インターホンが鳴る。面倒だけど今は私しかこの家にいないから、玄関に行ってドアを開けると、制服姿の岩泉が立っていた。突然来るなんて珍しい。

「どうしたの岩泉」
「…聞いたぞ」
「なにが?とりあえず上がって上がって。お茶入れるから」
「お茶いらねえ」

台所に向かおうとしたところを、手首を掴んで止められた。そのまま、勝手知ったる家の中といった感じでずんずんと歩き、私の部屋へ。無言でベッドに押し込まれて、掛け布団を口まで被せられた。ベッドのすぐそばに腰を下ろした岩泉がフウ、と短く息を吐く。

「風邪だってな」
「なんで知ってるの?」
「及川に聞いた」
「ちょっと鼻水が出てちょっと関節が痛くてちょっと体温が高いだけだよ」
「それを風邪っつーんだろうが」
「そうでした」
「はしゃいで雪の中走り回るからだバカ」
「及川だって一緒にはしゃいでたのにめっちゃ元気じゃん…ずるい…」
「体力が違うだろ」

同じ寒さの中で同じことやってたのにピンピンしている及川に感じる憤り。理不尽だってことはわかってる。被せられた布団をはぎ取り起き上がると、岩泉に厳しい目線を向けられた。

「寝ろよ。治んねえぞ」
「岩泉の顔見たら目ぇ覚めちゃったよ」
「来るんじゃなかった」
「うそ!うそです!寝ます!」

立ち上がろうとする岩泉を見て、慌てて布団を被り直した。移したら悪いと思いながらもやっぱり来てくれて嬉しいし。なんとなく視線を感じて閉じていた目を薄く開けると、枕元で岩泉が私をじっと見ている。そんなに見られるとさすがに恥ずかしい。髪とかボサボサなのに。

「岩泉。あんまり見ないで恥ずかしい」
「何言ってんだ今さら」
「だって」
「寝るまでここにいるからな」

大きくて硬い手のひらが伸びてきて、私の頭に触れる。少しぎこちない仕草で撫でられる。優しくて心地いい感触に、ゆるむ心。

「早く治るように念込めとく」

あのね岩泉、今のでもう治っちゃった気がするよ。


2015.02.01

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