長い長い階段を降りていた。頭上に広がるのは青い空。雲はひとつもない。あれ、私は確か部活の最中で、体育館にいたんじゃなかったっけ。
疑問に思いながらも何かに導かれるように、拍手と色とりどりの花びらが降りしきる中、白い階段を一段ずつ降りていく。歩きにくいと思ったら、履いている靴のヒールがやけに高く、真っ白なスカートはつま先まで隠してしまうほど長い。これはスカートというよりむしろ、ドレスのような。
顔を上げてまわりを見ると、よく知っているバレー部のみんながいた。見慣れた顔のはずなのにどこかが違う。田中先輩は坊主頭じゃなくなってるし、菅原先輩は前髪が少し短くなってるし、東峰先輩からは髭がなくなっている。みんな、高校生だとは思えないくらい大人びていた。澤村先輩も、月島くんも、谷地ちゃんも。
そして真っ白なドレスに身を包んだ私に、笑って手を差しのべる、その人は。


「おーい!起きろー!」

耳元で声がして目を開けた。まわりを見回すと、ボールにネットにスコアボード。埃っぽいにおい。体育館だ。隣を見ると日向がいた。彼の声に起こされたらしい。さっきまで見ていた景色は夢だったのか。

「昼休憩もう終わるぞ」
「そんなところで座って寝るなんて器用だな!」
「目ぇしっかり覚ましとけよー」

日向の後ろから、影山くんと西谷先輩と澤村先輩の声もかかる。そうか。今日は学校が休みだから、一日通して部活の日なんだった。寝不足だったのか、私は昼ご飯を食べ終わってそのまま寝てしまっていたらしい。水を飲み、まだボーッとする頭を覚まして立ち上がると、隣に日向が並んだ。

「なんか幸せそうな顔して寝てたな!」
「あ、ほんと?夢見てたからかな」
「へーどんな夢?」
「それは…」
「ん?」
「……お、大人になってもバレー部のみんなと仲良くしてる夢」
「おお!いい夢じゃん!」
「まあ、うん。そうだね」
「え、なんで顔赤ぇの?」

夢の中。ウエディングドレスを着た私に手を差しのべたその人は、白いタキシード姿のあなたでしたよ、なんて日向にだけは絶対に言えるはずがない。私たちはただのチームメイトだというのに、勝手にこんな変な夢を見るなんて恥ずかしいやら申し訳ないやらで目を合わせるのも躊躇われる。
だけど不思議だよね。いつの日か、夢で見たあの景色にまた出会える気がしてるんだ、私。


2015.05.17

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