いつからだっただろうか。部活のあと、後輩である影山くんが家まで送ってくれるようになったのは。疲れてるだろうから申し訳なくて最初は断ったけれど、ついでだから、と押しきられた。何のついでなのかはわからない。
最初は何を話せばいいのかわからなくてオロオロしてばかりだったけど、最近ではそんなこともなくなってきた。彼が隣にいる帰り道が自然になってきたからだ。私にとっては嬉しいことだけど、彼にとってどうなのかはわからない。

「影山と付き合ってんの?」

菅原先輩に、からかうように聞かれたのはつい先日のこと。まさか!!と顔が取れそうな勢いで首を横に振る私を見て、先輩は笑った。

「いつも二人で帰ってるからもしかしてと思って」
「違います。全然違います」
「じゃあ何で一緒に帰ってんの?」
「よくわかんないですけど、何かのついでに送ってくれてるらしいです」
「ついでかあ、へえー」

そう言って意味深な笑みを浮かべるのはやめてほしい。すぐに自分に都合のいいように想像してしまうから。影山くん本人に何か言われたわけでもないのに、第三者の言葉だけでこんなにも気持ちが浮き上がってしまう。根拠のない期待はしたくない。違ったときに傷つくだけだ。私はもうとっくに、影山くんのことを好きになってしまっているから。
いつものように夜道を歩きながら、隣の影山くんを見上げる。表情から気持ちを読めたらいいのに。視線に気づいた彼と目が合って、思わず逸らしそうになるのをぐっと堪えた。

「どうしたんすか」
「どうもしないよ」
「すげえこっち見てるんで」
「まあ見てるけど」
「何か言いたいことがあるとか」

言いたいことというか、聞きたいことなら山ほどある。私は驚くほどに彼のことを知らない。だけど、その中から選ぶのはひとつだけ。今日こそは目を逸らさないと決めた。

「影山くん」
「はい」
「私のことどう思ってる?」

今まで聞けなかった、だけど一番聞きたかったことを口にする。隣にある肩が、かすかに揺れる。
息が止まりそうな少しの沈黙のあと、彼のかたい手に指を絡めとられた。熱く煮える頭の中でぼんやりと予感する。今から5秒数え終わる頃には、私の世界はきっと一変しているんだろう、と。


2015.06.21

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