委員会の早出当番を快く引き受け続けるのは、満員電車を避けたいから。それも理由の一つではある。だけど、それだけではない。
歩くペースを速めたり遅くしたり調整しながら、毎朝決まった時間に昇降口を通る。下駄箱で靴を履き替えていると、少し遅れて影山くんがやって来るのだ。ほら今日も。

「影山くん、おはよう」
「はよ」

挨拶をして、背中合わせで靴を履き替える。以前聞いた話によると、一旦教室に寄ってからバレー部の朝練に行っているらしい。影山くんとはクラスが隣同士だから、教室に行けば会えるというわけではない。一日中姿を見かけないまま放課後になることもある。だけどこの時間に学校に来れば影山くんに会える。だから早出当番も苦ではない、全然。

「朝練がんばってね」
「ああ。じゃあな」

決して多くない会話をして、その背中を見送って、私の一日は始まる。

毎朝地道にそんなことを繰り返していた私だけど、ある日の朝、ついに寝坊をしてしまった。急いで準備をして家を出たもののいつもの電車には間に合わず、一本遅いやつに乗った。影山くん、もう朝練に行っちゃってるだろうな。影山くんの顔を見られない朝なんて久しぶりだ。元気が出ない。肩を落としながら昇降口を通ると、下駄箱の前に誰かが立っているのが見えた。背の高い男子がそこから動かないまま、時々キョロキョロと首を動かしている。影山くんだ。一気に足が軽くなって、思わず駆け寄った。

「影山くん!」
「あ。…はよ」
「おはよう。どうしたの、誰か待ってるの?」
「いや待ってるっつーか…いつもいるのにいねえから」
「え、なにが?」
「休みかと思ったけど元気そうだな」

じゃーな、と私が何か言う間もなくスタスタと立ち去ってしまう。一旦頭の中で今の出来事をしっかり噛み砕いて、ようやく理解してきた。つまり、ということは、影山くんがキョロキョロと探していたのは。
自分に都合のいい方向にしか頭が働かない。影山くんのおかげで今日の私は、古典の小テストも体育のサッカーも、何だってバッチリ出来てしまいそうだ。


2015.04.19

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