及川の家でテレビを見ながら、晩ご飯どうしようかとぼんやり話し合った結果、鍋をすることになった。早速コートを着込んで買い出しに向かう。

「今日泊まってく?」
「うーん」
「夜はもっと寒いし帰るの大変だと思うなあ」
「そうだね。そうしよっかな」
「やったね!」

嬉しそうな笑顔をされるとくすぐったくてそわそわする。思った以上に素直なところは、付き合ってから知った一面。
近所のスーパーに到着して、野菜コーナーから回っていく。白菜、白葱、えのき、豆腐、と必要なものを及川が持っているカゴの中へ。すぐ近くから聞こえてきた会話にふと顔を上げた。老夫婦がおいしい水炊きの作り方を楽しそうに話している。二人は私たちの後ろを通り過ぎ、精肉コーナーの方へと歩いていった。隣の及川と視線がぶつかる。

「…聞いた?」
「聞こえちゃったね」
「私、キムチ鍋にするつもりだったんだけどね」
「うん」
「水炊きおいしそうだなって」
「俺も思った」

水炊きにしよっかと笑う及川に、そうしよっかと私も笑って、カゴに入れていく食材を水炊き用にシフトする。カゴの中身を増やしながらどんどん進み、最後にケーキやらドラ焼きやらが置いてある場所にたどり着いた私たちは、示し合わせたわけでもないのに同じ場所で足を止めた。

「なんかカステラ食べたいなー」
「私も思った」
「え、ほんと?じゃあ買っちゃおうか」
「うん。一緒に食べよ」

レジを済ませて、ビニール袋にカゴの中のものを詰め込む。重い方の袋を及川が、軽い方を私が持ち、スーパーを出た。

「ちょっとさ、いつもと違う道で帰ってみない?」
「いいよ」
「じゃあこっち」
「私こっちの道あんまり通ったことないんだよね」
「俺はたまに通るかな。美形な黒猫とよく会うよ」
「えーいいなあ」

なんとなく指が触れ合って、なんとなく手をつなぐ。お互いに、相手のいる方と反対側の手で袋を持っていたのは、きっとこうしたかったからだ。

「そうだ、今日こそ一緒に風呂入ってもらうからね」
「やだよ狭いし」
「狭いから楽しいんじゃん!」
「なんか寝ぼけたこと言ってるわー」
「あ、もしかして恥ずかしがってる?かわいいかわいい」

冷たく睨みつけようとしたけどうまく出来なかった。目が合ってしまったらもう負けだ。私はやっぱりどうしても、この笑顔に弱いらしい。


2014.12.14

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