ある日、私がまたもや寝坊をして、休み時間や授業の合間に寝ていた時のことだ。
 突然気持ちよく寝ている私の頭に強烈な打撃がきたかと思うと、ハルヒが私の方をみていた。
 何だ、頭痛いのだけど……。

「葵もそう思うわよね!」
「なにが?」
「転校生よ、転校生!」

 話の先が見えない。最初から話してくれませんか。

「こいつが、SOS団にあと足りないのは謎の転校生だって騒いでるんだ」

 謎の転校生? 転校生に謎もくそもあるか。まあ転校生は確かに、欲しいきもするが。
 ところで、ハルヒは男、女、どっちが欲しい。

「謎ならばどちらでもいいわよ」
「だと思った」

 さて、話は変わるが噂はさらなる噂を呼ぶことがある。
 谷口くんは、キョンの机へと来れば。手をつき。

「お前さあ、涼宮と何やってんの?」

 そんな質問を投げ掛けてきた。ちなみに、私の方には国木田が来て軽く挨拶をかわす。

「今日もいい天気だね」
「そうだね、陽気が気持ちいよね」

 そんなジジババ対談をしていると谷口くんが、私と国木田の方を向き。その後また、キョンへと向き直る。

「まさかお前、坂下さんというものがありながら。付き合いだしたんじゃねえよな?」
「谷口くん、一体全体いつ私が、キョンと付き合っているって聞いたんだ」

 そんなの絶対にない。神に誓ってもいい。

「結構、有名だよ。キョンと坂下が付き合ってるって噂」
「国木田、君ならわかるはずだ。そんなの絶対にないって」

 国木田は少し考える素振りをみせた後「さあ、人の気持ちって変わるし」と、なんとも意味深な言葉をくれた。
 だから、絶対にないんだって。
 その日の放課後、ハルヒはどこかから掻っ攫ってきた勉強机の上であぐらを組んでいた。

「コンピュータも欲しいところね」

 私はハルヒ直々にSOS団、秘書係の腕章を貰い。指で回して遊びながら辺りを見渡した。
 すでに、メンバーはそろっており。有希は相変わらず、定位置でハードカバーを読み、みくるちゃんは生真面目に、ちゃんと来ていた。
 本当に、書道部を辞めてきたのだろうか。
 退屈そうにパイプ椅子に腰をかけているその姿を見ていると、突然顔が上がり。目が合う。
 そして、みくるちゃんは目元を和らげにっこりとみくるスマイル。可愛らしいったらありゃしない。
 しかし、ハルヒが来てからというもの、日々文芸部には物が増えていっている。
 何に使うのか、移動式のハンガーラックが部屋のかたすみに置かれ。
 お茶を飲むのにちょうどいい、給湯ポットに急須、湯飲み。
 湯飲みにいたっては人数分あるという気の利かせよう。
 そして、このご時世にCDとカセット機能しかないラジカセ。なにもまだ入ってない冷蔵庫。
 その他に、カセットコンロ、土鍋、ヤカン、数々の食器と、一人暮らしするには十分の家具が揃っていた。
 ちなみに私は、昼寝用に小さなタオルケットを持ってきた。昼休みには、ここで寝ようかと思う。
 視線をハルヒに戻し、その側に立っている「団長」とマジックで、デガデカとかかれている三角錐を見た。わざわざ作ってきたのだろうか。

「この情報化時代にパソコン一つもないなんて、許し難いことだわ」

 ハルヒは机から飛び降りると、キョンに向けて、いやらしい笑いを投げ掛ける。
 いやな予感がするとは、こういう時のことだろうか。

「と言うわけで、調達に行くわよ」
「調達って、パソコンを? どこでだよ。電気屋でも襲うつもりか」
「まさか。もっと手近なところよ。葵!」
「はいはい」

 椅子から立ち上がるとハルヒは「頼んでた、インスタントカメラ出して」と手をつきだした。
 私は鞄の中をあさり、昨日頼まれたインスタントカメラを取り出すと、ハルヒに手渡す。

「何に使うの?」
「すぐにわかるわ。葵は有希と一緒に留守番をしなさい」

 ハルヒが私の肩に手をやると、そのまま私を団長の席へと座らせ。

「あたしの留守中に、不思議なことが舞い込むかもしれないから」

 と、言うだけいえば。そのままキョンとみくるちゃんを連れて、部室を後にした。

「有希ー、あのさ」

 私はこの暇な時間をどう過ごそうか、考えながら有希を呼べば。
 有希は本から顔を上げ、こちらに視線を投げ掛ける。

「……やっぱりなんでもない」
「そう」

 私は、食器の中からスプーンを取り出すと、その柄を撫ではじめる。
 あれから、今まで有希には話さなかったが異世界人だという証拠を掴もうと必死で色々探してみた。
 まさか、有希みたいな人が嘘をついているようにも思えなく。だからといって、自分が異世界人だなんて感じもしなく。
 考えた末に出てきた結論は、力がないから異世界人らしくないのだということ。異世界人ならば一つぐらい力があるはず。そしたら自分も納得するのではないか。
 と、いうことで。レッツ異世界人能力その一、超能力。
 手始めに簡単な、スプーン曲げからしてみようと思う。
 私は、スプーンを凝視して撫でる。
 心の中では、まがれーまがれーと念じてみるが。スプーンはピクリともしない。

「曲がれー!」

 机の角にスプーンをあて、折り曲げれば、あら簡単。スプーンが曲がった。
 そんなんじゃ、だめだ。てことで、超能力失敗。
 レッツ異世界人能力その二。
 超能力が駄目ならば、読心術など、どうだ。
 実は、読めちゃうんです。でも力が発動するのは十五からで。みたいな。
 早速試してみよう。私は、本を読んでいる。有希を穴があくほど、見てみるが。
 頭には何も入ってこない。ああ、お腹空いたな。と感じたのは自分の心だ。
 結論、読心術も使えない。
 なら、本当自分は何があるんだ。
 ため息をつきながら、団長の机に頭を載っけ目をつむる。最近自分は、周りに翻弄され気味かもしれないな。
 少しは落ち着こう。今は坂下葵ってだけでいいじゃないか。慌てるな。
 きっと向こうから来てくれるさ。

「ただいま! パソコン貰ってきたわよ!」

 少し感傷に浸っていると、ハルヒが元気よくドアを開け戻ってきた。
 その後ろには、知らない男子生徒がおり。それぞれケーブルやら、パソコン本体を持っている。

「ハルヒ、どこから貰ってきたの?」
「コンピュータ研究部からよ」

 なるほど、確かに近場だ。
 しかし、どんな頼みかたをしたのだろうか。
 コンピ研の人々は皆暗く、死んだような面持ちだ。なんかわからないけど、ご愁傷様です。

「なら、そのパソコンはこの机に置いて配線して。あとネットも出来るようにしなさいよ」
「どうして僕たちが」
「カメラカメラ」

 ハルヒが指示すれば、部長だと思われる人がぼやき。私が持ってきたインスタントカメラを持ちながらハルヒは何事かを話せば。
 部長は不服そうにだが、ケーブルを繋げたりしはじめた。
 どうやら何か弱味を握られたみたいだ。
 そして遅れてキョンと、何故か泣いてるみくるちゃんが帰ってきた。
 なんとなくだが、予想がついてきた。

「キョンあのさ、みくるちゃん。まさか、胸を……」

 キョンは首を縦に振り。それ以上なにも言うなと、机に突っ伏して肩を揺らして泣いているみくるちゃんに目をやった。
 みくるちゃん、ごめんね。役に立たなくて。平たい胸なら貸しますよ。
 さて、コンピュータを手に入れたハルヒは、早速パソコンを立ち上げ。
 ファンが回る音がしたかと思うと、パソコンがジャーンと音をたてながら立ち上がった。

「パソコンが手に入ったことだし、SOS団のホームページを作るわよ」

 どうやらハルヒは、サイトを立ち上げたかったみたいだ。

「誰が作るんだ? そのウェブサイトやらを」

 ちなみに私は、作り方なんてしらないから当てにしないでくれ。

「あんた」

 ハルヒは一度私を見たあと、キョンを指差し指名した。

「どうせヒマでしょ。やりなさいよ。あたしは残りの部員を探さなきゃいけないし」

 ハルヒは、マウスを操り。何をしているのか覗けばネットサーフィン中だった。
 しかし何だ、このページはマニアな服だらけじゃないか。

「一両日中によろしくね。まずサイトが出来ないことには活動しようがないし」
「そんなこと言われてもなあ」

 キョンは、言葉では嫌がってみせるが、その声色はなんだかんだで乗り気だ。
 まあ、誰だって初めての作業は楽しみだよな。
 そして、次の日からキョンの、ホームページへの戦いはじまる。
 と、言ってもパソコンに必要なアプリケーションはすでにハードディスク内に入っており。操作は簡単で、小学生でも出来る。
 キョンはトップページに「SOS団のサイトにようこそ!」と書いた画像データ貼り付けると、ピタリと手の動きがとまった。
 ただいまお昼休み、昼にもやるとはご苦労なことで。
 私はいつもの席で、お弁当をつつきながらキョンの作ったサイトをみるが、何も書かれておらず。
 ただトップにその画像がデガデカとあるのみだ。
 おいおい、まさかこれで完成とは言わないだろうな。

「キョンどうしたの? なんも書かれてないけど」

 キョンは、食べ終わった空の弁当箱を横にやるとディスクトップとにらめっこ。

「何を書けっていうんだ。こっちは活動内容も知らないんだぞ」
「うん、まあ確かにそうだ」

 真っ白なトップページに、私はキーボードを借りて文字を叩きだす。

「団長のための団長による団長の団、なんてどう?」
「やめとけ、後でなに言われるかわからんぞ」

 キョンはせっかく打った文字を、デリートキーを押し消していき。
 また真っ白になり、ふりだしにもどる。

「長門、何か書きたいことあるか?」

 キョンは、本を読んでる有希へ尋ねる。

「何も」

 顔あげず、淡々と返す有希にキョンはこれ以上有希に期待しなず、パソコンに目を戻しまた考えはじめた。

「もう、カウンターとメールアドレス貼り付けて。それでいいんじゃない?」
「それもそうだな」

 キョンは、無料のアクセスカウンターをダウンロードすれば貼り付け、用意していたメールアドレスを記載する。そして、ホームページをアップロードすれば、SOS団ウェブサイトの完成だ。
 早ければ三分で出来てしまうのではないか、という程の簡単さ。
 表示を確認すると、キョンはアプリを終了させパソコンの電源を切る。

「お疲れさまー」

 私は弁当袋を取りにテーブルへと戻る際に有希とすれ違い。
 キョンは大きくのびをしようと、腕をあげたが。有希が背後におるとは思わなかったのか、飛びあがりその際に大きな音を立てた。
 気配を消すのが上手いようで有希さん。

「これ」

 有希は、自分が読んでいた本とは違う。これまた分厚い本をキョンに差し出し。キョンはそれを反射的に受け取った。なんの本だろうか。
 私は気になり、覗きこめば海外SF物ぽかった。

「貸すから」

 有希は短く言い残すと、キョンに反駁するヒマも与えず。部屋を出ていった。
 うーん、なんだなんだ意味深なような、そうじゃないような。
 私は、頭を悩ませつつお弁当を直せば。それと同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。
 私たちはその音を聞きながらキョンは本を持って、私はお弁当を持ち、二人並んで教室に戻り席へとつけば。
 直ぐ様ハルヒはキョンの背中にシャペンを突っつき話しかける。

「どう、サイト出来た?」

 ハルヒは難しい顔をし、机にかじりついており。破ったノートにペン先を走らせながらキョンに尋ねる。
 ここからでは、詳しい会話はあまり聞こえないが。きっとサイトについてだろうし、私には関係ないことだ。
 そう思えば私は半分眠りかけている頭を揺さぶり起こし。黒板に書かれていく先生の字を、ノートにせっせと書き写していく。
 そして、一段落すれば頭を机に載せ夢の世界へと飛び立つ。
 だからだろう、ハルヒがいないことに気づいたのは、部室へ行こうとした時だった。
 放課後、キョンに身体を揺らされ半分寝惚けながら。半分引きずられながら文芸部へと向かった。

「キョン、ハルヒは?」
「知らん、六限目にはすでにいなかった」

 手を取られて、時々他所へ向かう足を動かし。おぼつかない足取りで廊下を歩けば気づけば、文芸部の前まで来ており。
 ドアを開ければキョンは私を先に中に入れ、後ろ手でドアを閉めた。

「こんにちわー」
「ちわー」

 やまびこよろしく、挨拶をすれば。
 有希は本から顔を上げず、ただ黙々と読んでおり。
 みくるちゃんは、両手を揃えて座っており私たちが来ると、あからさまにホッとした表情をし、会釈をした。
 有希と二人っきりは、間が持ちませんでしたか。
 みくるちゃんは私たち以外、来てないことにドアと私たちの間に視線をさ迷わせ、首を傾げ。

「涼宮さんは?」
「さあ、六限にはすでにいませんでしたけどね。またどこかで機材を強奪してるんじゃないですか」
「あたし、また昨日みたいなことしないといけないんでしょうか……」

 眉を寄せ、不安げにうつむくみくるちゃんに、キョンは精一杯愛想良さで元気づける。
 よっ、大将!

「大丈夫です。今度あいつが無理矢理朝比奈さんにあんなことをしようとしたら、俺が全力で阻止します。自分の身体でやりゃいいんですよ。涼宮なら楽勝です」
「ありがとう」

 キョンは軽く太鼓判をおすが、大丈夫なのだろうか。相手はあのハルヒだぞ。
 みくるちゃんは頭をさげ、はにかんだ微笑みをキョンに向ける。

「お願いします」
「お願いされましょう」

 私は、いつものように有希の隣に腰かけると頭を有希の肩に乗せ、目を閉じる。
 少し肩をおかりしますよ有希さん。

「やっほー」

 眠りにおちかけた時だ。
 ハルヒは両手に大きな紙袋を持ち、元気よく入ってきた。

「ちょっと手間取っちゃって、ごめんごめん」

 何かいいことでも、あったのだろうか。
 上機嫌のハルヒは、紙袋を床に置くと後ろ手で鍵をかけ。
 その音にみくるちゃんは、昨日の悪夢が蘇ってきたのだろうか。反射的に身体を震わせた。

「今度は何をする気なんだ、涼宮。言っとくが押し込み強盗のマネだけは勘弁な。あと脅迫も」
「何言ってんの? そんなことするわけないじゃないの」

 心外だわ、と腕を組む。

「では机に載ってるパソコンは何だ」
「平和裏に寄付してくれたものよ。そんなことより、ほら、これご覧なさい」

 ハルヒ一つの紙袋から、手書きの文字を印刷したA4のわら半紙を取り出した。
 何のプリントだろうか。

「わがSOS団の名を知らしめようと思って作ったチラシ。印刷室に忍び込んで二百枚ほど刷ってきたわ」

 ハルヒはチラシを、一人ずつに配り。その一つを私も手渡され、中身をみるとなんとなくだがSOS団の活動方針がわかったような気がした。
 まあ、気がしただけなのだけど。
 以下、そのチラシに書かれていたことだ。

『SOS団結団に伴う所信表明
わがSOS団はこの世の不思議を広く募集しています。過去に不思議を経験をしたことのある人、今現在とても不思議な現象や謎に直面してる人、遠からず不思議な体験をする予定の人、そうゆう人がいたら我々に相談するとよいです。たちどころ解決に導きます。確実です。ただし普通の不思議さではダメです。我々が驚くまでに不思議なコトじゃないといけません。注意して下さい。メールアドレスは……』

 と、続けてホームページに載せたメールアドレスが書いてある。
 どうやらハルヒは、この世の不思議を集めて楽しみたいらしい。
 しかし、具体的に不思議とはどれを指すのだろうか。たまごやきに、ケチャップではなくてマヨネーズがかかっていた不思議などは、不思議に入るのだろうか。
 まあ、本人楽しければいい。私も楽しそうにしているハルヒが好きだし。

「では配りに行きましょう」

 チラシから顔を上げ、ハルヒをみると。キョンもチラシから目を離す。

「どこでだよ」
「校門。今ならまだ下校していない生徒もいっぱいいるし」

 なるほど、今なら確かに下校時間真っ只中。
 下手なキャッチセールより、客を捕まえられるだろう。
 キョンは紙袋を持とうと、手をかけたがハルヒはそれを制し。怪訝な顔でキョンはハルヒを見た。

「あんたは来なくていいわよ。来るのはみくるちゃん」
「はい?」

 両手にわら半紙を握りしめ、可愛いらしく読んでいたみくるちゃんは、小首を傾げ二人を見上げる。
 ハルヒは不敵な笑みをうかべると、もう一つの紙袋からあるブツを勢いよく取り出した。

「じゃあああん!」

 なんて、少し古い効果音をあげながら。ハルヒが手にするものは、はたから見たらただの黒い布切れにしか見えないが。手渡されて、それを広げてみて驚いた。
 なんと例えようか、今の時代皆さんはレースクイーンをご存知だろうか。レースを応援しレース事態に花を持たせるために用意された女性なのだが、その人物が着るのは一見水着みたいな服なのだ。
 今まさしく持っているのは、ひどくそれに似ていた。てかそれ、そのものではないだろうか。
 しかし、そろってくるアイテムを見て、もっとマニアックなものだったことを知った。
 黒いワンウェイストレッチ、網タイツ、つけみみ、蝶ネクタイ、白いカラー、カフス及びシッポ。
 もうツケミミからおわかりになるだろう。
 そう、これはバニーガール衣装だったのだ。
 んで、誰が着るんだい。
「あのあのあの、それはいったい……」

 怯える、みくるちゃん。一番の有力候補は彼女だ。

「知ってるでしょ? バニーガール」

 こともなさげに言うハルヒ。

「まままさかあたしがそれ着るんじゃ……」
「もちろん、みくるちゃんのぶんもあるわよ」
「そ、そんなの着れませんっ!」

 彼女は首を思いっきり横に振る。

「だいじょうぶ。サイズは合ってるはずだから」

 そういう問題じゃないだろう。

「そうじゃなくて、あの、ひょっとしてそれ着て校門でビラ配りを、」
「決まってるじゃない」
「い、いやですっ!」
「うるさい」

 みくるちゃんは、喉の奥で「ひいっ」と悲鳴をあげる。
 ハルヒの目が据われば、もう助けることは不可能に近い。
 ハルヒは獲物という、みくるちゃんに俊敏な動きでとびつけば。なんとか逃げようとジタバタする、みくるちゃんのセーラー服を手際よく脱がせ始める。
 なんでそんなに手際がいいんだ。

「いやあああぁぁぁ!」
「おとなしくしなさい!」

 ハルヒは、セーラー服の上が脱げれば。スカートのホックへと指をかけはじめた。
 キョンは流石にそれは不味いだろう、と止めようと足をあげかけたが、みくるちゃんと目があうと。

「見ないでぇ!」

 と、泣き叫ばれて、キョンは大急ぎ回れ右をし。
 走ってドアをあけて出ようとするが、ハルヒが鍵をしめており何回かドアノブを回したのち、転がるように廊下へと出た。
 男子は大変だね。
 私は、助けることも出来そうにないため。ひとまず見学することにした。

「ああっ!」
「うりゃっ!」

 ハルヒの手により、スカートも剥ぎ取られ、みくるちゃんは下着姿だ。ああ、もう霰もない姿で。
 しかし、下着可愛いですね。
 続いて、ハルヒはバニーガールになるために、邪魔なみくるちゃんのブラジャーに手をかける。

「だめえ!」
「ほら、脱いだ脱いだ!」

 みくるちゃんは、ブラジャーをおさえて首を横に振りハルヒに抵抗する。

「せめて……自分で外すから……っ!」
「最初から素直にしときゃよかったのさ!」

 ハルヒは勝ち誇ったように雄叫び上げ、みくるちゃんから手を離せば。
 みくるちゃんは、おずおずとブラジャーを脱ぎ、ハルヒはそれを取ると、みくるちゃんにワンウェイストレッチを手渡し。自分も服を脱ぎはじめた。
 しかし、同じ女でもこの光景照れるんですけど。
 しばらくすれば二人は着替え終わり、私はキョンを呼ぶためドアを開け、顔を出す。
 顔を出せばキョンと目があい。私が口を開くと同時に中からハルヒが声をかける。

「入っていいわよー」

 私はドアを開きキョンを入れると、キョンは口を半開きにして二人のバニーガールに見惚れていた。
 ようよう、胸に目が釘づけかい?
 私は、有希の隣へと戻りながら二人のバニーガール姿をみる。
 背中は、パックリと開き、横から見ると乳が見えるのではないか。
 しかし、谷間があるとは羨ましい。寄せてあげなくていいって素晴らしい。
 みくるちゃん、その、似合ってますからそんな泣かないで。
 先ほどの悲鳴をあげるのに疲れたのか、みくるちゃんは、泣きはしないもののしゃっくりを上げ、涙を拭いている。

「どう?」

 どうも、なにも。目のやり場に困ります。

「これで注目度もバッチリだわ! この格好なら大抵の人間はビラを受け取るわ。そうよね!」

 そりゃねえ。バニーガールだよバニーガール。ちょっとそういう系のお店に行かなきゃ見られないよ。

「そりゃそんなコスプレした奴が学校で二人もうろついていたら嫌でも目立つからな……。葵と長門はいいのか?」

 キョンは私たちの方を指差し、ハルヒはとても不満気に私たちの方をみた。

「二着しか買えなかったのよ。フルセットだから高かったんだから」
「そんなもんどこで売ってるんだ?」
「ネット通販」
「……なるほど」

 この前見ていた、マニアックな衣装の数々のサイトはそれですか。

「行くわよ、みくるちゃん」

 ハルヒはチラシが入っている紙袋を掴み、持ち上げればキョンを見上げ、助けを求めるみくるちゃんの腕を取る。
 みくるちゃんはテーブルにしがみつきぐずるが、ハルヒの力にはかなわず小さな悲鳴と共に、引きずられるように連れ去られた。
 みくるちゃん、頑張って。

「それ」

 有希は床を指させば。そこには、脱ぎ散らかされた制服が無惨な姿で放置されていた。
 ブラジャーまで、そこらへんに落ちており。なんともいえない光景だ。
 私は立ち上がり、制服を持ち上げれば有希が次に指差すハンガーラックにそれをかけ。キョンもそれを拾うのを手伝えば、ブラジャーを持ち上げ顔をしかめ。
 私にそれを手渡した。

「ブラジャーぐらいで顔しかめて、青いねーキョンくんよ」
「うるさい」

 私は、制服の下に隠すようにブラジャーをかければ。振り返り様に腕を上げ、キョンとじゃんけんを始めた。負けた方は、ジュースを奢る条件で。
 その三十分後、よれよれになりながらみくるちゃんが部室に帰ってきた。クリクリした、目は真っ赤にし。鼻をすすりながら、未だ止むことない涙を手で拭う。
 キョンは慌てて椅子を譲り、みくるちゃんはテーブルに突っ伏して肩をゆらす。
 デジャブを感じるのだが気のせいだろうか。
 キョンは紳士的にか、はたまた自分が目のやり場に困るためか、ブレザー脱いでみくるちゃんの肩にかける。
 静寂が辺りを包む。ブラバンの音と、野球部の怒鳴りこえがよく聞こえることで。
 少ししたら、勇ましくハルヒ帰還してきた。

「腹立つーっ! なんなの、あのバカ教師ども、邪魔なのよ、邪魔っ!」
「何か問題でもあったのか」

 キョンは、なるべく穏やかに尋ねればハルヒは目をつり上げ振りかえる。

「問題外よ! まだ半分しかビラまいてないのに教師が走ってきて、やめろとか言うのよ! 何様よ!」

 何様って、先生様だろやっぱり。俺様何様先生様って……語呂いいな。

「みくるちゃんはワンワン泣き出すし、あたしは生活指導室に連行されるし、ハンドボールバカの岡部も来るし」

 ハルヒは思い出したのか地団駄を踏み、声をはりあげた。

「とにかく腹が立つ! 今日はこれで終わり、終了」

 頭につけていたウサミミをむしり取り、ハルヒは床に叩きつけるとバニーガール衣装を脱ごうと服に手をかけ始め。キョンは走って転げるようにしてまた部室を出ていった。
 せめて、宣言してほしいものだ。そう思っているだろうな。
 私は叩きつけられ、耳が垂れ下がったウサミミを持ち上げると、己の頭につけ遊んだ。バニーガール葵ちゃん、なんてどうだろうか。
 みくるちゃんやハルヒみたく、似合わないだろうが、少し着てみたかったりした。今度言ってみようかな。

「いつまで泣いてんの! ほら、ちゃっちゃと立って着替える!」

 みくるちゃんは、その一声に身体を起こすと鼻をすすり。ノロノロとだが、着替えはじめた。
 ちなみに有希は、最後の最後まで本を読んでおり。ある意味尊敬してしまう。
 みくるちゃんは、着替え終わるとキョンのブレザーを小脇に抱え、鞄を持ち部室から出ていき。私もその後を、二人に挨拶をして鞄を持ち追いかける。

「キョンくん……」

 出た先には暗く正気の抜けた顔で、キョンを見上げるみくるちゃんの姿があった。

「……わたしがお嫁に行けなくなるようなことになったら、もらってくれますか……?」

 私ならばすぐさま、はい、と答えましょう。
 みくるちゃんは、ロボットみたいな、カクカクした動きでキョンにブレザー返せば。うさぎだったならば耳を垂らして、しょんぼりと歩き去った。
 なんていうか、バニーガール似合ってましたよ。本当に。

 その帰り道、私は親から頼まれていた買い物をするべく、キョンと途中で別れ。
 住宅街とは逆方向の、町のほうへと自転車を漕いでいく。
 今日という日も、何もなく平和に過ぎる。
 私は、あんなことが起きるまでは、のんびりとそんな事を考えていた。
 頼まれたものは、ごくありふれた物であり。明日の晩御飯のおかずにするものだろうか、と思える食材もあった。
 玉ねぎ、人参、じゃがいも、お肉といったら明日はカレーだろうか。
 ――ママ、明日はなーに?
 ――あなたが好きなカレーよ。
 ――やったー!
 ――うふふ。
 なーんて、カレーのCMでよく見る一場面が頭によぎったがこれは推測にすぎない。
 カレーではないと思おう。
 さて、私は目的の物を買えばスーパーを後にし、少し遠くに停めてきた自転車へと向かった。
 軽く目をつむりため息をつきながら、スーパーの袋で重くなった手に負担がかからぬよう、鞄を持ち直しながら右足を前に出した瞬間だった。
 次に瞬きをした時にはすでに、そこは自分の世界と似ている。知らない世界へと来ていた。
 一面灰色、空まで曇っているかのように灰色。人通りの多いはずの道は、人一人もいなく、無音が耳に痛い。
 しかし、電気は動いているらしい。信号機が点滅し、色を変える。
 私はたまらなく怖くなり、戻ろうと来た道を戻ろうと踵を返したが。それは叶わなく、見えないなにかに押し戻されてしまった。
 なんなんだ、一体。ここはどこなんだ。
 私は無我夢中で、人がいないか走りまわるが。それは無駄な努力に終わった。
 心臓が早鐘を打ち。呼吸が乱れる。
 初めての経験に、楽しむ前に恐怖心が沸き起こる。
 きっと側に誰かいたなら、まだ楽しんでいただろう。さすがに、一人は心細い。
 しばらく、呆けていると後ろから何か爆破するような音が耳に入り。思わず耳に手をあてた。
 私は慌てて振り返れば、そこには青く発光している生物がおり。一瞬、ファンタジーな世界に来てしまったのか。と頭をかかえた。
 よーし、ひとまず落ち着け。吸ってー、吐いてー。
 胸を上下させ、深呼吸をすれば。多少なりとも恐怖心は和らぎ。私は青い生物を見上げた。
 大きさはそうだな。東京タワーぐらいだろうか、とにかくでかい。そして、建物を壊してなにをするきだ。助けて、ウルトラマン!
 しばらく破壊活動を続ける青い生物を見ていると、突然赤い光達がどこからともなく飛んできて青い生物の周りを回る。
 一体何をしているんだ。パフォーマンスか何かか?
 私は、もう少し近づいてみようと歩を進めると同時に、青い生物の腕が切り落とされ。地面に落ちた。
 切口からは青い液体みたいなのが雪崩れ落ち。これが赤だったらスプラッタだなと、感じた。赤じゃなくてよかった。
 それが、引き金になったのか、次から次へと切り落とされていく青い生物は、最後に頭を切られ死んだのか私の視界から消えた。
 この勝負赤玉の勝ちとみた。
 赤玉は、仕事が終わったからか四方八方へ飛んでいき、そのうちの一つがこちらめがけて飛んできた。
 そして赤玉が私の立つ信号とは向かい側の歩道にとまり。赤玉から、人間へと姿を変えた。って、赤玉人間だったんですか。
 私は、驚きに目を見開くと、相手も私に気づいたらしく驚いていた。
 年格好から、同い年くらいだろうか。色素の薄い茶色の髪に、整った顔立ち。
 モデルになれるのではないかと思う程の長身にルックスのよい彼は、私を見ると驚いた後何か考えこむかのように口元に手をあてた。
 その姿がまた様になっていたのは言うまでもない。
 そして、何か思いついたのか。彼はまた視線をこちらに向けると、横断歩道を渡り近づいてきた。
 私は、我にかえれば何故か彼から逃げようと走り、入り組んだ路地へと入って、後ろを振り返る。
 その時、音もたてずに戻ってきた人と、橙色に輝く夕焼けに騒音に私は耳に手をあて首を横にふる。
 なんだったんだ。あの世界は。彼は、あの赤い光はなんだったんだ。ついでに青い巨人も。混乱する頭を何とか動かし、自転車の鍵を開けると、飛び乗り。
 大急ぎで、帰路へとつき。スーパーの袋を親に手渡せば私は部屋へと戻り。布団を頭からかぶった。
 今日という日は、平和にすぎなかった。
 次の日、私はまだ混乱している頭で学校へと向かった。
 ハルヒが望む不思議とはあれのことだろうか。それとも、もっと不思議なことだろうか。
 ひとまず一つ言えることがある、一人で体験するのは怖かった。
 教室へとつけばハルヒの名前はどうやら学校中にとどろぎ、北高の常識となっていた。
 そのオプションとしてみくるちゃんも囁かれ、周囲の奇異を見る目が私とキョンにも向いてる気がする。気のせいだと思いたい。
 バニーガールぐらい、いいじゃないか!
 そして、私は昨日あれから一睡も出来なく、今になって睡魔が押し寄せてきた。
 よくあるよね、徹夜したら最初こそは元気だが。時間がたつにつれて疲れるの。

「キョン……」
「なんだ、お前目の下にクマ出来てんぞ」

 キョンは私の頬に手をやると、親指で私の目元をなぞる。
 そんな、わかりやすいクマが出来てるのだろうか。私の目の下の異変に、自分でも気づかなかったことに唸り。
 キョンのブレザーの裾を掴み、額を机にぶつけ私は夢の世界へと飛び立つ。最近、寝てばかりだな私。
 遠くのほうに雑音のように聞こえる、キョンと国木田、谷口くんの声が、だんだんと薄れる意識の中、消えていく。
 次に目が覚めたのは授業中。先生に本で叩かれた時だった。しかし、眠い。
 その日の部活でのハルヒは怒っていた。
 昨日、チラシ配りを邪魔された怒りもさることながら今日の放課後になってもメールが届かないからだ。
 私は、有希の肩を借りて自分が持ってきた毛布を被りながら二人の様子を寝惚けながらみる。
 空っぽのメールボックスに眉を寄せて睨みながらハルヒはマウス振り回す様がみえる。
 ハルヒ、マウス壊れる。壊れるから。

「なんで一つも来ないのよ!」
「まあ昨日の今日だし。人に話すのもためらうほどのすげえ謎体験なのかもしれんし、こんな胡散臭い団を信用する気になれないだけかもしれん」

 キョンは気休めを言うと、ハルヒはマウスを下ろし、辺りを見回す。

「みくるちゃんは今日休み?」
「もう二度と来ないかもな。可哀想に、トラウマにならなければいいのだが」
「せっかく新しい衣装用意したのに」

 ハルヒが新しく持ってきた紙袋には一体何が入っているのやら。
 私は、少し見てみたい気もしたが。みくるちゃんが着た姿をみたいので、楽しみにとっておくことにした。

「自分で着ろよ」
「もちろんあたしも着るわよ。でも、みくるちゃんがいないとつまんない」

 口を尖らせ、椅子にふんぞりかえるハルヒに、私は口を開く。

「ハルヒー」
「なによ」
「私もコスプレしたい」

 はたから見たらおかしな光景だろう。眠りかけている女がいきなりコスプレしたいと言ったのだから。
 ハルヒはそれを聞くと目を光らせ、嬉しそうに「なら今度は葵の分も買うわね!」と言った。
 一体どんなコスプレが来ることやら。
 キョンのやれやれと、首を横に振る姿が視界に入り。瞬きをするたびに、その姿はかすんでいった。
 いつの間にか、また寝てしまっていたらしく。私が目を覚ますとキョンがこちらを見ており、私が起きたことを確認するかのように片手をあげてきた。

「起きたか」

 私は頷く。

「帰れるか?」

 また頷く。

「ほら立て、帰るぞ」

 キョンは、椅子から立ち上がると鞄を持ち。私の鞄まで持ってくれた。
 ありがたや。どうやら、私が起きるまで待っていてくれたらしく。窓からは夕日がさし、部屋を橙色に染める。
 ハルヒと有希はすでに帰っているのか、誰もいない部室は少し寂しい。
 キョンは、私の腕をとると立ち上がらせ。私に鞄を持たせると、背中に乗るよう促す。
 そこまでフラフラではないぞ、と思いながらもそれに甘えることにした。
 キョンの首に手を回し、背中に乗ればキョンは立ち上がり私の太ももに手を添える。
 そして、ドアを開ければ部室を出て校舎を後にする。しかし、こういうことをするのも何年ぶりかな。
 駐輪場に来ると、キョンは一旦私を下ろし私が乗ってきた自転車の鍵を受け取り開ければ、取り出して押してきた。
 それにお礼を言い私はハンドルを受け取ろうとすれば、キョンはそれを制し私に自転車の後ろに乗るよう言った。

「私、そこまで寝てないよ」
「いいから乗れ。帰りに事故にあわれるより、乗せて帰すほうがましだ」
「明日の学校は?」
「起こしにいってやる」

 徒歩で行ける学校で、何故自転車かと言うと私が起きるのがかなりギリギリだからだ。
 ギリギリで走ってもたかがしれている。それならば、自転車で来てしまえ。ということで、自動車で来ている時があるのだ。今日がそんな日だとよくわかったな。
 私はしぶしぶ、キョンの運転する自動車の荷台に乗れば。
 キョンも自転車に跨ぎのり勢いよく漕ぎだし、私はとっさにキョンの腰に手を回した。
 身体をキョンの背中にくっつけ、後ろ姿を見上げれば。少し身体を強張らせたキョンの肩がみえる。
 いつの間にか大きくなったんだな。
 私はその背中に額を押しつける。

「キョン、あのさ」

 キョンは何も答えないがどうやら聞いてはくれているらしい。

「私が、もし変なことに巻き込まれても仲良くしてくれる?」

 車の騒音と、タイヤの回る音が私の言葉をさえぎり。キョンは、信号の前で止まると振り返り苦笑いを浮かべる。

「お前、何言ってんだ。なにか悩みごとでもあるのか?」
「いや、うん、そういうわけじゃないけど」

 口を濁す私に、キョンは息をつくと私の額を小突く。

「してなかったら、今ここに俺は居ないだろ」

 確かにそうだな。
 なぜだか、そう思うと気持ちが落ち着き顔がにやけた。
 ああ、やっぱりキョンは私の心の安定剤だ。

「もう、キョン好きだー! お嫁に来て欲しいよ」

 私は、キョンの腰にしがみつき叫べば「お前なー」と、ため息混じりに、頭を軽く叩かれた。
 次の日、約束通りキョンがモーニングコールをしに迎えに来てくれ、私は手をひかれ学校へと向かう。
 手を繋ぐほど子どもじゃない、と文句を言えば。私の足元が危なっかしいからとのこと。
 そんなに危なっかしいかな。確かにこの前溝にはまったが。
 そして、朝のホームルーム前のわずかな時間の間に、ハルヒから重大な出来事を聞くことになった。

「すごいと思わない? 本当に来たわよ!」
「何が? 宇宙人でもきたの?」

 満面の笑顔でハルヒは机から身を乗り出し私の方を向く。ああ、もう、そんな笑顔を大安売りして。

「違うわよ。確かに宇宙人も欲しいけど、転校生よ転校生! 一年九組に転校生が来たのよ」

 転校生の部分を強めて言いながらハルヒは、椅子へと座り。腕を組む。

「またとないチャンスね。同じクラスじゃないのは残念だけど謎の転校生よ。間違いない」
「会ってもないのにどうして謎だと解る」
「前にも言ったじゃないの。こんな中途半端な時期に転校してくる生徒は、もう高確率で謎の転校生なのよ!」
「どういう確率なんだよ」

 キョンは私の言葉に頷き、ハルヒは聞いてないのか私の方へ顔を向け、輝いた瞳で私を見た。

「葵、休み時間になったら行くわよ」
「ええ、私も!?」
「決まってるじゃない。あんたはあたしの秘書なのよ。来なくてどうするの」

 ハルヒは秘書という役割を何かと間違えてはないだろうか。別に団長だけでいいじゃないか。
 まあ、転校生、気になりはするが。なんだか、いやな予感がするんだよね。
 そんな私の気持ちも知らずに、ハルヒは一限終了と同時に私の腕をとり教室を飛び出し九組へと向かう。

「ね、ねえハルヒ。私トイレ行きたいからさ先に行ってきてよ。トイレ済ましてから行くからさ」

 私は苦し紛れに、そんな嘘を口走るがハルヒは目をつりあげ。

「なら行ってきなさいよ。ただし、外で待ってるから十秒で済ましてきなさい」
「やっぱり、いいです」

 そのまま、九組のクラスへと引きずられて行けば、近くいた男子生徒に掴みかかり。

「転校生はどいつ?」

 男子生徒は、驚きながらも人が群がっている一ヶ所を指さし。
 それを確認すれば男子生徒から手を離し私の腕を掴み、その輪に向かった。そして、周りにいる人をけちらせば転校生の前へと立ち。

「どこから来たの? あんた何者?」

 と、初対面に向かって言うような言葉ではないようなことをいった。
 ハルヒさん、それはないんじゃないんですか。
 私は、ハルヒから転校生へと視線を移し目に映るその人物に、いますぐ走り去りたい衝動にかられた。
 その転校生は、ついこの間あった謎の彼に似ていた。てか、お前さん本人だろう。
 彼は私同様、見上げると少し驚き、そして目を細め笑った。

「なによ。葵の友達?」
「え、いや、あの」
「彼女とは、先日僕が道を聞いた時に知り合ったんですよ」

 その節は、ありがとうございました。と頭を下げられ、私はとっさに同じように頭を下げ。顔を上げると、彼は同じように笑顔でいた。

「それで、あんた名前は?」
「古泉一樹です」

 古泉一樹、古泉は古いに泉でコイズミと読み、一樹はカズキではなくイツキと読むらしい。
 その古泉くんはハルヒの質問に当たり障りなく答え。
 チャイムが鳴る少し前にハルヒと共に帰ろうとする私の腕をとった。

「お名前伺ってもよろしいですか?」
「え、あ。坂下葵です」

 私は、目を瞬かせ、古泉くんの顔をまじまじと見て答えれば。
 古泉くんは、私の手を離すと「可愛い名前ですね」と言われ自然と顔が熱くなる。
 タラシだ、この人タラシだ。

「あのさ、古泉くん」
「はい、なんでしょうか」
「……この前さ」
「葵なにやってんの行くわよ!」

 ハルヒはドアの入口付近で私を呼び、私は古泉くんとハルヒの間で顔を行き来させると、古泉くんは手を口にあてて笑い。
 私の腕を引き寄せれば、己の口を私の耳の側にやり。

「その件は後ほど」

 私は息のかかった耳に手をあて、古泉くんから離れ見下ろせば。古泉くんは口元に指をあてウィンクし。

「涼宮さんのこと頼みます」

 そう言われた。頼みますって古泉くん、君はハルヒの保護者ですか。てか後ほどってやっぱり先日の人は、君だったのか。

「葵なにやってんのよ」
「ご、ごめん」

 私は、少し気疲れしながら、ハルヒの元へと戻れば。ハルヒは踵を返し九組を後にした。
 私もそれに続き、出る前に一度教室を振り返れば。古泉くんは軽く会釈をした。
 頼まれても困る、私に頼むな。キョンに頼め。て、キョンのこと知らないか。
 私は、前を歩くハルヒの顔を覗きみれば。複雑な顔つきだった。
 期待していたような人物ではなかったからだろうか。そこは本人にしかわからない問題だな。
 チャイムギリギリ、五組に戻れば、キョンが片手を上げ、迎えてくれた。

「謎っぽかったか?」
「うーん……あんまり謎な感じはしなかったなあ」
「まあ、どこにでもいる転校生だったよ」

 多分ね。昨日のことを思い出せばどこにでもいる転校生ではないだろうがな。
 しかし、そこはあえて伏せておく。きっといつかは話すことになるだろう。
 これもまた、多分だということを言っておく。

「ちょっと話してみたけど、でもまだ情報不足ね。普通人の仮面をかぶっているだけかもしれないし、どっちかって言うとその可能性のほうが高いわ。転校初日から正体現す転校生もいないだろうし。次の休み時間にも尋問してみる」

 キョンはハタと気づいてハルヒに尋ねる。

「男? 女?」
「変装してる可能性もあるけど、一応、男に見えたわね」

 いや、あれはどうみても男だろ。
 あれで女ならば、私は驚きのあまり服を脱がせて下をみようとするだろう。
 さすがに、やりはしないけどね。

 さて、私はまず何から話せばいいのやら。
 ひとまず、結論から言おう。
 彼もまた、そしてこのSOS団自体。
 普通からかけ離れたものだった。もちろん、私も含めてね。

SOS団結成!END

第ニ話、終りました。
やっと、古泉くんを出せてSOS団全員揃い嬉しく思ってます。
(*´ω`)

この調子で、キャラ全員と絡めていけたらいいなと思ってます。

第三話は、原作の三章を書いていきなと思い書き進めております。

しかし、ハルヒのキャラは明るくて書くのが楽しい!

これからも、このような調子ですがよろしくお願いします。


2007 05/29

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