駅を出ると、見慣れた後ろ姿を見かけた。嫌でも目に入るプリン頭。いつにも増してフラフラと歩いていて危なっかしい。走って追いかけて、電柱にぶつかる寸前で立ち止まった彼の隣に並んだ。

「けーんま!一緒に帰ろ」
「うわビックリした」
「なんでよ」
「いきなり飛びつかれたらそりゃビックリするよ…」
「ほらほら帰るよ、ちゃんと歩いて」
「わかったから引っ張んないで」

どうせ同じ方向だし、断っても聞かないし。いま研磨はそんな感じのことを考えているだろう。当たりです。断られておとなしく引く私ではない。

「後ろから見てたらさあ、研磨すっごいフラフラしてたよ」
「そう?」
「そうだよ。ちゃんと寝てるの?」
「……」
「あ、寝てないな、さては」
「うんまあちょっと」

バツが悪そうに目線を泳がせる姿を見て、思わずため息をついた。研磨のゲーム好きには困ったものだ。

「そういやこないだ新しいゲーム買ってたね」
「うん」
「それやってて寝不足なんでしょ」
「まあそんな感じ」
「ちゃんと寝なきゃダメじゃん」

わかってるよ、と口では言ってるけど絶対わかってない。顔を見ていればわかる。学校の授業に加えて部活もあるんだから、しっかり寝ないと体に悪いのに。

「夜更かししてないか見張りにいこうかな」
「ええー…」
「何なら添い寝するけど」

ほんの冗談のつもりでそう言ったら、研磨と視線がぶつかった。さっきまでのゆらゆらと目線を泳がせる彼はもうそこにいない。しっかりと私のことを見据えている。

「どうしたの、研磨」
「…じゃあしてもらおうかな」
「えっ」
「添い寝」

吸いこまれるような瞳に息を飲んだ。きっととても分かりやすく動揺しているであろう私を見て、今度は研磨が呆れた顔をする。

「冗談だってば」
「じょ…ジョーダン?」
「ほら、早く帰るよ」

そして今度は私が研磨に手を引かれる。あれ、いつの間に立場が逆転したんだろう。そんな些細な疑問は、触れあった手のひらの感触によってかき消される。
この不思議と心地良い感触と、深い瞳が頭に焼きついて、私のほうが寝られなくなってしまいそうだ。


2015.04.26

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