前の席に座る月島の背中をつついた。嫌そうな顔で振り向きながらもちゃんと私の話を聞いてくれるところが、昔から結構好きだったりする。男子とか女子とか関係なく居心地のいい友達。それを本人に言えば、また迷惑そうな顔をされるのは目に見えているけど。

「月島、これ食べて」
「なにこれ」
「ガトーショコラ作った」
「君が?」
「うん。さ、どーぞどーぞ」
「僕ショートケーキのほうが好きなんだけど」
「はいはい知ってる知ってる」

カラフルな水玉模様の袋を長い指が受け取り、中から一切れのガトーショコラを取り出す。月島の口に消えていくそれを見ながら、なかなかうまく焼けたよねと心の中で頷いた。

「おいしい?」
「まあ普通に」
「素直においしいって言いなよ」
「昔に比べたらだいぶ成長したんじゃない」

中学の頃、唐突にお菓子作りにハマった私は毎日のようにケーキやらクッキーやらを学校に持って行っては月島に食べさせていた。最初の頃は本当においしく出来なくて、教室で二人で味見しては無言で口を押さえるということを繰り返す日々。嫌そうにそっぽを向いてぼろくそ言いながらも、最終的には一緒にそれを食べてくれる月島って、意外とイイヤツだと思う。あの頃とは背の高さが随分と変わってしまったけど、そういうところは全然変わっていない。

「何でまた急にケーキ作りなの」
「暇だったから」
「あ、そう。彼氏でも出来たのかと思った」
「えっなんで?」
「彼氏にあげる前の毒味係かなって」
「いやいや違うよ」
「よく考えたら君に彼氏とか出来るわけなかったね」
「ハア?そうやって言うけど私だってね、告られたりとかするんだから」
「へえ、誰に」
「柔道部の期待の星」
「ああ、あの3組のでっかい人」
「月島と付き合ってるのかって聞かれたよ」
「は?なんで?」
「さあ」
「あり得ないデショ」
「あり得ないよね。お断りだし月島なんて」
「こっちこそお断りなんだけど」

もしも、彼氏と彼女になったら。いつかお互い好きじゃなくなって、別れて、もう口も聞けなくなるかもしれない。それなら最初から何も始まらないほうがいい。こんな風に居心地のいい関係でいられるほうが。
ずっとこのまま、友達として仲良く。
そんなのは到底無理な話だって、今の私はまだ知らないままでいる。


2014.11.09

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