SOS団活動!
次の日、土曜日朝七時。
私はいくつもの目覚まし時計に起こされた。
半分眠る頭を起こし、昨日決めた服に身を包み、髪を結び。家を出る。
今日の天気は快晴、雲ひとつないすがすがしい朝だ。
待ち合わせの、北口駅は市内中心部に位置するため、自然と人が集まる。
ようよう、若いこらはいいね。
青春、ビバ青春ってな。
私が、着いたのは八時前、早く来すぎたが一時間なんてすぐにたつだろうと思い、花壇の脇にしゃがみこむ。
花が綺麗に手入れされており。蝶が舞っている。
しばらくその様子を眺めていれば、頭が上下にゆすぶられ、瞼が下りそうになってきた。
頭では寝ちゃだめだとわかっているのだが、体は正直だ。
「葵さん?」
しゃがみこんでおれば、突然影がおり。見上げれば、古泉くんがいつもと変わらない笑顔で微笑みかけた。多少、驚きも混じってる気がするが、まだそこまで極めてないので断言できない。
「おはよう、ございます?」
「おはようございます」
疑問系で古泉くんに挨拶をすれば、古泉くんは咽の奥で笑い挨拶が返ってきた。
笑うことないじゃないか。
私は、スカートを叩き、立ち上がり古泉くんを見上げる。
ピンクのワイシャツにブラウスンのジャケットスーツ、しかもえんじ色のネクタイまで絞めており。どっかの広告から出てきたのではないかと思えるほど似合っていた。
ピンクが似合うだなんて、滅多にいないぞ。
それに引き替え私は、胸元が少し開いておりフリルのついたノースリーブに上から羽織るは七分袖の白の上着。下は、膝したまであるスフレスカート。ちなみに小さなポシェットを下げる。
中身は秘密で。
似合っているかは知らん。だが、自分的には気に入っている服だったりする。
「早いのですね」
「そういう古泉くんも、まだ時間あるよ?」
「涼宮さんを待たせるわけにはいきませんから」
「まあ、確かに」
私は、風に舞い上がりそうになるスカートを押さえ辺りを見渡す。
他は、まだ来ていないらしく私はまた古泉くんに向き直る。
しかし、目立つな、この人。先ほどから女の子の視線が辛い。
ごめんなさい、並んでる女の子のレベルが低くて。
「そういえば、こうして二人きりになるのも初めてですね」
「え、あ、そうだね」
そりゃそうだろう。あれから私は極力古泉くんと二人だけになることを避けていたからな。
今日もキョンと来ればよかった。
古泉くんは、含みのある笑顔を私にむける。
「よろしければ、皆さんが来るまでの間お互いについてお話しませんか?」
出来ればノーサンキューと言いたい所だが、仕方ない。
私にわかる範囲でしたら、どうぞお聞きください。
たぶん、ほとんど話せませんが。
「では、僕からお話しましょう」
「お願いします」
「先日、葵さんがいた空間ですが。少し特殊でして、僕たちは閉鎖空間と呼んでいます」
閉鎖空間、まあそのままの意味だろう。閉鎖された空間だから灰色だったのか?
「あの青いのと赤いのは?」
「青いのは、《神人》と呼んでいまして赤いのは僕の同士です」
「赤玉、皆人間?」
「ええ、人間といえば人間ですね」
赤玉星人が世の中あんなにもいるのか。
世界よ、赤玉に栄光あれ!
「それで、葵さんはどこまでご存知ですか?」
「有希が宇宙人で、ハルヒが普通じゃないこと」
「でしたら話は簡単です」
おう、簡単なのか。てか、もう結局のところ君はなんなんだ。
「僕たちは、三年前のある日突然、涼宮さんによって力をさずかりました」
「力を?」
「はい。その力があの、《神人》を狩るためのものです。《神人》は涼宮さんの精神の不安定、つまりイライラを具現化したもので涼宮さんの代わりに空間を作り暴れまわってます」
それが閉鎖空間か。
青い巨人も大変なんだな、なにかと。
「なら、それ放置しといたらいつか鎮火するんじゃないの?」
「そう簡単には行かないのです。《神人》の活動を放っておけば、《神人》が破壊すればするだけ閉鎖空間は広がり、世界を覆いつくせば最終的にこちらの世界とあちらの灰色の世界が入れ替わってしまうのですよ」
「……なんとも大変だね」
率直な感想を述べれば、古泉くんは肩をすくめ、
「苦労してるんですよ僕も」
「まあ、とにかくなんとなしだがわかった」
「それはよかった」
時計を見れば、時刻は八時三十分前。少し遠くを見れば、見慣れた姿を見つけた。
「古泉くん、その話はまた後で、有希が来たからさ」
有希は、真っ直ぐこちらに向かって歩いてきており。その姿は、見慣れたセーラー服だった。
なぜ休みの日に、セーラー服。
「そうですね。それでは後ほど、涼宮さんを除いた皆さんで」
私はそれに、うなずき有希に手を振った。
うん? てことは、みくるちゃんもまた何かなのか。
もしかしたら、キョンも何かなんじゃないかしら。なーんて、それはないんだろうな。
「有希おはよう」
有希はそれにうなずき、じっと何かを見ている。
何見てるのか、視線をおうが人が多いためわからん。
そのあと、続いてみくるちゃん、ハルヒとやって来て二人の格好は二人とも、らしかった。
みくるちゃんは例外なく、可愛く。ハルヒは、動きやすそうな格好をしていた。
みくるちゃん、あなたと一度お買い物にいきたいかも。きっと趣味あいますよ。
「皆ちゃんと集まってるわね!」
「キョンがまだでーす」
ハルヒは、皆の顔を順に見ていけば、キョンがいないことに眉をつりあげ腕を組んだ。
「あいつ何やってるのかしら、団長を待たせるなんて前代未聞よ。来たらただじゃおかないから」
キョン、逃げろ。とにかく逃げろ。
キョンはその後結局、九時五分前にやって来た。
「遅い。罰金」
「九時には間に合ってるだろ」
ポケットに鍵を押し込み、反論するキョンだが、ハルヒは先ほどと変わらぬ表情でキョンを睨む。
「たとえ遅れなくとも一番最後に来た奴は罰金なの。それがあたしたちのルールよ」
「初耳だが」
「今決めたからね」
ハルヒは、息をつくと晴れやかな表情をし。
「だから全員にお茶をおごること」
と、両手腰にあてて言うハルヒにキョンはうなずかされてしまうのであった。
私はキョンの背中を叩き、慰める。
キョン、なるべく安いもの頼むから。
「お前には援助するという選択はないのか」
「おごって貰えるなら、一円でもおごって貰う」
これはマイポリシーなので譲れない。
「とりあえず今日の行動予定を決めましょう」
ハルヒは近くにあった、喫茶店へと向かい。私たちはそれに従って後を追いかけた。
喫茶店では奥まった所の席が空いており、私たちはウェイターに連れられそれぞれ腰をおとす。
そして、注文とりにきたウェイターにオーダーを皆、個々にいう。
ちなみに、私はダージリンティーのミルクティー。
一般の喫茶店では、ほとんどの紅茶がこれだ。安いし、誤魔化せるし、とこだわってない人はまずダージリンティーを選ぶことだろう。
今度は、アップルティー頼もう。
皆が、注文をいい終わったが有希は未だに悩んでいるのか、メニューを凝視している。
そろそろ、ウェイターも困る頃、私は一旦戻ってもらおうと口を開いた時。
「アプリコット」
淡々とした口調で、それだけを告げるとメニューを閉じ皆のメニューの上に置いた。
しばらくして、皆が注文した品が届き。一口飲んだ時だ。
ハルヒは、皆に聞こえる、だが決して迷惑にならない音量で提案をしてきた。
その提案は、二手に分かれて市内をうろつき、不思議な現状発見したら携帯で連絡をとりあい状況を継続。
そしてその後、落ち合えば反省点と今後に向けて展望を語り合う。とのことだ。
反論ゼロ。むしろ、もう決定事項に近い。
「じゃあクジ引きね」
ハルヒは、卓上の容器から爪楊枝を六本とりだし、店で借りたボールペンで三つ印をつけ、握りこんだ。
皆、一本ずつ引けば、私のには印があり。
キョンとみくるちゃんのにも印があった。
「ふむ、この組み合わせね……」
ハルヒは、キョンとみくるちゃんを交互に眺めて、鼻をならせば。
「キョン、解ってる? これはデートじゃないのよ。真面目にやるのよ。いい?」
「わあってるよ」
そして、ハルヒ振り返り。
「いい、葵。二人を見張っとくのよ、団長秘書として」
「はいな」
私は、右手をあげ、敬礼してみくるちゃんを横目で見る。赤らめた頬に、手をあてて爪楊枝を見つめるその姿は、初めてのデートに緊張している女の子みたいだった。
可愛いね、私が男だったらすぐさま告白するよ。
「具体的に何を探せばいいんでしょうか」
古泉くんは能天気な様だ、その横では有希がカップにくちづけてるのが見える。
アプリコットは美味しい?
「普通」
そうかい。
ハルヒは、ストローに口づけると、アイスコーヒーを一滴残らず飲み干し、勢いよく机に戻せば、耳にかかる髪を払った。
「とにかく不可解なもの、疑問に思えること、謎っぽい人間、そうね、時空が歪んでる場所とか、地球人のフリしたエイリアンとかを発見出来たら上出来」
一応地球人のフリしている人にはいるのか。わかんないな。
私は、ミルクとガムシロップをストローでかき混ぜ、飲みほし。
キョンはミントティーを吹きだしそうになり、隣のみくるちゃんも同じような顔をしていた。
不意をつかれたらそりゃなあ。
有希は、相変わらずの無表情だ。
「なるほど」
古泉くんは、納得したように頷く。
「ようするに宇宙人とか未来人とか超能力者本人や、彼らが地上に残した痕跡などを探せばいいんですね。よく解りました」
よくわかったな。私は全く違うことを考えたぞ。
古泉くんは、どことなく楽しげに見える。
ハルヒは、嬉しそうに笑みをうかべ今にも立ち上がりそうだ。
「そう! 古泉くん、あんた見所がある奴だわね。その通りよ。キョンも少しは彼の物わかりの良さを見習いなさい」
キョンは恨めしげに、古泉くんを見れば。古泉くんは笑顔で会釈した。
「ではそろそろ出発しましょ」
私は、その一言で一気に吸いあげ氷を一つ口に含めば。ポシェットを肩にかけ立ち上がる。
勘定書はキョンに握らせ、おごりは決定のようだ。
私は、ハルヒが大またで店を出るのを確認すれば、キョンの方へと向き。
「やれやれ」
「ドントマインドキョン、これ私の分」
私はキョンの手をとり、お金を乗せるとキョンは断固として受け取らなかった。
「俺も男だ、おごれるくらいの金はある」
「キョン、今格好いいよ! なら、いらないね」
私はキョンの手からお金を取ろうとすれば。キョンはその手を握った。
「今日は、貰っておく」
「キョン、カッコ悪い……」
遅れて出てきた私たちに、ハルヒは腕を組み睨み。
再度釘をさす。
「マジ、デートじゃないのよ、遊んでたら後で殺すわよ」
ハルヒは、古泉くんと有希をしたがえれば、立ち去り。
ハルヒは東へ、私たちは西へと向かった。
「どうします?」
残された私たちは、みくるちゃんの言葉に顔を見合わせる。
どうしようか、どうする?
「うーん。まあここに立っててもしょうがないから、どっかブラブラしてましょうか」
「はい」
みくるちゃんは、頷けば。キョンに続くようについて行き。私は、それの後について行く。
みくるちゃんは、ためらいがちにだがキョンと並び肩が何かの拍子に触れ合い、みくるちゃんは顔を少し赤らめ慌てて離れる。
いいね、初々しいね。
「お前なに、にやついてるんだ?」
「べっつにー? みくるちゃん、あっち行こう!」
川の河川敷に沿って歩いていく。
風が時々吹くのが気持ちよく、みくるちゃんの手を取り、先へと行く。
キョンが、その後ろで苦笑いしているのが見える。
時々、家族やカップルとすれ違い。その様子をみくるちゃんは目で追う。
「わたし、こんなふうに出歩くの初めてなんです」
家族連れから、目を離し向き合い。ふわりとみくるちゃんは柔らかい笑みを浮かべる。
「こんなふうにとは?」
キョンが後ろから、声をかける。私はみくるちゃんから、一旦手を離し。キョンを見上げれば。
みくるちゃんは、少し顔を赤らめ呟く。
「友達とは一緒に出歩いたりするんですが……男の人と、一緒は初めてで……」
「はなはだしく意外ですね。今まで誰かと付き合ったことはないんですか?」
「ないんです」
少し残念そうに、苦笑いを浮かべる。ふわふわ髪が、風でなびく。
私は、視線をさ迷わせ。そして、みくるちゃんの横顔をみる。
「えー、でも朝比奈さんなら付き合ってくれとか、しょっちゅう言われるでしょ」
「うん……」
恥ずかしそうにうつ向く、その横顔は少し寂しげだった。
「ダメなんです。わたし、誰とも付き合うわけにはいかないの。少なくともこの……」
いいかければ、みくるちゃんは口をつぐみ黙りこみ。カップルが三組ほどその間に私たちの背後を通った。
「キョンくん、葵ちゃん」
みくるちゃんは、思い詰めた表情でキョンを見つめれば。私へと視線が向き直る。
「お話ししたいことがあります」
クリクリした瞳に、決意が露にうかんでいる。
私も、覚悟して聞こう。後、今いないのは未来人だが……。
さて、みくるちゃんは、未来人なんだろうか。
もう桜も散り、葉桜になった桜の下のベンチに、みくるちゃんを真ん中に挟み私たちは座る。
日差しがぽかぽかしており。少しウトウトしてきた。
みくるちゃんはベンチに座った後、顔をうつ向かせ。なかなか話を切り出さない。
「どこから話せばいいのか」
「わたし話ヘタだから」
「信じてもらえないかもしれませんけど」
と、顔を伏せながらブツブツと呟き。しばらくするとやっと、言葉を区切るように話はじめた。
「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」
いきなり短刀直入なことで。
「いつ、どの時間平面からここに来たのかは言えません。言いたくても言えないんです。過去人に未来のことを伝えるのは厳重に制限されていて、船時機に乗る前に精神操作を受けて強制暗示にかからなくてはなりませんから。だから必要上のことを言おうとしても自動的にブロックがかかります。そのつもりで聞いて下さい」
私とキョンは顔を見合わせ、みくるちゃんへ視線を戻す。
「時間というものは連続性のある流れのようなものではなく、その時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものなんです」
つまり、時間はコマとコマがつながって成り立っていると言うことだろうか。
「ええと、そうね。アニメーションを想像してみて。あれってまるで動いているように見えるけど、本体は一枚一枚描かれた静止画でしかないですよね。時間もそれと同じで、デジタルな現象なの。パラパラマンガみたいなものと言ったほうが解りやすいかな」
パラパラマンガ、それまた懐かしい言葉だ。今でも教科書の隅に棒人間を書いてる人。手をあげろ。
ちなみに私は、時々書いてる。
「時間と時間との間には断絶があるの。それは限りなくゼロに近い断絶だけど。だから時間と時間には本質的に連続性がない」
なら、私たちは時間と時間を飛びこえてるような感じなのか?
さあ、行こう! 時間飛びこえ、スワッチ!
「時間移動は積み重なった時間平面を三次元方向に移動すること。未来から来たわたしは、この時代の時間平面上では、パラパラマンガの途中に描かれた余計な絵みたいなもの」
余計な絵だなんてとんでもない!
あなたは十分、パラパラマンガのメインキャラですよ。
て、私はさっきから何を思ってんだ。
「時間は連続してないから、仮にわたしがこの時代で歴史を改変しようとしても、未来にそれは反映されません。この時間平面上のことだけで終わってしまう。何百ページもあるパラパラマンガの一部に余計な落書きをしても、ストーリーは変わらないでしょう?」
私は、頷き。視線を空にむける。
なら、私もパラパラマンガの中の落書きなんだろうか。そう思うと少し切ない。
イレギュラーは、レギュラーにはなれない。そう、解ってはいるんだがね。
「時間はあの川みたいにアナログじゃないの。その一瞬ごとに時間平面が積み重なったデジタル現象なの。解ってくれたかな」
キョンはこめかみを押さえ。
みくるちゃんは、サンダル履きのつま先を眺めながら息をつく。
「わたしがこの時間平面に来た理由はね……」
二人の子連れの夫婦が前を通る。
幸せそうな表情に、私まで幸せになってくる。
「三年前。大きな時間震動が検出されたの。ああうん、今の時間から数えて三年前ね。キョンくんや涼宮さんが中学生になった頃の時代。調査するための過去に飛んだ我々は驚いた。どうやってもそれ以上の過去に遡ることが出来なかったから」
それは、もしかしたらそれ以上の過去が無いってこともあり得るのではないだろうか。
「大きな時間の断層が時間平面と時間平面の間にあるんだろうってのが結論。でもどうしてその時代に限ってそれがあるかは解らなかった。どうやらこれが原因らしいってことが解ったのはつい最近。……んん、これはわたしのいた未来での最近のことだけど」
キョンは、恐る恐るといった感じにみくるちゃんに尋ねる。
「……何だったんです?」
「涼宮さん」
ハルヒ、君すごいな。
もう、本人が不思議ではないかそれは。ハルヒ、不思議なことは己にあるんだ。己に!
「時間の歪みの真ん中に彼女がいたの。どうしてそれが解ったのかは訊かないで。禁則事項に引っかかるから説明出来ないの。でも確かよ。過去への道を閉ざしたのは涼宮さんなのよ」
「……ハルヒにそんなことが出来るとは思えないんですが……」
「わたしたちだって思わなかったし、本当のこと言えば、一人の人間が時間平面に干渉出来るなんて未だに解明出来ていないの。謎なんです。
涼宮さんも自分がそんなことしてるなんて全然自覚してない。自分が時間を歪曲させている時間震動の源だなんて考えてもいない。
わたしは涼宮さんの近くで新しい時間の変異が起きないかどうかを監視するために送られた……ええと、手頃な言葉が見つからないけど、監視係みたいなもの」
監視係。それはプールの監視係みたいなものだろうか。
キョンは、眉を寄せなんとも言えない表情をうかべる。
「…………」
「信じてもらえないでしょうね。こんなこと」
「いや……でも何で俺にそんなことを言うんです?」
ふと、前の有希の家での出来事を思い出した。
「あなたが涼宮さんに選ばれた人だから」
そう、そんな感じの言葉をついこのあいだ聞いた。皆キョンが好きなんだな。
みくるちゃんは上半身ごと、キョンに向き直れば真剣な眼差しを向ける。
「詳しくは言えない。禁則にかかるから。多分だけど、あなたは涼宮さんにとって重要な人。彼女の一挙手一投足にはすべて理由がある」
「長門や古泉、それに葵は……」
「あの人たちと、葵ちゃんはわたしと極めて近い存在です。まさか涼宮さんがこれだけ的確に我々を集めてしまうとは思わなかったけど」
信じられない、と言いたげにうつ向き。みくるちゃんは、己の服を握りしめる。
「朝比奈さんはあいつらが何者か知ってるんですか?」
「禁則事項です」
「ハルヒのすることを放っておいたらどうなるんですか」
「禁則事項です」
「て言うか、未来から来たんだったらこれからどうなるか解りそうなもんなんですけど」
「禁則事項です」
「ハルヒに直接言ったらどうなんです」
「禁則事項です」
「…………」
「ごめんなさい。言えないんです。特に今のわたしにはそんな権限がないの」
みくるちゃんは顔を曇らせ。
「信じなくてもいいの。ただ知っておいて欲しかったんです。あなたには」
眉を寄せ、涙を目にうかべさせる。
「ごめんね」
黙りこくるキョンに、みくるちゃんは切なそうに目を潤ませ見上げれば。キョンは、少したじろぎ、
「急にこんなこと言って」
「それは別にいいんですが……」
ベンチに手をついた拍子にキョンはみくるちゃんと手が触れ合い、みくるちゃんはそれに、大げさに手を引っ込め、うつ向いた。
子どもの笑い声が辺りに響く。
「朝比奈さん」
「はい……?」
「全部、保留でいいですか。信じるとか信じないとかは全部脇に置いておいて保留ってことで」
「はい」
みくるちゃんは、先ほどとはうってかわり、微笑む。
その笑顔はやっぱり天使です。みくるちゃん。
「それでいいです。今は。今後もわたしとは普通に接して下さい。お願いします」
みくるちゃんは、ベンチに三つ指をつき深々と丁寧に頭さげ。その姿にキョンが少し慌てたのに笑った。
「一個だけ訊いていいですか?」
「何でしょう」
「あなたの本当の歳を教えて下さい」
おい、キョン。それは聞いちゃならん。女性に歳を聞くもんじゃないぞ。
「禁則事項です」
みくるちゃんは、イタズラっぽく笑い。人指し指を口元に当てた。
「なら、まあどこか行こうか?」
私は、ベンチから立ち上がり。体を伸ばして、二人へと振り返れば。
キョンは「そうだな」と、同じように立ち上がり。みくるちゃんは、微笑んで「はい」と立ち上がる。
手始めに、街をぶらつこう。と、公園を後にし。
ウィンドーショッピングしてまわり。その時、みくるちゃんと、今度お買い物行こうね、と約束を取りつけれた。やった。
そして次にソフトクリームを買い。お互い違う味を食べあいこしたり。
バッタもんのアクセサリーを広げる露店を冷やかしにいったりと、充実した時間を過ごした。
ちなみに、バッタもんは時々危ない店があるので、あまり冷やかしはしないように。
そして、しばらくたった時だ。
キョンの携帯が鳴り。発信元はハルヒらしく、キョンがもしもしと言えばすぐさま。
用件を告げたらしく。ものの数秒で切れた。
お早い電話で。お金関係でいえばありがたいが、一方的な電話は微妙かもしれない。
キョンは腕時計を見れば。針が指す時刻は十一時五十分。
「涼宮さん? 何って?」
私がみくるちゃんの手を掴み、ブンブン振っていればキョンは私の手を掴み。それを止めさせる。
「また集まれだそうです。急いで戻ったほうがよさそうですね」
みくるちゃんは、カーディガンの前をあわせ、キョンを不思議そうに見上げる。
「何時待ち合わせ?」
「十二時」
私が尋ねれば、キョンは急ぎ足で行こうとしているのが。解った。
間に合うかよ。
結局、十分ほど遅れ、元の場所。駅前へとつき、ハルヒは不機嫌面で迎えてくれた。
「収穫は?」
キョン、私、みくるちゃんと、個々の顔を見たのち。ハルヒは腕を組み仁王立ちする。
「何かあった?」
「何も」
キョンのあっさりとした否定に、ハルヒは益々不機嫌面に拍車をかける。
「本当に探してた? ふらふらしてたんじゃないでしょうね。葵、みくるちゃん?」
みくるちゃんは、ふるふると首を振り。私は頭に手をやる。
「ちゃんと探したよ。不思議なこと、ただ不思議らしくない不思議ばかりでさ。ハルヒが気に入るかどうか」
私は肩をすくめてみせると、ハルヒは鼻を鳴らす。
「そっちこそ何か見つけたのかよ」
ハルヒは黙りこみ眉を寄せ、古泉くんは爽やかな顔で頭かき、有希はぼんやりつっ立っていた。
あの様子だと、あちらも不思議なことは見つけられなかったんだな。
「昼ご飯にして、それから午後の部ね」
午後もするのか。
ハンバーガーショップに、行けば。皆思い思いの注文をし。席とりをしていた私は、キョンに適当に買っておいてとお金を渡し。
キョンが買ってきた品は、見事に私の好みのストライクゾーンだった。
キョン、よくわかってらっしゃる!
私は、不味かろうと高がろうが、新商品というものに目がない。
って事でキョンの買ってきた新商品を、開け喜んで一口目をかじろうとした時だった。
隣に座る。古泉くんのトレイに乗っている。本日から開始された限定発売の商品。
桃パイ!
桃パイとは。
その名のとおり桃の入っているパイなのだが。これが美味い。
回りの皮のパリパリ具合。中の桃の甘さ。どれをとっても最高だ。
「こ、古泉くん」
「はい」
「も、桃パイ一口いただけませんか?」
私は、それほど変な顔をしていたのか。古泉くんは、笑みを深くし桃パイを差し出す。
「いいですよ。どうぞ」
「やったー! ありがとう本当ありがとう」
私は、その桃パイを受け取ろうと手を差し出すが、渡してもらえず。
なんだ、古泉くんの手から食べろってことか?
そんな恥ずかしいこと、桃パイのためなら食べてやる。
私は、口を大きく開け、古泉くんの手に自分の手を添えかぶりつくまで後もう少しの所でキョンに止められた。
「何するのー」
「お前、古泉にたかるのはやめろ」
キョンはそういえば、自分が買ってきた桃パイを半分にわり、私のトレイに置いた。
「いいの? 一口でいいんだよ?」
「お前は一口一口って言って半分は食べるだろ」
残りの半分を、キョンは一口で平らげ指についたパイの皮を舐めとった。
「キョンありがとう、大好き! もう、けっ」
「グループわけするわよ!」
結婚して! というまえにハルヒが言葉を遮った。
いや、いいんだけどさ。いいんだけどさ。
私は、キョンにもらった桃パイ半分をちみちみ食べていれば視線を感じ横を見る。
古泉くんが、なぜかこちらを見て、少し残念そうな。だけど楽しそうな顔だった。
「おいしいですか?」
「あ、うん」
私がパイから口を離せば。古泉くんは手を組み、肘を立てその上に顎を乗せる。
「それは、よかった」
「ほら、古泉くんに葵も引いた引いた」
ハルヒは、前へ乗り出し私たち二人に喫茶店で作った爪楊枝クジを差し出す。
私と古泉くんは、思い思いに爪楊枝を抜き。先を見る。
印つきだ。
「また無印ですね」
古泉くんは、私に見せるように向け。白すぎる歯をみせ笑った。
その様が、爽やかさに拍車をかける。眩しいぜ。
「わたしも」
みくるちゃんは、それに同意し。キョンに印の入ってない爪楊枝をみせる。
「キョンくんは?」
「残念ですが、印入りです」
ならば、私はキョンとまた一緒か。
ハルヒは不機嫌顔で、有希に引くよう促し。有希のひいたクジには印が入っている。
ならば、有希とキョンと私組みか。
「……」
有希は印のついた、爪楊枝をにらみつけ。
そして、ちまちまとチーズバーガーを食べ始めた。
ハルヒは、そんな有希とキョンを順番に見る。
「四時に駅前で落ち合いましょう。今度こそ何かを見つけてきてよね」
シェイクのストローに口をつければ一気に飲み干し。
私は慌てて、ハンバーガーとポテトを頬張った。
今更ながら、持ち帰ればよかった。
今度は、駅前から北と南に分かれて不思議を探すことになった。 私たちは今度は南へ行くことになった。
去り際に、みくるちゃんは小さく手を振る。
また後でみくるちゃん。
私は、三人の姿が消えるまで手を振り続けば。二人へと向き直る。
「さあ、どうする?」
キョンに問いかければ、キョンはその横にたつ有希に話しかける。
「どうする」
「……」
有希は無言の返答。ていうことで、私とキョンで決めるしか道はない。
「ひとまず、行こうか」
「……そうだな行くか」
キョン歩きだせば、有希はまるで親鳥についていくアヒルみたいに後をついていく。
私もその後ろについていけばキョンは一度振り返り。ついて来ているのを確認した。
「長門、この前の話だがな」
「なに」
「なんとなく、少しは信じてもいいような気分になってきたよ」
「そう」
「ああ」
「…………」
私は、有希の手をとり、キョンの手をとり横一列になって歩く。
なんとなく、こうして歩きたくなった。
そして、なんとなく歩く行為は駅の回りを回り続けることに繋がり。その間、会話らしきものは、あまりなかった。
あったとしたら。
「お前、私服持ってないのか」
「……」
「休みの日はいつも何してんのさ」
「……」
「今、楽しいか」
「……」
などキョンが有希に話しかけたり。
私は、有希と今度お買い物いこうと誘ったり。
今度おすすめの本教えてと言ってみたりしたが。
有希の返事は「わかった」や「そう」などだった。
まあ、こんなもんだろう。
そして、駅の回りを回るのにも飽き、キョンは図書館の存在に気づき。行くことになった。
新しくできた図書館は綺麗で、そして大きく。たぶん、これから行くことは余りないだろうなと感じた。
いやはや、静かな場所はいいものだな。
キョンは図書館内に入れば、座りたいのかソファ探し始めるが、すべて埋まっており。
キョンは館内を見渡し落胆した。ソファは諦めろ、キョン。
私はキョンのその姿を横目でみながら、有希についていき。本棚を見上げる。
高い所までぎっしりと本が入っており。私は一瞬めまいを感じた。
いやはや、難しい本は苦手だ。
クラクラする頭を抱えながら、私はキョンの方へと目を向ける。
キョンは先ほどから、目についた本を抜いてはめくっては本棚に戻すことを繰り返し棚の間をさまよっている。
私も、軽い小説なら読めるだろうと一冊の本を取り出し有希の元へ歩んでいく。
「有希、有希ー」
私は本を胸元で抱え持ち、有希の元へと行けば。有希は、壁際のやたらでかくて分厚い本が沢山並んでいるとこで本を立ち読みしていた。
あの、重くないんですか。
有希は、私を一瞥し本へと視線を戻し読書を続ける。
「有希」
「なに」
「……これ、読んだことある?」
私の質問に有希は微かにうなずく。
「面白かった?」
「普通」
有希の普通がどの程度かは知らないが。私は、この本に決め。キョンの元へと向かった。
キョンは席を確保出来たのか。背中を丸めて寝ていた。
その隣を見ると。席が空いており。私はそこに座らせていただく。
キョンは、深い眠りに入っているのか。耳元で呼びかけても反応しなず。規則正しい寝息だけが返ってくる。
私は、頬を指でつつき、髪を撫でれば。キョンは少し唸り身じろぎをし、再度寝はじめる。
「キョンー、キョンくんー」
なるべく小さな声で、耳元で囁けば。一瞬体は反応したのか、ピクンと肩をふるわせた。
「私はー、キョンくんが大好きでありますよー」
本人が寝てることを良いことに、面白半分で囁けば。キョンは、眉をよせ唸り。そっぽを向いた。
つまらない。
私も本に集中しようと、持ってきた本を開け。読みはじめるが、だんだんと睡魔が舞降りてきた。
少しだけ、少しだけ。
そう思い、眠りにつく。
次に起きたのは、体を揺すられた時だった。
私は、目を開け上を見れば。キョンが呆れ顔でこちらを見ていた。
「起きたか?」
私は、辺りを見渡しキョンへ視線を戻しうなずく。
そういえば、図書館来てたんだっけ。
「今、何時?」
キョンは腕時計を見れば、「四時半すぎだな」と待ち合わせの時間から大幅にタイムロスしていることを告げた。
「ほら、急いで行くぞ」
「ういー」
私はキョンに手をひかれ立ち上がれば、二人で有希を探す。
まあ、探すって言っても最初にいた棚の前で相変わらずの体勢で、立っていたけどね。
そこからが、問題だった。
有希は足の裏に根っこが生えたようにそこから動かず。
キョンは、貸出しカードを作ってやり、有希の本を借りていた。
まあ、その間ずっとキョンの携帯が鳴っていたわけで、多分ハルヒからだろう。
私も携帯を取り出し、見てみれば。ハルヒからきており。十件ほど、着信ありと出ていた。
それを一つ、一つ見ていれば、突然私の手のひらの中で携帯が震えだし、ディスプレイには「古泉 一樹」と出ていた。
私はキョンに、アイコンタクトをし、図書館外に出て通話ボタンを押す。
「もひもひ?」
『もしもし、葵さんですか?』
「うい」
私の返事に、向こう側が静かになった。
「もひもひ?」
『失礼、葵さん寝ぼけてますね?』
「寝ぼけてないよ、寝てただけ」
『そういう人に限って寝ぼけているんですよ』
向こう側から、笑い声が聞こえる。その後ろから、どうかしたんですか?と可愛らしい声がした。
みくるちゃんだろうか。
『いえ、失礼。それより、彼は今何をしていますか?』
「有希がね、本借りるためキョンがカード作ってる」
私は、携帯を耳にあてたまま図書館の方へ振り返れば。
キョンと有希がちょうど、図書館から出てくる所だった。
「もう、そっちに行くから」
『わかりました』
私はそのまま、携帯の電源を切ろうとすれば、『ああ、そうでした』と通話口から声がし。また携帯に耳をあてた。
「どうかした?」
『いえ、そんなたいしたことではないんですが』
一拍おく。向こう側からバイクの走る音がする。
『彼に伝えてください。電話に出てあげてくださいと』
「うん、わかった」
『では、のちほど』
ちょうど、キョンたちが私の元に来たとき。私は電源ボタンを押し、通話を切った。
「誰からだ?」
「古泉くん」
携帯を閉じ、ポシェットにしまえば。キョンは眉を寄せていた。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
なんでもないって感じがするんだが。
「あ、そうそう。古泉くんがね、電話出てあげてね。だってさ」
「どうせ出ても怒鳴られるだけだろ」
キョンは、渋い顔をし。有希の背中を押し、急ぐよう促した。
もう、今更急いでも、怒られるだけだろ。
その後、駅前に戻れば。三人は、三者三様の反応をした。
みくるちゃんは、疲れきった顔で、ため息混じりに微笑み。
その姿がまた、可愛らしかった。なんていうか、お疲れさまです。
古泉くんは、オーバーアクションで肩をすくめてみせ。ハルヒは怖い顔で言いはなった。
「遅刻。罰金」
ちなみに、その罰金はキョンにたいしての物で。私と有希はなんでかそれを免れた。
キョン、今度何かおごってあげるから。
結局、その日は成果は無く。
野外部活動は、終了した。
「疲れました。涼宮さん、ものすごい早足でどんどん歩いていくんだもの。ついて行くのがやっと」
みくるちゃんは別れ際に息をつき笑う。
そして背伸びしてキョンの耳元に唇近づれば隣にいる私にも聞こえる音量で囁く。
「今日は話を聞いてくれてありがとう」
言い終われば、すぐに後ろに下がって照れ笑いをうかべ。
「葵ちゃんもありがとう」
じゃ、と可愛く会釈してみくるちゃんは立ち去ろうとし。
私は慌ててその腕を取り抱きしめた。
みくるちゃんはアワアワと、耳まで真っ赤にして慌てはじめ、私は思わず笑ってしまった。
「みくるちゃん、聞いてください」
その言葉に、さっきまで慌てていたみくるちゃんはピタリと止まる。
「明日の二時に、ここに来てください。話したいことがあります」
私は、みくるちゃんから離れ顔を覗けば。みくるちゃんは頷き「わかりました」と言い。
「んじゃ、またね。みくるちゃん」
私は、みくるちゃんの肩を軽く叩き、手を振れば。みくるちゃんも笑みを浮かべ会釈して駅へと向かっていった。
古泉くんと、キョンの方を振り向けば。古泉くんは会釈して、携帯を指した。
また後で電話しろってことか。そういえば、有希も既にいない。お早いことで。
そして、古泉くんは、爽やか笑みを残し帰っていった。
「あんた達今日、いったい何をしてたの?」
ハルヒは私とキョンを睨みつけ。私はだんまり。キョンは肩をすくめる。
「さあ。いったい何をしてたんだろうな」
「そんなことじゃダメじゃない!」
ハルヒは、本当に頭にきてるのか。少し、怖く。
私は「ごめん」としか言えなかった。
「そう言うお前はどうなんだよ。何か面白いもんでも発見出来たのか?」
ハルヒは、うぐっと、喉を詰まらせ、下唇噛んだ。本当に強く悔しがっているのか、下唇を強く噛んでおり。噛みきったりしないか少し心配になった。
「ま、一日やそこらで発見出来るほど、相手も無防備じゃないだろ」
キョンは、とっさにフォローいれれば。ハルヒはジロリとキョンを見て、つんと横向いた。
これが属にいうツンデレか。
「明後日、学校で。反省会しなきゃね」
「……」
「返事は!?」
「は、はい!」
いつの間にか、私はお返事係りになっていたらしく。それを聞けば、ハルヒは踵を返し、そのまま振り返ることなく、あっという間に人混み紛れていった。
「帰ろうか」
私は隣に立つキョンを見上げれば。キョンは頷き、銀行の前に止めたという自転車の元へと行くが。
すでにそこには、自転車の影はなく。ただ、近くの電柱に「不法駐輪の自転車は撤去しました」とのプレートがかかっているだけだった。
キョン、ドンマイ。
「お金払わないといけないけど、取り返すことは出来るからさ。落ち込むな少年」
「お前、今日なにで来た」
「歩き」
キョンは、頭に手をあて。首を横に振る。
歩きも、いいものだよ?
その晩、私は有希と古泉くんに電話をかけることになったのだが。
なんて言って、かけたらいいんだろうか。もしもしで、いいよね。
私は、先ほどまでにらめっこをしていた携帯電話を操作し。アドレスに入れておいた有希の携帯番号を押した。
コール音が耳元で聞こえる。
一回目のコール音が切れた後だ。繋がったらしく、ブツッと音がした。
「もしもし?」
『……』
「もしもし、有希ですか?」
答えは返ってこない。だが、私はなんとなくだが向こう側で頷いているような気がした。
「あのね、明日の昼二時に今日行った駅前に来てほしいんだけど」
『そう』
「大丈夫?」
またもや、返事は返ってこないだが。それが肯定の意味である気がする。
「なら、またね」
私は、電話を切り息をつく。
なんだ、どっと疲れがきた。有希とメールしたらどんなのになるんだろうか。三点リーダだらけとか?
それはそれで、見てみたいかもしれない。
私は次に、古泉くんにかけるべく。か行のアドレス帳を開き古泉くんの電話番号を押す。
「もしもし?」
『もしもし葵さんですね』
それ以外だれがいる。てかディスプレイに書いてるだろ普通。
『一応確認です。葵さんの携帯を使った別の誰かかもしれませんので』
「不用心、不用心ってか」
『それで、明日何時にどこに向かえばいいんでしょうか』
「あ、二時に駅前でいいかな?」
『あなたが良いのでしたら』
なんだか、電話越しでもあのニヤケスマイルが見える気がする。
まあ、錯覚だろうけど。
「なら、また明日」
『はい、おやすみなさい』
「おやすみ」
私は電源を押すと、携帯をほおりだし。ベッドに横になる。
キョンは、明日は不参加でいいか。
下がってくる瞼と、ボーとしてくる頭の中で思い浮かんだのはあの日見たキョンの泣きそうな顔だった。
次の日、目がさめたのは十時過ぎ。まだ頭が回らずボウとする。
カーテンを開ければ、鳥達が爽やかに鳴いており。なんだか、すがすがしい気分だ。
私は、服に素早く着替えれば。朝ごはんを食べ、キョンの家にお邪魔する。
「こんにちは」
「あー、葵ちゃんだー!」
妹ちゃんが、アイスを片手に持ち、私をみつけると顔を輝かせ私に飛び付いてくる。
ああ、可愛い。キョンの妹だなんて信じられないぐらい可愛い。
「葵ちゃん、今日はキョンくんにご用?」
「ううん、妹ちゃんとお昼まで遊ぼうと思って」
首を横に振れば、妹ちゃんは目を輝かせ両手を上にあげる。
「わーい! 葵ちゃん大好き」
「お前、何しに来たんだ?」
下の騒ぎに、キョンは階段から顔を出し呆れ顔でこちらをみてくる。
「何って、遊びに」
私は妹ちゃんの脇に手を入れれば回し、妹ちゃんはキャッキャッと喜んでいる。小学生っていいね、こんな遊びで楽しめるんだもん。
「お昼には帰るから許してよ」
「キョンくんお願い」
妹ちゃんが胸の前で手を組み、キョンを見上げる。やはり、お兄ちゃんだからか、キョンは言葉を詰まらせ、ため息をつくと台所へと向かいながら。
「勝手にしろ」
その通り、その後は妹ちゃんと一緒に遊び。気づけば一時前だった。
私は、妹ちゃんと別れキョンの家を後にし駅前へと向かう。
途中、キョンに引き止められ。「どこに行くんだ」と、言われたが私は人差し指を口元にあて「秘密」といいキョンに手を振る。
その時、少しキョンが寂しそうな顔をしたが。うん、ごめんねキョン。
駅前へと向かえば、もうすでに三人は集まっており。私は申し訳なさに頭をさげた。
「ごめん、私が呼び出しときながら最後で」
「いえ、わたしも先ほど来たところですから」
みくるちゃんは、首を横に振り。微笑み、そして直ぐ様首を傾げた。
「でも、今日はどうかしたんですか?」
気づけば、三人とも私に注目しており。少し気恥ずかしかった。
有希は相変わらずの無表情で私を凝視しており。古泉くんは、にこやかスマイルで私をみる。そして、みくるちゃんはクリクリした瞳で、不思議そうに私をみつめる。
「あの、二人のこと知ってて。二人が私のこと知らないのはフェアじゃないから」
私は、うつ向き自分の靴を見ていた顔をあげる。
「私のことをお話します」
駅前で立ったままもなんなので、昨日行った喫茶店に入り私はアップルティーを頼んだ。
「私は、皆さん知ってるかもしれませんが異世界人です」
カランと、氷が溶け動いた音がした。
「私が、しっかりと解るのはそこだけなんです。あとは、わたし自身がお話します」
「ふぇ? 葵ちゃんが話すんだよね?」
「うーん、詳しく言ったら記憶のある自分が話します」
私は、有希に目を向ければ。有希は頷き、あの時のように、額に指をやった。
意識が薄れていくなか、後ろに倒れそうになる私の腕を誰かが掴んだ気がした。
目を開ける時、喫茶店の光は眩しいことを知った。クラクラする。
「あ、葵ちゃん、大丈夫ですか?」
みくるちゃんが慌ててわたしの顔を覗く。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、朝比奈さん」
わたしは、有希の手を借りて起き上がれば。みくるちゃんはこちらを見て、少し驚いていた。
どうかしただろうか。
「あの、今朝比奈さんって」
「ああ、やはりみくるちゃんの方がよろしいでしょうか」
環境により、人のことを名字呼び、またはあだ名でくん、またはちゃんづけ呼びだったため、ついつい名字で呼んでしまったが。嫌だっただろうか。
「い、いえ。ただ、その葵ちゃんから朝比奈さんって聞くとは思わなくて」
「すみません」
わたしは頭を下げれば。みくるちゃんの慌てた声が聞こえた。
「あの、そんな、気にしてませんので頭を上げてください」
みくるちゃんの言葉にわたしは恐る恐る顔を上げれば。古泉くんが何やら考えことをしているかのような面持ちでこちらを見ていた。
「それで、あなたがここに来た目的、今後どうするのか。他にも話せることは全て言ってくださいますか?」
「それは、もちろん」
わたしは頷けば、咳ばらいをし話を切り出す。
まず先日キョンに話した、目的、移動方法、向こうでの自分について話。一旦、アップルティーのカップに口をつけた。
「それで、今ではその目的も必要なくなってしまい。わたしでよかったら皆さんに協力したいのですが」
「それは助かります」
古泉くんが、手を組み膝をたてる。
「あなたの所にとって、わたしは未知な存在。そんなわたしを監視するのも簡単になりますものね」
少し嫌味を交えながら、わたしはカップを置く。
古泉くんは、真剣な表情で一瞬癇に障ったかと思ったが、直ぐ様口元に笑みをうかべた。
「確かにそれもありますが。個人的にもう少しあなたについて知りたく思っていまして」
「……」
「そこらへん、協力してくださいますか?」
まあ、協力すると言ったのだから出来るかぎりのことは教えますよ。
わたしは頷き、みくるちゃんへと顔を向ける。先ほどから何かを言いたそうしており、私が尋ねれば。みくるちゃんは、おずおずと切り出した。
「あの、私も協力してほしいことがあって」
「なんですか? わたしに出来ることでしたら何でも言ってください」
みくるちゃんは、一瞬ほっとした顔つきになったがすぐオドオドと古泉くんと有希の方に目を配らせ。
またわたしの方に視線が戻れば。みくるちゃんは、口ごもり「その時が来たらいいます」と小さく呟いた。
この場では言いずらいことなのだろうか。
「ああ、そうでした。わたしが協力する代わりに皆さんに、わたしから協力してもらいたいことがあります」
「それはどんな?」
「キョンくんを、なるべく危険なめに、あわせないようしてください」
わたしはうつ向き、カップの中で踊る茶葉をみる。
「わたしも、もし彼が危険なめにあうようなことがあれば。守りますが、いかんせんわたしの住んでいた所とは勝手が違い、思うように動けない時があると思うんです」
「こちらにとっても、彼が死なれては困りますのでそれは約束しましょう」
顔を上げれば、みくるちゃんも頷いており、有希も微かにうなずいた。
「ありがとうございます」
「僕のほうから一つお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
私の言葉に、古泉くんは頷くと身振り手振りを交えながら話しはじめた。
「先日のことなのですがあなたは、こないだどうやって閉鎖空間に入ったのですか?」
いきなり答えにくい質問が来たものだ。
わたしは、しばらく考えたあと。一番自分に近い存在のみくるちゃんへと向き直る。
「みくるちゃんは、未来にはどんな方法で行ってますか?」
「え、うーん禁則事項です」
申し訳なさそうにうつ向き、みくるちゃんはテーブルを見る。
いやいや、いいんですよ。みくるちゃん。
「なら、私が質問しますので頷くか首を横に振るかしてくださいますか?」
「わかりました」
みくるちゃんは、口を閉じ。静かに私の質問を待つ。
うーん、何て尋ねればいいのか。
「その、みくるちゃんの中に、時間を移動するためのものがありますね?」
みくるちゃんは頷く。口でも何かを告げようと、試みてみたがどうやらやっぱり言えないらしい。
わたしも詳しくは言えないので気にしないでください。
「それでそれは、無くなることはないですね」
みくるちゃんは、また頷く。
どうやら、未来人の機能とわたしの所の機能は似たようなものかもしれない。
わたしは、みくるちゃんにお礼を言えば古泉くんの方を振り返る。
「それと似ています。わたしの体内に、空間を移動するために用いる機械があります。それは、こちらの世界では、緊急プログラムを作動させるか、はたまたキーワードを作動するかで使えます」
古泉くんは、組んでいる指で手の甲を叩く。
「ちなみに説明をしますと。緊急プログラムは、この世界でのわたしの身近にいる人がもし異空間に巻き込まれた時に作動するものです。例えば、わたしの家族、友達など親しくしている人が対象に入ります」
たぶん、彼らも対象の中に入っているだろう。この境界線は実に曖昧だからな。
「あ、あのぅ」
みくるちゃんが、おずおずと遠慮がちに手を上げる。
「キーワードとは、一般的にどのようなことを指すのでしょうか?」
「キーワードは、凄く簡単なものでして。例えば欠伸をする、鞄を左手に持つ、右足から踏み入るなどの日常的なものが重なり。それと同時に空間の境界線を踏むんです。それはかなりの低確率で私もまさか作動するとは思いませんでした」
あの時は偶然が偶然を生み、わたしは彼に出会ったのだろうか。
人生とは、日々偶然だらけだ。
「先日、閉鎖空間に入ってしまったのは、わたしの不注意ながらキーワードを作動させてしまったんです。すみませんこちらも何か手伝えればよかったんですが突然のことで……」
「いえ、お気になさらず。なるほど、ですから彼を守ってほしいと」
わたしは頷く。彼はわたしが来たことにより、多少なりとも危険なめに合うことになるだろう。
申し訳ない、キョン。
「はい、巻き込まれる可能性が。彼は一番あると思いまして」
「しかし、そうしますとあなたのことは誰が守るのですか?」
「え、自分のことは自分で……」
突然、言葉に私は目を白黒させる。
自分を守るのはだれか? そんなの自分以外いないだろう。
「もし居ないのでしたら。僕でよろしければ、あなたを守る騎士に立候補してもよろしいでしょうか?」
「へっ?」
わたしを守る騎士? ナイト? 夜ですか、夜ですか?
オウ、グッナイ!
どうやらわたしの頭は混乱しているみたいだ。
「嫌でしたか?」
「い、いえ。その、あ、あのわたしでよろしかったら、宜しくお願いします」
わたしは、熱くなる顔をみせまいと深々と机に額がつくのではないかと思うほど頭を下げる。
「葵、時間」
今まで、一言も喋らなかった有希がコップに口をつける。
「あ、うん。では、そういうことなので、これからも、わたしを宜しくお願いします」
頭を下げると同時に、目の前が揺らぎ。わたしは机に頭をぶつけ意識を手放した。
あの、頭、痛いです。
目を開ければ、喫茶店の床が見える。
しかし、頭がジンジンするのはなぜだろうか。頭またぶつけたか。
「おはようござい、ます?」
机から頭を上げ、皆の顔を見れば。古泉くんは、苦笑いをうかべ。みくるちゃんはあわあわと、口に手をあて心配そうな表情を向けてくれた。
「葵ちゃん今、凄い音が……」
「あー、何かもう頭打つの当たり前みたいなものなので。気にしないでください」
ひとまず、額がぼこってないか確認するべく手をやり擦ってみる。うん、大丈夫そうだ。
しかし、わたしめ、アップルティー飲んだな。
「それよりも、話を聞いてくださりありがとうございます」
いや、全くと言っていいほど喋った記憶は残ってないんだけど。たぶん、皆聞いてくれたと思おう。
なんとなくだが、皆私を見る目が変わったような気がする。
「それで私、全くと言っていいほど、わたしが話ている内容覚えていなくて」
恥ずかしながら、キーワード云々、何か勝手に発動するプログラムがあったな程度にしか覚えていない。
だめじゃんだなんて、言わないで。
しかし、なぜか古泉くんのあの言葉だけはしっかりと記憶に刻みこまれており。印象的なものは覚えているたちなのか、自分。
赤くなりそうな顔を、紅茶を飲むことで誤魔化し。紅茶が空になった。
「なにかあったら、教えてくださると嬉しいです」
紅茶のお代わりを回っていた、ウェイトレスさんが私のカップを持ち上げ注ぐ。
新しい紅茶の香りが鼻をくすぐる。
皆、頷き。わかったと言ってくれた。
心強い味方が出来たことだ。
「それじゃあ、今日はお開きということで。本当にありがとうございます」
私は、再度頭を下げ。紅茶を飲みほし伝票を取ればレジへと向かいお金を払う。
今日は私の奢りさ!
「葵ちゃん、今日はありがとう」
お金を払い終え、外へと出ると律儀に三人とも待っていてくれた。
そして、別れ際にみくるちゃんは微笑み会釈をする。
「葵ちゃんのこと知れて嬉しかったです」
みくるちゃんは、小さく手を振り。人混みの中に消えていく。
気づけば有希も背中を向け、行ってしまっており。必然的に古泉くんと二人きりになってしまった。
「……」
「……」
「帰らないの?」
「葵さんを送ってから帰ります」
あなたを一人にしておきたくないので、とそこらへんの女の子ならばキャーキャー騒ぎそうな言葉を吐いてくれた。
私は開きっぱなしになった口を閉じ先を歩く。古泉くんはその後をにこやかスマイルで着いてくる。
本当に送ってくれるのか。
「葵さん」
「なーに?」
歩道が狭いため、私たちは一列で歩いていると古泉くんが後ろから声をかけてきた。
「朝比奈さんと、同様あなたのことを知れて、僕も嬉しかったです」
唐突だな。
「あなたは、自分では気づいていないでしょうが。少し他人とは距離を置いており、最初の頃は僕から切り出さなくては話してくれないと思っていました」
そんなこと無いと思うんだが、古泉くんが言うからにはそうなんだろうな。
「なので、本当に今日のことは嬉しさと同時に感謝しているんですよ」
「感謝?」
私は立ち止まり、振り返れば。古泉くんは、少し照れくさそうな笑みをうかべている。
「はい」
それ以上、どちらも何も言わず私は少し気まずくなり。また前を向き、歩きだす。
「そういえば、葵さん先ほど言ったことですが」
先ほどとは、どの先ほどだ。
「喫茶店でのことです」
「あの、騎士云々?」
「はい、覚えていてくれたんですね」
いや、勝手に記憶があるだけで詳しくは知らん。ただ、嬉しかったのは自分の身にあったことだからか覚えている。
なんで嬉しかったかって? 自分でもわからない。
誰かわかる人来てください。
「それが、どうかしたの?」
「本気にとられていただけていないかも知れませんので、もう一度だけ言います」
自然と足が止まる。振り返る、ことはしない。赤くなる顔を誤魔化せる気がしないからだ。
「あなたを守りたいのです。これは、僕自身の意思であり、好きなように解釈してくださって結構です」
「……私守っても何も出ないよ?」
横目で古泉くんをみれば、首を横に振ったのが見えた。
「いいえ、僕自身の気持ちが満たされます」
それって自己満足では。
「そうですね、しかし悪い話でもないでしょう?」
「まあ、確かに悪い話でもない。逆にこっちにとっては、ありがたい話でもある。だけど……」
「葵?」
突然後ろから声をかけられ、振り向けば。自転車に乗っているキョンの姿があった。
籠の中をみるに、買い物を頼まれたのだろう。
「お前ら、何してんだ?」
キョンは、古泉くんを一瞥し眉を寄せる。眉間に皺出来てますよ兄さん。
「いえ、特にこれといって特別なことはしていません」
「そうそう! ただ古泉くんは、私を家まで送ってくれるって言ってくれて。やましい気持ちは全然ないよ!」
何をそんなに焦っているの? と突っ込まれそうなほど。私はどもっており、なぜか冷や汗まで流れてきた。
「そうかよ。古泉悪かったな」
「いえ、それでは本当の騎士が来ましたので僕はこれで」
いやいや、騎士っていやいや待て、いやいや何かキョン機嫌悪そうなんだけど。
私は、古泉くんの後ろ姿に無言で語りかけるが気づくはずもなく。ため息を密かについたとき何か忘れ物でもしたのか振り返り、こちらに歩み来た。
「一つ言い忘れていたことがありました」
ちょいちょい、と手招きされ。古泉くんの方へ行けば、耳に口が寄せられ息がかかる。
内緒話好きだな、古泉くん。
「先ほどのことですが、考えておいてください」
そう言うと、顔を上げにこやかスマイルをうかべ「それでは」と帰っていった。
古泉くんが帰ると同時に、キョンは自転車から降り押して歩く。
沈黙が私たちを包み。気まずい。
「……あの、キョン」
「秘密って、古泉とのデートのこと、俺に知られたくなかったのか?」
「え?」
デート? それは付き合っている男女が一緒に外に遊びに行くことをさす言葉。誰と誰がデートだって?
「ち、違うよキョンは誤解してる」
私は、未だ振り返らないキョンの背中に話しかける。こんなキョンを見るのは初めてだ。
「何が誤解だ、現にお前ら二人で歩いていただろ」
「だから、本当に家に送ってもらってただけだって!」
私は周りこみ、キョンと顔を向き合わせる。キョンの足は止まり、自転車にブレーキがかかった。
「今日は有希やみくるちゃんと古泉くんに、私の話を聞いてもらってたの。キョンには迷惑かけたくなかったから言わずに来ちゃっただけで、本当はキョンも呼ぼうとしたんだけど……ごめん」
私はうつ向き、自分の靴をみる。声が震え、視界が歪む。
こんなこと、初めてだった。私は、溢れだす前に手の甲で涙を拭き取る。
「悪かった」
頭に手が乗せられる。
「なんか知らんが俺、一人苛ついてた。悪い本当に」
「誤解、もうしてない……?」
「ああ」
「本当の本当の本当に?」
顔を上げれば、キョンは苦笑いをうかべ頷く。私は、いつものキョンの様子に嬉しくなりその胸に飛び込む。一瞬よろけだが、すぐさま体制を整えたキョンに拍手。
「もう、本当によかったー。キョンいつもと違って焦ったよ本当に、あっでも青春ぽくてよかったかもしれない。いやいや、すっぱいね! 青春よ!」
「お前、本当に切り替え早いな」
頭に乗せられた手で軽めに叩かれる。
「えー、ならウジウジしてた方がいい? 明日まで引きずってウジウジしとこうか」
「いや、それはそれで、また困るから止めろ」
私はキョンから離れれば、自転車の荷台に乗り背中を押す。
「うん、私もウジウジするのは向かないからしないよー。それよりも、さあ帰ろうじゃないか我が家に!」
キョンは「やれやれ」と首を横に振り、自転車に股がれば漕ぎだし私はその背中に叫ぶ。
「あのさ、突然だけどさ」
「お前が突然話しだすのは今に始まったことじゃないだろ」
「うん、まあそうだが、とにかくそのさ。キョン大好きだよ、もう本当お嫁に来て! バージンロード、私がキョンをお姫様抱っこして歩くから」
「普通逆だろ」
空を見上げれば、赤く染まる空に黒が迫る。高い場所を見れば、月と共に一番星が見える。
あれ? 突っ込むところはそこですか?
END SOS団活動!
四話終了。
次は五話ですが、なにやら今回色々詰め込み過ぎた感じがします。
でも書きたいものは書けたので満足してます。
次回五話は原作第五章の部分にあたります。
朝倉さんが来るー朝倉さんが来る(´ω`*)
誤字、脱字がございましたら申し付けください。
では
2007 06/14
桜条なゆ
[ 5/30 ]
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