「彼氏のこと見上げたいって思う?」

突然何を言い出すんだろうと英語のノートから顔を上げると、日向のそばには少女漫画が置かれていた。宿題を中断して何かやってると思ったら、いつのまにか私の本棚から持ってきて読んでいたようだ。さらによく話を聞いてみると、クラスの女子が今日そんな話をしていたらしい。背が高い男子を見上げるのがいいとかなんとか。ちなみに日向と私は、あまり身長が変わらない。

「なあなあどうなんだよ」
「別にそんなの思ったことないなあ」
「ほんとにー?」

いまいち納得いかない表情のまま日向が立ち上がる。両手を握って促され、私も腰を上げた。向かい合ってみるとなんだか様子がおかしい。体がちょっとゆらゆらしているし、目線がいつもと違う。足元を見てその原因がわかった。なぜかつま先立ちだ。

「ほら、今のうちにおれを見上げて!」
「なんかプルプルしてるよ日向!」
「今つま先がすっげー頑張ってるから!」
「いいんだってば、そんなことしなくて」
「グエッ」

両肩を掴んで押さえつけると、背伸びによって上がっていた顔の位置が元のところまで戻ってきた。日向は不満そうだけど、うん。やっぱりこれが落ち着く。

「私はこの目線の高さが好き」

真っ直ぐ前を見た先にある日向の顔が、一瞬キョトンとしたあと綻ぶ。

「…おれも好き」
「でしょ?」
「うん。顔がよく見えるし」

目の奥を覗くように、距離を詰めてジッと見つめられる。こんなに近いとどうしても意識してしまうんだけど、日向は分かってやってるんだろうか。いやたぶん分かってない。

「目線が同じほうがキスってしやすいのかな?」

ただ純粋に疑問に思った。そんな顔でそんなことを言う。ほらやっぱり、分かってない。


2015.01.26

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