目の前に黒板消しを突き出される。突然のその行動が理解できず、俺は眉間に皺をよせた。


「…なんだよ」
「見て」
「だからなんだよ」
「綺麗になったでしょ?」


クリーナーにかけた黒板消しを俺の目の前で揺らし、ミョウジは自慢げに笑う。それがどうした。反応の薄い俺につまらなさそうな顔をして、そいつは近くの席に座り日誌を開いた。俺は途中になっていた戸締りを再開する。
戸締りを終えると、シャーペンの芯をカチカチと出し続けるそいつの前の席に座り、体を後ろに向けた。


「土方くん、今日って何日だっけ?」
「7日」
「5月7日と……あ」
「あ?」


日付と天気を書いたところで手が止まる。キラキラと輝く目が俺を見た。


「土方くんって5月5日が誕生日なんだよね?」
「ああ」
「やっぱり。沖田くんがこないだ言ってたから」
「総悟が?」
「うん。『こどもの日が誕生日とか似合わねーにも程がありまさァ土方コノヤロー』って」
「…へーそう」
「そっかー誕生日かあ。おめでとうございます。いや違うな、おめでとうございました」
「どーも」


誕生日ってなんかさー浮かれちゃうよねー。頬杖ついて誕生日について語りだした。いや早く日誌書けよ。完全に手が止まっているミョウジからシャーペンと日誌を奪い、俺が代わりに書き始める。次は今日の時間割。


「ねえ土方くん」
「なに」
「いいこと思いついちゃった」
「そうか、俺は嫌な予感しかしねーけどな」
「デートしてあげる」
「……」


ねっ、いいことでしょ。そう言って目の前の女は無邪気に笑った。嫌な予感的中。あ、なんか頭いてェ。


「誕生日プレゼントってことで」
「いやいやいらねーし。何でそんな上から目線だよ」
「今週の日曜とかどうかな」
「オイ聞いてんのか」
「日曜11時に駅前の噴水集合ね」
「おーいミョウジ?俺の声聞こえてるか?」
「こんなことしてられない!早速帰ってデートコース考えなくちゃ!」
「話聞けやァァァァ!」


俺の叫びも虚しく、ミョウジはカバンを掴んで教室を飛び出していってしまった。
夕日の射し込む教室に一人残される。さっきまでと打って変わってしーんと静まり返った空気が、なんだか悲しい。日誌まだ半分も書けてねーのに、あの女。


「…行かねーぞ、俺は絶対行かねーからな」


一人呟きながら、シャーペンを握り直す。

とんでもねー女だ。いきなり何を言い出すかと思ったら“デートしてあげる”?頼んでねーよ別に、なんでちょっと俺を見下ろしてんだよお前は。可愛いげの欠片もねェ。
だが、日誌を書きながら日曜に何着ていくか考えてる。そんな認めたくねー自分が、確かにそこにいた。


5.5
title:alkalism

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