教室の中から見る空は雲ひとつなく晴れ渡っていて、太陽がぽかぽか暖かそうで、それに誘われるように屋上へやって来た昼休み。

来るんじゃなかった。ドアを開けた瞬間後悔した。
確かに天気はものすごくいいけど、風が冷たい。息が止まりそうなくらい冷たい。だけどせっかくここまで来たんだから、とよくわからない意地を見せて私は屋上の床に腰を下ろした。なるべく日当たりのいい暖かそうな場所を選んで。

ボーッと空を見ながら黙々とサンドイッチを食べる。食後のプリンに手を伸ばしたところで、屋上のドアが開いた。


「こんなとこに居やがった」


あ、沖田。プリンを口に運びながら、ドアの向こうから姿を現した人物の名前を呟いた。


「教室にいねーから探しちまっただろ」
「なに、なんか用?」
「別にィ」
「お昼ご飯は?」
「もう食った」


ほんの少しの隙間を開けて、私の隣によっこらせと腰を下ろす沖田。ピュウと強い風が屋上を通り抜けると、彼は僅かに肩を揺らした。


「こんな寒ィとこで昼飯食ってんじゃねーや」
「慣れたら寒くないよ」
「さすがバカ」
「バカって言うほうがバカ。…ていうか寒いなら中入ればいーじゃん」
「俺の勝手だろ」


その言葉を最後に、沖田は黙り込んでしまった。ちらりと横目で盗み見すると、床の一点を見つめて微動だにしない。
なんか様子がおかしいな。いつもなら私が食べてるプリンを当然のように横取りしてくるのに、その気配もないし。どうしたんだろう。
悩んでるというか、落ち込んでるように見える。気がする。もしそれが気のせいじゃないなら、私は沖田の力になりたい。いつも強くて不敵で生意気な沖田だけど、弱いところだって何だって見せてほしい。と思う。


「…あのさ、沖田」
「なんでィ」
「たまにはさ、私に甘えてね」
「……」
「あの、頼りないかもしれないけど。でも私、か、かかか」
「か?」
「…彼女だし?沖田の?」
「なんでそこ疑問系?」


最後の言葉だけ物凄いどもった上に小声になってしまったけど、しっかり拾われた。自分で言ったくせになんかちょっと恥ずかしい。しかもそれっきり沖田が黙ってしまうもんだから、いたたまれない気持ちになる。
そーっと表情を盗み見てみようと思った瞬間、右肩に何かが触れた。頭だ。沖田が私の肩に頭を押し付けている。さらに目線を下げると腰に腕まで巻きついている。
とんでもなく近い距離で揺れている柔らかな髪が視界に入って、一瞬意識が飛びそうになった。けど、すぐに自力で引き戻す。


「…あのー…沖田さーん…?」
「うっせェ黙れ」
「ハイ」


言われたとおり口を閉じると、屋上には強い風の音だけが響いた。
いつになく近い距離にドキドキする反面、なんだか安心感みたいなものも感じる。肩とか腰とか、沖田が触れている場所から身体中へ。じんわりと広がっていく。あったかくて心地いい、すごく。

腰に巻きつく腕の力が、ほんの少し強まった。


「そんじゃ、お望み通り甘えてやらァ。彼氏だし?俺」


いつになく穏やかな声色に、少しだけ驚いた。今どんな顔してるのか見たいけど、たぶん見せてくれないだろう。意外と恥ずかしがりな彼のことだから。

私に対しては、甘えてほしいし、安心してほしいし、かっこ悪いところだって見せてほしい。
護られるだけじゃなくて護りたい。自分の中にそんな強い気持ちがあること、沖田を好きになって初めて知った。



「じゃーとりあえずプリン買ってきて。1分以内」
「それはなんか違う!甘えるのと違う!」


2014.4.14

- ナノ -