ご、よん、さん、に、いち。

リンゴンと駅前の時計の鐘がなる。ただいまの時刻は正午ぴったり。はい、あいつ遅刻決定。
特に待ち合わせの時間が早いわけでもない。ましてや今日は、いわゆる初デートってやつ。遅刻とか。ありえねーしマジで。早く着いてる俺がなんか恥ずかしい。

携帯を開いてあいつの電話番号を表示、発信ボタンを押す。………出ない。舌打ちをしてベンチに腰を下ろした。
あと1分待って来なかったら帰ってやる。…いや、5分。30分。1時間。
遅刻の罰は何にしてやろうかと、頭をフル回転させる。それに没頭し始めた頃、後ろから突然肩を叩かれた。ふと見上げた時計の針がさしていたのは、12時15分。


「ご、ごめん、沖田」


走ってきたのだろう。息を切らしながら、待ちわびたそいつが俺を呼ぶ。ものすごく不機嫌な顔で振り向いた俺は、言うつもりだった文句を全部忘れてしまった。
私服姿を初めて見た。化粧をした顔を初めて見た。そんな表情は初めて見た。振り向いた先に立っていたそいつは、今まで見たどんなときよりも、“女の子”だった。


「……」
「沖田?」
「え」
「何ぼーっとしてるの」
「…別にしてねーし。つーかテメー遅刻でさァ」
「だからーごめんってば」
「ふん」
「アイスおごるから。ね?」


ふんわりと目の前で微笑まれてしまっては、俺ァどうしたらいいのか。
遅刻とかどうでもよくなってしまったが、ここですんなり「気にすんな」と言えるほど素直な人間ではない。まだ不機嫌さを顔に残したまま歩き出した。あー、俺ってガキ。


「沖田」
「……」
「沖田ってば」
「なんでィ」
「怒ってる?」
「別に」
「だって、なんか無口」
「…そうかねェ」
「なんで?」


なんでって。めかしこんだお前を前にして緊張してるから。なんて言えるわけねーや、カッコ悪ィ。


「何でもねーって」
「えー」
「…つーかお前こそ何なんでィ」
「ん?」
「いつもと違ェ」
「違う?」
「服とか髪とか。いろいろ」
「…かわいい?」
「別にんなこたァ一言も言ってねーだろ」
「あっそ」


思ってもないことばかりすらすらと滑り落ちるこの口。俺の言葉にそいつは小さく頬を膨らませ、こっちを睨みつけた。


「そりゃーさ」
「あ?」
「いつもと違ってないと、困るよ」
「なんで」
「頑張ってオシャレしたもん」
「…なんで?」
「沖田とデートだから」


見た目だけじゃなく中身まで違う。俺と張り合うくらい、こいつは素直じゃなかったはずなのに。こんなこと言うなんて、何事。


「女の子はね。好きな人のためだったら、いくらでもかわいくなれるんだよ」


…確かにそのようだ。



おんなのこはみんな魔法を使える



「オイ」
「ん?」
「1回しか言わねーからな」
「? うん」
「………お前、超かわいい」

3.28
title:alkalism

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