先週から予告されていた通り、席替えが実施された。教室の中はやたらと浮き足立っているけど、僕は席替えがあまり好きじゃない。後ろの席の人に大抵嫌そうな顔されるし。今の席は窓側の一番後ろだから、出来ればクラス替えの時までこのままでいたかった。
とはいえボイコットするわけにもいかず、おとなしくクジを引く。番号を見ると新しい僕の席は、今の席のひとつ前だった。前の方になるよりは断然マシだ。逆さにした椅子を机に乗せて短い距離を移動すると、同じように机と椅子を抱えて歩いてくる女子の姿が目に入った。廊下側の最前列から、一番離れた窓側の最後列へ。若干よろよろしている。

「…大丈夫?」
「あ、うん大丈夫!ありが…」

思わず声をかけると、顔を上げた彼女の表情が一瞬で変わった。

「…え、月島くん?」
「何」
「私ここの一番後ろなんだけど、その前が月島くん?」
「そうなるね」
「そっかー、へえー…」

僕の机と自分の机に交互に目をやる彼女。バチッと視線がぶつかると、照れたような笑顔を向けられる。どう返していいかわからずとりあえず席に着いて、ふと思い出した。僕の後ろの席になることのデメリット。後ろを振り向いて訊ねてみる。

「ちゃんと見える?」
「えっ?」
「僕の後ろだと黒板とか見えにくいかと思って」
「いや全然!何も問題ない!」

それならいいけど、と前を向いたものの、僕のほうには問題がある気がする。背中がじりじりするというかむず痒いというか、妙に居心地が悪い。
全員が席に着いたところで、担任からプリントが配られた。各列の最前から順番に後ろの席へと回される。僕も回ってきたプリントを1枚取り、最後の1枚を振り向きながら後ろの彼女に差し出した。

「ありがとう」

彼女がプリントを受け取る。その時に、一瞬指と指が触れてしまった。よくあることだ。言い聞かせながら彼女の顔を見た。固まっている姿を見て僕も固まった。なにその赤い顔。

「ご…ごめん」

か細くそう言ったのを最後に、彼女は俯いてプリントにかじりついてしまった。僕も前を向く。担任の声は聞こえるけど内容が入ってこない。さっきから繰り返し浮かぶのは、彼女の真っ赤な顔と、触れた指先の感触。
顔が熱い気がする。こんなの絶対におかしい。頭の中から早く出て行ってほしいのにいつまでも居座る彼女に、負けてしまいそうだ。


2015.03.01

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