バレー部の三年生で、菅原の家に集まって勉強会。というのは口実のようなもので、私達の話題はどんどん勉強から脱線していき、気づけばお菓子を食べながら雑談をする会になっていた。
飲み物がなくなったから、澤村、菅原、東峰、潔子、私の五人でジャンケンして、負けた二人で買い出しに行くことに。その結果、負けたのが私と菅原であることに何らかの策略を感じたけど、彼は特に何も仕組んでいないらしい。偶然、いや、運命?ただの買い出しだけれども。

「あーやっと家の近くまで戻ってきたね」
「いい運動になったじゃん」
「コンビニ遠すぎだよ」
「俺は二人きりになれてラッキーだったけど」

今日いい天気だね、みたいなトーンでそんなことを言う。私も同じことを思っていたけど先を越されてしまった。それを言えない代わりに歩くスピードをぐんと落とすと、少し先で菅原が振り向いた。

「どした?」
「…もうちょっとゆっくり歩いて帰らない?」

その一言で私の思いをすべて汲み取ってしまったらしい菅原は、「そうだな」と笑ってゆっくりと足を進める。いつもより少し幼くなるその笑った顔が、私は好きだ。彼はきっと知らないと思うけど。
どんなに遅く歩いても着実に目的地は近づいて、話しながら歩いているうちに菅原の家に到着していた。二人きりの時間が終わるのは少し残念だけど、澤村達がきっと飲み物を待ちわびているだろう。玄関のドアに手を伸ばした。

「あ、ちょっと待って」

後ろから呼び止められる。振り向くと、思った以上に菅原が近くて、驚いている間に唇が触れた。それはほんの一瞬のこと。もしかして気のせいだったんじゃないかと考えたけど、離れていく彼の顔を見ればわかる。気のせいなんかじゃない。
口をポカンと開けたまま動けない。とりあえず何か言おうとする私を、人差し指を口に当てた菅原が制する。

「……」
「…そんなに顔赤いと何かあったってバレるぞー」
「菅原だって赤いよ」
「やっぱり?」

ハイ深呼吸して深呼吸、と背中を撫でられて、一緒に息を吸って吐く。そんじゃ中入るか。隣でまた、私の好きな笑顔。
たぶん顔はまだ赤いけど、遠くまで歩いたせいということにしておこう。あんなくすぐったい時間は、私と彼以外の誰にも知られたくないから。


2015.01.18

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