大江戸スーパーからの帰り道。買い忘れがないか、袋の中を覗きながら堤防を歩く。ふと見た先に、草の中に混じる黒い影を見つけ、私は足を止めた。


「ひーじーかーたーさん」


黒い影がゆっくりと振り返る。その表情は夕日で赤く染まっていた。さくさくと草を踏み分けて近づき、私も隣に腰を下ろす。沈んでいく丸い夕日を、彼の隣でぼんやりと見つめた。


「何やってんだお前」
「買い出しの帰りです」
「そうか」
「…川、赤いですね」
「…赤いな」
「暖かくなりましたよね、最近」
「そうだな」
「そういえば沖田さんが探してましたよ」
「今日俺は休みだって言ったはずなんだが。仕事の話か?」
「いえ、なんか怪しいキノコ持ってました」
「…ああそう」


視界の端で、白い煙が吐き出されるのが見えた。いつからか持ち歩き始めた携帯灰皿を取りだし、短くなってしまった煙草を消す。その中は吸殻でいっぱいになってしまっていた。


「…ずっとここにいたんですか?」
「ああ」
「そうですか」
「考え事してた」


何を?なんて、聞かなくたってわかる。シロツメクサに囲まれたこの場所で、この人が何を考えていたかなんて。簡単すぎる問題だ。


「土方さん」
「なんだ」
「あげます」


何を、と彼が言葉を発する前に、シロツメクサの冠を頭に乗せてあげる。「いつのまに作ったんだコレ」そう言って彼は小さく笑った。


「かわいいでしょ」
「はいはい」
「土方さん」
「んだよ」
「捨てちゃ嫌ですよ」
「わかってるよ」
「土方さん」
「ん」
「おいしい羊羹買っときました」
「…おお」


だから。そんな悲しい顔で、笑わないで。
私を見ていた瞳が一瞬揺らぐ。ごまかすように軽く頭を振り、彼は冠を持って立ち上がった。


「そろそろ帰るか」
「そうですね」
「腹減ったな」
「キノコには気をつけてくださいね」
「…そうだった」


すぐ隣に私たちの影が並んでいる。それなのに、こんなに離れて見えるのはなぜだろう。
私がそばにいますから、だから。
そんなこと口には出さない。出せない。出したところで、何も変わらない。遠ざかっていくシロツメクサたちを見送って、私はそっと目を閉じた。

私はきっと、彼の中から、あの人を消せない。


3.18

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