笑顔の裏の本当の顔

 次の日、もう梅雨シーズンに入った為かジメジメと蒸し暑かった。
 あー、制服暑い。だが、まだセーラー服だからマシなのかな。いや、しかし男子もブレザー脱げば腕を捲れて涼しいかもしれない。
 鞄を持ち、服が汗にひっつきながらも気にしなず坂道を登る。
 前を歩く子の下着が透けてるのだが、言うべきか言わざるべきか。

「おはよう坂下」

 前の子の下着をみながら、歩いて行れば。後ろから声をかけられ、私は振り返れば国木田の姿があった。

「おはよう国木田、今日も暑いね」

 手で己を扇ぎ風を送り、欠伸をする。しかし、眠い。
 教室へとつくと、珍しくハルヒが居なく。キョンの姿だけが見えた。

「おはようキョン、今日ハルヒはまだなんだね」

 キョンは下敷きで、首元に風を送りながら挨拶を返す。
 ねぇ、下敷き貸して。

「ノートでも使え」

 扇いでいた下敷きで、私の頭を軽く叩く。痛くはないが不愉快だ。

「なら、じゃんけん勝負! 負けた方が十秒間相手を扇ぐ!」

 キョンは乗り気ではないが、じゃーんけん、とかけあえば。反射的にグーを出した。
 人は突然だと、グーを出す習性があるらしい。
 私はもちろん、パーを出して十秒間の扇ぎタイム。

「あー、風が気持ちいい」

 キョンは半分やけになりながら、風を送り続け。十秒たてば、またじゃんけんをする。
 今度はキョンの勝ちだ、ちくしょう。
 私は下敷きを受けとれば、上下に扇ぎ風を送る。
 結局、そのまま五回勝負し私が二勝、キョンが三勝。

「男の力には負けるわ」
「じゃんけん関係ないだろ」
「まあ、ね。さあ、六戦目いこうか!」

 手を上げ、勢いよく振り下げる。

「じゃーんけん!」
「ポン」

 私はチョキをだし、キョンはグー。

「グーに勝ち、グーで負けた」
「これも何かの運命だ」

 私は素直に、キョンから下敷きを受けとれば。数を数えながら扇ぐ。
 その時、遅れてやってきた我らが団長ハルヒは、鞄を机に投げ出し。どっかりと席に座った。

「団長おはよう」

 時計を見れば、始業の鐘ギリギリだった。ナイス滑り込み。

「おはよう。葵、あたしも扇いでよ」
「え、あ、ちょっと待って」

 私は大急ぎで、残りの数を数えキョンを扇ぎ終えれば。それをそのまま、ハルヒの方へと向け扇いでいく。


「団長ーどうですか?」
「ちょうどいいわよ」

 ハルヒは背もたれにもたれ、脚を組み。ふんぞり返りながら、ぶっちょう面で前を睨む。
 今日はいつもより、機嫌が悪いのかな。

「おい、涼宮」
「なによ」
「それぐらい、自分でやれ」

 ハルヒは、唇をつきだすと私の手を引き寄せ。私はバラスを崩しそのままハルヒの胸の中におさまった。
 む、胸が、胸が顔にあたっているのですがハルヒさん。

「葵はあたしの秘書なのよ? あんたにあれこれ言われる筋合いはないわ」


 そういうと、私の頭を撫で更に力を込める。あの、だから胸が。ちょっと顔が赤くなりそうなんですが。ちょっと、あの、ハルヒさん大きいですね胸。う、うらやましい。

「あのさ、涼宮。お前『しあわせの青い鳥』って話し知ってるか?」

 私がハルヒの胸を堪能していれば。キョンはこんな質問をハルヒに投げ掛けた。
 皆さんは、有名なこのお話をご存知だろうか。チルチルとミチルの二人が青い鳥を探しに行く物語を。
 ちなみに、ラスト家で飼ってた鳩が青い鳥に化けるのだが。んなこと本当にあるはずがない。
 あったら今は日本中、いや世界中青い鳩だらけだ。
 この物語の教訓は、幸せは身近にあるものなんだよ、という話だけど。
 確かに、今の状況はハルヒにとっては青い鳥状況だな。
 ちなみに、青い鳥症候群という病気もあるらしい。詳しくは便利な世の中に聞いてくれ。

「それが何?」
「いや、まあ何でもないんだけどな」
「じゃあ訊いてくんな」

 ハルヒは、私を離すと斜め上を睨み。私は慌ててまた風を送れば。

「もういいわよ」

 と、斜め上に視線を向けたまま言いはなたれ。私は下敷きをキョンに返し席へと戻り前を向けば。
 朝倉さんと目があい、にっこりと微笑まれた。
 な、なんですか朝倉さん。
 私もとにかく、笑い返せば岡部先生が入ってきてホームルームが始まった。
 その間、視線を感じたが。気にしないでおこう。

 ハルヒはその後、やはり今日は機嫌が悪かったらしく授業中、不機嫌オーラを四方八方に放射していた。
 背中にあたる空気が重い、そして気まずい。
 キョンは、それから逃れるように先へ部室棟へ行き。私は、掃除当番であるハルヒに先に行くと声をかけ、部室へと続く廊下を歩いていく。


 さて、着物でも着替えるか。私は、ドアノブに手をかければ。私が引く前にドアが引かれ、前のめりになった。

「うわっ」

 視界いっぱいの、男子のブレザー。キョンとはまた違う匂い、いや、私が変態ってわけじゃない。
 ただ、長年の付き合いから匂いの分別がつくわけで。誰に言い訳しているんだろうか自分は。

「おや、葵さんではありませんか」
「古泉くんでしたか」

 ブレザーから顔をあげ、見上げれば。そのブレザーの持ち主は古泉くんだった。後ろにはキョンがついている。

「どこか行くの?」
「ええ、彼と少しお話しようと思いまして。よろしければ葵さんも来てください、まだ貴方に話していないことも少しありますので」

 フェアに、ですからね。古泉くんは人差し指を口にあて悪戯に笑った。
 私とキョンは古泉伴い、歩を進めて行けば。ついた所は、食堂の屋外テーブルだった。
 丸いテーブルが可愛いですね。
 私が椅子に座り、丸いテーブルに手を乗せれば。
 古泉くんは、自販機で買った紙コップのコーヒーをキョンに手渡し。私には、何やら桃のジュースを手渡された。

「新商品らしいので、コーヒーの方がよかったですか?」
「ううん、ありがとう古泉くん」

 なるほど新商品か、どうりで見たことないと思ったわけだ。
 少し傾け中の液を揺らせば、少しドロっとしている感じがし。一口含めば果実入りだということを知った。
 なかなか美味しい。
 私はちみちみとコップの中のものを飲んでいれば古泉くんが話を切りだした。

「あなたは、どこまでご存じですか?」

 それからの話は割合で、まあ私の頭の中を整理するために言ってしまえば。古泉くんは超能力者で(この超能力者はキョン命名)
 三年前にその超能力が目覚めたと、まあそこまでは私も先日聞いた。
 今回新たに出てきたキーワードは、まず『機関』そして次に世界の始まり、最後にハルヒについての仮説だ。


 『機関』についてから話そうか、『機関』は古泉くんが所属している所らしくその実体は古泉くん自身あまり詳しくはわからないらしい。ただわかるのは三年前に発足し、ハルヒを監視するためだけの組織らしい。
 そして、古泉くんと同じ『機関』仲間がこの学校に何人もいるとのことだ。
 あなたの隣にいる人は、実は『機関』の人間。て、ことがあり得るってことか。
 次に世界の始まりについて。
 古泉くん所属する『機関』では、世界は三年前に始まったのではないかということだ。今ある過去の記憶はあらかじめ用意された記憶ってだけで本人が体験したことではない、ということか。
 奥が深いことで。
 最後に、ハルヒについての仮説だが。
 うん、なんだ機関の人は宗教の人か?
 どうやらハルヒは、神てき存在だというのだ。
 神は創造したり世界を改変したりと、もう本当やりたい放題できるらしい。そりゃもう、世界を壊すことも可能とのことで。
 だけど、ハルヒの力はまだ未発達のため自在には世界を操るまでなっていないらしい。
 まあ、本人無自覚なのだからそうだろう。
 あとは、さっきは言わなかったがキョンのこと。
 ここまで、非現実が起きるのならばキョンも何か特別なものだと思っていたが。どうやら、私の想像していた特別とは違うらしい。
 ごくごく平凡な男子高校生とのこと。
 ただ、この前有希が言っていたみたいに世界の命運を握る鍵ではあるらしい。
 重たいものを背負ってしまったなキョン。

 私は、半分ほどジュースを飲み終わり。ほっと息をついた。
 キョンはもう、冷めたであろうコーヒーをテーブルの端にやった。飲まないのか?

「超能力者とか言ったな」
「ええ、我々はまた違う名称をつけていますが、簡単に言えばそれで間違いないでしょう」
「だったら何か力を使って見せてくれよ。そうしたらお前の言うことを信用してやる。例えばこのコーヒーを元の熱さに戻すとか」
「あ、私スプーン曲げみたい!」

 さすがに、コーヒーを元の熱さに戻すのは違うような気がする。でも、スプーン曲げくらいなら、お手のものだよね古泉くん。
 古泉くんは、私たちの言葉を聞くと楽しそうに笑う。


「すみません無理です。そういう解りやすい能力とはちょっと違うんです。それに普段の僕には何の力もありません。力を使えるのはいくつかの条件が重なって初めて出来ることなんです。お見せする機会もあるでしょう。もし詳しく知りたければ、葵さんに聞いてみてください。彼女は一度見たことありますので」

 そういえば、そうであった。
 私はあの、灰色の世界で古泉くん&その同士たちが青い生命体《神人》を取り囲み、ぐるぐる回る様をみたな。
 ふと横に座るキョンへ視線を向けると、お前みたのかと言いたげな視線を向けていた。
 ええ、見ました。見ましたとも。

「長々と話したりしてすみませんでした、今日はもう帰ります」

 古泉くんは、にこやかに自分の飲んだ紙コップを持ち、テーブル離れた。
 キョンと私は、軽快にさる古泉くんの背中が見えなくなるまで見送り。キョンは紙コップを手にとった。
 中身は、まあ冷たいままである。

「まあ、人生そんなもんだよキョン」
「お前人事だと思ってな……」
「本当に人事だもーん」

 私は、残っていたジュースを一気に流し込めば。キョンがコーヒーを手渡してきた。

「いらないの?」
「甘すぎた」

 私はキョンから、コーヒーを貰うと一口飲みキョンの言う甘いがわかった。確かに、甘すぎる。

 私たちは部室へと戻り。キョンは先にドアを開け、それと同時に動作が止まった。

「キョンどうかした?」

 私はその背中に話しかけ、中を覗こうとキョンの隙間から顔を出すと同時に。

「失礼しました」

 キョンは、そのまま後ろに後退しドアをしめた。
 な、なんだったんだ?
 私は頭を抱えるキョンを尻目にドアを開ければ、メイド服に着替えるみくるちゃんの姿があった。
 ああ、なるほど。てか何だかすみません。

「あの、こんにちは」
「こ、こんにちは」

 ぎこちなく、お辞儀をするみくるちゃん。すみません。
 私も、着替えるべくキョンを置いて、先に中に入れば。ハルヒの姿はなく、有希は変わらずの姿で読書をしていた。
 せいがでますね!
 私はハンガーラックにかかる着物セットをとれば中に着る着物で言ういわゆる下着を羽織、結び。
 さあ、いざ着物に着替えよう。と思った時だ。

「あの、みくるちゃん。よかったら後で後ろの帯結んでくれますか?」


 みくるちゃんは、メイド服の前ボタンを止めながら視線をこちらに向け。キョトンとすれば、直ぐ様花のような笑みを浮かべ頷いた。

「いいですよ」
「ありがとうございます」

 すぐさま着替え終えるみくるちゃんに、帯を渡し自分は前をしっかりと閉じる。
 後ろから可愛らしい、声が聞こえる。

「えっと、ううーん」

 結びかたに手間取っているのか、はたまた立て結びになることに悩んでいるのか。
 みくるちゃんは、しばらく唸ったあと出来たのか私の腰、帯を軽く叩いた。

「出来ました。古泉くんみたいに上手くは結べなかったけど……」
「ありがとうございます」

 もう、みくるちゃんが結んだってだけでありがたいです。
 私は、前掛けを付けお茶の葉が入っている缶を開け茶葉を急須に入れる。
 みくるちゃんはというと、内側から控えめにノックをし。外で待っているキョンに声をかける。

「どうぞ……」
「すみません」
「いえ……」

 ドアをあけた、みくるちゃんは、頬をうすらピンクに染める。
 こういう時の私の反応は、ニヤニヤと観客気取りさ。下手な恋愛ドラマより凄く面白いと思うのは私だけだろうか。

「わたしこそ、いつも恥ずかしいところばかり見せちゃって……」

 先ほどキョンは、みくるちゃんの下着姿をみたのか。いいもの見せて貰ったな、キョン。
 キョンは曖昧に笑顔をみくるちゃんに返し、自分の気持ちに気づかれないようはぐらかした。
 本当は嬉しいんだろ、なんせエンジェルみくるの生下着だからな。
 うん、生々しいのは承知だ。
 キョンは、そのまま団長席に座りパソコンのスイッチを押す。
 ファンの回る音が静かな部室に響く。

「あの、葵ちゃん。私代わります、葵ちゃんは椅子に座って待ってて?」
「あ、ごめんね。ありがとう」

 どうやら、自分の手元の危なさにみくるちゃんは後ろからハラハラしながら見ていたらしい。
 いやあ、お恥ずかしいごめんね。家のじゃなきゃ、勝手が違って。
 私はみくるちゃんのお言葉に甘えて、キョンの後ろに周り。パソコンの画面を見る。
 何か面白いことしているのかと思えば。代わり映えなしのホームページが映し出されているだけだった。

「キョン何してるの」
「さすがにこのままは不味いだろ。何か他に書くことないか探しているんだ」
「あ、なら活動記録つけたら?」


 キョンは、腕を組み悩み。みくるちゃんは、お茶を入れると盆に乗せ私たちの元へ笑顔と共に持ってきた。
 みくるちゃんは、パソコンの乗っている机の上に邪魔にならない場所に湯飲みを置く。

「ども」

 キョンは、軽くお辞儀しパソコンからは目を離さない。

「葵ちゃんも、どうぞ」

 みくるちゃんは、私に湯飲みを差し出し。私はそれを受け取り、お礼をいう。
 RPG風に言えば、エンジェルみくるのお茶を手に入れた。と軽快な音と共にテロップが流れるだろう。
 ありがたくいただきます。
 みくるちゃんは、そのあと有希にもお茶を渡し、その隣に座り自分のお茶を吹いて冷ましながら飲みはじめる。
 その後、古泉くんは帰るって言ったとおり戻ってこなく。
 今日、反省会をすると意気込んでいたハルヒも、また来なかった。
 珍しいこともあるもんだ。
 私は、キョンと別れたあと夏も近いためか少しまだ明るい空を見上げて歩いていれば。自分家の表札のかかる柱に寄りかかっている人物がいた。
 誰だろうか。
 制服は私の学校の制服を着ており。長い髪がみえる。

「あのー……何かご用ですか?」

 話しかければ、その人は顔を上げこちらを向き。顔がみえた。

「朝倉さん?」
「坂下さんよかった会えて」

 ホッと安堵する顔が見える。いつから待っていたのだろうか。

「あのね、私坂下さんに言いたいことがあるの」

 可愛らしい笑顔を浮かべ、前で手をあわせる。
 言いたいこと?

「明日、危ないかもしれないよ?」
「誰が……?」
「そこまで、ヒントあげたらつまらないでしょ」

 いや、つまらないとか。てか何が言いたい朝倉さん。

「助けるかはあなた次第。明日楽しみにしてるね」

 朝倉さんは、そう言うと踵返し私に手を振り。

「じゃあね」

 これまた、素敵な笑顔で別れをつげた。
 少し前、美人には変な子が多いと言ったが。本当かもしれない。

 次の日、昨晩悶々と考えたせいで一睡もできなかった。
 まあそのおかげで、朝少し余裕持ってこれた訳だけど。
 欠伸を堪え、下駄箱に行くと朝倉さんがキョンの下駄箱に一枚の紙を入れ何事もなかったかのような素振りで廊下の角を曲がっていった。
 私は駆け足でキョンの下駄箱を覗けばノートの切れはしの紙が二つおりにされて入っている。
 覗きたい覗けない。罪悪感が。


「お前なにしてんだ?」
「ひいっ! すみませんすみません、まだ見てません只気になって、見てないから本当に!」

 私は、下駄箱に張り付いてキョンを見上げる。キョンは呆れながら、私をどかし下駄箱を見て不思議そうに紙をとる。

「ね、ね。何て書いてあるの?」

 私は背伸びし、中身を見ようとすれば。キョンは直ぐ様それを上げ「お前には関係ないことだ」と乱暴にポケットに紙を押し込んだ。
 見たかったのに残念だ。しかし、朝倉さん解りやすいことをしてくれたものだ。
 これで、キョンにターゲットを絞ればいい。
 私は、今日一日なるべくキョンの側にいることを誓い教室へと歩を進める。

「おっはよう!」
「……おはよう」

 今日こそは、いつもの明るい笑顔と声が拝めると思ったが。どうやら今日も、無理らしい。

「昨日はどうして来なかったんだよ。反省会をするんじゃなかったのか?」

 キョンは、自分の席に座り後ろで机に顎をつけ、突っ伏したハルヒに話しかけ。ハルヒは面倒そうに口開いた。

「うるさいわね。反省会なら一人でしてたわよ」

 話を訊くとハルヒは、土曜日のルートを学校の終わった放課後に、もう一度歩き回っていたらしい。

「見落としがあったんじゃないかと思って」

 そうそう、不思議を見落とすことはないだろう。寧ろ見つけられないのだからな。
 相手は隠れた何かだ。そう簡単には姿を現さないだろう。
 本人から名乗り出なかったらだが。

「暑いし疲れた。衣替えはいつからなのかしら。早く夏服に着替えたいわ」

 ちなみに今は五月後半、六月まであと一週間ぐらいある。

「涼宮、前にも言ったかもしれないけどさ、見つけることも出来ない謎探しはすっぱり止めて、普通の高校生らしい遊びを開拓してみたらどうだ」

 ハルヒは相変わらずグテっとして、頬机につけまま元気のない声を出した。
 まるで、夏にバテタ猫のようだ。

「高校生らしい遊びって何よ」
「だから、いい男でも見つけて市内の散策ならそいつとやれよ。デートにもなって一石二鳥だろうが」

 キョン、恋愛方面かよ、カラオケとか遊園地に友達と行くとかあるでしょ。

「それにお前なら男には不自由しないぞ。その奇矯な性格を隠蔽していればの話だが」
「ふんだ。男なんかどうでもいいわ。恋愛感情なんてのはね、一時の気の迷いよ、精神病の一種なのよ」
「せ、精神病って……」


 確かに、この年頃は恋に恋する年頃だと言われる。まあ、精神病と言ってもおかしくないだろう。
 机を枕がわりに、ハルヒは窓の外にぼんやりと視線を向ける。こんな無気力なハルヒを見るのは初めてではないか?

「あたしだってねー、たまーにだけどそんな気分になったりするわよ。そりゃ健康な若い女なんだし身体をもてあましたりもするわ。でもね、一時の気の迷いで面倒ごとを背負い込むほどバカじゃないのよ、あたしは。それにあたしが男漁りに精出すようになったらSOS団はどうなるの。まだ作ったばっかりなのに」
「何か適当なお遊びサークルにすればいい。そうすりゃ人も集まるぞ」
「いやよ」

 きっぱりと言いはなつ拒絶の言葉。

「そんなのつまんないからSOS団を作ったのに。萌えキャラと謎の転校生も入団させたのに。何も起こらないのは何故なのよ? あああ、そろそろ何かパアッと事件の一つでも発生しないかな」

 ハルヒさん、事件は会議室でおきているのですよ。
 なんて、言葉もあったもんだ。
 その後、起きたことは事件と言えば事件だが。人知れずおこり人知れず終わった。
 誰に話しても、わかってくれないだろうと思われる。事件が、ね。

 午前授業の大半をハルヒは睡眠時間に当てた。
 本当いいな、頭がいい人は。私なんか必死こいて黒板を書き写し先生の話を聞いて今の成績だ。
 天才っていいな。

 私はその後、お昼ご飯もキョンたちと食べ。私はなるべくキョンの側にいるようにした。
 時々朝倉さんの方に、視線を向けるが。朝倉さんはいつもと変わらない様子で友達と話している。
 本当に、何かあるのだろうか。

「どうかしたか?」
「ううん、何でもない」

 私は首を横に振り、キョンの服を引っ張る。次の授業は移動だ。
 本当ならば、ハルヒと一緒に行くところだが、ハルヒは体調不十分とのことで帰ってしまった。
 朝から眠そうだったもんな。
 そして、授業が終われば放課後。キョンは、私を先に行かせ「あとで行く」と言い一人どこかに行ってしまった。
 キョンのばかやろう! だからと言って追いかける勇気もない。


 私はしぶしぶ部室へと向かい、ドアを開ければ丁度みくるちゃんも来た所らしくまだ服には着替えていなかった。

「こんにちは葵ちゃん」
「こんにちはー!」

 私は右手を額にあて、敬礼すれば。みくるちゃんは柔らかく笑った。

「今日はキョンくん、まだなんですね」
「何かどこかに行くって言ってましたよ」

 私は鞄を机の上に置けば。有希の元へ行き後ろから椅子ごと抱きつき、有希の頭に顎を置く。
 最近有希とスキンシップとってなかった気がする。

「有希ー有希有希ー」

 私は有希に力の限りきつく抱きつき。頭に顔を埋める。

「今日はご飯食べに行けなくてごめんね」
「いい、今は彼が最優先」

 なんだこの、裏のことなら知りつくしてます感は。さすが有希、侮れない。
 私が有希と、スキンシップをとっていると突然ノックが聞こえみくるちゃんは着替え途中のためどうしようかオロオロしていた。
 こういう時こそ私の出番。
 私は立ち上がればドアへと行き少しドアを開け声をかける。

「いまみくるちゃんお着替え中なんですよ」
「そうでしたか、それは失礼しました」

 外を見ればキョンではなく、古泉くんが立っており。いつものように、爽やかスマイルを浮かべている。見ているだけで涼しくなりそうだ。

「それで、葵さんで宜しいのですが」
「うん?」
「今日アルバイトが入っていまして」
「アルバイト?」

 それは初耳だ。
 どこでアルバイトしてるの、今度遊びに行くよ。
 古泉くんは罰の悪い顔をし微笑をうかべる。

「そういう類ならよかったんですが……アルバイトとは機関でのことでして」
「ああ、そっか。うん、私ここで古泉くんの応援しているよ!」

 頑張れ! と手を振れば。古泉くんは去るときに一度会釈し「ありがとうございます」と言い階段を降りていった。

「古泉くん、どうかしたんですか?」
「今日アルバイトあるらしく、帰りました」

 まさか、そのまま言うわけもいかず、私は古泉くんのアルバイトを借りて言えば。
 みくるちゃんは、少し目を丸くし。

「そうなの? 私初めて知りました」
「私も今日初めて聞きました」
「古泉くんも、大変なんですね」

 影で頑張る正義の使者。みたいな感じだからな。


 私は、その後めんどくさくなり。着替えるのを止め椅子に座って、みくるちゃんの入れてくれたお茶をすすった。
 今日もいいお茶ですこと。
 まどろみの中、睡魔さんがやってくる。人間体内が熱くなると眠くなる。いや、温かくだ。
 湯飲みを握ったまま、机に頬をつける。
 ああ、このまま寝てしまおうか。
 瞼が下りてくる中、影が顔に落ちる。

「ゆき……?」

 先ほどまで本を読んでいた筈の彼女は私の額に触れると縦になぞり、一言何か呟いた。

 その後の記憶はなく、気づけばキョンも来ており。みくるちゃんと遊んでいた。
 おはよう諸君。

「キョン、私また何かやった?」

 いつも有希が額に触れると、わたしが来て私と入れ替わり、まだらな記憶だけがあるはずだ。
 しかし今回は全くないのだ。私は何かまた喋ったのだろうか。

「いや、俺が来た時にはすでにそこで寝ていたな」
「わたしも、気づいたら葵ちゃん寝てました」

 わたしの目撃なし。て、ことは本当に普通に寝ていたのか。
 何だか頭がボーっとする。重たい気もするな。
 私が、もう冷めた残りのお茶をすすると有希が本をパタンと閉じ、皆が帰り支度をはじめる。
 最近ではこの音を合図にしており、有希には感謝だ。

「着替えるから先に帰ってて」

 みくるちゃんは、やんわりとそう言い私とキョンは部室を出た。

「葵」
「なーに」
「少し用事があるんだ。だから先に帰っていてくれて構わないから」
「うーん、でも待っとく。下駄箱にいるから」

 キョンは、一つ欠伸する私をみると頭を一撫でし、「じゃあな」と片手をあげ大急ぎで階段を降りていった。
 何かあったっけ。時刻は五時半あたり。特にないような気がするけどな。
 私は、一段一段、踏みはずさないよう降りていき。階段の踊り場に白い物が落ちているのが目に入った。
 なんだろうかとそれを拾い上げ、くしゃくしゃになった物を広げる。
 そこには女の子の字で以下のことが書いてあった。

「放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室に来て」

 普通なら私はここで、特になにも気にせず、それを捨てただろう。
 だが、今は違う。何だか胸騒ぎがする。

キョンの挙動不審な様子。朝倉さんの昨日の言葉。そして、この紙に書かれている一年五組。
 私たちのクラス。
 結びつく答えは一つだ。
 朝倉さんは、私に忠告をしてきたのではない。私に、遠回しに勝負を挑んでいるんだ。
 しかし、なぜそこにキョンが必要なんだ。他にも私が親しくしている人はいくらでもいる。
 そして、なぜ勝負を挑むのか。根本的な疑問はそこだ。
 私はとにかく、キョンの元へと急いだ。朝倉さんの事だ、危害は加えないだろうとは、思いたい。
 しかし、朝倉さんは本当に人間だろうか。ここ最近色んなことが立て続けに起こり、頭が混乱してくる。

『危機が迫るとしたらまずあなた』

 突然、有希が宇宙人だと告白した時の言葉が思い出された。
 まさか、朝倉さんは、そうなのだろうか。
 とにかく自分の目で見るしかない。
 私は、一年五組の教室につけば、勢いよくドアを開け中へ入る。
 しかし、そこには誰もいない。

「……キョン?」

 無駄だとわかっていながら、名前を呼んでみる。返ってくるわけがない返事を待ち。私は教室の中へと入る。
 その、瞬間だ。電撃が走ったかのように痺れ。一瞬にして理解した。
 キョンはここに、いる。少し空間をいじられているだけで、頑張れば入れる。
 そうだ、私は異世界人。空間移動なんて、簡単なんでしょ?
 私は、床に座り込み叩いてみる。何も変わらないのはわかっている。
 ちくしょう、どうやったら作動するの。プログラムってやつは。

『落ち着いて』

 がむしゃらに、いたるところを触っていれば。突然頭に聞き慣れない声が響いた。

『緊急プログラムは作動してるから。あとは申請して、大丈夫あなたなら出来る』

 申請って、どうやるんだよ。私は何もわかってないのに。
 私はうつ向き息をはけば、自然と口が開いた。

「緊急プログラム作動、申請します。ターゲット名、キョン。申請希望者、坂下葵」

 ピッとどこからともなく機械音がした。
 まるで、自分が喋っていないようだ。すらすらと言葉が出てくる。

『緊急プログラム作動申請、受理。これより緊急プログラム作動します』

 私は固く目を瞑れば。体が一瞬にして無重力世界にほうり投げ出されたように宙に浮いた。
 そして次の瞬間、地面に叩きつけられ。私は尻餅をつきながら目を二、三度瞬いた。


 横には朝倉さん、もう横にはキョン。どうやら緊急プログラムが上手く作動したらしい。
 しかし、間に挟まれ私気まずいんですが。
 キョンは、目を丸く見開き私の顔をマジマジと見ており。朝倉さんは、笑顔とともに私を見下ろし、手にはナイフを持っている。
 ナイフ、ナイフってあんさん、危ないじゃん!

「今この教室は密室。出ることも入ることも出来ない。ただ一人、坂下葵を除いてね」

 朝倉さんが一歩近づいてくる。え、何このホラーな構図は。
 しかし、今ここで逃げるのは無理だ。後ろにはキョンがいる。
 ちょっとちょっと、どうにか出来ないのか。こう、ちょちょーいっと全て出来るような力。
 無理だよな、自分で探さなきゃ。

「坂下さん、よかった来てくれたんだ。もう来ないのか心配したよ」
「何で私を?」
「うーん、あなたは私の本来の目的じゃないんだけど、ついでかな? 今後邪魔されないように、今死んでもらったら楽でしょ?」

 朝倉さんは、何をする気だ。ナイフの背で自分の肩を叩く。
 友達と話す時のような明るい笑顔を浮かべ、また一歩近づく。

「運よく、今日のあなたは、あなたでよかった。ふふキョンくん、少し待ってて今この子を殺して貴方を殺すから」

 お巡りさん、今この子物騒なこと言ったよ。
 よかったね、心の準備が出来て。と朝倉さんは一歩一歩近づいてくる、その姿に恐怖で体が動かない。

「ねえ、死ぬのって怖い?」
「こわく、はない」

 怖くはない、だって一度自分は死んでいるようなもの。いつ消えてもいい危うい存在だからな。

「ただ、寂しいかな……?」

 結構楽しく過ごしていたからな。突然それが終ると悲しい。

「だから、私は死なない方面で行きます! 打倒朝倉さん、ナイフなんかね怖くないんだからね!」
「あなたに何が出来るっていうの?」

 確かに私は何も出来ないだろう。でも、時間稼ぎぐらいは出来るはず。その間にいい考えを思いついてくれ。

「おい、葵!」

 朝倉さんと睨みあっていれば、突然後ろから手を取られ振り返れば。キョンが首を横に振る。

「キョン、私ね。守られるだけはいやなの、だから私は今からキョンを守る」

 前を向けば、朝倉さんは待っていてくれているのか。ナイフを構えて止まっている。

「キョンは大人しくヒロインちゃん、やっててね」


 足を踏み込んだと同時に、朝倉さんは体制を低くし一直線で私に向かってくる。下から腕を上げ、とっさに横に逃れた時、頬にかすった程度ですんだ。

「本当あなたじゃだめね。少しくらい、楽しませてくれるかしら」

 な、舐められたものだ。少し悲しいが、その通りだから反論出来ない。
 せめて、キョンに危害がくわらないように出来たらな。

「防御って出来るのかな」

 RPGならば簡単に選択すれば勝手にしてくれるのにな。
 私はとにかく机の上にあがり机と机を飛び移る。
 ああ、もう、なんなんだよ。

「無駄だよ」

 朝倉さんが手をかざすと飛び移ろうとした机が動き、私はバランスを崩し、床に叩き付けられた。

「ぐっあ」
「そろそろ、ジラすのもあれだし、もう諦めて?」
「ぃやだ」

 朝倉さんが通るところ、机が自分から避け。何だか凄い人で、更に怖さがマックスに。
 私は体を起こしそのまま後ずさる。
 何か考えなければ。
 次の瞬間、腹に衝撃がきた。
 息が一瞬詰り、床にころげ、むせかえる。
 一瞬何が起きたかわからなかったが。朝倉さんが笑顔でこちらをみており、そのスカートがふわりと落ちるのが見えた。
 蹴りを入れられたのか。

「ね、坂下さんも痛いのは嫌でしょ?」

 いえいえ、私Mですから。とかおちょくれるほど余裕もない。
 ああ、私本気でやばいかもしれない。

「じゃ、行くよ」

 朝倉さんのナイフを持つ手が上にあげられ私めがけて下りてくる。

「やめろ!」

 あと数センチの所でナイフが止められ、朝倉さんはナイフを構い直すとキョンへ振り返る。

「なに、あなたが先に死んでくれるの?」
「いいや、違うな。俺もそいつも死ぬつもりはない」

 キョン首を横に振る。よし、今だ! 私の眠っている力発動だ。なんて、上手いことことが進むのは漫画や小説。作り話の中での話だ。
 私は、まだうずくお腹を抱えハイハイをするように朝倉さんから離れキョンの元へと向かう。
 ホラーチックに見えるが消してサダコを目指しているのではない。

「ねえ、あきらめてよ。結果はどうせ同じことになるんだしさあ」
「……何者なんだ、お前は」

 キョンは私の肩を持ち、私は支えられながら立ち上がり。机の間をぬってキョンは朝倉さんから離れようとする。
 机が私たちの進路を妨害するのに、うってかわり朝倉さんは一直線で向かってくる。


 机が進路を妨害しないように自ら、朝倉さんに道を開けている。
 あの、なんかのCGですか。CGですか?
 私たちは、端においやられ。もう身動きが取れなくなった。
 一か八かキョンは椅子持ち上げ朝倉さんに投げるが、当たる手前で方向転換し、横に飛び、他の机にあたり落ちた。
 凄い音がし、私は身がすくみ膝が震えた。

「無駄。言ったでしょう。今のこの教室はすべてあたしの意のままに動くって」

 笑顔が今は怖い。

「最初からこうしておけばよかった」

 その言葉と同時に、かなしばりにあったかのように、体が動かなくなった。
 ちょっとちょっと、瞬きも出来ないんですが。

「あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分、大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会だわ」

 嬉しそうに、笑顔を和らげる朝倉さんはナイフを構える。

「じゃあ死んで」

 空気が動き、ナイフがキョンに迫る。

「キョン!」

 動かない身体が煩わしく。声を上げることしか出来ない私は、息を呑む。
 その時だ、天井をぶち破るような音と共に瓦礫降ってきた。
 私は、突然のことに目を見開き天井を仰げば。瓦礫の一つが私の頭を叩いた。
 あー、もう何でこうも頭をうつかな。
 打ち所が悪かったのか、意識が薄れる中。ショートヘアーの女の子をみた。あれは、多分いや絶対有希だろうな。
 正義の使者、有希ちゃん参上。

「――い」

 い? いがどうした。

「おい!」

 頬に強い衝撃がはしる。わたしはその痛さに目を開け身体を起こせば有希と朝倉さんが睨みあっており。わたしの横にはキョンがついていた。

「……あ、キョンくん! 怪我はないですか?」

 わたしは起き上がり、キョンの身体に手を触れればどこも怪我しておらず。ホッと息をつく。

「よかった、すみません。私、役立たずで、でもわたしだったら防御くらい出来ますので安心してください!」

 わたしは自分の胸を叩き、有希へと振り返れば。その手には、ナイフの刃が握られているのに目を見張った。
 痛くないのだろうか、宇宙人は。

「長門さん、キョンくんの保護は大丈夫です。安心して戦ってください!」
「そう」
「ただ時間制限はあるので……すみません」

 わたしは、防御の下準備をしながらいえば有希は前を見据えたまま「わかった」と微かに頷いた。

「どうして……」

 朝倉さんは心底驚いているのか動きが止まっていた。素手でナイフの刃を持つ有希の手には、血がしたたり落ちる。

「一つ一つのプログラムが甘い」

 本当に痛くないのか、平然と変わらない声で答える有希。
 その姿に拍手を送りたいが今は我慢、シールドを作るのに手一杯だ。なんせ、情報に割り込まなきゃいけないからな。
 さて、簡単に入れるか。少し難しい所だ。

「邪魔をする気?」

 朝倉さんも、どうやら状況についていくのが早いらしく。先ほどの、驚きの様子は塵と無くなり、今じゃ笑顔をうかべる余裕さえもある。
 えーと、ここにこれを入れて。円を書いて。

「この人間が殺されたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。これ以上の情報を得るにはそれしかないのよ」
「あなたはわたしのバックアップのはず」

 平然と、結構重要なことを言ってのけたような気がするのだが。わたしだけだろうか。
 ふむ、朝倉さんは有希のバックアップなのか、ならば必然的に朝倉さんは有希に仕えることになるな。

「独断専行は許可されていない。わたしに従うべき」
「いやだと言ったら」
「情報結合を解除する」

 いやに挑発的だな。勝算はあるのか。
 わたしは、ぐるりとキョンをいれて円を描けば。円の縁に手を添え呟く。

「サークルシールド起動、守備範囲、強度ともにレベル五」

 描いた円は光、一瞬にしてドーム状の透明シールドが張られる。

「やってみる? ここでは、わたしのほうが有利よ。この教室はわたしの情報制御空間」
「情報結合の解除を申請する」

 言うが早いか有希が握るナイフの刃が煌めきサラサラ砂のようにこぼれ落ちる。

「!」

 朝倉さんはナイフ放し、五メートル後ろにジャンプすれば。距離を稼ぎ、教室後ろへとふわりと着地した。
 次の瞬間、空間がぐにゃりと歪み、朝倉さんも机も天井、床も揺らぐ。なんだか目が回りそうだ。
 空間が槍そのもの変わり、有希のかざした掌の前で結晶になり爆発を起こす。
 間髪いれず、有希の周囲は結晶の粉炸裂まい落ちる。時々流れ弾のように、こちらに向かってくる槍に、わたしはシールド強化しながら防ぐが。やはりこの空間の権利は朝倉さんが握っているせいか思うように出来ない。
 力も体力使うし、精神使うし。限度があるな。
 視認不可能な速さで槍は有希を襲い。それをことごとく防ぐ。
 また一つ、槍がこちらに向かってくる。
 それをまた防ごうとすれば、集中が切れたのか槍がシールドを通り抜けわたしの頬すれすれを横切った。
 死ぬかと思った。

「離れないで」

 もう、どうあがいても盾となってくれそうにないシールドに、有希は朝倉さんの攻撃を弾きながら、キョンのネクタイ掴み引き下ろし。キョンは、屈みこんだ有希の背中に乗っかる大勢で膝をついた。
 その間、わたしは自分の身を守ることに、いっぱいいっぱい。さすが宇宙人というべきだろうか。桁が違うよ。

「うわっ!」

 キョンの声に振り返れば、一瞬にして黒板が粉々になった。
 すみません、黒板ってそんなに脆かったですか。
 有希は上を見上げれば、天井から氷柱が生え朝倉さんに降り注ぐ。
 思わず拍手を贈りたくなる攻撃だ。氷柱ってどこから来たんだ。
 しかし、朝倉さんはそれを余裕で防ぎ、氷柱は床につき立てられるだけだった。

「この空間ではわたしには勝てないわ」

 朝倉さんは、笑顔をたたえたまま佇み。数メートル間を挟み有希と対峙する。キョンは腰が立たないのか床にへばりついたままだ。
 わたしは朝倉さんの背後に回れば、その辺にあった机に手を当てコードを言う。宇宙人の力に及ぶかはわからないが、試してみなくてはわからない。

「コマンド攻撃、銃型武器装備完了。これより、攻撃体勢に入ります」

 机が銃に変わり、それを握りしめ朝倉さんに向ける。

「いっけー!」

 一発引き金をひき、ぶっぱなすが。それはいとも簡単に防がれ、もうわたしに出来ることは何もなかった。
 宇宙人強いよ、強すぎる。
 ふと有希の方を見れば口元が微かに動いている。
 その時だ、教室の中はまともな空間が無くなり、幾何学模様が湾曲したり、渦を巻いて踊ってる。
 目が回るを通りこし、吐気がする。誰か助けてくれ。

「あなたの機能停止のほうが早いわ」

 空間の歪みにより、朝倉さんの姿は見えず。わたしは四方八方に目をくばらせ朝倉さんの姿を探す。
 風切り音が、向こう側から聞こえたかと思えば。有希は、かかとでキョンを蹴り飛ばし。キョンの体は蹴られた方向へ数メートル飛んでいった。

「なにす」

 キョンは、上体を起こし有希に文句を言おうと意気込むが、すぐに言葉を詰まらせた。
 わたしにも一瞬しか見えなかのだが、キョンの鼻先に槍がすれすれで通っていった気がする。
 有希の蹴りがなかったら、今頃キョンはどうなっていたことか。考えたくもないな。

「そいつを守りながら、いつまで持つかしら。じゃあ、こんなのはどう?」

 朝倉さんが言葉を言い終るやいな、有希の身体が一ダースほどの茶色の槍に貫かれる。
 それは、瞬きする暇もなく起こりわたしは息を詰まらせた。

「……」

 その衝撃に、有希の眼鏡が落ち、床で小さくはねる。

「長門?」
「あなたは動かないでいい」
「ゆ、きっ……」

 有希は、胸から腹にかけて、突き刺さる槍を一瞥し、痛さなどものともしなず平然と言う。しかし、その足許には小さな池が出来る。

「へいき」

 有希は眉一つ動かさず、自分に突き刺さる槍を引き抜けば。床に落とし、転がる槍はたちまち生徒机へと姿をかえた。

「それだけダメージを受けたら他の情報に干渉する余地はないでしょ? じゃ、とどめね」

 揺らぐ空間の向こうに朝倉さんの姿が見え隠れしており、その口元は笑っている。
 両手を上げれば、指先から二の腕まで光に包まれ、その二の腕は伸びだし。
 わたしはとっさに銃を構え引き金をひくが、やはりその長い腕で弾きかえされ。そのまま、その腕で体は弾き飛ばされ、わたしは机の山へと身を投げた。
 朝倉さん、今のはきたよ、結構きたよ。

 背中が痛みながらも身体を起こし、朝倉さんの方を見れば。クスッとこちらを一度みて有希へと視線を戻す。

「死になさい」

 朝倉さんの手が触手のようにのたくり左右から同時に攻撃され、有希の体が揺れる。
 攻撃を受けた身体からは、血が滴り落ち、その足許には大きな池が出来る。
 左手は右わきばらに突きたち、右手は左胸貫いて、そのまま背中を突き破れば教室の壁をもぶちぬき止まった。
 わたしは吐気を覚え、目を反らしたかったが、そらせれなかった。

「終わった」

 呟くようにポツリいい、有希は自らを突きさす触手を握る。

「終わったって、何のこと?」

 朝倉さんは、勝ちを確信したのか、弾んだ声だ。

「あなたの三年あまりの人生が?」
「ちがう」

 重傷をおっているはずの有希だが、そんな素振りを見せずケロリと言ってのける。

「情報連結解除、開始」

 有希の声と共に、教室全てが輝いたと思えば。キラキラした砂になり崩れだす。
 ある意味、幻想的だ。

「そんな……」

 朝倉さんは、天井から振る結晶を浴びながら目を見開き驚いている。

「あなたはとても優秀」

 有希に刺さった槍も砂へと変わり、足許で砂と血が混じる。
 わたしの手に握られた、銃も砂へと姿を変え、わたしの指の間をすり抜けた。

「だからこの空間にプログラムを割り込ませるのに今までかかった。でももう終わり」
「……侵入する前に崩壊因子を仕込んでおいたのね。どうりで、あなたが弱すぎると思った。あらかじめ攻性情報を使い果たしていたわけね……」

 結晶化していく両腕を眺めながら、朝倉さんは観念したのかため息混じりに言葉吐く。

「あーあ、残念。しょせんわたしはバックアップだったかあ。こうちゃく状態をどうにかするいいチャンスだと思ったのにな」

 先ほどまでうかべていた、裏のある笑顔から、教室で友達と話しているクラスメートの顔へと戻る。無邪気な笑顔が眩しい。

「わたしの負け。よかったね、延命出来て。でも気を付けてね。統合思念体は、この通り、一枚岩じゃない。相反する意識をいくつも持ってるの。ま、これは人間も同じだけど。いつかまた、わたしみたいな急進派が来るかもしれない。それか、長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない」

 両腕から消えていく朝倉さんは、胸から足まですでに光に覆われており音もなく崩れていく。

「それまで、涼宮さんとお幸せに。じゃあね」


 小さな砂の山が足許に出来る。まだ降る結晶の中、朝倉涼子という存在が学校から誰も気づかない間に、消えた。それは一瞬のことに思える。
 わたしは安堵したのか、身体から力が抜け床に頭をつけ、寝転がる。とすん、と軽い音がしたかと思えば有希が倒れており、キョンは慌て立ちあがるのが視界の端に映る。

「有希……」

 わたしも有希の元へ行こうとするが、身体が重く指一本動かせない。
 どうやら肉体がついていけず、今糸が切れたかのようにバテタんだろうな。
 わたしは目を瞑り息を吐けば、意識が飛んでいった。時間も、きたらしい。

 私は、身体中の痛さに飛び起きその衝撃にお腹に激痛が走り。その場に蹲る。
 ちょいと自分何したんだ。いや、何したかはわかっているけど。
 なぜか今回はいやに記憶が鮮明だ。きっと有希があの時なにかしたんだろうな。
 そうだ、有希だ。あの後倒れたままだが、有希は今は大丈夫なのだろうか。
 私は無理矢理体を起こすと、視線をさ迷わせ有希とキョンの姿を探す。

「有希ー、キョンー」

 私は二人の姿を見つければ、よつんばで二人の元へと行き、力つき床にぶつかる。

「おい! 大丈夫か?」
「大丈夫ー大丈夫」

 有希を支えるキョンは、一瞬私へと手を伸ばそうとしたが有希のこともあり。すぐさま、その手を引っ込めた。

「葵」
「ん?」

 私は顔を上げれば眼鏡をかけていない有希が立っていた。有希さん、眼鏡どうしたの。
 いや、眼鏡かけてないのも可愛いけどね。
 しばらく私の顔を見た後、有希はキョンへと向きなおる。

「彼女は私が送っていく」

 私とキョンは、顔を見合わせそして有希を見る。

「えっと、その……なら頼んじゃおうかな?」

 私の言葉に有希は頷くと私の脇腹を抱え、そのまま肩へと担ぐ。担がれたの初めてだけど腹にくるな、これ。

「それじゃ、キョンまた明日」

 私は、自分の鞄を持てば。こちらを見て唖然と惚けているキョンに手を振り。有希に担がれたまま教室を後にした。

「ねえ有希」

 靴に履き替え、門を出た後も有希は私を担いだままで、何やら申しわけなくなる。

「今日はありがとう、有希がいなかったら今頃私もキョンも死んでいたかも」

 私は、坂道をくだっていく有希の背中に声をかける。重さなんて感じてないほどの軽い足取りに、私は有希のセーラーを握りしめる。


「それでね、私改めて思ったの」

 頭に血が上ってきたかもしれない。少しクラクラしはじめた。

「自分が守れるものは守ろうって」
「そう」
「うん、明日から特訓始めようと思う。何か知らないけど、今回のこと鮮明に覚えててさ、少しずつだけど攻撃の方法や防御方法覚えていこうって思ってる」

 有希の手に微かに力が入る。ほんの微かで、私はそれに思わず顔が緩む。

「無理はしないよ、もし無理してるって判断したら有希止めて」
「わかった」

 私はだんだんと下に落ちていく体に、有希の首へと手を回し耳元に口をもっていく。

「ありがとう、有希」

 背中に回る手が、温かかった。


 次の日、キョンは昨日のことが心配だったのか。わざわざ迎えに来てくれた。
 別に大丈夫なのに。

「おはようキョン」
「あ、ああ。その大丈夫か?」

 キョンは恐る恐るといった感じに、私を見てくる。こういう時のキョンはなんだか可愛かったりする。

「大丈夫、大丈夫! 私は今日も元気でーす!」

 私は腕を振り回したり、飛びはねたりすれば。キョンは苦笑まじりに私の頭に手を置き「わかったから落ち着け」と言われた。

「そういえば、朝倉さんあの後どうしたの?」
「ああ、長門が何とかするらしい」
「何とかって」
「転校したことにするとか言ってたな」


 なるほどね、突然の転校にすると。
 坂道を一歩一歩登っていき。流れる汗をふきとれば。後ろから、次々と挨拶をしていくクラスメートたちの中に朝倉さんの姿はやっぱり無かった。
 こんなにも簡単に消えてしまうものなのだろうか。確かに朝倉さんには殺されそうにはなったが。少し、いや結構。

「寂しかったりするかも」
「あ? どうかしたか」

 小さく呟いた言葉に、キョンはこちらを向き怪訝そうな顔をする。

「ううん、なんでもない」

 私は首を横に振り、キョンの手を取れば一目散に坂道を登っていく。
 後ろから制止する声が聞こえたが、私は聞こえないふりをしてそのまま上がって行く。
 下駄箱についた時だ。キョンは訝しげに下駄箱を覗くと一枚の封筒を取り出し。裏をみた。

「誰から?」
「……お前には関係ないことだ」

 キョンは一瞬こちらをみると、すぐさま目をそらし「先に行ってろ」と男子トイレへと向かった。
 なんだったんだろうか。私は気になりなんとしてでも見てみたいものだと思いながら。階段を上っていく。


「葵」
「ん?」

 階段を上り、二階の踊り場についた時だ。頭の上から声がかかり、見上げれば。有希が仁王だちでこちらを見下ろしていた。

「おはよう有希」

 私は階段を上りながら、有希に挨拶をすれば。いつものように有希は頷いた。

「昼に裏庭に来て」
「え、あ、うん。わかった」

 有希はそれだけ言うと、踵を返しその場を後にした。
 今日のお昼か、裏庭と言えば呼び出しの定番だが一体なんの用だろうか。
 教室へとたどり着くと、ハルヒが窓のほうを眺め。退屈そうに眉を寄せていた。

「おはようハルヒ」

 私の声にハルヒはこちらを向くと「おはよう」と呟きまた窓へと視線を戻した。
 最近なんもないからな、暇なのだろうか。そういう私は、最近色々ありすぎて少し参っているがね。
 私が席につくのと同時に、キョンがドアを開け教室内へと入ってきた。

「よっ、キョンさっきぶり」
「おお」

 少し鼻の下が伸びているキョンに、私はいいことあったんだな。と先ほどの手紙を思い出しながら頬杖をつく。

「おーい、座れよ!」

 岡部が元気な挨拶と共に、前のドアから入ってきた。クラスメートたちは、その言葉にそれぞれの席へと戻っていき椅子に座っていく。

「先生、朝倉さんどうかしたんですか?」

 クラスの女子の一人が手をあげ、言えば。先生はしばらく唸ったあと切り出した。

「あー、朝倉くんだがー、お父さんの仕事の都合で、急なことだと先生も思う、転校することになった。いや、先生も今朝聞いて驚いた。なんでも外国に行くらしく、昨日のうちに出立したそうだ」


 本当のところを知ってる私にとっては驚きも何もないんだか。クラスの皆は違った。
 女子は「えーっ」やら「なんで?」とかそれぞれ残念そうに騒いでおり。男子はザワザワと騒ぎ、顔を見合わせており、岡部先生は首をひねっている。

「キョン、葵。これは事件だわ」

 ハルヒは目を輝かせ、背中を叩かれたキョンは振り返り。その様子をみれば、ため息をつきたそうだった。

「謎の転校生が来たと思ったら、今度は理由も告げずに転校していく女子までいたのよ。何かあるはずよ」
「だから親父の仕事の都合なんだろ」

 ハルヒは唇を尖らしアヒル口になる。

「そんなベタな理由は認められんない」
「認めるも認めないも、転校の理由で一番ポピュラーなのはそれだろうよ」

 まあ、普通に考えればそうだな。

「でもおかしいでしょ。いくら何でも昨日の今日よ。転勤の辞令から引っ越しまで一日もないって、どんな仕事よ、それ」

 確かにそうだな。
 キョンもごもっともと思ってるのか、言葉を一瞬詰らした。

「娘に知らせてなかったとか……」
「あるわけないわよ、そんなの。これは調査の必要ありね」

 にやりとキョンにとって嫌な笑みを浮かべて、ハルヒは腕を組む。

「SOS団として、学校の不思議を座視するわけにはいかないわ」

 また何かおっぱじめるんだな。私は胸をワクワクさせながらハルヒに笑いかければ。
 キョンはやめてくれと言いたげに、首を横に振った。
 団長、どこまでも貴方の望みのままに。

END 笑顔の裏の本当の顔

なんとなく一段落しました。

今回頑張ってヒロイン戦わせたのですが。
自分的に、技名?あれを考えるのが恥ずかしかったです。
(*´・ω・)
人のは素直に見れるのに、自分のとなると恥ずかしさが勝ちますね。

次は原作六章までいきます。

あと、もうひと踏ん張り。楽しんでいこうとおもいます!

誤字、脱字がございましたら申し付けください。


2007 06/26
桜条なゆ

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