「へい」


ゆっくりと振り向いたそいつは、私を見るなりこれでもかというほど嫌な顔をした。


「なんだよオメーかよ」
「私で悪かったわね」
「ほんとにな」
「彼女にフラれたんだって?」
「…ぶっとばすぞコノヤロー」
「ぶっとばすとか言わないの」


屋上のフェンスにもたれて座る坂田は小さく鼻をすすった。もしかして泣いてたんだろうか。重症だ。


「…好きなやつができたんだとよ」
「へえ」
「ついこないだまで俺とイチャイチャしてたのに」
「うん」
「女って、マジでわかんねー」


はあ、と大きく息を吐いた。白いそれが赤く染まった夕方の空に昇っていく。私はぐるぐる巻いた紫色のマフラーに口を埋めた。
そうだ、紫で思い出した。制服のポケットを探り、一昨日買ったガムを取り出す。


「坂田。ガムあげる」
「ん」
「泣くなよー、男でしょ」


薄紫色のガムを口の中に放り込んで、坂田は、泣いてねーよバカとまた鼻をすすった。泣いてんじゃんか、うそつき。
立ちっぱなしだった私はその場にしゃがみこみ、目の前のクラスメイトの顔をじっと覗きこむ。嫌そうな顔をされたけど無視した。

口が悪くて、だらしなくて、そのくせ、わかりにくいけどちゃんと優しくて。
坂田のいいところも悪いところも、知ってるつもりだよ。あのかわいい元カノよりもずっと。
たぶん私、坂田のこと誰よりも好きだと思うの。もう随分前から。


「坂田」
「んだよ」
「幸せにしてあげる」
「は?」
「私が」


だからつい出てしまったその言葉も、一時の感情なんかじゃないんだよ。


1.28

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