒを見つめ微動だにしない。有希も、珍しく驚いているのか、わかりにくいが、目が少し見開かれている。古泉くんは微笑か、はたまた苦笑か、驚きなのか判別できない表情で立っており。一番最初に我にかえった。

「はあ、なるほど」

 何か悟った口ぶりで呟けば、みくちゃんと有希と私を交互に眺め、訳知り顔でうなずく。何に納得したんだ。


「さすがは涼宮さんですね」

 さすがって、昔からハルヒを知っているような口ぶりだ。

「いいでしょう。入ります。今後とも、どうぞよろしく」

 白い歯をキラリと見せて微笑み。私の横で首をひねる、キョンの前に手を差し出した。

「古泉です。転校してきたばかりで教えていただくことばかりとは思いますが、なにとぞ御教示願います」

 いやに丁寧な定型句を口にする古泉くんは、キョンの影に隠れる私へと目を配らせ。意味ありげに頷く。
 キョンは古泉くんの視線が気になったのか、私を一瞥すると手を握りかえし。

「ああ、俺は……」
「そいつはキョン」

 ハルヒはキョンを勝手に紹介すれば次にみくるちゃんと有希へ指をやり。

「あっちの可愛いのがみくるちゃんで、そっちの眼鏡っ娘が有希」

 と、本人が自己紹介する前に自己紹介を済ませてしまい。すべてを終えたような顔で頷いた。元気だねーおい。
 ハルヒが紹介し終えると同時に、ごんっと鈍い音が私の横からした。紹介に合わせて慌てて立ち上がろうとしたみくるちゃんが、パイプ椅子に足をとられ、前のめりにけつまずき、オセロ盤に額をうちつけたらしい。私が直ぐ様しゃがみこみ手を貸すのと同じくらいに古泉くんもやってきて、私より先に手を貸した。

「だいじょうぶですか?」

 声をかけて、みくるちゃんの手をとる古泉くん。みくるちゃんは首を縦に振り、転校生を眩しそうな目で見上げる。

「……はい」

 小さな声で、応えつつみくるちゃんは恥ずかしそうに古泉くんを見ている。恋愛フラグ立ったかー!? キョン、明らかに私たちは出遅れてるぞ。我が愛しい天使が赤玉に取られてしまう。
 私は行き場のなくなった手をウサミミに向け、触っているとその手を後ろから掴み取られ。内緒話をするように、耳に口が寄せられた。息が、こそばゆい。

「なあ、さっきからあいつ、葵か涼宮の方見てばかりじゃないか?」
「そう?」

 こういうのは、本人以上に周りが気づくというが。キョン、そんなに私のことを見ててくれてたのね。大丈夫、今のところ将来嫁ぐならランキングキョンが断トツ一位だから。なんて、そんなことは関係ない。やはり、見られてるか。先ほどから、古泉くんの方を向けば目があい。微笑みかけられ、少し居心地が悪いんだが。早くすっきりしたいよー。

「そういうわけで五人揃ったことだし、これで学校としても文句はないわよねえ」

 ハルヒは、皆の顔を見れば元気よく腕を突き上げる。

「いえー、SOS団、いよいよベールを脱ぐ時が来たわよ。みんな、一丸となってがんばっていきまっしょー!」

 しょー、と私もそれに倣い手を突き上げれば。それを見たみくるちゃんも慌てて腕を突き上げ。有希は定位置もどり読書をしていた。古泉くんは、しらん。目があうからアウトオブ眼中です。

 その後、私の心配をよそにハルヒは古泉の腕をとれば「学校を案内してあげる」といい連れだしていってくれた。ありがたやハルヒ様。今度何か奢ります。
 そして、みくるちゃんは用事があるからと言い、会釈すると鞄を持ち帰っていった。
 部室に残るは、私と有希とキョン。まあ、そんな遅くまで残っていても意味がないので私とキョンは鞄を持てば有希に一声かけて、部室のノブに手をかける。

「じゃ、有希またね」
「じゃあな」
「本読んだ?」

 部室に響いた声に、自然と足が止まり。キョンは振り返る。有希の瞳がキョンをジッとキョンを見つめる。

「本。というと、いつぞや俺に貸した異様に厚いハードカバーのことか?」
「そう」
「いや、まだだけど……返した方がいいか?」
「返さなくていい」

 返さなくていいと言いつつ、何気に急かしてるのは何故だろうか。

「今日読んで」

 しかし、どうでもよさそうでもある。

「帰ったらすぐ」

 そして少し私の方へと視線を動かせば。

「読んだら、葵に電話して」
「どうしてだ?」
「どうしても」

 それ以上、訳を言わなさそうな有希にキョンは頭に手をやりため息をつくと。

「……解ったよ」

 それを聞くと、有希は読書に戻り。私とキョンは、部室を後にした。


 その日の夕方過ぎ、夜に近い時間。突然キョンから電話がかかり、あの厚い本をもう読み終わったのかと驚いた。

「キョン、どうかした?」
「いますぐお前の方行くから、出かける準備しとけ」
「は?」
「いいか、わかったな」

 私の返事を待たずにキョンは、電話を切り。私は急いで服を着替えれば、キョンがチャイムを鳴らして来た。

「キョン、どこ行くの」

 玄関に出れば、直ぐ様後ろに乗るよう言われ。私は言うとおりに乗れば全速力で自転車を漕ぎだした。キョンが言うには、私に電話をするまでにこんなことがあったらしい。
 家に帰り、晩御飯を食べてダラダラしたあと有希の言いつけどおり、本を捲れば一枚の栞が出てきたらしい。それには手書き文字で『午後七時。光陽園駅前公園にて待つ』と書いてあり。とっさに私に電話して、来たらしい。
 公園は、時刻が遅くなればなるほど人通りが少なくなり。今の時間では人、一人もいない。寂しい空間かもしれない。そんな所で有希が待ってるとは俄かに信じがたいことだ。
 私は、自転車から降り。ママチャリを押して公園に入るキョンの横につく。街灯の周りに、虫が飛んでいる。
 木製ベンチが並ぶその一つに有希のシルエットが浮かんでおり。キョンと私に気づくと、音もたてずにそのシルエットは立ち上がった。その姿は制服姿で、私服を拝めると思った分少し残念である。

「有希、今晩は」
「今日でよかったのか?」

 有希は、キョンと私を交互に見れば頷く。

「ひょっとして毎日待っていたとか」

 またうなずく。確か、キョンに本を渡したのは結構前だ。それから毎日待っていたとしたなら。凄いな有希、私ならば最初の時点で根をあげ次の日にはキョンに掴みかかっているぞ。

「……学校で言えないことでも?」

 有希は、キョンの前に立てば頷き。

「こっち」

 と、私たちを先導にするべく歩きだす。
 しかし、足音を立てずに歩いて。ある意味凄い、有希は忍者か。今度伝授してもらおうか。
 キョンは、今はここでは話さないと確信したのか。仕方なく、自転車を押して有希の後をついていく。


 公園を抜け、歩いて数分後。駅からほど近い、分譲マンションにたどり着いた。マンションに何の用だろうか。

「ここ」

 マンションは、パスワード式のマンションで部外者は入れないタイプのものだった。
 しかし、こういうものには非常用のパスワードがあり。入力して、呼び出しをおせば自動で開くので、防犯がなってるかは、なんともいえない。なぜ私がこんなことを知ってるかって? テレビで見たのさ。
 有希は、私のいった非常用パスワードだと思われる数字を入力し解除すれば。ガラス戸を開けた。私は、閉まってキョンが入れなくならないよう扉を支え、有希はエレベータを呼ぶ。
 キョンは急いで自転車をその辺に止めるとドアをくぐり抜けエレベータに向かい。ちょうど来た、エレベータに飛び乗り。有希は、七階のボタンを押した。エレベータ内に静寂が訪れる。
 七階へと着けば、チンッと切れのいい音がなり。ドアが開き、私たちは降りた。

「あのさ、どこに行こうとしてるんだ?」

 マンションの各家々のドアが連なる、通路を歩きながら、キョンは尋ねる。私は、一つ一つ表札をみながら二人の後ろをついて行く。

「わたしの家」

 キョンの足が止まり。私はその背中に顔をぶつけた。突然なぜ止まる。私は、顔を上げキョンの背中を見たあと、先を行く有希の背中を見る。

「誰もいないから」

 有希は、708号室のドアの前に立てば。ドアノブを回し開けて、私たちを見た。

「入って」

 有無を言わせない、その言葉に、私は息を飲み込み部屋へと入る。初めての有希の家は、私にとっては緊張の一瞬だ。ふと、キョンを見上げれば平然としており。肝がすわってると思ったが、どうやら内心は、うろたえているらしい。
 靴を脱ぎ、上がれば辺りを見渡す。さすがにどこの部屋に、入ればいいのか、わからないからな。キョンも、私の後に続き上がれば最後に有希が入り、ドアが閉められキョンはその音に振り返り有希をみた。

「中へ」

 有希は靴を足の一振りで脱ぎ捨てれば、一つの部屋へと向かった。
 部屋に入れば、明かりが既についており、明るく照らす。しかし、本当に生活しているのかと疑いたくなるほど生活臭がない。

 通されたリビングには、コタツの机が一つおいてあるのみで、フローリングには何も敷いておらず。本当に殺風景だ。ゴミ箱もないよ。
 しかし、有希。いくらここが七階で、あまり見られないとはいえカーテンぐらいはつけようよ。今度言ってみるか。

「座ってて」

 台所へと引っ込む間際に、有希はいい残し。キョンはテーブル際にあぐらをかいて座ったので。私は、傍に正座で座ることにした。
 しばらく待てば、有希が盆に急須と湯飲みを乗せて。お茶を運ぶ人形よろしく、みたいにやってきた。
 しかし、全く急須が揺れない。中身入ってるんだよね。溢れてないな。そして、テーブルに置けばキョンの向かいに座った。
 沈黙。決して誰も喋らない。別に沈黙ゲームをしているわけではないのだが。てか、有希さんお茶は? 蒸し中ですか。
 最初に、沈黙ゲームから抜け出したのはキョンだった。

「あー……家の人は?」
「いない」

 即答である。

「いや、いないのは見れば解るんだが……。お出かけ中か?」
「最初から、わたししかいない」
「ひょっとして一人暮らしなのか?」
「そう」

 キョンはそれを聞くと、肩から力が抜け安堵した。やはり年頃の男女が部屋で三人きりだと良からぬ誤解を生みそうだからな。

「それで何の用?」

 有希は、蒸し終えたのか。はたまた、キョンの質問から逃れるためか。急須を持ち上げ傾けると湯飲みに注ぎ。一つはキョンの前に、もう一つは私の前に置いた。ありがたくいただきます。

「飲んで」

 そう、勧められ。キョンは茶をすする。味はほうじ茶だ、しかし有希は一口も飲もうとしないな。

「おいしい?」
「ああ……」

 私がまだ、すすってる中。キョンは早くも一杯目を飲み干し湯飲みを置くと、有希直ぐ様また入れる。私も置けば有希はそれにも入れた。
 飲む、入れる。飲む、入れるを繰り返しておれば。急須は空になり、有希はおかわりを用意しようと腰をあげかけ、キョンはそれを止めた。

「お茶はいいから、俺たちをここまで連れてきた理由を教えてくれないか」
「私も、なんで呼ばれたのか。気になるな」

 腰を浮かせた姿勢で止まっていた有希は、ビデオの巻き戻しのように座っていた位置に戻り、座り直した。

「その時がきたから」

 有希は、瞬きをすれば私を見て。口を閉じた。キョンは、眉を寄せ何を言ってんだといいたげであった。今の言葉は、私に向けられたものだろう。なんちゃら生命体を繋ぎあわせれば、記憶が蘇る。少し前に、私は自分が言った言葉を思いだす。

『その時がきたら教えて』

 確かにそう言った。今はまだその時じゃないからと言われたから。しかし、それが今というのか。そもそもどうやってそれを繋げるのだ。

「学校では出来ないような話って何だ?」

 痺をきらしたキョンが、尋ねれば。有希は数秒、間をあけ口を開く。

「涼宮ハルヒのこと」

 背筋を伸ばし、正座をする有希を私とキョンは見つめる。

「それと、わたしと坂下葵のこと」

 口をつぐんで、一拍置く。胸の、鼓動が早くなる。

「あなたに教えておく」

 そして有希は黙りこむ。なにやら話は長くなりそうだ。

「涼宮とお前と葵が何だって?」

 キョンは、一度私をみた後、また有希に戻し。有希は困ったような躊躇してるような、小さな顔の変化をみせた。

「うまく言語化出来ない。情報の伝達にそごが発生するかもしれない。でも、聞いて」

 聞きますが、どうか私にわかるようにお願いします有希さん。私は、脳の辞書をフル回転させるつもりで有希の話に耳を傾けた。

「涼宮ハルヒとわたしと坂下葵は普通の人間じゃない」
「なんとなく普通じゃないのは解るけどさ」
「それなにげに酷くないか」

 私を人間と見ていなかったのかキョンは。しかし、有希はそれをピシャリとはね返した。

「そうじゃない」

 有希は膝の上で揃えた、指先に視線をおとす。

「性格に普遍的な性質を持っていないという意味ではなく、文字通り純粋な意味で、彼女とわたしたちはあなたのような大多数の人間と同じとは言えない」

 えーとつまり、性格が普通じゃないってわけでなく純粋にその人自身の存在が他の人とは違う、普通じゃないってことか。だがしかし、見た目は普通だぞ。


「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし」
「ヒューマンノイド、インターフェース?」

 私は思わず口ずさめば、キョンは無言で私の頭を叩いた。はい、静かにします。しかし、ンが多かったな自分。

「わたしの仕事は涼宮ハルヒを観察して、入手した情報を統合思念体に報告すること」
「……」
「生み出されてから三年間、わたしはずっとそうやって過ごしてきた。この三年間は特別な不確定要素がなく、いたって平穏。でも、最近になって無視が出来ないイレギュラー因子が涼宮ハルヒの周囲に現れた」
「……」
「それが、あなたと坂下葵」

 その後の話をまとめるとこうだ。
 この宇宙には、肉体を持たないかわりに頭のいい情報生命体がいるらしい。それを情報統合思念体というらしい。その情報統合思念体は、情報として生まれ、情報を集めて意識を生んで、情報を取り込み進化したらしい。
 なんだか、これだけ聞くと共食いみたいだが。決してそういうのではない。
 そして、最初の頃こそはこの第三惑星、地球に興味がなかったが。人間が誕生してからその意思は変わったらしい。
 情報統合思念体にない、自律進化の閉塞状態を打ち砕き、日々急速な進化をした人間。ここまで成長したのは地球が初めてらしく、その実体を観測されていたみたいだ。
 そして話は飛ぶが、三年前。なにやら、凄い情報爆発が起きたらしく、その中心にいたのが涼宮ハルヒだったとのこと。本来私たち、人間には限られてる、情報操作を出来る人物が出てきて。情報統合思念体は、調べたが結局正体不明。本人は無意識からなしているらしい。その時、情報統合思念体たちはこう思ったんだ。この人こそ自分たちを進化させてくれるきっかけを与える存在だと。
 しかし、情報生命体は言語なく、肉体なくでコミュニケート出来なく。無いないづくし。そこで考えたのが有希みたいな、人間用のインターフェース。そして有希が作られ、今こうしてコンタクトをとることが出来るらしい。
 試しに話しかけてみよう。ハロー情報くん。
 まあ、要点をまとめればこんなもんだろう。理解した私、偉い! 頭よ、よくついていった。
 有希は湯飲みに口をつけ、お茶を飲む。


「涼宮ハルヒは自律進化の可能性を秘めている。おそらく彼女には自分の都合の良いように周囲の環境情報を操作する力がある。それが、わたしがここにいる理由。あなたがここにいる理由」
「待ってくれ」

 キョンは頭が混乱しているのか。額に手をあて、ストップをかけた。

「正直言おう。お前が何を言っているのか、俺にはさっぱり解らない」
「信じて」

 真摯な顔で言う有希に、私は息をのむ。私は、信じるしかないかもしれない。もし、記憶が繋がったらだが。

「言語で伝えられる情報には限りがある。わたしは単なる端末、対人間用の有機インターフェースにすぎない。統合思念体の思考を完全に伝達するにはわたしの処理能力ではまかなえない。理解して欲しい」
「何で俺なんだ。お前がそのナントカ体のインターフェースだってのを信用したとして、それで何故俺に正体を明かすんだ?」

 まあ、確かにそうだ。正体を明かしたところで、有希にとってメリットになることより。デメリットのほうが多いような気がする。

「あなたは涼宮ハルヒに選ばれた。涼宮ハルヒは意識にしろ無意識にしろ、自分の意思を絶対的な情報として環境に影響を及ぼす。あなたが選ばれたのは必ず理由がある」
「ねーよ」
「ある。多分、あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。あなたと涼宮ハルヒが、すべての可能性を握っている」
「本気で言ってるのか?」
「もちろん」

 キョンまじまじと、有希を直視した。

「あのな、そんな話ならチョクでハルヒに言ったほうが喜ばれると思うぞ。はっきり言うが、俺はその手の話題にはついていけないんだ。悪いがな」
「統合思念体の意識の大部分は、涼宮ハルヒが自分の存在価値と能力を自覚してしまうと予測出来ない危険を生む可能性があると認識している。今はまだ様子を見るべき」
「俺が聞いたままをハルヒに伝えるかもしれないじゃないか。だからなぜ、俺にそんなことを言うんだ」
「あなたが彼女に言ったとしても彼女はあなたがもたらした情報を重視したりしない」

 まあ、私なら悪い冗談いうなや兄さんとは思うな。

「情報統合思念体が地球に置いているインターフェースはわたし一つではない。統合思念体の意識には積極的な動きを起こして情報の変動を観察しようという動きもある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。危機が迫るとしたらまずあなた」


 危機と言えば、例えばキョンにちょっかいをかけたりとかだろうか。キョンは、息をつき私をみた。

「葵はなんだ、なら」
「彼女は、わたしたちにとっては未知の存在。危険視している意識もいる」
「そうなの?」

 自分のことながら、知らないとは悲しきかな。キョンは怪訝な顔をし、私は肩をすくめる。

「葵、お前まで変なこというんじゃないだろな」
「なんとも言えない」
「あとは、彼女に聞いて」

 有希は、立ち上がれば私へと近づき、額に人差し指を当てると口を素早く動かし何か有希は言っていたが。私はそれを聞き取る前に、意識を手放した。
 頭に響く声が痛い。

「おい、葵!」
「んー……」

 体を揺すられ、わたしは目をうっすらと開ける。うっすらと開いた目に映るのはキョンの顔。
 わたしは、急いで起き上がれば辺りを見回し、有希と目があう。有希は頷き。わたしは、こみあげてくる感情に唇をかんだ。

「葵?」

 名前を呼ばれ、振り向けば。キョンが心配そうな顔をし、わたしを覗きこんでみる。
 大丈夫だよ。

「キョン、くん。わたしは貴方の知っている坂下葵ではありません」

 押し寄せる感情を、抑え。わたしは、キョンを見つめる。キョンは、目を見開き、当たり前の反応をした。

「お前まで何言ってんだ」
「事実なんです。どうか信じてください」

 わたしの言葉にキョンは、口をつぐむ。

「何から話せばいいのか、わたしも多少なりともこの状況に混乱しており。えっと、ならまずわたしについて話したいと思います」

 わたしは一旦息を吐き背筋を伸ばし顔を引き締めれば、キョンへ顔を向けた。

「先ほど言った通り、わたしはキョンくん。あなたと小さい頃から六年まで一緒に過ごした坂下葵ではありません」
「……」
「しかし、だからと言って坂下葵ではないとはいいきれないんです。私もまた、坂下葵だから」

 渇いたのどに残していたお茶を一口飲む。温かかったお茶は、少し冷えて、ぬるかった。

「例えば、プリンが二個あり姿も形も味も一緒だとします。ですが、それは似てはいますが、違うプリンどうしですよね? 中身を入れ換えたとしたら中身と外は違う存在同士になります」

 キョンは、少し頷く。


「それと同じです。わたしは、違う世界の坂下葵なんです」
「なら、この世界の坂下葵はどうしたんだ?」

 わたしは、その問いに言葉を詰まらせる。

「……死にました」

 キョンに対する罪悪感にわたしは耐えられず視線をそらし呟く。キョンが驚きに息をのむのが聞える。

「わたしの不注意です。もう少しこの世界について事前に調べておいたら……申し訳ございません。なんと詫びたらいいのか」
「いつ、死んだんだ」
「わたしが、この世界に来た時。キョンくんからみれば、わたしが事故にあった時です」

 静寂が辺りを包む。

「たぶん、先ほどの長門さんの言葉から、涼宮さんが望んだからだと思います」

 キョンは、もう何もいわず。ただ、わたしの話に耳をかたむける。

「それで、話は変わるんですが。わたしがここに、来た理由なんですが簡単に言えば仕事のためです。あまり詳しくはお話出来ないのですがわたしは、わたしの世界とは異なる世界を探し、見つければ最低限の安全、現世界との違い。言語の違いを調べて、安全であればその世界を提供する。といった仕事をしてました。そうですね。簡単にいえば旅行会社みたいなものでしょうか。今回来たのも、この世界を調べるために来たのですが……」

 キョンは、手をあげ。わたしは首をかしげ手を差し出し、うながした。

「少し聞きたいことがあるんだが」
「は、はい。なんでしょうか!」

 初めての質問に、わたしは思わず姿勢を正し声を張り上げればキョンは苦笑いをした。うむ、笑うな。

「その異世界への飛びかたってのはどうなってんだ?」
「それは、また詳しくは話せないんですが。わたしの世界では世界にはそれぞれ、その世界での自分がおり。異世界にいく人はその人の体を借りるんです」

 キョンは、少し考える素振りをすれば眉を寄せる。

「ならなんでお前の記憶は、いままで失ってたんだ?」
「記憶維持には、この世界での記憶、わたしの世界での記憶が必要なんです。どちらかが欠けたら、中和されずに反発され、記憶の欠片が無くなってしまうんです。それが今回。この世界のわたしが死に、中和段階で破棄され。わたしは中途半端な記憶しか持てませんでした」
「なら、そういうのはよくあるんじゃないか? 人はいつ死ぬかわからんだろ」

 わたしは首を横に振り。キョンは腕を組む。


「いえ、よくはないんです。だって、人はよく死んでも生まれ変わるって言われてるでしょ? 本来なら、わたしも生まれ変わったわたしにつけたはずなんです。たぶん、涼宮さんの力によりこの世界のわたしの存在、そのものを消したのだと思います。存在がなくては、わたしはどこにも定着できず、前の体に入るしか手段はないんです」
「……」
「でも、それは本当は危険なことなんです。変に情報操作をされたら、イレギュラーのはずのわたしがレギュラーになってしまう。時空が変わっちゃう」
「困るのか?」
「わたしは、困りませんがこの世界つまり貴方たちが困ることになるかもしれません」
「……」

 現に、今ここで話している時点で時空は変わってしまっているのかもしれない。もしかしたら、わたしが北高に通ってる時点で歪んだのかもしれない。時空が変わるのはいつでも、起こりえることなのだ。
 わたしはフローリングの床を見下ろし、目を閉じる。

「キョンくん、信じても。信じなくても、どちらでもいいです」

 顔をあげれば、キョンの表情には困惑が混じっており。わたしはまた、顔をうつむかせる。

「ただこれからも、仲良くしてくださいお願いします。何か悪いことが起きたとしても必ずわたしが貴方を守りますので」

 自然と、膝に重ねた手に力がはいる。

「いや、そのだな」
「葵、時間」
「え?」

 今まで黙っていた有希が声をかけたと思えば。突然目の前が揺らぎ。わたしは再度、意識を手放した。

「……キョン?」

 目を開ければ、有希の家の天井が見える。私は、頭に手をやり、体を起こせばキョンは起こすのを手伝ってくれるように私の腕を取った。

「お前、頭大丈夫か?」
「え、あ、微かにジンジン痛いような」

 倒れた時、後頭部を打ったのか。少し痛み、触れば微かにだがタンコブが出来ていた。頭がぼこってる!

「それより、私さっき」

 頭に手をやりながら、振り返れば。有希は、先ほどと、変わらぬ体勢で私をみていた。

「時間がきたから戻った」
「時間?」
「記憶を繋ぐことが出来ても。記憶を定着させることは出来ない本人の体じゃないから」
「なら今のあいつの記憶はどうなってるんだ」
「……漠然としか覚えてないです」

 先ほど自分が口にしたことなのに何も思い出せない。微かに、自分が異世界人とのことは分かる。そして、この体の持ち主が既にいないこともわかる。だが他のことはさっぱりだ。
 私はキョンを見上げれば。キョンは帰ろうと立ち上がり。私も時計をみて、かなりな時間がたっていることを知り立ち上がる。

「とにかく俺は、信じる信じないの前にそろそろおいとまさせていただくことにする。お茶美味かったよごちそうさん」

 有希は視線湯飲みに向けたまま、引きとめようとはしなかったが。ほんの少し、寂しげにみえた。

 私とキョンは一階につくまで、お互い無言で目を合わせなかった。先ほどのことがあったせいだろう。さすがに気まずい。
 キョンは、ガラス戸を開け、私に先に出させると、自転車へと向かい鍵をあけた。そしてキョンが跨ぎ乗れば。私も後ろの荷台に座り、腰に手を回す。

「キョン」

 自転車が少し進んだ時。名前を呼べば、キョンは肩を少し揺らした。

「あのさ、私」
「俺にとって坂下葵はお前だけだ」
「……」
「これからも縁切る気はないからな」
「……」
「だから、頼む。そんな泣きそうな顔するな」

 信じてくれたのか、はたまた気遣ってくれたのか。キョンはいつも私の欲しい言葉をくれる。視界が揺らぎ、頬に流れる涙は自分の服を濡らし。乱暴に目を擦り、涙を乾かす。

「ありが、とう」


 不安は全て取り除けはしなかったが。私は、私なりの道を歩いて行こうと思った。坂下葵という人間としてではなく。私としての道を。異世界人がなんだ! 私は私なんだからな!
 あー、ここのフレーズだけ聞くと青春サクセスストーリーな感じしない?

「さっきまでの、落ち込みっぷりはどこにいったんだどこに」
「そんなもん、とっくに吹っ切れたさ。だってさ、私が泣くと……」

 キョンまで泣きそうな顔をするから。でもそんなこと、教えてなんかやらない。
 私はキョンの背中に寄りかかり、流れていく町並みを眺めた。日々が移り変わるように、私の中の何かも、変わっているのだろうか。
 私は自分の手のひらを眺め、握ったり開いたりをした後ふと思った。
 そういえば、古泉くんも、このことを知っていたのだろうか。だから、意味ありげに笑ったりしたのだろうか。しかし、ハルヒを頼むとは、何をすればいいんだ。謎は謎を呼ぶ。
 しかしまあ、有希がヒューマノイド・インターフェースだっけ、もう簡単に宇宙人でいいや。それに近いものだろうし。まさか有希が宇宙人だったとはな。自分が異世界人ならば、私は信じるしかない。自分の身で非現実な存在だということを証明しているからな。

「おい、ついたぞ」

 しばらく、思いにふけていると私の家に着いたらしく。ブレーキの掛かる音と共に自転車が止まる。私は、荷台から降りるとキョンにお礼をいい。キョンもまた帰ろうと、ペダルを足で踏むが、何か思い出したのかしばらく宙を見つめた後私の方を向く。

「なあ、もしお前が言ったことが本当なら」
「うん」
「俺も、すまん。葵の側にいたのに何も出来なくて」
「ううん、あの、私の意見なんだけど。たぶん、キョンは十分やってくれたよ。それに、今は私を助けてくれるし」

 小学校から一緒に上がった子が言うには、私が交通事故にあってから、キョンは私の側にいることが多くなったらしい。それまでは小学生によくある。お互い男と女という自覚が芽生え、一緒に居ることに対して恥ずかしさがあり。距離を少し開けときましょうといった感じだったらしい。

「だから、キョンは謝んないで。んじゃ、気をつけて帰るんだよ!」

 私は手を振り、自転車を漕いで去るキョンが消えるまで見送れば、一つため息をつく。
 明日こそ、古泉くんに聞かれるのだろうか。


 しかし、私にはなにも言うことないぞ。聞きたいことはあるけど。
 私は、玄関を開け、中へと入るとお母さんが笑顔で迎えてくれた。

「ただいま」

 靴を脱ぎながら、声をかければ。おかえりなさい、と返ってくる。
 私は、そう言われただけで自然と笑みがこぼれた。

 翌日の放課後。
 キョンは掃除当番に当たっており。私はハルヒと共に先に部室に行くことにした。

「葵! よろこびなさいあんたのお待ちかねのコスプレ衣装届いたわよ」
「わー本当に?」

 ハルヒは、片手に持ってる紙袋をこれみよがしに高く掲げ、私は待ちに待った衣装に思わず拍手をした。だから今日機嫌よかったんだな。

「ちなみに、みくるちゃんの分もあって二人で和と洋の雰囲気をかもしだして貰うわよ」
「どんな衣装なんですかそれは」

 和と洋? 和服と洋服だろうか。うむ。
 私は部室へとつけば、ドアを開けハルヒを先に中に入れてからドアを閉める。
 有希は既に来ており、昨日のことなど無かったかのように定位置に座り、読書にふけていた。しかし、さっきの動作秘書っぽくなかった? と一人で盛り上がっていれば。ハルヒは持ってきていた紙袋をあさり、一着の服を取り出した。
 それは、旅館などに行けばお目にかかれる着物。ちなみに色は爽やかな青。なるほど、和服女将になれと。ちゃんと白い小さなポケットつきの前掛けもある。

「どう?」
「どうもなにも、ちなみにみくるちゃんのは、」
「メイド服に決まってんじゃない」

 決まってるのか、ってかみくるちゃんのメイド服。さぞかし似合うことだろう。楽しみだ。

「さあ、葵。お着替えしましょうね」

 ハルヒはニヤニヤと笑いながら手を私に向け、詰め寄ってくる。着替える気が満々の私でも恐怖に後退りする。ハルヒさん、普通に、普通によろしく。みくるちゃんが逃げたのもよく分かるかもしれない。
 私は、身構えながら後退りしていけば、しまいには壁に背中があたり追い込まれた。

「さあ、覚悟しなさい!」
「いやああぁ」

 思わず大声をあげ逃げまどい、ハルヒはそれを嬉嬉として追いかけ私のセーラー服に手をかけた。


 そして、あれよあれよと着替させられ、気づけば帯も巻かれており。
 前掛けを手渡されれば私は呆けて椅子に座り。ハルヒは私の頭をいじり、一つにまとめあげればお団子をつくり着物と同じ色のリボンと蝶のついたバレッタでそれを止め、私の肩を叩いた。

「さ、出来たわよ!」
「あ、う、うん」

 私は立ち上がると、前掛けをつけるため後ろに手を回しリボンを結ぼうとすれば。帯の長さが、左右違うことに気づき私は不思議に思いハルヒの方を振り返る。

「なんで、左右長さ違うの?」
「不器用さを出してるのよ。左右長さが違うのは頑張って結んだあと」

 普通に結べるんですが。

「いい? これは不器用萌えよ不器用萌え!」
「萌えね……」
「あとはこれ。必ずつけなさい」

 手渡されたそれは、昨日頭につけていたウサミミ。なんだ、もう定着しちゃったか!? 私=ウサミミをよろしく!
 私は素直にそのウサミミを頭につければ。ハルヒが突然前から抱きついてきた。
 なんだ、この熱烈ハグ、嬉しいけど私はどうすれば。宙に彷徨う手を、ひとまず背中に回し抱擁を交わす。

「葵!」
「は、はい!?」

 ハルヒは顔を上げる。その顔は輝かしい笑顔。そして、どこから取り出したのかデジタルカメラを構えいろんな角度から私を撮り出した。
 Why? なぜ!?

「記念写真よ記念写真!」
「そんなんいいじゃんか!」
「何言ってるのよ、今撮らなくていつ撮るのよ」

 いつまでも撮らないでください。写真は、あまり好きではなかったりする。
 昔の集合写真や、友達と一緒に撮った写真では私はなぜか毎回白眼を向いており。もうそれは、ある種トラウマだったりする。

「大丈夫よ、バッチリ可愛く撮るから」
「し、白眼向いたらごめんなさい」

 私は、ハルヒの注文するポーズをとりながら、写真を撮られていると、控えめなノックとともにみくるちゃんがやって来た。

「みくるちゃんやっと来たわね」
「え、あの葵ちゃんその服……」
「みくるちゃんも、コスプレしよーよ」
「え、えっ」

 入ってきたばかりでいまいち状況が把握しきれていないみくるちゃんの手を私は掴み、部室の中へと引き込めば。みくるちゃんは、オドオドしながらも部室へと足を踏み入れ。そしてハルヒの餌食にされた。
 ごめんなさい、みくるちゃん。私には止める術はありません。むしろ、貴方のメイド服楽しみにしてます。


「じっとして! ほら暴れない!」
「やっ……やめっ助けてぇ!」

 嫌がるみくるちゃんに、セーラー服を脱がせようと奮闘しているハルヒはそれはそれは楽しそうに、服をひん剥いていく。ああ、今日の下着も可愛いことで。
 そんな時にナイスタイミングか、はたまたバットタイミングか。掃除を終えたキョンが、ノックもなしにドアを開け今の惨状に目を真ん丸くし、みくるちゃんを凝視した。

「きゃああ!」

 キョンに気づいたのか、みくるちゃんは特大の悲鳴を上げ涙目になっていた瞳からは涙が少し溢れた。部室に入りかけたキョンは、その悲鳴にドアを閉め「失礼」と一言いい。私は、乾いた笑いをもらしキョンの出ていったドアを少し開け、外へとでる。

「キョン、キョン」
「……お前、なんつう格好してんだ」
「いいでしょ、いいでしょ」

 さっきは、みくるちゃんの姿に釘づけだったのか、キョンは呆れた顔で私を見下ろしてきた。
 私は、キョンの目の前で服をみせるべく一回転すれば、キョンは頭に手をあてため息をつき「お前、人の気も知らないでな……」とブツブツと何か呟き始めた。怪しいよ、凄く。

「で、感想は?」
「馬子にも衣装だな」
「……可愛いとか、さすが葵だなとか誉め言葉言ってよね」

 私は腰に手をあて、睨みをきかせるとキョンは眉間に皺をよせ「無理な話だ」とそっぽを向いた。嘘でもいいから言ってほしいのよ。わかんないかなーこの乙女心。足をリズムよく鳴らし、腕を組めば。私は眉間に皺が寄っていたのか。キョンにデコピンを喰らわせられた。

「いっ、つあ」

 もろに入ったデコピンは、ジンジンと熱を持ち痛かった。絶対赤くなってるよ、これ。
 私は、両手を額に当て片方の手で擦れば。キョンは口端を上げ、笑みを型どり。

「ちゃんとお前に似合ってるよ」

 そう言い、ドアに寄りかかった。

「キョン……なんていうか、気持ち悪い」

 珍しく素直な感想をいうキョンに、私は慣れていなく。胸が少し高鳴り。気持ち悪さがこみあげてきた。なんていうか、ごめん。

「そういうと思ったさ」

 私はキョンの肩を叩き「ドントマインド」と励ませば「お前だよ、お前」と返ってきた。そうか自分か。うん、自分だわ。

 十分後、みくるちゃんとハルヒの、悲鳴と楽しそうな声のハーモニーは終了したのか、突如静かになった。確認するべく、ドアを開ければハルヒが満面の笑顔でこちらを向いており。私は頭にクエスチョンマークがうかんでるのではないか。というほど顔をしかめた。

「いいわよ、入っても」

 キョンはその言葉にドアを押し開けると、中へと入りその部室の状況に絶句した。
 何にそんなに驚いたのだろうかと、部室の中を覗けば。そこには天使がいた。泣きそうになりながら、控えめに椅子に腰掛け、悲しげにキョンを見つめうつ向く。
 その天使こと、みくるちゃんの身にまとうメイド服は目眩をおこしそうだ。エプロンドレスにフレアスカート。ブラウスのツーピース、ストッキングの白、レースのカチューシャと何をとっても最高だ。決して私がメイドフェチってことではない、ことをここに記しておく。
 しかし、髪を後ろで大きなリボンで結んでいるのが、またね可愛いね。

「どう、可愛いでしょう」
「最高ですハルヒ様」

 ハルヒは、誇らしげにみくるちゃんの髪を撫で。

「そうでしょ。さすが葵ねわかってるじゃない」

 私はハルヒの腕を取ると固く握手する。ありがとうメイド、ありがとう可愛い女の子!
 キョンは私たちの姿を、もうこいつらどうにもならないなと言いたげな目で見てくる。

「まあ、それはいいとして」
「よくありません」

 キョンの言葉に小言で呟き返すみくるちゃん。まあ、本人的にはよくはないな。

「なんでメイドの格好をさせる必要があるんだ?」
「やっぱり萌えと言ったらメイドでしょ」

 ハルヒは私の手を取ればみくるちゃんと並ばされ、二人顔を見合わせみくるちゃんは首を傾げる。

「これでもあたしはけっこう考えたのよ」

 ハルヒは私たちの前を一定の距離を保ち行ったり来たりし始める。

「学校を舞台にした物語にはね、こういう萌えキャラが一人は必ずいるものなのよ。言い換えれば萌えキャラのあるところに物語は発生するの。これはもはや必然と言っていいわね。いい? みくるちゃんというもともとロリーで気が弱くて、でもグラマーっていう萌え要素を持つ女の子をさらにメイド服で装飾することにより、萌えパワーは飛躍的に増大するわ。どこから見ても萌え記号のかたまりよね。もう勝ったも同然ね」

 ハルヒは、両足を揃えて止まれば振り返り。満面の笑みで私を指さす。な、なんだ?


「そして葵は、和服美人よ! 普通、和服美人といえば器量よし、要領よしが一般的だけどね。葵は違うのよ。キョン、殺人事件に必要な和服美人はなんだと思う?」
「しらん」
「不器用さよ! 不器用なヒロインは、先輩達にいじめられ。殺人事件が起きた時に真っ先に疑われるの、だけどここで探偵の出番ってわけよ。ヒロインの疑いは晴れるわけ」

 あの、途中から物語の説明になってませんか? てかどこのサスペンス劇場だよそれ。火曜サスペンス劇場のあの曲が頭に流れる。いい時にCM入るよね、あれ。
 ハルヒは先ほどと同じように、どこから取り出したのかデジタルカメラを手にしていた。

「記念に写真を撮っておきましょ」

 みくるちゃんは、それに顔を真っ赤にさせ首を横に振り。私の服の裾を掴み、影にかくれた。

「撮らないで……」

 私の後ろで、手を合わせ拝むみくるちゃんだが。そんな可愛らしい、否定の仕方はハルヒには通じなく。引きずり出されると、無理矢理ポーズを取らされ、何度もフラッシュを浴びる。ある意味、グラビアアイドルみたいだな。

「ふええ……」
「目線こっち。ちょい顎ひいて手でエプロン握りしめて。そうそうもっと笑って笑って!」

 アマチュアカメラマンのごとく、注文つけながら何度も激写するハルヒは、時々角度を変えてまた撮ることを繰り返していく。
 デジタルカメラだからな、フィルムの心配なし。

「デジタルカメラなんかどこから持ってきたんだ」

 キョンは私の側に来れば。さりげなくリボンを直し、呆れながらハルヒに尋ねる。ハルヒはそれに、カメラのレンズから目をはなしキョンを一瞥し。

「写真部から借りてきた」

 そしてまた、写真を撮り始めた。
 だからか、写真部の人が落ち込んでいたのは。


 なんだか、SOS団は悪い印象しか残らないのではないかと、心配になってきた。
 ハルヒは気がすんだのか、カメラから顔をあげ唸れば。何か思いついたのか、輝かしい瞳をこちらに向ける。やめてくれ、写真はやめて。

「葵あんた、こっちに来なさい! そして着物はだけさして」

 ハルヒは私の帯に手をかけると、せっかく綺麗に結び直したのに、それをほどき。
 私は慌てて、着物のあわせに手をかける。

「ハルヒ、何しようとしてんの!」
「色気が足りないのよ色気」

 色気ってあなた。私に色気を求めないで、胸そんなにないんだからさ。

「キョン、カメラマン代わって」

 ハルヒはデジタルカメラをキョンに渡せば、みくるちゃんに向き直り、その小さな肩を捕らえる。

「ひっ……」

 身を縮め、震えあがるみくるちゃんに、ハルヒは優しく微笑みかける。その微笑みは怖い。

「みくるちゃん、もうちょっと色っぽくしてみようか」

 ちょっとあぶないカメラマンのように、ハルヒはニヤニヤとメイド服に手をかけ。胸元のリボンをほどき、ブラウスのボタンを第三まであけ、胸元を不用意に露出させた。ハルヒさん、それはやり過ぎでは。

「ちょ、やっ……何する……!」
「いいからいいから」

 みくるちゃんは、膝に手をつけ前屈みのポーズを取らされると、私はその後ろで膝をたて座り。キョンは一度目をそらし、写真撮るのに躊躇したが、恐る恐るレンズを覗きシャッターを切る。
 電子音と共に光るフラッシュに、目をつむりそうになりながらもポーズをとり。みくるちゃんは、頬を染めて泣き出す一歩手前な筈なのに健気に笑みをうかべハルヒの注文にこたえる。

「有希ちゃん、眼鏡貸して」

 有希は顔を上げると、ゆっくりした動作で眼鏡を外し、ハルヒに手渡し読書にもどった。今度は眼鏡萌えか?
 どうやら、そのようでハルヒはみくるちゃんに眼鏡をかけると、少しずらし。みくるちゃんは上目づかいでみつめる。

「ちょっとずらした感じがいいのよねえ。うん、これで完璧! ロリで美乳でメイドでしかも眼鏡っ娘! 素晴らしいわ! キョン、じゃんじゃん撮ってあげて」

 キョンは、それに応えるよう撮り続け私と目があえば。レンズから目を離し、肩をすくませる。


「みくるちゃんに葵、これから部室にいるときはこの服着るようにしなさい」
「そんなあ……」
「了解、団長」

 みくるちゃんは、首を横に振ったり手をあわせたり。精一杯の否定の意思表示をしめすが、ハルヒは「だーめ」と言い。

「だってこんなに可愛いんだもの! もう、女のあたしでもどうにかなりそうだわ!」

 みくるちゃんに抱きつき、頬擦りをしだした。わあわあと叫び、みくるちゃんは逃れようとするがハルヒの力は強く、しまいにはぐったりしもうどうにでもして、と体がいっているような気がした。
 みくるちゃん、ファイト。

「そのへんで終わっとけ」

 さすがに、やり過ぎだと感じたキョンは、ハルヒの首根っこ掴むと、離そうとするが。
 今回は前回みたいに、離れなくキョンはてこずっていた。
 キョンごめん、さすがに今助けようとすれば。前がはだけて見えてしまう。私には下着を見せる趣味はないから、ごめん。

「こら、いい加減にしろ!」
「いいじゃん。あんたも一緒にみくるちゃんにエッチィことしようよ」

 それは素敵なことで、ハルヒさん。そばに居るみくるちゃんがたちまち真っ青になり、体を震わせているのが見える。
 てか、それよりこの着物、あわせがうまくいかないんですけど。私は、あわせを引き寄せれば帯を結ぶが、どうしても前がたれる。一応、下に着物の下着をきているが。これはカッコ悪い。

「うわ、何ですかこれ?」

 ドアが開けば、古泉くんがやって来た。
 あの、古泉くんでもいいです。これどうにかして。
 もみ合う二人は、一斉にドアの方へ振り返り。ハルヒは、みくるちゃんの胸元に手を突っ込もうとしており、キョンはその手を握って止めているが。下手すると、ハルヒの手をみくるちゃんに突っ込もうとしているように見える。

「何の催しですか?」
「古泉くん、いいところに来たね。みんなでみくるちゃんにイタズラしましょう」

 古泉くんは、それに口元だけでフッと笑うと。

「遠慮しておきましょう。後が怖そうだ」

 と、言い。鞄をテーブルに置き、立てかけていたパイプ椅子を取り出し組み立てれば、座り。

「見学だけでもいいですか?」

 足を組んで面白そうな顔でキョンたちを見た。

「お気になさらず、どうぞ続きを」

 手を差し出し、ニヤケスマイルで二人をうながすが。キョンにとっては助けにこいよと思っているだろう。


「あの、古泉くん」
「どうかしましたか?」
「帯、巻いていただけませんか?」

 私は合わせを手で押さえながら、古泉くんの元に行けば。古泉くんは、笑いながら帯を巻いてくれた。

「はい、出来ました」
「ありがとう、私帯は結べるけど結ぶと前がどうしてもはだけてさ」

 参っちゃうねと言えば、古泉くんは慣れれば簡単ですよ、と言う。慣れるまで時間がかからない?

「しかし、その服あなたによくお似合いですよ」
「え、あ、ありがとう」

 突然の褒め言葉に、私は赤くなりそうな顔をうつ向かせ。少し古泉くんの方を見上げ、目をそらす。笑い声が、聞こえた。
 キョンはみくるちゃんを救い出すと、後ろに倒れそうになったみくるちゃんを支え、立たせれば椅子に座らせた。くたっとなったみくるちゃんの姿は、少しこうそそれられる気がする。

「まあいいか。写真もいっぱい撮れたし」

 ハルヒは、目を閉じて背もたれに寄りかかるみくるちゃんから眼鏡を取れば、有希にかえし。有希はそれを受けとると無言で、かけなおした。

「ではこれより、第一回SOS団全体ミーティングを開始します!」

 今日の集まりは、ミーティングのためだったのか、と初めて知った事実に少し驚きながら。ハルヒがどこからか、拾ってきたラッパを私は鳴らす。パフパフと、なんとも間抜けな音がなる。
 昔は自転車によくついていたのだが。最近の子は知っているだろうか。
 ハルヒはそれに気をよくしたのか。団長椅子の上に立ち上がり、大声をだす。

「今まであたしたちは色々やってきました。ビラも配ったし、ホームページも作った。校内におけるSOS団の知名度は鰻の滝登り、第一段階は大成功だったと言えるでしょう」

 悪い意味でね。

「しかしながら、わが団のメールアドレスには不思議な出来事を訴えるメールが一通も来ず、またこの部室に奇怪な悩みを相談しに来る生徒もいません」

 そりゃあねえ。どんな存在なのかもわからない。そんな所に人が果たしてくるだろうか。私なら行くが一般的には来ないだろう。

「果報は寝て待て、昔の人は言いました。でももうそんな時代じゃないのです。地面を掘り起こしてでも、果報は探し出すものなのです。だから探しに行きましょう!」
「……何を?」

 ハルヒは当たり前のことをいうように、胸をはり。


「この世の不思議をよ! 市内をくまなく探索したら一つくらいは謎のような現象が転がっているに違いないわ!」

 一つくらいね、ならばこの世の中はあり得ない数あることになるだろう。いやあ、ハルヒの計算上ね。本当は、隣り合わせにあったりするのだが。灯台もと暗し。本人は気づかないものだ。
 キョン呆れ顔、古泉曖昧な笑顔をしており、有希無表情、みくるちゃんはもう、驚く元気もないのか。ただ、座っているだけだ。
 ハルヒは皆の様子に、手を振り回して叫ぶ。

「次の土曜日! つまり明日! 朝九時に北口駅前に集合ね! 遅れないように。来なかった者は死刑だから!」

 死刑は嫌だ。明日は、少し早めに家をでるかと思っておれば。横にいたキョンは、私の肩を小突くと「お前明日は、七時に起きろよ」と忠告してくれた。
 私は、一時間は早くに起きなければ、待ち合わせ時間に遅れる癖がある。悲しきかな、朝はどうも苦手だ。

 そういえば、これは余談なのだが。
 あの後、みくるちゃんと私の写真をハルヒはどうしたかというと。ホームページに載せると言ったそうだ。
 だがキョンは、ハルヒを論ずればハルヒはしぶしぶデリートをしたようだ。
 まあ、このパソコンにあるMIKURUフォルダを見るに、キョンは鑑賞用にしたかもしれないがな。
 今度頼んで、みくるちゃんのメイド服を見させてもらおうと思う。


私の真実、彼女の秘密END


第三話終了。
結局、古泉くんとは話す仕舞いのヒロインです。
次回は、話して交友を深める……かな?

次回、第四話は原作四章まで更新予定です。

誤字、脱字がございましたらお知らせください。

2007 06/05
桜条なゆ

[ 4/30 ]

[始] [終]
[表紙へ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -