学校近くのコンビニで、パンやらジュースやらをレジに持っていった。ピッピッと順番にバーコードを読み取る音。

「617円です」

店員さんが告げる。財布の中を見て一瞬背筋が凍った。お札がない。急いで小銭をチェックして少し安心した。何とかギリギリ足りそうだ。先に17円ちょうどを出し、500円玉を出し、最後に100円玉を出した。つもりだった。100円玉と思っていたそれは、50円玉だった。それ以外にはもう1円玉しかない。今度こそ本当に背筋が凍る。

「…あのーお客様?」

店員さんが怪しんでいる。なんで先に財布の中身を確認しとかなかったんだろう。後悔したって今さら遅い。恥ずかしいけど正直に言おう、意を決して顔を上げる。

「はい、これ」

私が口を開くよりも早く、突然背後から誰かの腕が伸びてきた。レジカウンターの上に100円玉が置かれる。これで合計、617円。

「ちょうどお預かりしまーす、ありがとうございましたー」

ビニール袋を持って振り向くと、救世主の正体は国見だった。声を聞いてちょっとそうかなとは思ってた。

「ありがとう国見」
「いや。あまりに哀れだったから」
「ぐっ…」
「バカだなほんと」

悔しいけど言い返せない。特に示し合わせたわけでもないけどなんとなく並んでコンビニを出て、のろのろと歩く。

「明日返すね、100円」
「別にいらない」
「そういうわけにいかないでしょ」
「…じゃあ、100円いらないから代わりにお願いがあるんだけど」
「うん、なに?」
「デートしよう」

はい?驚きのあまり足を止めると、国見も隣で立ち止まった。聞き間違いかな?はたまた冗談かな?だけど、見上げた国見の顔は真剣なように見える。

「来週の月曜。部活ないから」
「え、デート?デートってデート?」
「うん」
「なんで私と?」
「なんでって、本当にわかんねーの?」

バカなの?みたいな目で見られたら、私のほうがおかしいのかと思ってしまう。もっとちゃんとハッキリ言ってくれたらいいじゃない。もしかしたらって燻る自惚れの気持ちを、確信に変えてほしいのに。

「デートが嫌なら100円返してくれたらいいよ。受け取るから」
「…嫌なわけないってわかってて言ってる?」
「さあ、どうだろ」

読めない表情が憎い。たかが100円、されど100円。今この瞬間から、私の生活は一変してしまったようだ。


2015.03.08

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