学校からそこそこ近いファミレスで二口と向かい合う。ドリンクバーのココアを飲みながら、用意してきたものをカバンから取り出した。
「これ旅行雑誌」
「大量だなー」
「だって楽しみなんだもん」
「まあ俺もだけど」
メロンソーダにさしたストローをくわえたまま雑誌をパラパラと捲っていた手が、とあるページでふと止まった。
「俺ここ行ってみたい」
「あ、私も!あとこことか」
「場所どの辺?…近いからどっちも行けそうだな」
「だよね」
「旅行か?」
「あ、ハイそうなんです。珍しく休みが…ってアレ」
「ゲッ」
突然聞こえた声に顔を上げると鎌先先輩がいて、二口の隣にドッカリと腰を下ろした。一緒に来ていたらしい茂庭先輩は私の隣に座り、申し訳なさそうに眉を下げる。
「ごめんな、邪魔して」
「いやいや大丈夫ですよ」
「彼女と旅行とか楽しそうな話してんなあ、二口」
「鎌先さんも彼女と行けばいいじゃないですか」
「おまえ俺に彼女いねえこと知ってて言ってんだろ」
「アレレそうでしたっけ」
「もーやめろお前ら!」
いつもの言い合いが始まりそうな二人を、茂庭先輩がいつもの調子で止める。相変わらずだ。傍から見てると楽しそうで微笑ましいけど。
「でもさ、いいよなあ旅行」
「日帰りですけどね」
「二口に何かされたらすぐチクってこいよ」
「了解です」
「何なんですか暇人ですか鎌先さん」
「ちょっと口出すくらいしたくなるじゃねえか、なあ茂庭」
「はいはい。そろそろあっち戻るぞ。ごめんな二人とも、お邪魔しました」
茂庭先輩が鎌先先輩の背中を押し、二人は自分たちの席へと戻っていった。さっきまで騒がしかった空間が一気に静かになる。
憎まれ口は親愛の裏返し。私から見た二口は、バレー部のみんなでいるときが一番楽しそうだ。
「…みんなで行く?」
「何が」
「旅行。そのほうが賑やかで楽しいかなって」
「そうしたいの?」
「…うーん」
「俺は二人だけで行きたい。ダメ?」
こちらの本音まで見透かされているみたいで、一瞬言葉に詰まった。そんなの、私だって同じ気持ちに決まってる。
「ごめん。私も二人で行きたい」
「よしよし」
鼻歌を歌いながら、再び雑誌を捲り始める二口の手。私、楽しみすぎて爆発したらどうしよう。
2015.01.04