彼の部屋に遊びに来たのは久しぶりだ。ベッドで月刊バリボーを読む大地と、床に座りベッドにもたれて本を読む私。ふと母親に連絡する用事を思い出してケータイを手に取り、メールを送ろうとして、やらかした。間違えて大地に送信してしまった。こんな漫画みたいな間違いが現実に起こるとは。

「大地ー」
「ん?」
「ごめん、今お母さんに送るメール間違って大地に送っちゃった」
「ああわかった削除しとく…え、メール?」
「うん」

何かを思い出したように大地が顔を上げる。直後、ベッドの上に置かれたケータイが鳴った。誰もが知っている王道ラブソング、そしてチカチカと点滅するピンクのランプ。いつもの着信音1みたいな音と青いランプを想像していた私は、びっくりして動きが止まってしまった。焦った様子の大地が「うわ!」と声を上げながらケータイを枕の下に突っ込む。見た?聞いた?無言のまま目だけで訊ねてくる。見たし、聞いた。私も無言で頷き答える。

「あー油断してた」
「大地のケータイ、プルルルって音に青いランプじゃなかったっけ?」
「そうだよ」
「でも今」
「お前からのメールと電話だけ今の設定になってる」
「私のだけ!?」

また驚かされた。まさか大地がそういうタイプだとは、考えたこともない。

「いつだったかな、スガに変えられたんだよ」
「ああ…なんだスガくんか」

それなら納得。彼なら確かにやりそうだ。爽やかな笑顔の下になかなかのヤンチャっぷりを隠した人だと評判だから、私の中で。
それよりも、もし友達や家族と一緒にいる時にさっきみたいなことになったら、大地に恥ずかしい思いをさせてしまうんじゃないだろうか。いかにも彼女からって感じだし。

「設定戻してあげよっか。大地やり方わかんないんでしょ」
「おい俺だってそれくらいわかるぞ」
「じゃあ戻せばいいじゃん」
「いいんだよ、このままで」

ちょっとだけ拗ねたような顔で、枕の下から引っ張り出したケータイをいじっている。しっかり者の大地からはなかなか見られないその幼い表情が、私はたまらなく好きだ。

「私だけ違うやつでいいんだ」
「うん」
「なんか特別って感じ」
「そりゃだって特別だからな」

当然のようにそうやって言うから思いっきり抱きついた。その勢いで後ろ向きに倒れながらも、しっかりと抱きとめてくれる。やっぱり大好きだって思った。


2014.12.07

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